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風使いの僕は学園ライフをこうして満喫する  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
「夏休み」の風使い

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第6話 風使いと「夏休み」(4)

「ところで、風見くんは彼女作らないの?」


『ところで』と篠宮に切り出されたところで、全く気持ちを切り替えられそうにない僕だった。僕は、僕の幼なじみの奇行を知ったショックから立ち直れずにいる。


 小学生男子と担任教師の恋とか、PTAどころかワイドショーが飛びつきそうな、またここ近年の日本の情勢においては、フィクションであっても商業ベースに乗せようと思えば、結構本気でチェックが入りそうな、そんなセンセーショナルな出来事である。

 それを自分の幼なじみが、主体的に積極的に引き起こしていたと想像すると(いやあまり具体的に想像したくないが)、僕のこの震えっぷりも理解していただけるはずだろう。いくら清い交際であったとしても、だ。


 ワタルは、この男は、常人にはない感性でもって、常人にはできない判断を下し、常人離れした実行力を持って事に臨む、周囲の常人にしてみれば非常に(たち)の悪い人間だ。

 天才的だとか、快楽主義者だとか言うと、何だか一人物(いちじんぶつ)のようにも聞こえるが、彼の近くでその人間性を観察してきた僕からすれば、奇人変人、びっくり人間の類だ。


 こいつは例えば、今は帰宅部でバイトに勤しんでいるようだが、中学時代は校則で禁止だったこともあって、今ほどバイトのシフトを入れてはおらず、基本的に平日は部活動に励んでいた。ただし掛け持ちで。

 そもそもは野球部に所属していたが、背番号が気に入らないとかなんとかでサッカー部に鞍替えし、雨の日の試合が嫌だという理由でバスケ部のエースになり、個人競技がいいと剣道部で竹刀を握ってみたりするハタ迷惑なやつだった。


 しかし、これほどではなくとも、ちょっと運動神経のいい中学生なら部活の掛け持ちくらいはするだろう。

 だが、運動部に加えて文化部まで掛け持つ中学生となると、なかなか居ないのではないだろうか。

 美術、書道、吹奏楽、などなど、多種多様な方面に才能溢れる人間だった。

 ただ、先生方も、よくこんな異常人物の迷惑行為を容認していたものだ。どんだけ実力主義、個人主義の中学校だったのだろう。公立校なのに。


 僕が通う嵐谷高校、僕の隣のクラスの担任には高座山(こうざやま)先生という女傑がいるが、彼女がもしあの中学校に在籍していれば、たとえ当事者ではなくとも、義憤に駆られ、お灸の一つでも据えていたかもしれない。

 ちなみに、我が校は毎年クラス替えがあるので、もしかしたらこの先、僕の担任になる可能性もある。楽しみなような、おっかないような。


 ともあれ中学時代のワタルは、二週間のスパンで、部活とバイトのローテーションを組んで対応していたのだ。生き急いでいるにも程があるだろう。

 加えて恋愛。才能に恵まれ、口達者で、ルックスもそこそこ良ければ(背も僕より高い。確か――八十センチ弱)、恋愛面でのアドバンテージは言うまでもなく。友人としては羨ましいというより、頭を痛めるばかりだった。


 ワタルがモテるからといって、じゃあ一緒にいる僕がおこぼれを貰えるかというとそんなこともなく、こいつ曰く、「狩りは自分でするもの、獲物は与えられるものじゃない」だそうで、獲物に忍び寄ろうにも、気配や殺気どころか、下心さえ隠せない僕は、狩猟民族としては失格のようだ。

 むしろ、こいつの周りでは女性トラブルが絶えないわけで、とばっちりを食らうことさえあった。『女の敵』と一括りにされても、僕は女性を弄ぶどころか、付き合ったことすらないというのに。


 だからこの種の奇行について、しかも篠宮が言うとおり5年ほど前にあった、今はもう昔のことについて、あれこれと頭を悩ませるだけ無駄骨ではあるが、無駄だと分かっていても悩んでいたいことが、誰にだってきっとあると思うのだ。

 そうすることで、長い目で見れば心を平穏に保てるのだから。

 無駄ではあっても無意味ではない。無駄が人生を豊かにする。なんちゃって。


「ねえねえ、聞いてる?」


 頭を抱える僕に篠宮が言う。


「ん、ああ、聞いてるけど。彼女? 居たらこんなとこに居ねぇよ」


 投げやりに答える僕。そんな僕にワタルは、


「うっわ、友達甲斐のねぇやつ」


 と、言う。

 お前には言われたくねぇよ。小5の頃の先生との思い出を返せ。真っ直ぐに当時を振り返れなくなったんだからな、僕は。


「ふ〜ん、でも確かに風見くんの変態性を受け止めてくれる彼女なんて、ちょっとやそっとじゃ見つからないだろうね。生きてる間に巡り会えるといいね」


 篠宮も、正直なのはいいことだし、もしかしたら悪気はないのかもしれないし、客観的に見てもある程度正しい言だとは思うが、僕としては、まるでボクシングのリングに二対一で放り込まれ、それぞれ別方向から頭部を思いっきりぶん殴られている気分だ。

 頭が右に左にと振れる振れる。

 しかもノーレフェリー、ノーギャラリー、ノードクター、そしてもちろんノーセコンド。誰もタオルを投げ入れてくれないのだ。孤独な闘い。

 はぁ、と肩を落とし僕は言う。


「僕の幼なじみは本当ならさ、こんな女ったらしの男じゃなくて、お節介焼きで毎朝僕を起こしに来てくれて、料理も上手でツンデレで、自転車で二人乗りしたり甲子園に連れて行く約束をしたり百人一首で競ったり義手義足を作ってくれたりある夏の日に成仏したり一緒にべピーパンサーを助けたり作者から嫌いだと言われたりギアスに弄ばれたり天下一武道会で再会したり火星に向けて戦艦に乗り込みグラビティブラストをぶっ放したりしてくれるような女の子のはずだったのに。どこで運命が狂ったんだろう」

「妄想と漫画とアニメでいっぱいだね」


 と言う篠宮。

 甘い、ゲームもあるぜ。そして所々、不幸や不遇な幼なじみも混じっている。狂っているのは運命ではなく僕の性根や性癖かもしれなかった。


「篠宮さ、この話って、僕に彼女候補を紹介してくれるとか、そんな流れにはならないの?」

「え、ならないよ」


 ならないのか……。即答だし。


「だって、私の友達程度には、風見くんはもったいないもん」

「あーそーですかーそーですよねー、うん、ぼくにつりあう女子はどこかにいないかなー」


 それ、フラれるとき一番傷つくタイプの断り文句だよね。ただせめて、まだ見ぬ本人の口から伝えて欲しいもんだよ。


 ■ ■ ■


 そんなこんなで、三人で集まると文殊の知恵どころか、触れ合えば互いに互いを傷つけずにはいられないガラスのハートのような日々が(前述のやりとりを見てもらえば分かるとおり、そんな散文的な格好いいものではないけれど)、しばらく続いていた。

 ただ、八月に入ると、僕も陸上部の合宿があったり、ワタルのバイトが忙しくなったり、お盆を挟んだりとで、三人一緒に集まることが出来なくなっていたが、それでも、また同じような日々が続いていくんだと、浅はかにも思っていた。


 あいつが、ワタルがそんな波風の立たない人生を歩むわけがないと、十分過ぎるほどに、僕は分かっていたはずなのに。


 結局、次にワタルと篠宮に会うことになったのは、八月二十一日、夏休みも終盤の登校日のことだった。



(第6話 風使いと「夏休み」(4) 終わり)



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