一から考えて
改訂いたしました。27.5.30
「クフィー!」
強い言葉で私の名を呼んだお父様のおかげで意識が戻ってくる。揺らいだ魔力はなんとか落ち着きを取り戻して平常になった。
お父様が突如と叫んだ事により静まり返った部屋はやけに冷たく感じてしまう。辺りを振り向けば私たち3人の顔を合わせないように背を向けて座っていたのに、クリミアなんか震えてベルルクにしがみついている。ベルルクなんて、驚愕に私とお父様を見ていた。
この部屋にいるのは私と、お父様、クリミア、ベルルク、ヴィグマンお爺ちゃん、ウィル様、エモール先生。それと見たことのない男性が一人、私たちが背中を合わせている3人を大人が囲みながら、みなが驚いたような顔で私を見ている。
「取り乱しました………すみません」
私が殺した、の?―――なんて、口にできなかった。死は私を取り乱す言葉に違いない。
「私も声を荒げてすまない。クフィーの魔力暴走だと思った」
「いや、驚いたが咄嗟に抑えられただけでもよかろう。もしここで魔力暴走が起きれば【水】は………いや、気にするでない。話を進めるんじゃ」
「では………ウィル、まとめたものを報告してくれ」
「わかりました。まず、三人の証言により、クリミア若魔法師の父親のことで相談するため従者であるベルルクを従えてクロムフィーア若魔法師と昼食を朝に誘われました。午前の授業は三人とも真面目に受けていて、なにも言うことはありません。昼食時にはクリミア若魔法師たちの方から出向き、離れの食堂へクリミア若魔法師、ベルルク若魔法師、クロムフィーア若魔法師、ジジルニア若魔法師、エリエリーチェ若魔法師の五人で移動。他愛ない話で目的の場所につきましたら、ここでジジルニア若魔法師とエリエリーチェ若魔法師とは別れ、4番の個室で昼食をとる事になった。この時には誰にもすれ違いませんでした。間違いありませんね?」
言われて私は頷く。2人も頷いたのか、ウィル様の話は続く。
「昼食は定食をいただいており、配膳はすべてベルルク若魔法師が。2人になった時はクロムフィーア若魔法師が率先して話しかけ、クリミア若魔法師は言葉も出ずに下を向いていたそうです。途中、クロムフィーア若魔法師が従者に徹していたベルルク若魔法師にも一緒に食事を誘い、当初の目的である『父の対応に負けないようにはどうすればいいか』を話し合いをしました。ここでなぜクロムフィーア若魔法師が選ばれたか理由を聞いたところ、両者の接点が違うことがわかりお互いに問い返し。そこへ突然、なんの脈絡もなしに第三者の乱入。アテンネ・マーチ・パディック侯爵令嬢―――アテンネ若魔法師がクロムフィーア若魔法師を糾弾。『邪魔』と言い捨てられて闇の空間へ閉じ込められた―――あってますね?」
私はもう一度頷く。正面に座っているのはエモール先生。彼の後退していると思われるM字を見つめてさらにウィル様の耳に傾けた。
「閉じ込められた3人は戸惑い、クリミア若魔法師が魔力暴走。それを2人で留まらせ、その後は落ち着いて話し合いの結果、打開策を考えながら雑談を交え救援を待った」
言われていないが私は頷く。なんかこれ裁判みたいだなー、なんて。迂闊に言ってしまいそうで今ちょっとむずむずしてる。なんだかこのギスギスしている感じが嫌だ。早くお父様が言っていた魔法師が死んでしまった話を聞きたい。
脱出と同時に、と言うことは確信はないけどあの魔法は魔法師と繋がっていた事になる。そうなると私が殺してしまったと言っても過言ではない。この世界はどうなのか知らないけど、上流貴族は権力でものを言わせるとしか私は思っていない。不可抗力であっても、その相手が侯爵お抱えとなると揉み消される可能性が高く、私だけ裁かれる節がでてくる、ね。
侯爵がどこまで偉いのかがわからない。ただ、パディック侯爵家は現状維持主義者でもあるが当主の息子は革命派と言う、新しい事に強い興味を持つ人らしい。現当主のおかげでその息子の影は薄いが、代替わりすればその頭角は見せる。
今はどうなっているのかさっぱり理解できないけど、あの噂を元にやっているのならばそんな事も言っていられない。侯爵がなにを狙っているのかもさっぱり。王子の姫を狙っているのなら、噂で出てきた候補の娘は邪魔。いくら一進魔法師の娘でも、地位は伯爵。また貴族間で面倒になっているな、と言う事がじゅうぶんに分かる。
「救援を待つ間、打開策も考えていたが息詰まってほとんど歓談だった事。それからしばらくしていつまでも変わらない状況に怪訝に思ったクロムフィーア若魔法師が魔法具の話を持ち出し、相談。時間が経っているにも関わらず、助けが来ない事から救援の見込みを捨て、自分達で脱出する手段を選んだ。それが魔法剣。剣は従者であるベルルクがもしものために持っていた短剣を。魔法剣を作ったのがクロムフィーア若魔法師。己の異常を持って一点だけ光る魔力をその魔法剣により斬って脱出。それと同時刻に魔法場で本を読んでいた一人の魔法師の死亡確認。この事を3人が知ったのは今、です」
「間違っていないな?」
3度目の頷き。やばい。なんだか怖くなってきた。お父様の声が、すごく低く感じる。
「自分達で脱出したのは大変、喜ばしいことだ。魔法師として将来を楽しみにしている。しかし―――その魔法師のおかげで君たちは容疑者だ」
「えっ………?」
「被害者ではなく!?」
「クリミア若魔法師、ベルルク若魔法師。動いちゃいけない。今の君たちは疑われる存在なんだ」
私もお父様に危うく振り向きそうになった。危ない。でもどうして被害者ではなく容疑者?ああ、魔法師が死んじゃったんだよね。私たちと関係があるってこと。同時刻ってどうやって分かるんだろう?
「さっきも言ったように、とある侯爵家のお抱え魔法師だった。その魔法師の身分もまた侯爵で、その家の縁者でもある。まだ若い従兄弟殿だそうだ」
その従兄弟が、とある侯爵家の娘をもらう予定だったとか。それならふーんで。終わるけど、終わらないからここに集まっている。
「とある侯爵家と言うが、それがパディック侯爵家だ。あちらの言い分では、魔法師の結界魔法が無理矢理に壊されたために死んだ。との事。根回しもいいことに君たちが使った場所は数日前から侯爵家が結界魔法を使うためにあの日は取り押さえていた場所で、魔法師が結界を繋げたままどれくらい保てるか、離れられるかを実証研究をやっていたにすぎない。勝手に中に入って結界を破られたあげく、繋がっていた魔法師が死んでしまったのだからそちらが悪い、と一点張りだ」
「………告発者は、どなたですか?」
「それを聞いてどうする?今決めることは君たち3人の処分だ」
む。エモール先生が降臨してきた。
「私から言わせてもらうなら嵌められました。それに、昼食中にアテンネ様は割り込んでいます。本来ならここで勝手に入った私たちは罰せられると思うのです。お優しい方ならここで注意の一つをするのは当たり前だと思われます」
「お優しい、か。告発はそのアテンネ様からだ。彼女は侍女と共に寮で過ごしていたと言う」
「その侍女以外の目撃証言はありますか?」
「ない」
「その侍女も口裏を合わせることは可能です。証言にはならないかと」
「侯爵、と言う身分はできるんだよ、クフィー」
っ………………と、やばい。振り向くところだった。お父様に止められるとは思わなかったから、つい勢いにまかせて言ってしまうところだったよ。
そもそもなんで魔法場じゃなくて離れの食堂でそんなのやっているんだよっ!!と言うのが私の心で渦巻いているんだけどっ。不味いね。これをなんとかしないと私の素敵異世界ライフが終わってしまう。
「つまり、私たちが何を言っても容疑者だと認めなくては話が進まないのですね。一方通行ですが」
「………そう、なるね」
「もしその話が進むとしたら私は魔法剣を使ったので逃げられないとして、ベルルクとクリミアはどうなるのでしょう?端から見れば彼女たちは巻き込まれた形にできますよね?」
「クロムフィーアちゃん!?」
「なにをっ!?」
「だから、向いちゃ駄目なんだって」
お父様の声が後ろから聞こえるね。私はエモール先生と視線もそらさずに対面しているので変な居心地です。ガタガタ聞こえるのは椅子に押さえ込んでいる音かな?どうなんだろう。
ちょっと落ち着いたところで私は逃げ道を探す。原因はアテンネ。これは決まっている。最後に邪魔って言われたんだから、私を消したいんだろうね。パディック侯爵家までも使って。さて、それは15の娘に動かせるものなのかな。
「お父様、別の事で聞きたいのですが、いいですか?」
「いいよ。その前に言うけど、クフィーがこのまま容疑者として認められ報告すれば死刑処罰になる。もちろん、そんな事はさせない。だから君たちは何か気づいた事をすべてを話してほしい」
「死にたくないので足掻きます。ヴィグマン様にお聞きするんですけど、以前に見せていただいた侯爵家の資料にパディック侯爵家が含まれていました。それには現象維持し続ける現当主の事がかかれており、ご子息の事も少しだけ綴ってありました。パディック侯爵家の現当主は変わったのでしょうか?」
「変わっておる。ついでに革命派に早変わりじゃ」
「その革命には王族も含まれるんでしょうか?」
「………………そうじゃな」
「私、アテンネ様が乱入してきた事は言いましたけど、どの用な用件で入って来られたか言ってません。そこで少し不可解な疑問が浮かび上がりました」
ん?なんだかよくわからないけど知らない男性が回り込んできた。手のひらに収まる水晶を握りこんでそれをじっと見つめている。なんだろう?
白よりの薄いグレーと濃いめの黒より。レモンシフォンと琥珀?かな。真剣な顔立ちは決して水晶から目を離さない。記録―――してるわけじゃないよね?本当になんだろう。
「アテンネ様が入ってきた時、私に言われた言葉なんですが話をまとめると、私がアーグラム王子をたぶらかして縁談まで持ち込むが親の言い分なしで勝手に私が断って何様なのか、と言う話なんです。これはその場にいたクリミアとベルルクからも聞けると思います」
「聞いているのう」
「そうですか。―――そこでですが、私はアーグラム王子と縁談を結んだ覚えはないのです」
「嘘」
え?なに。そこの人。そこの水晶を睨んでる人。『嘘』って、なに?まあ、確かに嘘だけど今そこで何を言ってくれちゃってんの?掻き回さないでよ。
顔には出てなかったと思うんだけどやっぱり見ちゃうよね。エモール先生の後ろにいるし。だから視線を彼に向ければ水晶を見せられた。なんだか中心がグレーに変わっていると思われる。たぶん。元々がどうなのか知らないし。
それを見ていればエモール先生が「嘘は申すな」と少しつり目で言ってくる。私が黙ったままでいればさらにエモール先生が挑発するようにどうしたか聞かれる。私ではそんな、すぐに状況がついていけないよ。
………………つまり、あの水晶は嘘発見機かなにかかな?わざわざ水晶を見せるぐらいなんだからそうなのかもしれない。これが証拠だ!みたいな。
うーん………言っていいのかね?これ、隠すんでしょ?私のためではなかったかねお父様ー。
「ユーク。事情は私とヴィグマン様が知っている。深く聞くな」
「いいえ。それは出来ない。そうなれば調査官の意味がない」
「………………どうしても、か?」
「どうしてもだな」
「面倒事だぞ」
「すでに面倒事だ」
「せめてこの2人には伏せたい」
「では、別室に移動させよう。エモール五進魔法師がつくのがよかろうか?」
「気になるがいいだろう。クリミア若魔法師、ベルルク若魔法師。移動だ―――私の部屋にいる」
「助かる」
ぞろぞろと出てっちゃった………………前を向いてこの、調査官のユークと言う人から目を離さずにいたら音しかわからない。パタンと閉まる音が聞こえれば私は取り残されたように真ん中に一人。回りに大人4人。なんか悪いことをしてしまった感じにしか思えない配置に涙が出そうです。
「それで?何を伏せているんです」
「あまり言いたくないんだけどな。黙っててくれよ?私の名前を使うほど機密なんだ」
「うわ。私は巻き込まれるならエモール五進魔法師殿のところに言ってもいいですか?」
「ウィルか………お前を巻き込んでおくと後々楽できそうなんだよな」
「なんですかその理由!まさか私に始末書を押し付けるとか言いませんよね!?」
「………………集え」
「グレストフ一進魔法師!!」
「よし、結界完了」
「ちょっと!私は聞きたくありませんよ!」
「お前も巻き込まれておいた方が楽じゃぞ。こやつの動きが掴みやすくなる」
「私はグレストフ一進魔法師殿のお目付け役ではありませんので!」
「………………そうじゃったのか」
「そうですよ!!それはレーバレンス魔術師殿の管轄ですから!」
どうしよう。ウィル様がめっちゃくちゃ不憫にしか聞こえなくなっちゃった。あれ、私ってばこの中で言うの?後ろでなんだか面白そうな展開を広げているのにこの後で私、言うの?
………………………………よし、今回で絶対に王族との縁をぶったぎってやる。後でお父様に色々と聞いてみようっ。




