大人の交渉
改訂いたしました。27.5.31
私の学園生活はどこに行ったんだろう、と言うくらい私は魔法院へ行ってません。なぜかって?そりゃあどこぞの侯爵様が変な事をしてくれたおかけだよ。
なにか怨みでもあるの?て思っていたら本当にあったらしいです。全く身に覚えのない逆怨みだけどね。とんだ迷惑だよ。大迷惑だよ!!
あれは本当に面倒だった………まず、パディック侯爵なんだけど、当主交代で現状維持から革命派に早変わり。革命派とは簡単に言っちゃえば新しい事をすぐにでも取り入れて発展させよう!って言って国の主導権を握ろうとする人たち。
その革命派はとくに王位交代がない事を嘆く集団で、いつまでも変わらないなら新しい人をこっちで用意してやるよ!だから今いる王子たちは邪魔だからどうにかしてやる、と安易に言ってるけど実際はもっとごちゃごちゃしている。こんな風にしか言えないのは私が子どもだからで、こうなってこうだからこうだ、とかいつまんだ事しか教えられないからだ!!
お父様は私の事を今まで通り『クフィー』としか見ていない。前世がどうとか気にする様子もなく、今まで通り。寂しくなったら家族愛をフィーバーさせて。嬉しくなったら家族愛をオープンにして。何もなくても家族愛をみんなにあげる。
うん。悔やんでいないよ。むしろありがたいです。『クロムフィーア・フォン・アーガスト』のままでいさせてくれるお父様には大変、感謝だよ。でも頬擦りはさすがに勘弁してほしい。やられたお兄様と一緒で色々とライフポイントが削られるから………
まあ、お父様はスルーして、侯爵だよ。とりあえず言っちゃえば婚約の話は出所がパディック侯爵に決定でユリユア様のおかげでばっちりと掴んでいます。嘘っぱちも発覚に確定。デマを流した、王子の名前を使った、事から重罪になりましたよ。
なんで私との婚約になったかと言うと、私が双子ちゃん王子と王宮に行ったところ、来ていた所をパディック侯爵が目撃していたそうです。そこからアーグラム王子が最近の雰囲気が変わった(らしい)事から推測。私とアーグラム王子は何かがあると踏んで婚約をでっち上げたらしい。
7歳の私に15歳のアーグラム王子がなびくわけがないので私が悪者で風評。それもどうかと思うけど王子たちの評判を落としたいのでまず中立の派閥にある上流貴族にそれを流し、広めてもらって中級、下級へ流す手筈だった。が、ここでパディック侯爵の娘てあるアテンネが何も知らず独走。その噂を聞き付けてアーグラム王子が諦められないのと、アーグラム王子と婚約までこぎ着けていた私が許せなかったそうな。上流貴族に広まったのはお茶会を頻繁に行っていたアテンネだった。
父に真実を猛抗議したが軽くあしらわれただけで噂は広まるばかり。自分で広げたくせに頭に血が上ったアテンネは噂を真に受けて私を悪女に変換し苛立ちが募り、なんとか私との接触を図るために調べたけど私はあいにく知人と呼べる貴族の友達はいない。ならば、同じ共感を持てて扱いやすい駒を探せばいいじゃない。それでクリミアが抜擢されたと言うことです。年齢を考えなかったのかな………?自分で広げといて馬鹿じゃない?
父と関係があるのは本当だそうで、侯爵からのお誘いは断れる訳がないクリミアはすぐにアテンネと面会というお茶会を。巧みな話術にはまって私に実行したと思われる、かな。場所の提供も何に使うか知らされていないアテンネが勝手に使ってその魔法師も悪ノリしたためにあんな事になったんだよね。
じゃあ、どうしてわざわざ部屋まで取って闇魔法の実験が必要か。言ってしまえば王族たちを【闇】の【空間魔法】を使って閉じ込めて、世界と切り離すための実験だったと言うこと。どうやってそんな大事の話を聞き出したんだか。
【闇】の最上位である『空間魔法』は確かに世界と別の闇へと繋げて外と隔たりを作るんだけど、完全に切り離すには信じられないほどの魔力を使う究極魔法『孤立空間魔法』を使わなくてはならない。どれくらいか分からないけど、一番分かりやすくてレーバレンス様が命と引き換えにするくらいらしい。それ以外は不発に終わってただの無駄死に。だから誰がやっても死ぬだろうって。なかなかレーバレンス様か辛辣です。まだ根に持っていたらどうしようっ。
そのレーバレンス様の魔力量も分かっていないけど、お父様の次に魔力量がある人。お父様が100ならレーバレンス様は98ぐらい?一つの魔法に1~10を使うと考えると中級と上級の上、最上位だけあってかなり苦しいのではないかと………
それよりもそれを実験で頑張ろうとする、その亡くなった魔法師が残念すぎる。と思ったけど『結界』を使うに当たって中に人がいるかは判断できるし、実証済みだから同情はしない。自分以外を守るんだから当然だよね。確信犯に慈悲はないよ。
知っていて、実験にちょうどいいと思ったから実行した感じだったらしいし。アテンネは細かく詳細を知らなかったけど、お抱えの魔法師はアテンネの婚約者なんだって。うへぇ。そりゃあ、アテンネの合図で魔法を使ってもおかしくはない。ついでに中を知っていても問題はない。本を呼んでもそんな事は無理だよ、って書いてあるのに………書いてあるからこそ、試したのかな?探求心を刺激しちゃったか。
まあ、その目論見が色々と重なって綻びをつくって、みんなにバレちゃったから重罪を通り越して親の方は死刑なんだって。これって自爆だよね。なんだか軽々しくそんな処罰を口にされても困るんだけどさ。王族を陥れようとしたのだからこれしか出来ない、てさ。
因みに当主を失ったパディック侯爵家は当主を元に戻して最南端へ。ほとんど荒れ地で食物もうまく育たない土地を与え、復興させろ、との事。革命を起こせるぐらいならまずそこを革命して見せろよ、だってさ。これは前当主への尻拭いにグラムディア様が判決を下したみたい。
それと邪魔になりそうな侯爵の娘は交友ある砂漠の国のとある伯爵へと輿入れ。王子と離れさせたかった理由と、ちょうどよく交渉に誰か一人を嫁がせる事になっていたそうな。これはちょうどいいのかな………?
まあ、そんな感じで私は出されたお茶を飲む。ただいまグラムディア様たちと一つの一室をお借りして―――そうだね、お茶をしています。うん………お茶、だよ。私だけ。たぶんメンツがおかしいんだと思う。対面にグラムディア様とそのソファーの後ろに双子ちゃん王子。少し離れて近衛騎士かな?私側は隣にお父様とウィル様のサンド。後ろにはアビグーア中隊長と控えにポメア。アビグーア中隊長に怯えていたんだけど………そんなに怖い?
どうしてこのメンツかって?そりゃ事の顛末を今しがた教えてもらっていてこれから商談ですよ。難しい話をするらしいけど、こんなところでやるほど難しくしないつもりだって。嘘だよね。
グラムディア様復活の説得と婚約解消の話なのに、なんで騎士棟の一番奥の空き部屋でやるんだか。けっこう、重要な話だと私は思うんだけどな………
「まず、今回の件でクフィーは巻き込まれました、と言ってもいいですよね?王族を排除に通りすがりの娘を使ったようなもんです」
「王子と絶対に知らされないようにお約束されていたとの事ですね?今回のことで作り話だとしてもクロムフィーア若魔法師と噂は出来てしまいました。貴族内で噂の方は鎮められましたが、消す事は出来ません。また噂される事もあり得るでしょう。それに、パディック侯爵に問いただした事によれば誰とは知らず、婚約と言う言葉は広まっているそうです。あとアーグラム王子の最近のご様子からと婚約だけは確定していたそうです。すごいですよね。婚姻ではなく、婚約の噂は広まっています」
うわ~。ウィル様、それってつまり安易に内緒と言っておきながら内部ですでに広まっているんだぜ?って言ってるよね………………
グラムディア様は動かないけど―――アーグラム王子の顔が少しだけ歪んでいる。
「クロムフィーア本人からの希望で、約束は守ってもらえていない事から婚約はなかった事にいただきたい」
「それはっ」
「アーグラム」
今にも飛び付こうとするアーグラム王子をローグラム王子が。後ろの近衛騎士も少しだけみじろいだ。そんなに私がいいか。どこに惚れたんだろ?下手したらロリコンじゃない?一目惚れって怖い。それにしてもグラムディア様、爛れた皮膚と縮んだ皮膚のおかげで喋りにくそう………
「望んで、いないのか?」
まっすぐ私を見つめられる瞳はグラムディア様。ちょっと眼が皮膚で潰れているようで、はっきりと私を見つめているのかはわからない。でも確認する相手は私しかいない。私は声を出さずに頷いた。
それをしっかり見ていたアーグラム王子は私を凝視している。眼があったら何か言われそうな気がしたので視線は交わらないようにグラムディア様ただ一点のみ。
グラムディア様はそんな私を見つめ返して………陛下の名を出した。陛下がそれを許すのであれば、婚約はなかった事にする、と。
さすがにここまですんなりと了承するとは思っていなかったらしい。アーグラム王子が意見を言いたいのか、グラムディア様に切羽詰まった様子で声をかけている。どうして、が一番耳に届いた。私も………どうして、て―――聞きたいな。
「父上っ」
「アーグラム………お前は、王子だ」
「っ―――」
その一言が、なによりも彼を縛っていると思う。何かあれば王子を理由に押さえつけられるだろうね。私にはありがたい………………でもこれは一つの呪いの言葉だと思う。
「一目惚れ、悪いことではない。お前たちが成人する事も、分かっている。だがこれ以上、王族に見向きもしない彼女を巻き込むのは、いけない。アーグラムは、権力で縛り上げ、権力で彼女を、手に入れたいのか?その権力を、手にした彼女は次にどうでる。権力を、使える彼女はなにをする?」
「………………すみません、でした」
―――納得、してくれたみたい。正直、グラムディア様がどこまでの発言力があるのかを疑っていた。いくら国政にひっそりと働いていたとしても、彼は国から遠ざけられた王子。息子にどれだけの影響を与えられるのかが私には分からない。
でも、今のやりとりで何となく、分かった。これは大きく国政に絡んでいて、息子たちにも教えられるほど教養されていて、発言力なんて普通に持っている。親だからもあるけどグラムディア様は暗に私の使い方まで悟らせた。
もしここで無理矢理にでも私がアーグラム王子と婚約、婚姻、結婚まで昇りつめてしまったらきっと魔力暴走をしている。途中で暴走しているかもしれないけど。単純に私は王家を憎むね。それだけ無理矢理は嫌だし、魔法具で黙らされてもきっともがく。もしくは―――死。
死だって簡単な事じゃない。生きているのだから逆の死はあり得ないくらい拒絶する。でもね、ある境界を越えてしまうと、人は脆く壊れる。きっと魔力の暴走の原理もそんな感じ。一定を越えてしまうと、人は人ではいられなくなるんだよ。
それでも鋼の心があるなら私は国を壊すと思う。王族って、小競り合いと言う軽い表現じゃすまないでしょ?陰謀が重なって絡んでいてぐちゃぐちゃ。そんなところに私はいられないよ。
「後で陛下に―――グレストフ魔法師と、一緒に、申し渡してくる」
「ありがとうございます」
「では―――次に、王子の婚約がなくなってしまったので、こちらで成人式で発表する次期国王の代案を提案いたします」
「………それは?」
「今からアーグラム王子とローグラム王子に婚約者を望むのは苦痛でしょう。アーグラム王子は今回の件で一部に良くない印象を与えてしまいました。次にローグラム王子はすでに評価が低い。今から評価をあげるにしては遅すぎるし、すでに15年で王子たちはどういう人物か描かれている。それを変えるのもまた難しい。ですからこの度、成人式でグラムディア王太子殿下の名を掲げていただきたい」
うわー………………静まり返っちゃったよ………てかなんだか凍りづけになっていないかね?
グラムディア様なんかピクリとも動かなくなっちゃったよ。まあ、いきなり言われたら驚いちゃうよね。この案は私とお父様。練ってくれたのがウィル様なんだけど………逃げ道を塞ぐ言葉をいっぱい用意した文章。本当にウィル様が怖い。
眼鏡は伊達ではありませんでしたね。いや、ほら。眼鏡って天才って言われる人がよくしているじゃん?本当は勉強していたら視力が落ちてその努力が報われて天才に呼ばれるようになったんだろうけどさ。いや、こうしたいね、ああしたいね、って言うだけでウィル様はどんどん煮詰めていっちゃったんだよね。さすがです。
ところで、私はお茶を飲んでいるだけでいいそうなんですが連れてくる必要って婚約解消ぐらいしかないよね?難しい話だから魔法院に行かせてよっ。せっかくジジルとエリーと言う年が近い女の子と仲良くなれたのに接点が少ないとかおかしいから!
しかし、私の心の中で呟く嘆きたちが聞こえるわけもなく………さくっとウィル様が喋り出しました。はい。お茶、飲んでいますね………
「王位剥奪の取り消しは魔法剣の立案を。グラムディア様は第一人者として立ち、今回の件の取り締まりでグラムディア様の評価は大きく変わるでしょう」
「ウィル五進魔法師!父上に魔法剣の話を持ってくるとはどういう事だっ」
「グラムディア様だってお気づきでしょう。貴方の王位を剥奪したのは陛下が我が息子を思っての事だと。グレストフ一進魔法師がそう聞いています。このままでいいのですか?」
ウィル様、煽るなー。てか、ローグラム王子が反感を言うなんて意外かも。それだけアーグラム王子が重症なのかな?顔は苦虫を潰した感じだけどね。
「私は、表へでない」
「アーグラム王子に押し付ける気ですか?」
「違う。今回の件に、関しては、アーグラムの不手際も、否めない。しかし、アーグラムが王となるなら乗り越えなくては、ならない。これだけで、剥奪された、私の、王位継承権は戻せない」
「今回の事でアーグラム王子の評価は見直されます。噂はいくら消しても他人の口は塞げません。誰か一人が否定すれば波紋はすぐに広がる。今まで婚約者候補を散々お二人で断ってきているのです。隣国の姫君の浮き世話もなく、女の噂がない。加えて成人式で婚約発表もなければこの15年で次期国王の表立った目処もありません。これでは国の示しがつかないのです。すぐにと言っても候補の姫たちをすべて断っているので王族側から見て頼むことも不可能。厳選して選ばれるために取って付けた娘では悪評になる。それをすべてアーグラム王子に押し付けるのですか?」
「………………」
「グラムディア様なら、すでにセレリュナ様がいらっしゃいます。それに表舞台から姿を消して後ろ指を指されても、あなた様は国を捨てなかった。過去の魔法剣から立ち直り、それを正しく示すためにも、グラムディア様には戻ってきてもらいたいのです」




