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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「高校2年2学期」の風使い

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第14話 風使いと「生徒会」(4)【七不思議編】

「ぐえ――あっつ」


 汗を拭いながら風見はベンチに腰をおろした。夕方とはいえ全力ダッシュ、しかも部活のジャージではなく制服、さらにはスリッパの足元である。陸上部の彼でもまいるものがあった。


「風、風っと……」


『風使い』である彼は、クールダウンのために自身の周囲にそよ風を作り出す。火照った体が冷やされる心地よさに、風見はひと息つく。

 空良(そら)と別行動を取り、風見は自身の得意分野である『走り』で『挑む犬』を誘い出すべく、中庭でダッシュを繰り返していた。


 公立高校にしては立派な庭ではあるが、所詮は中庭、大した広さではない。その中庭で彼は、端から端まで余すところなく使い走り回った。往復持久走、いわゆるシャトルランだ。部活並みのキツさに風見の体力も底をついたが、『挑む犬』は現れない。


 ちなみに、彼は気づいていないが放課後にひとりで中庭を走り回るという奇行は、それなりの数の生徒や教師に目撃されていた。

 ただ走り回るだけでなく、時折休憩しては「よっし扇風機だ! はっはっは、僕か~いてき~!」などと、もちろん扇風機などあるはずもない中庭のど真ん中でのたまう姿は、十分に悪目立ちしていた。

 しかし、皆、一瞬だけ眉を潜めるものの、


「中庭に変なやつが……あ、なんだ二年の風見か」「――うわ、あの先輩だよ? 話しかけたら家に連れ込まれるらしいよ。無視無視!」「三年の先輩も胸を揉まれたんだってさ、気をつけよ」「先生、中庭を走っている人がいるんですけど」「なんだと、まったく。……ああ、あれはいい。ああやって体力を発散させないと危ないんだ。そっとしておいてやれ」


 などと、日頃の行いのおかげで誰からも咎められることはなかった。

 人のふり見て我がふり直せ。実は彼のさまざまな奇行は他の生徒の反面教師となっており、知らぬ間に風紀委員の業務に貢献していた。この奇行少年を風紀委員に推薦した教師は慧眼といえる。


「ったく。犬でも何でも早く出てこいってんだ」


 しかし当の本人は至って真面目で、うわさどおりに『挑む犬』が現れるのを待ち続けている。

 乾いた喉を潤そうと、冷水機に向かうために腰を浮かせたところで、三階の窓から空良の叫ぶ声がした。


「先輩! 二階です! 早く――」


 二階? と風見は訝しく思ったが、すぐに気づき校舎へと走りこんだ。


 ■ ■ ■


 風見が中庭シャトルランに勤しんでいたころ、空良はサッカーボールを小脇に抱えて校舎内をうろついていた。

 小学生から続けているサッカーが空良の得意分野だ。ボールは自身が所属するサッカー部から拝借してきた。

 リフティングでもしながら歩くか? とも思ったが、さすがに校舎内では気が咎めた。それに、ひとりでそんな事をしているところを誰かに目撃されようものなら、どこかの先輩みたいに変人扱いされるかもしれない……。中庭をちらりと見ながら空良はそう思った。


 そうして三階の廊下に来たところで、『挑む犬』はいきなり現れた。誰もいない廊下に、立ちふさがるように現れた。

 白い、と先ほどの女子生徒は評していたが、白と灰色の中間、光の加減によっては銀色に輝いているように見えた。目は鋭くこちらを見据えている。その佇まいは――犬相手にこうした表現が適切かは分からないが――理知的で気品高く、堂々としたものだった。

 まるで狼だ、空良は思った。


「お、お前――」と空良が言いかけると、

『貴様の得手とするものはその蹴鞠(けまり)か? いいだろう、我輩が貴様を打倒してやろう』


 と、犬の方から声が響いた気がした。しかし、気がしただけで、おそらくは幻聴なのだろう。少なくとも空良は己の中でそう処理することにした。

 しかし銀色の犬は、動揺して動けない空良を()めつけ、


『どうした、さっさと貴様の実力を見せてみろ――』


 間違いなく空良に対して、そう言ってくる(・・・・・)。現に廊下には他に人影はない。スピーカーで喋っているような音でもない。これは――そう、まるで頭の中に直接話しかけてくるような。

 まさか本当に妖怪的な何かなのか――空良は信じられないという風に強く頭を振る。


『早くしろ――我輩はオスには容赦せんぞ』


 と語気を強めて、犬は牙を剥く。

 ああもう、わけが分からない。オレの白昼夢でないのなら、これは追い求めていた七不思議だ。やってやる、風見先輩の手なんて借りなくてもひとりで暴いてみせる、と空良は決意を固めた。

 手にしたボールを宙に浮かせ、両膝を使ってリフティングを始める。胸、足の甲、頭、肩まで使って器用にリフティングを続ける。


 小学生の頃、姉の前で自慢げに披露したリフティングだ。「すごいね、空良」と言って喜んでくれた姉の笑顔が思い出される。ここしばらくは姉とのそんな時間はないけれど……客観的に見ても仲はいい方だと思うが、最近の姉は……。


 そこに邪念が入り込む。風見爽介――あの先輩のいやらしい笑顔がノイズのように入り込む!

 すると狭い廊下、ボールコントロールをわずかに失敗し、つま先に当たったボールが壁に当たって前方へとバウンドした。これがグラウンドなら咄嗟のステップで追いつけたかもしれないが、ここではそうもいかなかった。

 突き出した足はわずかに間に合わず、ボールはてんてんと床に転がった。


「ああ、くそっ――」

 

 空良が自分の不甲斐なさに悪態をつくと、床に転がるボールを銀色の犬が前脚で止める。


『その程度か、小僧。では我輩の番だ』


 と言ったかと思うと、なんと()もリフティングを始めた。主に頭を使いながら、時には背中、尾のあたり、前脚、後脚と――

 前脚はハンドになるのか? いやいや、そうじゃなくて。サッカーの試合に犬が乱入してくるというのは聞いたことがあるが、そういう『じゃれる』とかいうレベルじゃない。あんなにも見事にボールを落とすことなくリフティングが出来るものなのか。空良は驚愕した。


 しかも、さすが犬。狭い廊下に最適化された身のこなし。時にはあえて天井スレスレまでボールを跳ね上げ、落ちてくるまでの間にその身を一回転させる、なんていう『魅せる』テクニックまで披露してくる。


 やばい、超すげぇ。かっこいい。空良は驚嘆を通り越して見入ってしまった。

 最後に銀色の犬は、天井近くまで飛んだボールを、後脚を器用に操作して空中でキャッチする。前脚だけで自重を支え、そのポーズで静止。

 ギャラリーが居ればスタンディングオベーションが巻き起こるのではないかというような決めポーズ。そして心なしかのドヤ顔。


「ま、負けた――」


 空良は床に手をつき、がっくりとうなだれた。



(第14話 風使いと「生徒会」(4)【七不思議編】 終わり)


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