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お兄様と片割れ王子

改訂いたしました。27.5.17

「お父様、なぜ先に説明してくださらないのですか」


「え、だってそうしないとクフィーを驚かせれないじゃないか」


 驚かさなくていいです。


「………2番。白は不正です。黒は見込みあります」


「すごい。俺も。思ってた。当たり。見える。本当」


 アビグーア中隊長の肩に再び乗って、腰当たりからそんな声が聞こえた。アビグーア中隊長は区切らなきゃ喋れないので、誰だかわかりきっている。


 私は私でそれにお礼を言って再び訓練兵に目を向けていた。すごく目立っているのは、言うまでもない。


 双子ちゃん王子から挨拶を終えて、私は颯爽とアビグーア中隊長の肩に戻された。誰の指示でもなく、アビグーア中隊長が自らやった行動なので、誰もそれを指摘できない。だって、中隊長ですから。


 見習いの訓練兵が集まった中でそんな事をやってみてくださいよ。私は一気に注目を浴びて好奇の目にさらされる。まあ、ウォガー大隊長の一喝ですぐになくなったけど………気にする者はまだ数人いた。


 今始めているのは言葉通りの試合。広い訓練場を4つに区切って別れさせ、一対一の真剣勝負をしている。もちろん、魔法剣を議題にしての勝負。


 私がいるので傷物は一切なし。騎士たるもの、加減も出来ないでどうするか。力に溺れるな!と盛大に血生臭いものを見せるな!と言ってくれたのでグロいのはない。骨折や青あざはどうなるのかは知らないが。


 そんな訳でいつもの潰れた刃ではなく見習いにはまだ手に持つことは許されないミスリルが8本も用意された。


 試合内容は相手に傷を負わせないで負かすこと。膝をついたり剣が手から落ちたり、座り込んだ時点で負け。その間にミスリルを使って魔法剣を駆使すること。これは魔法剣に見込みがある人はいるのか、いないのかの調査なので、出来ないものはすぐにいつもの訓練に戻ってもらう事になった。


 そのさいに私の紹介があったともっ。ウォガー大隊長様っ、止めてほしかったよ!!紹介する相手は男で騎士を目指している人たち。対して私は小さくて女の子。しかもアビグーア中隊長の肩に乗って、だ。白い目と疑いの目を持たれるのは当たり前である。


 そこで私は本物である証拠に騎士の中から魔法具をつけている人を見つけて成敗。魔法具は宝石の中に刻まれている魔法文字(魔力操作で触れば感じ取れるらしい)を確認して証拠をだし、騎士の不満を一掃した。お父様がえんらい笑顔になっていたけど、そこはあえて気にしない。


 これにより私の能力は認められ、ついでにウォガー大隊長の魔法剣を見せて貰ってそれを基準に調査を開始したのである。


「お父様、もう少し、あと少しの人はどうしましょう?」


「長引かせるだけだよ」


「どれ」


「1番目の黒の方です。うまく魔力を扱えないみたいで出詰まりですね、あの人は手に集中してるばかりで発展がないのです」


 ついつい指をさしてアビグーア中隊長に教える。そのおかげで回りにいたまだ終えていない見習いの騎士たちがいっせいにそちらをみた。黒と白と言うのは、私が名前も分からないし、色も分からないので手前の人を白、奥の人を黒と呼んでいる。


 始めお父様に言われてわけが分からなかったが、私の考慮としてとても分かりやすかった。幸いにもこれは『魔法剣が出きるか、出来ないか』を見るだけなので、剣のぶつかる音はけたたましく鳴るが、回転するような激しい動きはないので剣の押し問答がほとんどだから奥と手前で区別ができた。


 アビグーア中隊長は納得したように傍にいた一人の少年に視線を送る。なんだか見られた人が一瞬、怯えたように肩を震わせていたが、まあ中隊長にお願いされたらビビるよね。すぐに中断してもらって黒を引き抜いてもらった。


 そこで少し離れて魔法師に魔力操作を教えてもらうのだ。前は魔法師と騎士で対立していたらしいんだけど、今ではそんなの見られない。いつか詳しく聞いてみたいね。


 さて、仕事仕事~。あ、お兄様だ!次に交代で出てきたのはお兄様!最近では髪を整えてしまって襟足を短くした姿はまた美少年度をあげているんだよね!さすが私のお兄様だよっ!カッコいい!!


 出てくる登場シーンからしっかり相手を見据えている姿とか、剣を一振りしてから構える姿とか!私のお兄様が格好よすぎてなんだかニヤけてしまう。


 それはお父様にも伝わったのか、隣で私の言った結果を書き込んでいたお父様が「トールの出番だな。クフィー、しっかり見とくんだよ」とか言っている。もちろん見るに決まっているよ!!仕事はちょっと休憩でお願いします!


 なんだかウォガー大隊長が視界の隅で片手をあげて止めてたけど気にしない!!私は今、お兄様の観戦に忙しいので!!あまりみないお兄様の勇姿は今みなきゃ損なのだよ!!


「あ。お相手は………(王子。たぶんアーグラム王子の方だね。やっぱり仕組んだんだ、お父様)」


「アーグラム王子。本人から。申請。トフトグル。受けた」


「やはりお強いのですか?」


「筋。いい。トフトグル。アーグラム王子。力量。わからない」


 えっと、つまり二人とも剣が上手で互いに相手をしたことがないから差が分からない、と言う事なのかな?アビグーア中隊長もわざわざ見えるように体の向きを変えてくれた。すでに回りも観戦体勢。………調査はいいの?人の事は言えないけど。


 でも対面した二人から目を離せない私たちは生唾を飲んで注目していた。アーグラム王子が剣を真っ直ぐとお兄様に向けて構えている。なにか言ってるけど聞こえない。


「あれは騎士がする決闘の申し込みだよ、クフィー。いい試合が見れそうだ。頑張れよ、トール」


「決闘………お兄様、頑張ってほしいですね(お父様の顔がすっごい悪どい………)」


 王子の応援も一瞬だけ考えたけど、私はもちろんお兄様を応援する。ほら、これ試練だから、アーグラム王子。お父様の悪巧みを乗り越えなきゃ私にはたどり着けないんだよ。


 言っては悪いけど、婚約を承諾したが好きになるとは言っていない。赤くなってしまったがあれは私の免疫が少なかったからであって、惚れたから赤くなったわけではない。そう言えば婚約のお披露目で魔力を使うって言ってたっけ。契約になってしまうのか、宰相様とお話ししたいな。


 と、言う事でお兄様を応援しながら私は二人を見つめた。ウォガー大隊長が立会人になるらしい。手を高く掲げて―――振り下ろされた。


 それは始まりの合図で、ウォガー大隊長が後ろに大きく飛び退けばその場に勢いよくぶつかる金属音。すでにお兄様とアーグラム王子は対峙していた。ギリギリと、まずは押し合うようだ。


 押しの力はお兄様が強いみたい。少しずつアーグラム王子の剣を押し、柄を擦り合わせようとしていた。剣をいなせないためだね。


 アーグラム王子も負けずに押し返すがこの時は劣勢。たぶん、間を見て離れると思う。その間は剣が少しでも動いた時。押されるのではなく、押し合いでずれた歪みの、間。


 すぐにそれは訪れ、アーグラム王子は小さく飛び退いた。弾くように横一閃を描いて距離をとる。お兄様は剣を持ち直して低い体勢でその距離を埋めていく。その隙に魔法剣を発動させてから剣を弾こうと下から振り払った。まとわりつくように剣がキラキラと光る。


 対してアーグラム王子も魔法剣には魔法剣を。動作は少し遅いが、迫り来るお兄様の剣に間に合い、下からの攻撃も上から叩き落とす勢いでしのいだ。二人とも―――魔法剣の威力は微力ながら、維持は綺麗だった。


 魔法剣は剣に繋がった手から流れ、刃の中心から外へ流れていく。そこから刀身を抜けるように蒸気に似せた魔素が放出され、魔法剣となる。


 仕組みは説明としては簡単だが、これが結構大変らしい。魔法剣としてはそれでなるのだが、それでは未完全なのだ。放出したままではいくら魔力を流し込んでいても、放出されるだけで意味がない。なので、完成としてはその放出を防ぎ、纏わせること。属性魔力が刃にまとわりついていてこそ、真の魔法剣とも言える。


 二人ともまだ完璧ではないけど、放出も少なくて維持できていた。これは体力と判断力の勝負に―――なるんじゃないかな。ほら、また剣を擦り合わせている。


「はああっ」


「くっ」


 アーグラム王子は攻めるタイプ、なのかな。見ているだけでアーグラム王子の攻めの回数はお兄様より手が多い。逆にお兄様は防ぐタイプ。一振り一振りを受け流したり受け止めたり、すべてを凌ぎかわしている。


 アーグラム王子が上から今までより強めに振り下ろせば腰をおとして剣先で受け、流すお兄様。すぐに懐に潜り込んで柄の先で攻撃に入る。しかし、アーグラム王子は踏み込んだ足を軸に回転して凌いで剣で相手が狙うだろう急所をカバー。お互い距離をとり始めれば少しだけ睨みあいが始まる。


 二人ともあの手この手で繰り返して約数分。先に息が乱れたのはアーグラム王子だ。攻めの回数が多かった分、体力を使ったのだろう。それにつれ魔法剣にも影響が出てきた。放出が大きくなる。


「アーグラム王子の魔法剣が乱れました」


 私は魔力の枯渇を防ぐために、そう言った。ほら、男の人っていい交戦相手を見つけると楽しくなって時間なんて忘れるでしょう?私はてっきりそう言うのは戦闘馬鹿とかに見えるのかな、とは思ってたけど………


 どうやらそれはお兄様たちにも言えるらしい。互いに決めてはないけど、ずいぶんと楽しそうに瞳を輝かせて打ち合っているのだ。


 今はお兄様が攻めに回り込んで打ち込んでるけど、ただ逆転しただけなのできっとこのまま継続すると思われる。


 私の言葉を聞いたお父様はウォガー大隊長のに声をかけて止めるように言った。今思えばこれは魔法剣の見込みがある人を探そう、と言う調査だよ。こんな事を長々とするわけにはいかない。


「止めっ!」


 すぐに理解してくれたウォガー大隊長は誰にも劣らない声量で声を張り上げる。ピタリと止まる二人はもうすぐ剣がぶつかり合うところで静止。ちょっとすごいと思う。勝負的にはお兄様の勝ちだよね?まだそんなに息は乱れてないみたいだし。


 ウォガー大隊長が「合格」と短く言えば回りがすぐに元に戻るように動き始めた。集まっていたので再開には時間が少しだけかかる。その間にお父様に聞きたい事を聞いてみた。


「お父様、なぜ皆が動きを止めてまでお兄様たちを見ていたのですか?」


「そりゃあ、トールが頑張ってるからさ。今じゃ見習いの中で一番早く騎士なれるんじゃないかと噂してるんだよ。それに加え、今回の相手はアーグラム王子だ。彼もなかなか腕がある。騎士としては見過ごせない一戦なんだ」


「お兄様って、そんなにすごかったのですね。こうして対決する姿を見たことがなかったので知りませんでした」


「トールは大っぴらにする性格ではないからね。クフィーやリディに怪我をさせないように体力作りと剣を振ることだけにしたのだろう」


「気を使わせていたのですね………今度お兄様に剣について聞いてみます」


「いいね。お父様も混ぜておくれ」


「あ、始まるみたいですね。お父様、頑張りましょう」


「当たり前じゃないか!クフィーのためにお父様は頑張るんだよ!!」


 はい、ならばさくさくやりましょうかー。


 お父様が私もいいだろう?と言う時はろくな事にならない。この前だってお姉さまとお茶の約束に乱入してお姉様と、と言うよりお父様の独壇場が出来上がっていたのだ。お茶どころでなくなるなら遠慮したい。てか仕事はどうしているの。


 ちょっとお父様をスルーしても気にしない素振りで作業開始である。早いところはもう始めているので、私も魔力操作を駆使して作業に取りかかった。


 結果として丸一日で終わるはずもなく、その次の日も訓練場に来て魔法剣が出きる見習いたちを裁いていった。


 魔法院でお勉強するはずがこんなところで蹴躓くなんて思ってもみなかった私はちょっとガッカリしながら魔力操作を行っていたのはアビグーア中隊長しか知らない。


 何千人を見て下した結果は6割りが見込みがある事がわかり、騎士様から微妙な表情をもらった。でも、行き詰まっているのが1割りいるので、それをいれたら7割りとなれば上々である、とウォガー大隊長が前向きに考えだしたらしい。


 これから訓練には魔法師を数人加えて魔法剣を習わせるので、今後は戦力の幅が少し広がるのではないかと思案される。


 それに魔法剣の改良をレーバレンス様が作っているらしいので期待に満ちていた騎士たちはウォガー大隊長を始め訓練に打ち込みを始めたようです。


 そして私はようやく魔法院へ戻れるとこになり、一段落だ。因みにお手伝いの報酬は騎士へ遊びに行ける権利。通行証として牙?のペンダントをもらい、アビグーア中隊長の手が空いているなら連れてお兄様に逢っていい事になりました!それとタダなんだよ!


 まあ、確かに騎士に遊びに行けて、お兄様に会えるのは嬉しいけど………私が喜ぶものか、と言われたらこれまたなんとも微妙に返答しづらい報酬である。


 お父様には聞こえない声量で、貰えるならウォガー大隊長のしっぽお触りの権利がよかったな、て。ポソリと呟いた言葉はお兄様がしっかり聞き取っていたらしい。あとで「駄目だからな」と釘をさされたのは言うまでもないね。むう。




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