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10話

「これでいい?」


 トイレを出ていったあと、愛美は階段を降りていく。すると、取引相手が階段の死角から姿を現す。


「上出来。でも羨ましいってのはもしかして本音?」


 ハルの友達、由香里だった。


「聞いてたんだ。趣味悪すぎ」


 愛美は階段の途中で立ち止まり、由香里を見下ろす。腕を組んで睨んでいた。


「ちゃんと話するか気になるからね。それよりどうなの?」

「まぁ、少しね。私も本気の相手探そうかなって」

「今は本気じゃないんだ」


 愛美は少し思案する素振りを見せたが、髪をかきあげる。誤魔化すのも馬鹿らしくなったのだろう。ぶちまけるように言葉を吐いた。


「そうね。ま、ただの暇潰しかな」

「貴女もけっこう酷いわね」

「あんたには言われたくないわね。わざわざ人を使うんだから。自分が言えばいいのにさ」


 由香里の言葉が勘に触ったらしい。けど、由香里は気にした様子もなく理由を述べた。


「友達だから応援したいだけよ。それに、目撃者が証言したほうが言葉に重みがあるからね。嘘ではないんでしょ?」

「えぇ。それじゃあ、することは終わったし。もう帰る」

「お疲れ様」


 あとはまぁ当人たち次第かな。由香里は壁に寄りかかって笑みを零した。




§




 微妙な空気が漂う。自分から誘ったわけだが、どうにも気まずい。原因はやっぱりヒロ君がケンカした理由を聞いてしまったから。

 本当なのか少し気になる。いやすっごく気になる。確かめたい気持ちがあるのだが、聞きにくい。どうやって聞けばいいのだろう。そればっかりが気になって、頭が混乱してしまいそうだ。


「何か訊きたいことでもあるの?」

「ふぇ!?」


 あまりの的確だったもので、私は妙な声をあげてしまう。見上げれば、何やら意味深な笑顔があった。


「な、何で?」

「いやだってさ、そんだけソワソワしてたらいくらなんでも。というかモジモジしてるし」

「……!?」


 言われてその通りなのに気付き、パッと手を離す。その様子を面白そうに、ヒロ君は笑いに耐えていた。


「この、ヒロ君のくせに……」

「ごめんごめん、で何が知りたいわけ?」

「その……ケンカした理由が私のことだったって本当かどうか……」


 うわぁ、自分で言ってて何か恥ずかしい。顔が妙に熱いし。


「え…!? だ、誰から訊いたの? いや、だってあいつが、なんかヤれないから別れたとか言うから……」


 やっぱり本当だった。でも私そこまで言ってないのに、全部話しちゃうあたりがヒロ君らしい。


「ハルちゃんさ、どこまでいったの?」

「え、えぇ?」


 いきなり何を言うのだろうか。


「手繋いだの?」

「つ、繋いだけど」

「じゃあキスは?」

「そりゃあさすがに……って何訊いてんの!?」


 私も何素直に答えようとしてんだろ。


「だってさ、好きだから気になるし」

「そりゃあそうかもしれないけど……え?」


 今何か凄いこと聞いた気がする。慌ててヒロ君を見上げると、しまったと思ったのか顔を赤くしてそっぽを向いていた。


「えと、今何て?」

「……好きだから」


 今度ははっきり言った。私を見て言った。あ、ぅ……。駄目だ。今度は私の方が見れなくなる。


「だからね。僕はハルちゃんが好きだから、僕と付き合ってください」

「うぅ……」


 肩を掴まれ、嫌でも対面させられる。何でこんなことになってんだろ。もうわけがわかんなくなってきた。どんどん顔が熱くなるし、どんどん鼓動が速くなる。私はヒロ君に意識しているのか。いやこれは、意識させられているのだ。絶対。ヒロ君のくせに卑怯だ。昔はあんなに妙ちくりんだったヒロ君のくせに。ヒロ君のくせに。


「うぅ」

「ハルちゃん?」

「う~、ヒロ君のくせに~!」

「え~! ちょっとどこ行くの」


 耐えられなくなって私は走った。逃げたわけじゃない。ちょっと退いただけだ。

 後ろを振り向かず走る。少しヒロ君の声が聞こえるがけど、いや聞こえない。幻聴だきっと。 でも幻聴は全然止まないから足も止められなかった。

 車道と平行する歩道を走る。ここで渡りたかったのに、信号が赤になりそうだった。私は間に合えと、足に力を入れてスピードを上げる。行けそうだったんだけど、寸前で信号が赤に変わってしまう。

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