表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/242

焦っても仕方がない

改訂いたしました。27.5.24

 声は、まだ高かったと思う。疑っていたけど、まだ信じていたい、みたいな。まあ、結局は驚かせてしまったようで、ベルルクから睨まれた。―――主想いのいい従者だね。


 でもね、怯えて答えられないからって、従者であるベルルクが全部を喋るのはどうかと思うの。私はクリミアに聞いているんだよ?邪魔、しないで?


「私、ある事ない事を言われて腹がたっています。ベルルクに聞いているのではなくて、クリミア若魔法師が答えてくれません?」


「ですから!お嬢様は今恐怖でっ―――!?」


 言葉が切れた。なんで?と思ってたらクリミアの回りが少しずつキラキラしてきた。まるで………クリミアから出てくるキラキラ。そしてほんの少しだけ息が詰まる感覚?でも何もない、空間。まさ、か?


「ベルルク。クリミアの属性はなに!?」


「それを答えてなんの意味がある!こちらはお嬢様が不安定で今それどころではない!!」


「いいから答えて!このままだとクリミアの魔力暴走で死にます!!」


「っ!?―――【水】です!」


 私と同じ属性。まずいっ。どんどん魔力が放出していってる!


 確か水は不安定になったら魔力暴走。あの記述がお蔵入りしているのが本当に悔やまれるっ。【水】の魔力暴走は窒息死させたんだっけ?今こんなところでやられたら密室殺人じゃんっ。この空間が見つけられるものじゃなかったら誰にも見つけられずに死ぬ事になる。


 死ぬわけにはいかないっ。ベルルクにはクリミアの心を安定させるために呼び掛けてもらった。不安にさせないで、と強く言う。ベルルクの声は聞こえるらしく、なんだか上の空で口が動いた。よほど不安?何に対して?裏切られたから?今はそんな事よりクリミアを平常に戻す方が優先だよっ。


 咄嗟に私もクリミアの手を握った。子どもの体温は暖かい。温もりは安心も与える。手を握ったことでクリミアの魔力がどうなっているのかもわかった。体内の中心。胃の辺りから全体に広がるように滲み出てる。駄目!戻って戻って!!


「クリミア、落ち着いて!ベルルクの声を聞いて!」


「お嬢様!お嬢様!!気をしっかりもって下さい!」


 もっと気の効いた言葉はないの!?必死もわかるけどそれだけじゃ駄目に決まってるっ。幸いにもクリミアはそんなに魔力が高い若魔法師ではないらしい。魔力の放出で【水】が干渉してなにかが起こっている事は微々たるもので留まっている。


 けど、このままじゃクリミアが魔力の枯渇により死の瀬戸際に追いやられると思う。まだ暴走してすぐだから私の感覚で半分以上はあるはず。でもこのまま出し続けるのはよくないっ。なにか、理由を探らなきゃクリミアが死んで最悪なエンドしか思い浮かばないよっ。


「どうしてここまでクリミアは怯えているの!?さっきの人とは知り合い!?」


「あの人は私たちに貴方の婚約の話を聞かせてくれた人です!その時にクリミアお嬢様の話もして貴方なら分かってくれると話を持ちかけたのもあの人です!クリミアお嬢様はそれを信じていました」


「信じるって意味が分からないっ。父親の行動に共感は持てそうですけど同じである事になにを期待したのですかっ。それだけあの人の言葉に信頼があるのですかっ?」


「あの人は侯爵様ご令嬢なのですよ!子爵のクリミア様ではお話しする事も叶わないのに気にかけて下さったお方です!疑う理由がない」


 ばっかじゃないの!?どうやって縁が出来たのかは知らないけど気にかけているからって私の婚約話を聞かせたり私のお父様がクリミアのお父様と同じで悩んでいるなら聞いてみなさいって感じでしょう!?めっちゃくちゃ誘導されてんじゃん!!


 もう怒鳴りそうになる言葉を思いっきり飲み込んでクリミアをどうするか悩むっ。この子はまだ現実を受け止められていない。だって、どうして、って私が聞きたいよ!


 やばい、魔力が1/3まで下がっちゃってるっ。早いよっ。これって私の魔力譲歩するとか出来ないの?無理矢理に押し込めばいい?どうしよう、どうしようっ!せめて何か気をまぎらわせる物っ―――


「クリミア、この花は何て言うの!!お母様なんて言ってた!?」


「ちょ、なにしてんだ!」


「この花の名前、私に教えて!この花の思い出を聞かせて!」


 確かこれ家族との思い出の花だよね!?話題変換で正気に戻ってぇぇえええ!!


 無謀だって分かってるよ!でももう何にも思い付かないんだもん!!お父様ってどうやって私の魔力暴走をとめてたんだ!!くっそう!


 髪に付いていた生花を目の前に。クリミアに握らせて私は必死に叫んだ。これでなんとかなるとは思ってはいない。何もない空間で何ができるかって限られているんだよっ。だからもう話題変換しかない!耳が駄目なら眼だよ!!


 クリミアの事は内気で口下手な少女としか分からないんだからもう色々しょうがないと思う。ベルルクなんか怪我人を労る言葉しか言わないんだからしょうがない。「しっかり!」「気を確かに持って!」てさっ!確かにそうだけどなんか違う!!


 しかし、ここで奇跡が起きました!よかった………目の前で死なれるなんて私がどうかしちゃう!


 虚ろだった眼がだんだんとベラーナに意識を見せてくれる。魔力の放出のせいか、心なしかゆらゆら揺れて目の前で主張するベラーナの花はクリミアの虚無に入って存在を見せつけたらしい。


 私が握っていた手が少しだけ握り返されたと思う。これは意識が戻ってきたんだと確信して私は再び問いかける。今度は優しく、微笑んで。怯えさせないように、問いかけるのだ。


「このお花、名前はなんと言うのですか?教えてください」


 魔力が安定してきている………………ごっそり減っているようだけど、放出はだんだんと収まったみたいだね。私の問いかけに驚いていたけど、潤んだ瞳から頬にかけて笑みを出して答えてくれた。


「この花は、ベラーナって言いいます。夏に咲く花で、家族との大事な思い出が、いっぱいつまった私の―――特別な花です」


「素敵な花ですね。素敵な花の思い出、聞かせてくれますか?」


「ぜひ………聞いてください」



























 ………………はい。なんとかクリミアが正常になりました。私はもう疲れました。眠たいです。もちろん笑顔は張り付けたまま聞きましたとも。思い出を。


 おかげでだいぶ落ち着いてくれたみたいで、恥ずかしそうに私に謝ってくださいましたよ。はい。私は気にしません。気にしないから情報を下さい。


 あれからクリミアの話が終わるまでゆっくりと時間を過ごした。どれくらい経ったかはちょっと気にする余裕はなかったのでなんとも言えないけど………ゆっくりしている時間って、なんか早く終わってけっこう経っている、て言うのが多いから数時間は話してたんじゃない?クリミアの口調も一つ一つが大事だったみたいで噛み締めるように語ってくれた。


 家族の思い出がすごくつまった話だったよ。親がこれで告白してフラれたけどめげずに贈り続けて結ばれたとか。てとも暖かい時間でした。それはもう、親からの想いでと7年間の思い出がぎっちぎちに。


 私は魔力の枯渇で死んでしまうかも!?と焦っていたのでなんだか拍子抜けだったりする。だって、終わってみたら思い出話でこんな時間。分からないけど。まあだいぶ落ち着いたみたいだから現実をそろそろ語り合おう。まだ脱出、出来ていないんで。


「それで、ですね。これは多分なんですけど………【闇】の魔法だと私は思うんです」


「そういえば闇魔法は空間魔法ともいいますよね」


「そう、なんですか?私はまだ勉強を始めたばかりで分かりません」


 クリミアの口調も区切りがなくなったんだけど………最初のはやっぱり緊張だったのかな?


「私は少しかじった程度ですよ」


「私はお父様の書斎にある本を少しだけ読ませてもらっていた程度ですね。【闇】は深ければ深いほど異空間を繋げられるみたいです」


「そうなんですか?だとしたらここは異空間でしょうか?」


「クロムフィーア嬢はどこまでご存じですか?」


「ごめんなさい。私の属性は【水】なので他属性はそれほどまだ勉強していません」


「謝る事ではないです!私なんて知らないのですから………」


 おーい。頼むからまた落ち込んで暴走しないでね?ベルルクの手をぎゅっと握りだしたから大丈夫だとは思うんだけどさ………あれ、私ってば見せつけられている?いやいや、2人はそんな関係じゃないよ。やましい気持ちで見てはいけない。


 ええと!切り替えてですね―――結果から言って出方がまったく分からないです。【闇】の魔法が分かったからどうしたと言う。【水】がなにを出来るんだ。因みにベルルクは【土】。うん。なにすればいいんだろう。


 とりあえず出来ない云々よりこの状況で何ができるかを大雑把にまとめてみる。3人で考えればこんなもんだよね。


 1、自力で脱出。

 2、誰か助けてくれるのを待つ。

 3、なんとかして外へ助けを求める。

 4、諦める。

 5、一か八かで魔法を使ってみる。

 6、壁はないみたいなので何かヒントになるものを探しにいく。


 これぐらいしか出てこない。それをさらにそれぞれの意見を重ねていくと、4は即決却下。諦めるんだったらとっくにしてる。6は私が光ってる扉?(魔力が見える事を教えた)を目印に行けるところまで行ってみようと考えたが、無闇に歩くのもどうかと言う意見が出たので却下。5も一か八かで死にたくないので却下。まあ、後半はただ案をいっただけなのでほぼ意味はなかったんだよね。


 残る1、2、3で、なんとか外へ助けを求める3はそもそのなんとかってどうするの?とクリミアに言われてしまったので保留。保留ね。


 それであと2つを考えたんだけど“ 助けを待つ ”って、なんだか不穏な響きにしか聞こえないのは私だけ?いやほら、お父様の家族愛はハンパないから………魔法師全員を使って捜索してそう。見つけるまで不眠不休で探させられて犯人特定までやらされてしまうんだと思うんだ。


 その事を話したらベルルクが一番納得してくれた。理解者がいてなによりです。じゃあ、1の自力で脱出になるのか………それしかないけど。私たちが出来る事って少ない。せいぜい闇魔法だね、ぐらいしかわからないのでなんとも。


 となると2が一番の高確率で脱出ができるんだよね………時間がかかるけど。満場一致で頷いてくれるし。だよね。私のお父様なんか家に帰っていない娘をなんと思うか………その前にお兄様と一緒に帰る約束をしているからそこから広まって―――考えるだけで色々と想像がついてしまう恐ろしさ。ベルルクが私と目を合わせてくれません。君、何を知っているのだね。


 でも、この空間にいて私たちは大丈夫なのか、て事なんだけど………まあ、けっこう長い時間いて空気が減っているわけでもないみたいだし。そう言えば両目がおかしかったんだけどなんだったんだろう?


「とりあえず………お話でもしてましょうか?」


「なにか違う気がするんですけど………」


「でも何も出来ませんし。何も思い付きませんし。無闇に動いて出られなくなるのも嫌です」


「私も魔力が少なくなったからそんなに動けません。もう少し待ってみてまた考えましょう、ベルルク」


「分かりました」


「あ、私が色々と質問してもいいですか?まだあの人の事も気になりますし………」


「そうですね。なんだか私だけ取り乱してすみません」


 いいのいいの。なんだかクリミアは悪い子には見えないし。気になっていること、まだあるから。情報はあっても困らないからね。とくに―――あの縦ドリルロールの名前、教えてもらえないかな?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ