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4話

「あれ? 此処コンビニになったんだ」


 と、差し掛かるのは前から建立された何でもない普通のコンビニ。ヒロ君がいなくなって建てられたんだっけ。


「前は靴屋だったっけ」


 懐かしむようにヒロ君は言う。


「変わったよね。やっぱり」

「そ、そりゃあね」


 満面な笑顔なんか向けてくるもんだから、何て言えばいいのかますます分かんなくなってきた。他にも、記憶と今を比べながらヒロ君は一喜一憂していた。

 学校に着くと、今日から新たに通うことになるヒロ君は、まず職員室に行くことになる。場所を案内したあと、別れて私は教室へと急いだ。


「おはようハル」


 教室に入ると、クラスメートから挨拶が跳んでくる。私は元気よく返す。その反応に驚いた人もいたようだった。


「あれ……? ハルだ」


 よく分からないことをクラスメートは口にする。誰だと思って挨拶してきたのか。


「私は私だけど」

「あ~、うん。そうなんだけどね。いつものハルだから。いやまぁそのほうが断然いいんだけどね」


 ますますもってよく分からない。私がどうかしたのかと思案していると、ほかの一人が説明する。


「あのほら……。ハルちゃんって……その、別れたって……」


 おどおどした様子だ。気に触らないようにとする気遣いだろう。言われてそうなんだと思い起こされる。忘れてたわけじゃないけど、それどころじゃなかったのだ。でも別れたという事実がまた重くのしかかられた気がした。


「うん、まぁ……そうなっちゃった……けどあんまり気にしてもね」


 と、今更気落ちしても悪いし何とか気にしてないよう振る舞った。


 ちょうどその時、教室の扉が勢いよく開かれる。


「おい知ってるか。転校生が来るらしいぜ!」


 そろそろチャイムが鳴る頃合いになっていたので、クラスの皆はそれなりの人数で満ちていた。その全員が、一斉に転校生という単語に反応して顔を上げた。


「それマジか。女子かな」

「まだ分かんねぇよ」

「どんな子かな」

「仲良くなれるといいね」


 皆それぞれ興味深々で思い思いのことを言い合う。一気に話題は転校生に変わった。私と話していた娘たちも同様だった。私にも興味を促すが、私には誰なのか分かりきっていた。


「私はそんなに……」


 と興味なさげに振る舞う。


「ハルがクールになった」


 酷く驚かれてそんな反応をされてしまったのは思ってもみなかった。



 そわそわといった表現がぴったりな教室。多少遅れて担任の先生とヒロ君が入ってくる。

 男子は当然のように盛り下がる。逆に女子がぎこちないものの盛り上がりを見せる。背が高く整った顔立ち。茶色の髪の毛を揺らし、愛想よく笑うヒロ君は好印象となった。

 改めて見てもやっぱり変わったと思う。昔ならこれだけの人数を前に、びくびくして隠れてしまったものだ。ここまで変わると、私自身戸惑ってしまうのも無理はないと思う。

 しかも、「ハルちゃん。一緒のクラスだね」とか堂々と言うもんだから、驚くと同時にこっちがしどろもどろになる。

 担任の先生もどういった経緯で知ったのか。多分ヒロ君自身だろうけど、余計な配慮をしてくれた。


「木下とは知り合いなんだってな。席を隣にして色々教えてやってくれ」


 何よりホームルームが終わったあと、質問攻めに遭ったのは本当に困った。


「ごめん」


 と、ヒロ君が謝ってくる。急に謝ってくるもんだからどういう意味か考えていた。ヒロ君はそれをどう捉えたのかは分からないけど、一生懸命になって話し始める。


「その……けっこう色々と押し付けてたみたいだから」

「あ、ううん。これくらい大丈夫」

「そう? ならいいんだけど、ちょっと様子がおかしいから」


 原因といえばヒロ君にあると言ってもおかしくはない。けどこれは私の問題だ。多分幼かった以前と変わらず接してくれているんだと思うんだけど、思春期に入ったというのに、変わらず純粋に接してくるから戸惑っている。でもそれで心配をかけるのも悪いので、しっかりしようと心に決めた。


「ほんとに大丈夫。それより次は移動だから、準備して。連れてってあげるから」

「うん。そうだね」


 何がそんなに嬉しかったのか。案じて悲しそうだった顔が嘘のように反転していた。ぱぁっと、さっきまでが嘘のように、嬉しそうに笑っていたのだ。



 時間が流れると、騒がしかった女子たちも段々大人しくなってくる。けど、まだ一部濃いのがファンクラブなんて作ってるらしい。

 ヒロ君自身も、学校にはだいぶ慣れてきた。構造やシステムは覚えたようだし、最初はある程度戸惑っていたものの、近寄っていく女の子をさらりとかわすようになっていた。もちろん喋る男友達も出来ていた。

 でもやっぱり、何かと私に構ってくる。ヒロ君は私のあとを律儀についてきていた。分別もちゃんとしていたし、べったりというわけでもない。懐かしい幼馴染として一緒に過ごす。そんな感じで何日か過ぎていった。

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