会談しましょう
改訂いたしました。27.5.23
「来たのですね。では、参りましょう」
簡単な虚勢を張りつつ、私は来てくれたベルルクの方へと向かう―――ついでに振り替えってジジルを誘った。よく思えば彼女たちもお昼を食べに行くのだ。同じ方向なら一緒に行ってもいいじゃないか。さっきも誘われていたし。
と、言うことで二人に聞いてみたらそれをベルルクに跳ね返していた。まあ、当然か。迎えに来たのは私だけ。ジジルたちは誘っていない。でも、ただ一緒にいくなら別に問題なんて微塵もないとの事なので一緒に行くことにした。
廊下に出てみれば肩までのふわりと浮いた髪を揺らしてクリミアがおろおろと待っている。さすがに挙動不審すぎると思うんだけど………私たちの姿をみた瞬間に見せたあの顔。すごい安堵してた。内気すぎる。
クリミアにも一応はジジルたちも同じ方向だからと行って庭外れの食堂まで同行。玄関を出て王宮側の外へ出るそうです。庭だったんだ………
「そういえば、クリミア若魔法師は別の部屋なんですか?」
「クク、クリミアでっ、いいですっ」
「私たちは個別です。クリミアお嬢様はこのように人見知りでして、授業どころではなくなるので」
「そう………………私とお話しは大丈夫ですか?」
「だ、だだだっ!」
大丈夫じゃないと思う!
「時間をかければ普通になりますよ。時間をかければ………………」
そう言ってベルルクがなぜか遠い目をっ!?まさか、従者についた時もかなりの時間かけてようやく今の距離だったりするの?うわー。これ絶対に年単位だよ。ここは私が少し砕けてみるかな?
「私はクフィーって呼んで下さい。親しい方にはそう言っているの」
「私はジジルニアだよ。ジジルって、いつか呼んで。平民でも気にしないなら覚えてもらえると嬉しいかな」
「私はエリエリーチェ。エリーでいいよ!私も平民だから気兼ねに声かけてくれればいいし」
「お気遣い、痛み入ります」
いやいや。ベルルクが言ってどうすんの。そこはクリミアが言わなきゃこの距離はそのままだって。その従者関係だって年単位で築きあげたんでしょ?貴方が代わりに言ってどうすんの………
わたわたして結局、一言も喋られなかったクリミアは小さく頷いて歩き出してしまった。ジジルたちは気にしないみたいだけど、彼女は駄目だよ。それじゃあお友だち作れないって。
みて、この距離!!並んでいるけど人2人はある隣との距離!!ジジルとエリーは二人でたまに話をしているから気にしていないようだけど………えー。私、話を繋げる自信ないよっ。
そしてまだつかないのっ!?食堂っ!本当に隅っこにあって困っちゃうよ!!グランドみたいに大きく開け放ったところから見える食堂らしき大きな建物はまだ遠くに小さくそびえ立つ。この距離でまだ小さいってどれだけ遠いの?米粒じゃないのが救い?
なんか知ってそうなベルルクに聞いてみたら、もともと作った人がすごく食べる人で運動嫌い。魔法師なんて動くもんでもないので余計に体が丸くなったらしい。その人が発案。まだ食堂がなかった頃は各自で自炊していたんだけど、我慢しきれなくて料理人を一人雇ったらみんなもこぞって料理人を雇った。しかし、各自で料理人を押さえておく場所もないので、邪魔にならないように一角をまるまる潰して作ってもらっていたんだそうだ。
え、だから?と私の顔が言っていたらしい。この話は必要だと言われて続きを聞かされた。
それで、食事に不自由しなくなった魔法師は歓喜に喜んだのだけど、今度は近くから美味しい匂いにつられて授業に集中できなくなり、なおかつみんなはめいいっぱいに食べるものだからまるっとした魔法師が続出したそうです。
さすがにまるっとした魔法師が魔法を放つ姿を数人も並べば狭いし身動きが取れにくいし見劣りが凄まじく悪い。との事でダイエットに励もうとしたが匂いは近くから漂うし食べたら美味しすぎて食べまくっちゃうしで、仕方なく離れさせたらこんな距離になったんだとか。あとこの離れすぎる遠い距離で運動を稼がせているらしい。………そして、話はそれだけだった。
聞いた私はなんとも言えない顔つきだ。そりゃあ魔法は騎士と違って動かずにバーンて放てるよ?あとはたまに接近戦で狙われた時ぐらいしか動かないよ?でもそんな理由はないんじゃない?
やっぱり顔にも声にも出ていたらしい私の思いはベルルクの苦笑いで受け止めてもらった。エリーもさすがにそれは初耳だったらしく、しかもまるっと太った自分を想像してしまったらしく顔が引きつっていた。ジジルからは「確かに美味しいよね」て。美味しいんだ。
そんなちょっと下らない話を延々としてようやく辿りついた食堂はもちろん、若魔法師と見習いで賑わっていた。肩までのローブとそれから少し長めのローブ。あくまでローブ。男女様々。色の白黒がはんぱない。人の姿ははっきりとするけど、背丈もまばらだし、なにがなんだか分からない。
しかもローブは若魔法師も見習いも白っぽいローブだから頭の位置がいまいち掴めなかった。そんな中、ジジルとエリーはじゃあ、と一言で一番込み合ってるあの人混みの中に入っていく。勇気あるね。
まず見えるのは大きめの長いテーブルが4つ。椅子はちょっと質素な円の背もたれなし。これが人数は数えきれないけど、ぱっと見で片側5、60人。一つのテーブルに100人座れるのではないかな?
そしてギリギリ奥に見えるのがテラスで優雅な4人が利用できる四角いテープ。奥が見れないのでまあ、たくさんあるだろうね。そしてジジルたちが突っ込んでいったカウンターのようなところが壁際を占拠。壁になにかズラズラと文字を発見。カウンターで話し込む若魔法師も発見。その子が告げたら………しばらくしてなにかが乗ったお盆を渡されて、呼ばれた数人のグループの輪の中に入っていった。
そう言えば私、あっちの魔法場の食堂で食べた事あるんだけど………あっちの方がこじんまりしていて人数は少なかったかな。そうだね。こっちはよくある学食の風景であっちは自由な居酒屋みたいな雰囲気でちょっと狭かったかも。
オムライスがあったらいいな………………と、前世のものを言ったら懐かしくてご飯が気になっちゃう。ついでに見ていたらベルルクに呼ばれてしまったから考えないようにしよう。ここには何一つ日本の懐かしいものはない。ないのだよ!
ちょっとホームシックになりかけた思考を振り払ってついていく。左手の隅は2階に通じる階段があったらしい。人が3人?は通れるスペースを設けて螺旋状に階段があった。それを黙って上っていく。で、上りきったら扉がいっぱいある、と。
ベルルクを先頭に一つの扉に立ち止まって、内ポケット?から何かを取り出してそれを扉に押し当てた。なんだか石だったような気がする。そうしたらちょっとだけキラキラと光りだしたから魔法なんだなーて。鍵穴をよく見たらやっぱりキラキラなものがくっついてた。そのままクリミアと私を中に入れて彼は消える。きっと配膳でしょう。
「ど、どうぞっ!」
「ありがとう」
この子、大丈夫かな?緊張しています、てもう見たまんま分かるんだけど………緊張のしすぎか、私に椅子を薦めたっきりふいて喋らなくなってしまった。これじゃあ私に怒られるクリミアの図である。
もちろん怒るもなにもそんな事はまるっきりないので違うのだけど………私にどうしろと言う。ベルルクはまだ来ない。ここまで持ってくるのに配膳はどれくらいかかるのかな。話題をふった方がいい?
「お話しって、なんですか?」
直球でいいや。そう思ったのは事実です。だって回りくどい事をしたら何がなんだか分からなくなりそうなんだもん。しかし、直球も駄目なんだね。勉強になるよ。
え、あ、そ。たぶん「ええと」「あの」「その」とかだと思うんだけど………………動揺しまくりでどうする事もできない気がする。ならば切り替えて適当な話題から本題に乗り込むしかないよね………
落ち着かせるためにもクリミアに様々な話題を出して食いついた話を拾ってそれを中心的に話していくしかない。ベルルクが帰ってくるまで、これはなんとか乗り越えなきゃ。無言はさすがに嫌だよ。
「綺麗な髪飾りですね。生花ですか?」
「え、ええと、これは、せいか、です」
「確かガーベ………ベラーナと言う花でしたか?夏の花でしたよね」
「はい、はい!そうなの、です!」
花の話は大丈夫そう?もうちょっと伸ばしてみようかな。ええとガーベラ―――じゃなくて!ベラーナ、ベラーナ!よし。ベラーナの記述は確か育て易いんじゃなかったかな。あと、花びらが材料で痛み止めだったかな。この世界では夏の代表花だったはず。
「もしかして夏に生まれたんですか?」
「わあ!すごいです!そうなんです!なぜ分かったのですか!?」
「ベラーナは夏の花の代表ですから。もしかして生花に飾るくらいですから思い入れがある花なのではないですか?」
「すごいですね!見てくださっただけで分かるなんてすごいです!」
「誉めすぎですよ」
ふふふ。と貴族らしく笑ってみて、思うのです。クリミアってもしかして純粋なんじゃない?目をキラッキラに輝かせて喜んじゃってるよ。どうしよう。アトラナと重なるって言うかこれが子ども貴族のあり方なのかな?
今にも身を乗り出して興奮してる様子に思わず悩む。いっかー、て私の赴くままにやって来たけど、こんな子どもっぽいところを人に見せているだろうか。振り返ってみれば―――なんと言うか。歯向かっていたような。張り合っていたような。子どもらしくないな、とは思う。7歳児………………ネックじゃん。
「ベラーナは私のお母様が大好きな花なんです。私も大好きで、初めて教えてもらったお花で、家族みんなで育ててる花なんです!毎年この夏にかけて育てるんですけどけっこう大変で、でもお父様たちと一緒に水やりとかあげる時は楽しくて、この花のおかげでベルルクにも逢えたし、とても思い出のつまった花なのです!!」
………………うん。いきなり饒舌になったんだけど?
それでね、から始まる話はなんと言いますか。家族愛を語られてる気分なんですがこれいかに?花を愛でるお母様の姿は花と一緒にいるだけで絵になって素敵で。魔法で水やりするお父様の顔はいつも真剣で優しそうで格好よくて。飛ばされたベラーナの花が池に落ちたのをベルルクが取ってくれたり。
もう、ね。そう言えばアマンツェの名前出した時、微妙な顔をした二人がいたな、て。子ども好きだったよね。て。
子ども好きが家族好きに変換してみれば親の血をしっかりひいているじゃないか、と言う感想と共にこれ、お父様に似てない?と言う気づいてしまった事実にもう項垂れるしかない。だってこの手は一度話し出したら止まらない猪突猛進タイプとなる。お父様でわかってる私は放置しか方法が思い付かないのだよ。
聞き手に回る事でどうしようもないよ。もしここで止めてしまったらクリミアの場合は逆戻りしか考えられない。それは、ちょっと………ね?さすがに持ち上げるのは大変なのでご遠慮したいのです。
「それでですね!」
「珍しいですね。クリミアお嬢様が初めてあった人に心を許すなんて」
「あ」
待って!!
と言うのはすでに遅かったぁああああっ。突然のベルルク登場に驚いたクリミアが小さく悲鳴をあげて固まってしまったよ!?しかも「私ったらこんなに話してしまって恥ずかしいわ!」とかなんとか言って顔をグレー(たぶん真っ赤なんだよね!?)に染めてふいてしまった………スタート地点に戻された瞬間だね。
そのまま「恥ずかしい」を連呼で最初より悪化したのではないだろうか。完全に下を向いてなにかを呟いているよ?ベルルク、どうすんの。私の視線に気づいているよね?
「失礼しました。お食事の用意をさせていただきます」
それで何事もなかったかのように食器を並べる従者を目の前で発見。流す気でいるね?簡単に謝っても私は許さないよ!また初めから緊張している子を喋らすのって大変なんだからっ。しかも今度は羞恥付き!なんて事をっ。
ちょっと腹がたった私は終始ベルルクを睨んでいたのは言うまでもない。私が少しだけでも戻らないか声をかけるがクリミアからは声すら発する事が無くなってしまった。どうしてくれるの、本当に。話が進まないんだけどっ。




