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この世界の優しいお父様

改訂いたしました。27,5.30

「いつ、気がついたんですか?」


「クフィーが初めて言ってくれた………ちょっと後にね。抑制魔法具を作るのにレーバレンスと話していたら、そもそも白と黒がなぜ分かるのか疑問がでてきたんだ」


 最初から失敗してるんじゃん。思わずげんなりである。


 あらかた落ち着いてきて私は今でもお父様の腕の上でお話ししている。本当は離してほしいんだけど、楽しそうに駄目と言われたらそれ以上、言えなくなってしまった。


 もしかして逃がさないようにしているのかな、とも思った。でもよくよく考えたらクロムフィーアの父は王宮魔法師筆頭プラスの十進魔法師。技術も当然ながら私より遥かに勝っているので逃げれるわけがない。さらに言えば『結界』が張ってあるのでなおさら逃げることも出来ない………魔力は勝っているけどもう魔力暴走も出来そうにないよ。なんでこんな冷静になれるんだか………………無念。


「それから、考えたら色々おかしいなー、て思う事があってね。さっきも話してたけど『齟齬』なんて子どもが使わないよ。お父様そんな教育やらせてないし。クフィーに読ませているもので齟齬の意味を持つ難しい書物なんてない。いくらヴィグマン様でも渡さないだろうね。領地情報は見せていたが………」


「あれは不味いな、とは思ってました」


「ああそうそう。6歳の時に魔病についてクフィーが訂正しただろう?クレラリアから聞いたけど、まあ、家系図をあそこに置いていた私が悪いんだが………その家系図に書いてある属性は魔法文字を使っている。魔法の基礎しか教えていないのに魔法文字はわかるわけないだろう?今まで見せていたものも魔法文字の読み方なんて教えてないし、見方なんて本にもしていない」


「うっ」


「それに、ちょっと賢すぎるかな………二重の回復魔法もそうだし、今回の分析もそう。自分を守るために口にした言葉は7歳児を越えすぎてる。まあ、『天才』『秀才』『鬼才』………それらでくくってもいいけど子どもにその言葉は重すぎる。故に私やレーバレンスとかはそれを肯定しない」


「他の方も疑っているのですね………………初めからボロボロじゃないですか………」


「眼の事だけでなくても不自然が見えてくる。これでも5歳まで分からなかったよ。陛下の前ではすごく驚いた。環境や教育にもよるだろうけど、兵に囲まれて見知らぬ大人に囲まれればだいたいの子どもは空気にやられて萎縮する。とくにマルカリアは酷かったからね。だから怯えて動かないだけだと思えば震えもしないではっきりと言葉を返すし、子どもがあの場でベルック宰相に教えを乞うなんてしないと思うな。それと、普通は喋れるようになったら上の兄弟には名前を付けて兄や姉を呼ぶ。これは習わなくても勝手に呼ぶもんなんだよ。貴族の親戚兄弟はけっこういるからね。まあ私の家は特殊だが―――貴族の名前はどちらも重要なんだ。教えてくれるね?クフィー。全部じゃなくていいんだ。誰しも言えない事もあるし、隠したい事もある。これは父と娘の内緒話だから大雑把でもいい」


「私が不自然なのにですか?普通、すべてを吐かせるのでは?」


「父親は娘の泣いた顔に弱いんだよ」


 そう言って眼を覆われた。なにするんだろう、と思えば小さく「集え」。それから手を離したと思えばキラキラが私の目の前で輝き出す。キラキラと光っているのに、眼にいたくない輝き。これは前にも体験したことあるね。


 あーあ。なんだか失敗しまくりじゃん。他の人みたいにうまくいかないね。疑似体験もいいところだよ。実際に体験したらぽろりと溢して偽りが剥がれる。警戒が足りなさすぎたんだね。


 前世でそんな自分に壁を作るようなものはなかった。偽る事もほぼなかった。ほとんどは相手が勝手に決めつけて勝手に去っていくから気にする余地もない。頭がいいわけじゃないし、私はただ歴史の繋がりを知るのが楽しかっただけ。




 友達じゃなくて親にバレるなんて、まったくもって大失敗である。




 私は諦めて話す事にした。お父様がまだ私を「クフィー」と呼んでくれるから。優しい言葉とともに強制しないから。甘い言葉に騙されてると思いながらも口は勝手に滑っていった。と、言っても。前世の記憶があるんだよ、てところまで。


 年齢も二十歳前半とか適当にぼかしてその異世界からの転生であること。その前世の記憶のおかげで色々と思考が回る。色はその前世で知っている。魔法文字は私の世界の文字でよく使われている。魔法はないけど幻想世界を描いた遊びや読み物がある。貴族の風習は前世で私の生まれた国にはなかったものだから分からなかった、と教えればちょっと驚いた顔で笑われた。笑い要素はどこにもないのに………


 自然と頬が膨らんで唇が尖ってく。おかげでさらにお父様が笑いだした。ひっどい。でも、気持ち悪いって言われないからいいや。本当は怖かった。突き放されるのが怖かった。笑い話でもないけど、私にまだ余裕を持たせてくれるから本当にありがたい。


「異世界か………古い歴史だと思ってたよ」


「古い歴史なんですか?」


「食堂のご飯は食べただろう?あれは古い歴史の書物から産み出された異世界人の料理らしいんだ」


「昔は異世界人なんていたんですね。あ、だからクッキーやミートスパゲッティがこの世界に?」


「いたらしい、としか答えられないがね。異世界はクフィーが言う世界から来た人なのかもしれないね。でも今は誰も研究はしていない。何となく形になっている絵と数字は分かるけど文が魔法文字と何かの形でなっているから読めなくてね。これ以上の発展は誰も求めなかったんだ。長期戦のおかげで時間と食材がかなり使われていたから国が傾きかけたと聞いている」


「何してるんですか………………無理だとは思いますけど、たぶん読めますよ」


「それはクフィーが王国司書録官僚にならなくては閲覧できない。読めたら大変な事になるだろうから止めておいた方がいいだろう」


 まだ、クフィーだ。


「………………怖いかい?」


「え?」


「ずっと握っているこの手。不安そうな顔。乱れてる魔力………私はね、クフィーを自分の娘だとしか思ってないよ。ちょっと変わった娘だと言われても、クロムフィーア・フォン・アーガストである事は間違いではないと本人が言うのなら、グレストフとクレラリアの娘で、兄にトフトグルと姉にリアディリアの血縁に持つクフィーなら、私の娘で間違いではないんだ」


「………………私は、前世の記憶を持っているんですよ?おかしいじゃないですか」


「クフィーである事には変わりないだろう?クフィーの話では記憶を引き継いでこの世界に産み落とされた一つの生命だ。私の娘であることは間違いない。それに、娘には難病の魔病を患わせてしまったし、色も見えず楽しさを減らしてしまって人生に障害を与えてしまっている。前世の事は知らないが、クフィーは一からこの世界に生まれた。何もしらないこの世界なら、君は一人だ。親を頼ってもいいんだよ」


 そうやってぎゅっとしてくれるから―――泣きたくなっちゃうんだよ。自然とお父様の首に腕を回してまた目頭が熱くなる。ちょっと泣かないように我慢しようとしたら鼻が痛い。なんでこのお父様は嬉しい言葉を言ってくれるのだろうか。


 どうしよう。そうやって悩んでいた私が馬鹿みたいだね。ぎゅっと抱き締めてくれるこの腕は、前世でなかなか味わえなかった温もりだからなおさら。嬉しくて涙が溢れてくる。


「ずっと、お父様と呼ばせてください」


「むしろお父様しか呼ばせないよ」


 本当、家族愛の激しくてちょっと家族の事になると騒がしくなるお父様はどこ行ったんだろう。ここぞとばかりに頼れるお父様になんかなってもらったら、頼りきっちゃうよ………今まさに頼るけど。


 グラムディア様の件はお父様も押したいそうだからそれを使って今回の私の殺人容疑を撤回してもらうそうだ。魔法剣もプラスしてグラムディア様の株を持ち上げ、陛下に見直してもらうとのこと。一筋縄でいかないことは分かっているので、もし駄目なら切り札を使うらしい。


 このグラムディア様さえ、なんとか王位に戻ってくれれば私が言っていたように成人式で婚約者はいらない。グラムディア様さえ戻れば王妃にもっとも近いセレリュナ様がいるため発表も必要ない。


 じゃあ、侯爵様のはどうするんだ、と聞いてみれば―――さっきも言われたように属性関わらず『結界』の中は発動中なら魔法師には分かる。加えて『結界』への衝撃で死んでしまったが、細かい内容は教本にしっかり記載済み。堪えられなければ当たり前に壊れるし、内側の攻撃だって私の魔力が高い事は魔法師の中ではすでに知れ渡っているので知らないわけがない。つまり、知っていて私を閉じ込めたのであれば魔力ですでに敗けは確定している。魔法を一つ知っているし、取り残された不安から私が暴走すれば終わりだ。


 ねぇお父様。それって………私の見解、いらなくない?つい口にしたお父様の動きが止まった。おーい?あんな仰々しく面倒な手はずをとったのに意味がなかったの?なんで?


「………………クフィーを試した」


「………………………………まあ、今までのを聞いていたら怪しいですからね」


「ついでにどうしてかアーグラム王子が絡んでいるからね。クフィーの気持ちも聞き出したかった」


「………お父様にしては回りくどいですね」


「あと、ウィルを引き入れたかったからね………彼は頭がよく回る」


 お父様がなんかあくどい。おかしい。こんなのお父様じゃないよ!?でもそのあと笑顔全快でよかったといってまた抱き締められた。婚約は早いと思っていたし、政略結婚はさせたくないから、と。


 お父様じゃなかったらこんな寛大な処置にならなかったよね。少なくとも私は利用される、怖がられるとかを気持ち悪がられるとか。そんなのしか考えてなかったし。


 因みに、私はそのままクフィーとして演じるわけでもなく、自分のしたいようにしていいとお言葉をもらった。なにこのお父様。優しすぎて鼻が痛いっ。でも賢すぎるのも大変だから気を付けてって言われた!ごめん私そこまで賢くない!


「あと………………一緒に怒られてくれるかい?」


「はい?」


 え、まさかお母様………?


「いや、クレラリアには言うつもりはないよ。これは本当にお父様とクフィーとの秘密。レーバレンスには適当に言っておく。ただそのレーバレンスに怒られるんだ」


「え、な、なんでですか?しかも怒られることが確定?!」


 えー、あー。てちょっとお父様、いきなり歯切れ悪くならないで!?しかも目線をさ迷わせるとかそれ、本当にまずいんじゃないの!?ねえちょっとお父様こっち見て!!理由を教えてよっ!?


「レーバレンスが私たちのために『結界』を張ってくれただろう?しかも最上位の」


「………わざわざ見せてくれたんですよね?それがなんでしょう?」


「不安にさせただろう?私のせいでもあるんだが、クフィーの魔力暴走は私たちより強いんだ。いくら私の結界もあるからといっても私は純粋に音漏れを防ぐために薄いものしか張ってない。賢いクフィーなら分かると思うんだ」


「………………………なんとなく、分かってきました。つまり、私の魔力暴走でレーバレンスの『結界』を刺激した、と言うことですか?はっ!お父様がなんだか苦しそうだったのって水の暴走だから窒息しかけたのですかっ!?」


「まあ、そうだね。他の属性を鎮めたからクフィーの【水】で魔力暴走はかなりきつい。そしてそれはレーバレンスより上の魔力で………その反動はどれほどか私には分からないが………倒れてないと、いいな」


 そ、そうですねお父様………ほら、空間がまだ薄れもしていないのでレーバレンス様は大丈夫………じゃないね、なんか空間歪んできた………


(お父様、なにか闇が薄れてません!?)


(気のせいじゃない。これはレーバレンスが意図的に魔法を解いたんだ!つまり………くるっ………)


(え。まだ心の準備が!お父様逃げませんか!?あ!結界無くなっちゃいましたよ!?)


(これは腹をくくるしかない!クフィー、覚悟を決めるんだ!!)


 なぜか小声で語っていた私たち。二人揃ってあたふたしていた光景は親子そろって同じ動きだった。と、あとにレーバレンスが眉も口も目の瞬きも顔の部品を何一つ動かさずに教えてくれた。どうやって喋ったんだろう………


 ガチャリと開く音ってあんなに響くんだっけ?むしろあんなに重々しく開けるもん?古いわけじゃないのにギィィイイと恐怖の館にでも備え付けてある音。勢いよく開けるんじゃないそれはさらに私たちの恐怖を煽る。


 開かれた扉は全開になる前に黒っぽいなにかがゆっくりと部屋に入ってきた。すべて真っ黒っぽいそれは顔の部分だけ白い。能面のそれは私にはレーバレンス様にしかみ見えず………なぜかなびく長い髪がホラー顔負けだ。落武者じゃない。生きてる。生き武者?もうよくわかんないっ!?


「おい………お前ら理解してんだろ?なにやってくれてんだ?あ?」


 キレて、いらっしゃいますね!あなた様の闇の影が魔王を思わせるほど黒々と演出してるのは目の錯覚でしょうか!?


 その後はただひたすら謝ったよ。マジで怖かったもん。顔を見ないようにお父様と直角90度に腰を折って謝った。死ぬほど謝った。人生であんなに謝った事は絶対ないくらい謝った!


 それでも怒りを治めてくださらないレーバレンス様には親子揃って魔力提供でなんとか怒りを鎮めて下さいました、よ………………今まではちょいちょい糸を手繰り寄せる程度で魔力を取ってたけど、おんどりゃあああああああああ!!!!!!!と言わんばかりにゴリゴリ削れるとは思わなかった………………お父様と共に白くなったよ………枯渇寸前で意識が危ないっ………


 おかげで丸々7日ほど寝込んだ。お父様はもちろん仕事でまだ顔が白いのに出勤である。それでも仕事していくお父様に私は尊敬だよっ。


 レーバレンス様を絶対に怒らせてはいけない事をよく理解した私。魔力暴走は起こさないと誓った………レーバレンス様本人にはしてないけど私は誓ったよ!レーバレンス様の近くで絶対にしないからっ!!これは守る宿命なのだよっ!!


 因みに魔力ゴリゴリ提供とレーバレンス様の機械無双(機械のように無双してた。慈悲はない状態)によって陛下ご所望の複合結界魔法具は2つとも完成。意識せず作ったらしいそれは過去最高の代物になったそうな。


 あまりの早さとレーバレンス様の怒り具合を見た陛下は無言の圧に耐えきれず半日は寝込んだそうです。レーバレンス様がやばい。(お父様談)


 ついでにレーバレンス様の長髪をまとめるための髪留めも作っていた。あれ、自分に結界が張れない代わりの防御結界の魔法具だったらしい………あれのおかげで死ななかったと、ようやく起きれるようになった時に聞かされて青くなったの………………言うまでもないよね。




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