表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「夏休み」の風使い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/96

第6話 風使いと「夏休み」(7)

 八月二十二日。

 現在時刻、午前十一時。外は雨。


 ■ ■ ■


 先ほど自分の部屋で目を覚ますと、熱は一晩ですっかり引いたようで――それと同時に、頭痛やらなんらやらも、昨日は何だったのかというくらいに、跡形もなくどこかへ消えていた。


 どうせなら、記憶も一緒に飛んでいけばよかったのに……。

 昨夜の僕といえば、夜中コンビニを徘徊し、強盗犯をのして、床をボコボコにして――それらを放ったらかしにしたまま帰宅して、シャワーを浴びたら、また電源が切れたように爆睡したのだった。


 床の修理費は? 

 犯人は逮捕されたのか? 

 とか、色々と不安はある。それに、あの強盗の格好、僕とウリふたつだった。


 あれ、僕、疑われない? 共犯者だと思われたりして。

 警察に取り調べされたりして……余罪を追及されるのか? 僕の悪事が、とうとう司法の手によって裁かれる日が来るのか!?


 まずい!

 証人が多すぎて口封じが間に合わない!


 ……とかなんとか考えていたら、汗が吹き出していた。熱い。ああ、そういえば。暑いのなら、風を起こせばいいんだ。


 昨夜、僕は『風使い』になった。

 イメージするだけで風を自在に操れる――そんな存在だ。


 扇風機いらず。やっほい。


 自分でもよく分からないが、取りあえず便利だった。


 窓の外も、風が強くなってきた。ほら、あのお姉様野郎ががらにもない事をするから、本当に嵐になったじゃないか。



「ねえ爽介! 電話!」


 と、唐突に、ドアの向こうから姉さんの声。


「すみません! バチ当たりなことを考えて申し訳ありません! どうぞ僕のことを縛り上げて罵倒してください!」


 条件反射が僕の口を動かす。


「……なに訳のわかんないこと口走ってんのよ。電話だっつってんでしょ」


 ドアが開いて、ご主人様――もとい、お姉様登場。


「え、電話? 誰」


 ……家の電話に連絡って、もしかして警察か?

 とうとう、恐れていた事が現実に――


「わたぴょんから」


 と言って、姉さんは、手に持っていた電話の子機を、僕に差し出してきた。


「え? 誰?」

「わたぴょんは、わたぴょんでしょ。なに言ってんのよ」


 お姉様は、怪訝な顔を浮かべる。

 わたぴょん――新種のゆるキャラか? 警察のマスコット?


「……って、もしかしてワタルのこと!?」

「だから、言ってんでしょって。わたぴょんだって」


 そんなあだ名、初めて聞いた。絶対、子供の頃はそんな風に呼んでなかったよ。あれ? ワタルと姉さんの、二人の間だけでしか通じないんじゃ……。


 改めて、ワタルの魔の手が僕の家族に忍び寄ってくる恐怖を感じる……。


「ほら、さっさと出なさい。わたぴょん待たせてんじゃないわよ」


 僕が電話を受け取ると、姉さんは、まったく、と言って一階に降りていった。

 しかし、何だって家電(いえでん)の方に掛けてくるんだろうか。しかも、昨日の今日で。


「……もしもし?」

「おう、爽介、やっと出たか」


 ワタルの声は、電話越しでもよく通った。


「へいへい、待たせてすまんね」

「いやお前、スマホの電池切れてない? 昨日から電話とかメッセージ送ってるけど、全然反応ねぇし。夜には『電波が届かない……』になってるし」


 そういえば、丸一日くらい、携帯電話を放ったらかしている気がする。

 ええっと、昨日ワタルの家から帰って……ああ、通学用のバッグに入れたままだ。

 呼び出しが鳴ったとしてもバイブだし、僕は爆睡してたしで気づかなかったんだろう。もちろん充電もしてないから昨夜の内には電池が切れたはずだ。それで家電(いえでん)か――


「ああ、放置してた。わり」


 それどころじゃなかったのだ。

 色々と。


「まあとにかく、連絡ついて良かったわ」

「んで、何なんだよ」

「いやほら、昨日、結局話できなかっただろ」

「何だよ、篠宮のことか? 別に僕に言うことなんて……」


 あれはあれで、僕の中ではもう終わっている。あとは篠宮とワタルの問題だ。基本的にワタルの女性問題に首を突っ込むつもりはないのだ。


「そうじゃなくて、話があるんだよ」

「ん、話? てかお前どこにいんの? 後ろが騒がしいけど……」


 アナウンスのような声が、受話器から聞こえてくる。

 ――駅か?


「そう駅。今、乗り換えの合間でさ。羽田空港に向かうとこ」

「羽田? 何で。こんな時期から旅行か?」


 夏休みもあと十日を切っている。こんなタイミングで家族旅行? まあ、なくはないか。夏休みの思い出づくり。


「いやいや旅行じゃなくて、留学。タイに」

「ん?」

「いや、『ん?』じゃなくて。タイに行ってくるから、一年くらい」


 しばらく、開いた口が塞がらなかったが、  


「――お前、マジか? マジで言ってんの!?」

「マジマジ。いや、一応お前と杏果(きょうか)には、直接言っておこうと思ってな。昨日はそのために呼び出したんだけど……」

「もっと早く言えよ! 今日かよ!」

「ああ、オレのとこに話が来たのが三日前でさ。元々、留学する予定だった奴がダメになって――枠が余ってるからどうだって、学校から連絡あってな」


 軽い調子で、ワタルは言う。


「んで、じゃあ行こうかなぁと思って」

「行こうかなぁと思って――じゃねぇよ! 部活を掛け持つのとは、訳が違うんだぞ。しかも三日前って……少しは悩めよ」


 ……いや、こいつにとっては変わらないのか。

 部活を掛け持つような気持ちで、留学。

 あれもこれも出来るから――じゃあ、あれもこれもやってしまおうという、強欲さと、自由奔放さ。


「しかしタイってまた、留学先としてはマイナーだな……いや、お前が選んだわけじゃないんだろうけど。っていうかお前、パスポート持ってたのかよ」

「ああ、まあな。家族旅行のときのが」

「んで、おじさんとおばさんは?」

「そりゃちゃんと話したぜ。膝を付き合わせて話し合って。んで説得した」


 僕はため息をつきながら、


「……そ。金は? 留学って金掛かるんじゃねえの、知らねぇけど」

「バイトで貯めた金があるからな。足りない分は、親から借金」


 確かに、バイトでそれなりに稼いでいる癖に、ワタルは、あまり贅沢をしているイメージがない。おごってもくれないし。てっきり、女子に貢いでばかりいるのかと思ったらけれど――僕の幼なじみは、それなりに堅実派らしい。


「何で今日なんだよ」

「ちょうど譲ってもらえるチケットが今日でさ。なるべく安くあげたいだろ。善は急げとも言うし」

「英語? 英語なんだよな、現地は。喋れたっけ?」

「まぁ何とかなるだろ。それに、何とかすることを含めての留学だろ」

「そうかもしれないけどさ……」


 まったく。

 まったくこいつは。

 何年付き合っても、こいつの事を理解できないし、ついて行けそうにない。それが出来るのは――やっぱり、篠宮くらいなんだろうな。


「……お前、やっぱ凄えよ。そういうところ、本当に嫌いだわ」

「はは、さんきゅー」


 褒めてねぇんだって。


「あ、じゃあ、昨日、篠宮が泣いてたのって…………」

「ん、そう。ちょっとお前が来る前に話したんだけど、そしたら……泣かれちまった」

「そりゃそうだろ……。で、篠宮は何て?」

「オレは一年も待たせるから、一旦別れるか、って言ったんだけどさ、『待つに決まってんでしょ!バカ!』だってさ……」


 ああ、それは駄目だ。


「本当にバカだなお前……それで篠宮、泣いてたんだな」

「そうだな。杏果にはバカって言われるし、お前には殴られるしな」

「全面的にお前が悪い。つーか、もっと殴っときゃよかったよ、こういう事ならな」


 今日、日本を発つってんなら尚更だ。まあ、一発殴っただけで右手はボロボロなんだけど。


「しかしお前、女ったらしのくせに、女心は分かってねぇんだな」

「爽介に言われたくねぇよ……ってこともないか。お前、ある意味鋭いもんな。なんでモテねぇんだろうな」

「ほっとけ。はあ……。あれ? 篠宮は、じゃあ見送りには行ってんの?」

「いやあの後さ――お前に殴られた後、もう一度連絡取って、あいつの家まで行ったんだわ。んで、やっぱり待ってて欲しいって伝えてな」


 ほほう、僕のパンチとヘッドバッドも、無意味じゃなかったみたいだ。


「それで、こう熱くハグして、今までで一番濃厚なキスを……」

「聞きたくないわ!」


 昨日の僕と天と地の差じゃねぇか。

 僕なんて強盗に床ドンだったんだぜ。


「まぁそんな感じでさ、湿っぽくなりたくなくて、お互い。見送りはナシでって事になってな」

「ああ、そうっすかそうっすか。……まあじゃあ行ってこい、どこへなりと」


 呆れながら僕は言った。


「んだよ冷てぇな。確かにギリギリになったのは悪かったけどさ。旅立つ友人に、何か一言ぐらいあってもいいんじゃねぇか」

「ねぇよ……あ、報告ならある。ホットなやつ」

「お、何だよ」

「僕、『世界で唯一にして最強の風使い』になっちまった」

「何だそれ、お前の百個目の称号か?」


 僕には九十九個の称号がある。

 ……っていうか、勝手に名乗っている。


「ま、そんなところ。どんな風でも、思いつくまま、思いのままにな。これでいつでも、学園異能バトルを始められるぜ」

「ふーん。でもお前のことだから、スカートめくりぐらいしか使い道ねぇんじゃねぇの?」

「……スカート!」


 僕は思わず、受話器を持ったまま飛び上がった。


「そうか! その手があったか……確かに、理論上は可能か……うん、っていうかそれしかねぇよ。お前天才だな! さすが僕の幼なじみ! 好き好き! 大好き!」

「それこそ嬉しくねえよ……つーか、爽介さ、やっぱお前が一番凄ぇって」


 ワタルが何か言っているが――

 僕の頭の中は、スカートめくりでいっぱいだ。夢いっぱい。期待に膨らむ僕の胸。ひらめく女子のスカート。


「じゃあさ、早速、その『風使い』とやらに、お願いしてもいいか?」

「おう、何でも来い。ばっち来い!」


 希望に満ち溢れる僕に、ワタルは言う。


「どうにかしてくんない、台風」



(第6話 風使いと「夏休み」(7) 終わり)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ