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闇魔法

改訂いたしました。27.5.30

「………………………………今度は、殺人犯らしいな」


「そんな物騒な呼び方、止めてください。本当に殺してしまったかなんて私にはわかりません」


「自覚がない加害者はそうやって身の危険を避ける」


「レーバレンス様は本当に私がやったと?」


「どこにも荷担できない現状、何も言えない。ここまで問題が起こるんだ。一種の特技だな」


「どんな特技ですか。そんなもの要りません」


 お父様からレーバレンス様へ預けられて、すぐさま部屋の空気が重くて冷たいものになった。それから冷たくて刺々した刃を次々に投げつけてくる言葉。とても怖い。


 お父様は早急に上流貴族たちの取り次ぎのためユリユア様の元へ駆けていき、報告書の作成のためにウィル様は自室へ。ヴィグマンお爺ちゃんも公爵なので連絡を取れるところは取ってくるとみんな散り散りに走っていった。


 調査官のユークさんも職場に戻り、エモール先生はクリミアとベルルクを送っていく手筈。父親のサーフェン魔法師も娘が関わっているので謹慎するらしい。


 それで私はレーバレンス様のところ、と。家に帰れないのは何でだろうか。別にいいけど………まあ、私が外に出て波風が激しくなるのを防ぐためなんだろうけど………いいもん。箱入り娘を謳歌してやるっ。


「それで、どうしてこんな面倒事になったんだ?」


 呆れつつ、仕方がないような。でも疲れているのか表情筋を一つも動かさずに訪ねてくる。聞いてくださいよもー。と内心で愚痴りながら私は一つ残らず話た。


 クリミアが父親の事で相談を受けたこと。そのため食堂の個室を利用した事。そこへパディック侯爵令嬢が乱入してよく分からないことを口にしたと思えば闇魔法で閉じ込められたこと。クリミアが魔力暴走を起こして必死に止め助けを待っていた事も、途中から時間を気にしておかしいと思い魔法剣で脱出を試みた事を伝えた。


 その脱出劇のせいでパディック侯爵家のお抱え魔法師が、魔法剣を使ったほぼ同時刻に死亡し、犯人を洗ったら私。調べればその個室は数日前から闇魔法の結界実験するためにパディック侯爵が予約していて、知らず使った私たちは有罪。一人を死なせたのだから私は死刑判決になるだろうと言われた。


 すべてを話してレーバレンス様は私を見ているのかは分からないけど、ピクリとも動かずに見つめてきた。私はそれを見つめ返すよ!イケメン様は目の保養なので!!邪すぎる思考だけど、相手にわからなければいいんだよ。


「魔法剣、なにでやったんだ?」


 そこっ!?聞くのそこなの!?私の聞かれると思われるセリフとまったく違うんだけど!


「ベルルクが持っていた短剣です。食事に使うナイフのように細身で全体が白っぽく、鉄でできている物だそうです」


「技術の問題か………」


 そんなの私に言われてもね?私はなにも知らないのでなんとも。レーバレンス様も魔法剣の復旧に参加しているのかな?魔法具作りの魔術師なのに大変だね。


「それで、私は知りたいのですが。エモール先生に【闇】は特別だと言われました。どういう意味なんですか?」


「これに書いてある」


 ずい、と渡されたのはあの分厚すぎる教本。いったいどうやってどこから出してきたのかが謎。後ろも見ずに横から出されたら誰だって目を白黒させると思うんだ。調べろと言うのだから調べるけど。


 ついでだから魔力をくれって言われても、ねえ?せめてもう少し頼み方を………と思ったところで気づく。私、7歳。ちょっとおませになるぐらいのお年頃ではなかろうか。唇を尖らせて受け取っておこう。不承不承くらいなら幼女でいけるよね?


 それでこの本をなんで持ているんだろうか、なんて疑問、忘れてたけどさ。簡単に持てた事にビックリ!前まで重くて持ち上がらなかったのに!?何でだろうとその教本を凝視したのは言うまでもない。これ私のなんだって。私には見分けがまったく出来そうにないよ。


 えーと、【闇】は特別です。【闇】とは始まりで、終わりである。【闇】が産み出すものは、他属性より共鳴が強く扱いが難しい。はい飛ばして飛ばしてー『結界』は、と―――


 初級は威力が弱いかもしれないが、中級魔法で自身の身体強化が出来ぬ変わりに『結界』は【光】と同等に強い物が作られる。特に【闇】は空間との扱いがやり易く『結界』に長けているので、守護としては【光】に劣らないだろう。ただし【光】と違い【闇】は己を護れないので注意すること。そして【闇】は外の攻撃には強いが、中の護りは非常に弱いため、『結界』を張る相手にはじゅうぶん注意をするように。


 空間とは【闇】の最上級魔法でもあり空間は他属性の習得より遥かに難しい。包むのではなく、闇と闇を繋いで別空間を作り出すので、一番魔力を使う属性だろう。弱点としては中からの攻撃だが、術者より魔力が高くなければ意味はない。ただし『結界』の入り口を攻撃されると弱者でも【闇】の『結界』は壊れるので、それを見分けられる【光】の術者には使わないように。反動が返ってくるので取り返しのつかない事になるだろう。【闇】の『空間結界』と『結界』の見分け方は闇の“ 濃さ ”である。より濃く、先が見えない闇を『空間』。ただの暗闇を『結界』とする。最後に『空間魔法』のさらに上にあたる究極魔法『孤立空間魔法』は術者の命と引き換えになるほど魔力を使うので、これだけは絶対にやるな。間違いなく、死にます。


 ―――これ以上を読んでいたら魔力が疎かになりそう。てか究極魔法って………間違いなく起こることをなんで書いているんだろう、この教本。取説かなんか?あながち間違ってない気はするけど………禁忌にしちゃえばいいんじゃない?てか、誰かやったんでしょ?


「レーバレンス様、人の姿がはっきり見えて回りが見えないと言うことは『空間結界』なのですか?」


「………………………………今話しかけるな」


 いや、魔法具作りに集中しないでよ。私が魔力を受け渡す間にあの双子ちゃん王子のために魔法具作っているけどさ。そっちに集中されたら私、これをずっと読むはめになるんだけど………


 しかし、残念な事にレーバレンス様はすっっっごい集中力で魔法文字を描いている。私にはキラキラしすぎてよく見えないんだけどさ。目を魔力操作で調整したら文字ぐらいは見えなくならないかな?暇だからやってみよう。


 手のひらに集めている魔力量を変えずに………少しずつ目に魔力を行き渡らせる。魔塊があるらしいから、それに流して………………これかな?なんか弾かれる物を感じる。眼球だったりして。わからん!


 そう言えば初めて目に魔力を注いでるかも。今まではちょっと怖いから止めておこうと思っていたけど………やり始めってけっこう単純な理由になるよね。心で苦笑いしながらそんな事を思う。


 それでもまだ何かをやってしまうんではないかと恐れる私はやっぱり臆病。一人だとなんにも出来ないから片目だけに魔力を集める。失明は片方だけでも辛い。両目って繋がってたっけ。歴史じゃなくて生物専攻すればよかった………


 ちょっとずつちょっとずつ、目に魔力を持っていってそんな事を思う。なんだか一人で放ってかれた感じがして寂しいね。明日に死ぬのかな?とか。パディック公侯爵を黙らせないと生きられないな、とか。なんだか締まらない。まあ、不安で魔力暴走を起こしたくないのでここでやめるけど………なんか別々の作業をやるのは苦手だからこれ以上は無理かな。


「お前、なにしてんだ?」


「………危ない。魔力が乱れるところでした」


「ハルディアス、こいつの話し相手になってやれ。作業が終わるまで私に話しかけるな」


「………………」


「………………」


 いや、そんな真剣な人がいるのに話しかけるのも悪くない?騒ぐつもりはないけど隣でペチャクチャと喋っていたら私は苛立つんだけど?まあ集中力はあるので轟音じゃなければ問題はないけどさ。


 扉に睨むような不機嫌丸出しの少年を見て私はどうしようか悩む。ズボンにまで手を突っ込んでまるで不良だ。ズボンが下がっていない事からそこまでグレていない事がわかる。話し相手が出来て喜ばしい事なんだけど………あ、そうか。なんでハルディアスがここにいるんだろ?てか後ろにお父様を発見。騒いで来ないなんて珍しい。


「ハルディアスは【闇】だからね!レーバレンスが面倒みた方がいいと私は思ったからここなんだ!」


「………………要は押し付けだろ」


「そんな事言ってもなー。【闇】の中でならレーバレンスが一番特化してるし。お前ら相性いいだろう?」


「………………とりあえず話しかけるな。文字が乱れる」


「別にそんな事言って………本当はクフィーの魔力が羨ましいんだろ!?私のクフィーだからな!!」


「………………ハルディアス。そいつを追い出せ」


「無理だろ」


 レーバレンス様が眉間にしわを寄せてお父様に嫌気をさしている。


 ハルディアスが速攻で返した。


 お父様が文句を言っている。


 私は………………魔力を安定させる事に集中しよう。お父様とレーバレンス様の応酬でなんだか魔力がほんの少しだけ乱れちゃったよ。なんだかレーバレンス様に睨まれたような気がしてならない。イケメンが怒ったら怖いよ!


 しかし………………レーバレンス様の属性って【闇】なんだ!なんか重要な事を聞いた気がする!ついでにたぶんハルディアスも【闇】なんだね!みんなそうなら言ってくれればよかったのに!!


 なんで今まで疑問に思わなかったのかが不思議。そうだよ。レーバレンス様の属性は気になるよ!今分かったけど!そっかー。確かに【闇】と【光】の人が作った結界魔法具って強そうだよね。だから魔術師になったのかな?今度にでも聞いてみよう。


「―――お前のせいで集中が乱れた。ハルディアス、午後から魔素の勉強だ。飯でも行ってこい」


「………戻ってくる気はない」


「お前の居場所ならすぐわかる。来ないならこちらから迎えに行ってやろう」


「―――ちっ」


 あれはわざとかな?みんなに聞こえるように舌打ちして出ていっちゃった。反抗期かね。このぐらいの年齢ならそうかも。怒りつつも扉を蹴って開けないあたり、そこまで不良じゃないかも?


 出ていったハルディアスを見つめてちょっと気になったり。私の不良くんのイメージは髪染め口ピーてかピアスいっぱい。服がやたら長いかダボダボしているか。いつも鉄パイプみたいな武器を持ってて喧嘩が早い。手は殴るためのものでたいていは足でなんとかする人?まあ、想像だけどこんな感じ。なんか発想が古いのは否めない。


 そんな中でレーバレンス様はハルディアスの扱いを心得ているのか、素っ気ないような気がしたけど無理矢理ではない。強制はあるけど無理な話ではない言葉に優しさが………………て、実際はどうなるか知らないんだけどさ。


 言葉通り今日の複合魔法具の作成は終了。まだまだ出来上がりまで程遠いが、一応は順調らしい。今は中途半端でちまちま書いているんだって。この前は駄目だって言ってなかった?て顔に出てたんだろうね。「お前の魔力を使えば問題ない」との事。まあ、いいけど。お昼なら私も食べに行きたいな。


「クフィー、色々問い合わせた結果でグラムディア様が動いてくれたよ。お茶会は今から開くとユリユア様が了承してくれた。さすがクフィーだよ。クフィーの名前を出したら一発………あの人がここまで溺愛するなんて、お父様泣きそうだ」


「ユリユア様ってそんなに凄いのですか?」


「すごすぎて私は近づけないね。………………それで、話なんだけどこれから色々さ、会議を立てなきゃならなくなるから今しか時間がないんだ。クフィーの話は今できるのかい?」


「大丈夫ですよ。でも………」


 レーバレンス様は、席を外してくれるのかな?そんな意味を込めてレーバレンス様を見てみる。それだけで理解してくれたのか、無言で立ち上がり、出て行こうとする。けど、ピタリと扉の前で立ち止まった。何だろう?


「試しとくか?」


「なに事も体験は必要だからね」


「3の鐘までだ」


 そう告げた後、レーバレンス様は出ていく。何がなんだかさっぱりわからない。しかし、変化は訪れる。レーバレンス様が出ていった後。私が不思議がっていたらこの部屋が一面に黒くなった。驚いて立ち上がればお父様が笑いながら制してくれる。


 歪みながら色を黒くする部屋。あの時と同じ。お父様と私の姿は見えるのに回りが真っ黒でわからない。でも、少し違う事がわかった。ただ暗くなっただけで、立ち上がって一歩も動いてない私の側には何かがある。きっと椅子。目の前はテーブルだと思う。


「ごめんごめん。これはレーバレンスの闇魔法だか落ち着きなさい。危害はない。ちゃんと出られるから」


「………お父様、悪ふざけがすぎます。驚いたではありませんか」


「念には念をいれたかったからね。―――集え」


 ぽそり。集えと言えばうっすらとお父様の回りがキラキラしてくる。あ、魔素だ、と思えば今度はキン―――と小さいけど響く高い音が鳴った。なんとなく全体がキラキラしてる事から結界だね。闇と水の二重結界………頑丈そう。


「防音もかねてと外部からの干渉を防御。これが多重結界。闇の結界―――それも上位の『空間結界』で私たちは別空間にいる。孤立ではないよ?さらに私の『結界』で音を遮断。これで誰も聞けない」


「ずいぶん、厳重ですね」


「クフィーがなんだかとても大切な話をしそうだったからね………私も少し、クフィーと大切なお話をしたい。これがちょうどいい」


 ………………なんだろう。お父様がおどけて見せているけど―――なんだか罠にはまったウサギのように捕まった気がする。周囲を囲まれているから、かな?なんだか逃げ出せない雰囲気が、ここにある。


「さて、クフィーのお話しを聞こうか」




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