表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

 女神は大いなる祝福を以って 暁の前に聖女を贈る

 其は蒼き闇より生まれし無限 幾何に散じて生命を呼ぶ


           ――『皇国年鑑』第一巻 〈聖ユーシェンの光臨〉より



***********************



 これは、遥か昔の話。


 始め、この世は混沌としていた。全ては交じり合い、天と地はその概念すら存在しなかった。

 あるとき、混沌から二つの存在が生まれた。光神と闇女神である。

 光は雄々しく、闇は(たお)やかであった。二柱の神は互いに惹かれ合い、手に手を取って寄り添った。

 いつまでそうしていたか、不意に女神がこう言った。

『我が半身よ、我が身を照らす御方。貴方がいるからここは明るいけれど、しかしそれだけです』

 応えて、光神は言った。

『我が半身よ、我が身を安らかにする御方。貴女は何を言いたいのか』

『この混沌の中、我等だけがただ在ったとて何の意味がありましょうか。この混沌から様々なものを創り、愛おしみたいのです』

 闇女神は誕生したときより慈愛に溢れていた。しかしその対象がなく、愛は行き場を失い、女神は己の慈愛を持て余していたのである。

 光神は頷き、闇女神の願いを叶えよう、と言った。

 そして光と闇の間に最初の子が生まれた。光と闇はその子に命じた。

『汝、我らが創りしこの空間を支え、時の運行が正しくあるよう管理せよ』と。時空神の誕生である。

 続いて生まれたのは女神であった。

『汝、兄を助けてこの空間に秩序をもたらし、それが正しく守られるよう監視せよ』と。理と秩序の女神の誕生である。

 その後、天空神、大地の女神、太陽神、月の女神、星の女神、海の女神、風の神、季節を司る姉妹と様々な神が生まれ、世界は確たる形を持ち、秩序の元に歩み始めた。


(中略)


 神々は自分達の存在だけではつまらぬ、と仰せになる。そして植物が生まれ、動物が生まれた。数ある動物の中でも、特に神々は『ヒト』を好んで創った。様々な『ヒト』が生まれた。神々は『ヒト』に知性を与え、多く自分達の話し相手とした。しかしその数は世代を追うごとに増え、『ヒト』同士の争いが生まれ始めた。

 『ヒト』は互いに怒り、或いは悲しみ、或いは嫉妬し、或いは恨み呪った。それを糧として憤怒を司る神、悲哀を司る神、嫉妬を司る神……その他、自然界の負の面を司る神々は力を増した。

 そして一部の神は『魔』とその存在を改めた。違う性質のものには、違う名がふさわしいと。

 それを良しとせぬ神がいた。最後に生まれた浄化と純粋性を司る神である。ある時、かの神は同胞に問うた。

『兄上方、姉上方。何ゆえに地上が穢れに満ち満ちていくことを容認されるのです』

『末の弟よ、何をもって穢れとなすのか』

『地上の汚濁を浄化することが我が役目。このように悲哀と怨嗟に溢れた世界を、我は許すことができませぬ』

 そうして浄化の神はその力を振るったが、世界に満ちる全ての『穢れ』を浄化するには至らなかった。またその行動により、一部の兄姉からは疎まれた。

『我等の役目を、何ゆえに奪おうとするのか』

『末の弟よ、そなたは思い違いをしていないか』

 兄姉からの諫言には耳を貸さず、浄化の神は力を振るい続けた。ますます恨まれ、やがて浄化の神は力を振るうことをやめ、姿を消した。力を使い果たして消滅したとも、他の神々の目より隠れ、何処かへ去ったと言われている。

 いずれにせよ、その後の浄化の神の行方は、誰も知らない。


              ――『創世神話』(語り手知らず)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ