1話
「え……? ……今……なんて……?」
それはあまりにも突然で、私に重くのしかかる。学校の裏庭でのことだ。
「だから、好きな奴が出来たんだ。だから、別れてくれ」
それは突然の別れの申し出。前兆があったわけでもない。ただ現実だと理解するだけで時間を要した。
「……」
私が黙ったままでいると、彼は、申し訳なさそうにするも、自分の意思を必死に伝える。
「実はさ、けっこう前から好きになっちまってさ」
まだ彼は何か言っているが、私の耳には届いていなかった。うまくいってると思ってたのは、私だけだったなんて……。
情けないような気がして、とても悔しくて。でもやっぱり彼の嫌がることはしたくなくて。
「……分かった」
なんて言ってしまった。
何回か謝ったあと、彼は去っていった。
私の初めての恋愛は終りを告げたのだ。
§
「ねぇハル、そろそろ止めといたほうが……」
目の前では、苦笑いといった表情で友達の森本由佳里がいた。
「今日は食べる。食べないと気がすまない」
なだめる由佳里を放っておいて、私は構わず暴走する。ハルというのは私のことで、木下春美からとったあだ名である。
「何があったのかは知らないけど。でも、もう五つ目だよ。太っても知らないから」
う……。そう言われると何とも言えない。五つ目になるらしいケーキを眺めながら一時停止する。けどやっぱり食べないとなんだかやるせない。
「んっ……」
意を決して、残りは一口で口に放り込む。
「ん~、ん~」
「ちょっ、何やってんの!? ハイこれ」
口に頬張り過ぎて喉を詰まらせた私を、由佳里が介抱する。渡されたアイスコーヒーを一気に飲み干した。
「ふぅ。危ない危ない」
「ハルってさ、けっこう馬鹿な娘だったんだね」
え、えぇ!?
窮地を脱した途端にそんなことを言われたから、驚くしかなかった。
「見てたらそうなんだなと、特に今そう思った。太るかもって言ったのに、何で一気食いするかなぁ」
肘をつき顎を手に乗せる。由佳里は呆れ果てた表情で言った。
「だ、だって……」
何でって言われたら、寂しいやら悲しいやら、そんな感情を紛らす為だ。そんなことを改めて確認すると、無償に涙が出てきた。
「え? なんで泣くの? そんなに酷いこと言った?」
何で私がヤケ食いしてるのか、事情を知らない由佳里はただ慌てた。
「……ごめん。何でもない……」
フラレたなんて言えなかった。でも、言葉とは裏腹に涙が出てくる。止まれ、止まれとお願いしながら、私は必死に涙を拭った。
「よしよし。話くらい聞いたげる」
そう言って由佳里は、テーブルの上を越えて私の頭を撫でた。子供扱いされてるみたいだったけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。少し落ち着けた私は、ついには打ち明けることにした。
「バカっ!」
「ふぇっ!?」
一通り話し終わると、いきなり由佳里は私に叱咤を言い放つ。
「ハルのバカ。そりゃそいつが悪いけど、ハルも悪い」
「な、何で……?」
由佳里は私の味方だと思ってから、何でこんなことを言うのか分からない。
「そりゃ、ハルはバカみたいに恋愛を楽しんでた。ずっと輝いてるように笑ってて、ホントに好きなんだなって思ってたよ。でもそんな奴だったなら、早く忘れなさい」
そう言い切って、私の左頬をつまんだ。
「でも、そんなすぐに……」
忘れるなんて……と続くはずが、由佳里に右頬までつかまれた。
「由佳里、痛いよ(ゆひぁり、いひゃいよ)……」
「無理にでも忘れるの。いつもの強気なハルちんは何処行った?」
「…!?」
うん。そうだよね。こんなの私らしくないよね。
「ありがとっ。由佳里」
「分かればよしっ!」
「そうとなれば食べないと。すいませーん! あとこれとこれとこれください」
「ってこらぁ! 全然違うでしょ!?」