会話進行、不可
改訂いたしました。27.5.24
まあ、料理もきたわけで………………私たちはお昼を始めるのです。こんなゆっくりで午後は間に合うのか?と思うのですが、なんかベルルクが
「お嬢様、時間はたっぷりあります。次の鐘までにお話ししましょう」
とかなんとか。ああ、そう言えばエリーも、そんな事を言っていたから余裕だよね、て。あとになってこの会談は長そうだなー、とちょっとだけ後悔しています。だって………
クリミアが手を付けずに顔を下に向けたまんまなんだもん。話どころじゃないよ。なんだか私だけ待ちきれずにご飯を食べているのがおかしいじゃないかっ。なんでベルルクのご飯がないの!?従者だから後で食べます的なやつ?止めて。一人で食べているみたいで辛い。
隣でせっせとしていないでよ。いいからクリミアをなんとか復活させて!でも思いが通じないと言うなんと悲しきかな。私の食器だけがカチャカチャとなる音が罪悪感を脹らませる。お願い。一緒に食べよう。
「クリミア。食べませんと冷めますよ?」
「はっ………………あの、あの、は、はいっ」
ああ。復活は、してくれたよ。掴みそこねてフォークを落としちゃったけど。てかこの異世界なんなの?フォークとナイフは普通にカタカナの言葉が普及してるくせに食文化は、まあ、いいとしてベッドは寝台。ソファーは長椅子で妙なところで言語が普及していない。でもパーティーとかドレスの言葉がある。中世ヨーロッパ風と思いきや異世界の文化とかもうぐちゃぐちゃだよ。
よくわかんないね。さすが異世界と思っておけばいいのかな?まあ、出てきた料理がもうわけわかんないし………………いや、料理の理解はできる。
今食べているのはなんと言いますか、ミネストローネである。ベルルクに聞けばマトト(トマト)の野菜汁だ。いや、この味はミネストローネです。もしかして私以外の異世界人がいるのではないかと、期待しています。前から異世界人がいたから微妙なものが普及しているのかな?この料理だってそうだし。
ついでだからどんな人が作っているのか聞いてみる。普通のおっさんだそうな。それでわかるわけないよ!!後でちょっと聞いてこよう………
ついでだから他にどんな料理があるのか聞いてみた。『オムライス』があるらしい。『ミートスパゲッティ』があるらしい。『ピザ』があるらしい………………マトト(トマト)、好きなの?
ついそんな事を聞いてしまったのは仕方がないじゃないか。なんかマトト(トマト)を使った料理を言われたらツッコミ入れたくなるじゃん!しかもサラダもある!今食べてるけどさっ。
ついでに情報をありがとう!この料理はん百年前に発案されたらしいね!受け継がれた、なんて聞かされていたら私、逢いに行っても意味ないわ!まあ、昔にも私みたいな転生かトリップしてきた人がいたんだな、て事がわかっただけでも良しとしよう。なにが良しなんだかわかんないけどさ。
まあ、ちょっとは異世界の文化を残してもいいんじゃないか、と言うのが分かっただけでもいいよ。ならば私はケーキをこの世に残す事を考えておくから!まだ見ぬケーキは私に任せて!!それとクッキーもちょっと改善させて下さい!
「ところで、そろそろ私が呼ばれた理由を教えてもらえませんか?」
まだおろおろしているクリミアよ。挙動不審しながら食べるなんて器用だね。忙しなく目を泳がせて時おりいじけたようにベルルクを睨んでさ。なんだろうね。ここはまた持ち上げるしかないのかな。
「そうでした。私、まだ数日も経っていないのですけど、二人はどこのお部屋なのですか?」
「私たちは旦那様の命により個別で受けています」
「(さっき聞いたわ)魔力が強いのですね。そう言えば私、また7歳ですけど失礼な事を口走ってはいませんでしたか?」
「ここでは貴族のふるまいは意味をなしませんよ。例外はありますが………クリミアお嬢様とクロムフィーアお嬢様は同じ年です。仲良くしてあげてください」
「そうでしたか。私こそ仲良くしてください」
と言えばいいのかな?まあ、害は無さそうだから別にいいんだけど………クリミアがどうも掴めない。下手に出てみても怒ってるようにベルルクを軽く睨んでるし。けどその間に口を挟まない。
うーん。まだおろおろ躊躇っている感じから内気な子、だよね?てか私の質疑をベルルクが答えちゃうからクリミアが黙っているんだよね。別に言わせるためにやってるわけじゃなさそうだし。
困った。実に困った。もう少し様子を見るしかないのかなー?いっそ地雷に近寄ってみる?私、死なないかな?このベルルクは何を思ってすべてを口にしているのか………うーん。悩むね。とりあえずおかわりかな。
「ミートソースのスパゲッティでも追加しようかしら」
「ず、ずいぶんた、食べられるん、ですね」
「そうなのよね。なんだか空腹がすごくて………取りに行ってきますね 」
「いえ、私が行きましょう。お嬢様方はここでお寛ぎください」
「主従の間に口を割るのもどうかと思うけど、ベルルクこそ食べなさい。貴方、私たちの配膳してるけどいつ食べるつもり?」
「お嬢様方がお済みになった後でいただきます」
「それはクリミアの命令?」
「いいえ、これは」
「クリミアに聞いてます」
さーて。どうでるかな?急に戸惑いすぎなクリミアは私とベルルクを交互に見て焦っている。これじゃあまるでどちらの味方に付けばいいのか分からない顔。この子、流されるタイプだね。
しばらくしたらベルルクを見つめ出した。ベルルクも見つめ返すからまさかここでラブシーン?止めてよ、と思ったけど甘い空気は漂ってこない。探りあっているのかな?それなら一番に怪しい私だと思うのだけど。根負けしたのか私の分を取りに行くと言ってベルルクが下がった。クリミアの瞳が揺れたのを見逃さない。
「クリミア。貴方が私に話したい事はベルルクの事ですか?」
「………………いいえ。違い、ます」
「では、なぜお話ししてくださらないのですか?それに………ベルルクに何かあるのでしょう?」
あ。図星っぽい。驚いて私を凝視し始めた。これは分かりやすくて助かるかも。
「先程から思っていたのですけど、言わないと何も伝わらないし、分からないままですよ」
「でも、私、子爵令嬢で………ベルルクは、私の、従者だから………」
え。マジの恋愛発展?この展開はさっき捨てたから考えてなかったよ。
「では、一緒の席で食事をしましょう。ベルルク、自分の分も取りに行って下さい」
「私はクリミアお嬢様の従者です。一緒に食事など出来ません」
さっき戻ってきたからね?そんなビックリするほどじゃないでしょうに………ほら、ベルルクが私を睨んでる。もー、面倒だなー。ここでクリミアがバシッ!と言ってくれれば楽なんだけど………駄目か。まだ焚き付けなきゃ駄目なのかっ。
「ここは貴族など関係ないのでしょう?だったら主従関係も関係ないはず。クリミアはどうなのですか?」
はい。クリミアが戸惑いすぎてどうしようもない。言いたいけど言えなくて口が金魚のようにぱくぱくあわあわ………それをみたベルルクが驚いたようにクリミアを見てる。何に対して驚いているのかね。
私には理解できそうにないや。もうごりごり押し押しでいこう。私のごりごり押し押しは言葉を挟ませないのだよ。と、言うことでベルルク、行ってこーい。なんか言おうとしたらちょっと睨んで背中を押して取りに行かせます!この背中を押す時に魔力操作でちょーと集中させるとか?大きさは考えてないけどかなり大きく集中させたからあんな動揺の顔だったのでしょう。
で、ベルルクは追い出したから今度はクリミアの番。ぶっちゃけもう直球を投げるしかないと思う。ストライクはまだどこか分からないので言葉は直球にしてしまえば大丈夫。もう、早く終わらせてほしい。本当に早く終わらせてほしい。この茶葉がわからない紅茶が私の唯一の癒しだ。美味しい。
「クリミア。ずばり言いますけど、言いたいことがあるならそれを相手に投げないと受け取ってもらえません。言葉を選んでいるのかは存じませんが、会話は一度途切れますと話を繋げるのは大変です。ベルルクとの主従関係が嫌ならそれを言葉で伝えなくては誰もわからないのですよ」
「な、わ、私は!主従関係が嫌などっ、一言もっ」
「ほら、クリミアが話してくださらないから私は勘違いをするのです。伝わらなかった証拠ですね。ベルルクがいて話しにくいのであれば下がらせれば彼は従うでしょう。でも、違うのですよね?ならばいったい何故このように私を誘ったのですか?」
「それは………私が、どうしても聞きたくて、お誘いを………ベルルクに、相談して………」
「それを聞いてるんですってば」
あ。言葉遣いがおかしくなった。うっかりであるっ。ミートスパゲッティを口に入れてたら入れすぎました、みたいな素振りで口許を押さえました私、今驚愕に大きく見開いた眼と交差しております。
私はそれなりに取り繕って軽く咳払い。誤魔化せてもいないようであるが、彼女が突っ込んでくる様子はない。ならば、私は話をそのままごりごり押し押しで行こう。
「何に対してのお話でしょう。早く言って下さらなくては帰りますよ。ベルルクと二人でお食事なさってください」
「だ、駄目です!私はクロムフィーアとお話したくて強引にもなんとか誘えたのです!!」
「では会話を途切れさせないように声を私に伝えて下さい。難しい事ではないでしょう?言葉遣いなどを気にしているのですか?」
「………それも、あります。でも、ですね。心の準備が必要で、いつも最後まで伝えられなくて………」
「では私は待ちましょう。時間が許される限り。クリミアの言葉を待ちますよ。今日はどのようなご用件で誘われたのでしょう?」
まあとりあえず貴族ですから。にこりと微笑んで空気を変えてみました。変わっているかは知りません。知ることが出来ません。しかし、戸惑っていたクリミアはだんだんと落ち着いてきたのか………覚束ない手先がしっかりと力を込めてお肉(黒い塊はきっとそう)を切り分けていた。
しばらく無言での会食。別に不愉快ではない。紅茶が美味しいもん。後で茶葉を聞いて今度ポメアに淹れてもらおう。と思ったところでベルルクが帰ってきた。椅子は元々四脚が揃っているのでベルルクはクリミアの隣。明らかに二人とも躊躇っている様子だがまあいいや。
そして、私は待つと言ったので、無言のまま。紅茶をおいてスパゲッティへ。フォークに少量を巻き付けて口を広げないように食べる。これが結構、難しい。基本はほうれい線が出来ないように食べるのが貴族の鉄則だ。美味しく楽しく食べるように。昔は母の料理に大口を開けてかぶりついてたなあ。
そして、クリミアがちょうどお肉を食べ終わった頃………決意をしたらしい。ぐっ、と顎を引いて強ばった顔で私を見つめ返す。私は手を止めてクリミアを見返した。もちろん、笑顔で貴族対応の顔だ。
「今日………ここにお誘いしたのは、私の父………サーフェン・アマンツェの対処を、教わろうと、思って、来てもらいました」
「………………………………はい?」




