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楽しくて寂しい

字等を修正いたしました。27.4.2

 

「こうして、お姫様は魔法師さまに助けられて、無事に国へ帰りました、おしまい」


 どうだった?


 いえ、もう至福の一時でしたよ。


 兄様の膝の上で読んでもらってウハウハな私。クロムフィーアことクフィーです。役得です。


 密着した状態で読んでもらったのは魔法師のお話しだったらしくて、魔法の原点とも言える内容―――らしい。兄様はこれを信じてるっぽい。


 ゆっくりと読んでくれたお話しは、なんの力も持たない人間がお姫様に恋に落ちて幾度かこっそりと相瀬を交わすんだけど………テンプレの身分違いで成就が出来なくて嘆く二人の間に魔王が割り込んで、国中が絶望に追い込まれるけど主人公だけは絶望に立ち向かってお姫様を助けよう!てお話。


 その時、天がただ一人立ち向かおうとする主人公に力を授けるのが『魔法』。どこにでもある普通のお話しだった。


 因みに恋愛物は二巻めからだそうな。これ、続くんだ………


 まあ、所詮は絵本だからね。そんなテンプレ話が主流になってくるよね。


 でも読んでくれた兄様に不満を出すわけじゃなくて、にへら。と笑ってもう一回読んでもらう。


 兄様も苦笑いしながらまたゆっくりと分かるように読んでくれるから私の顔から笑顔が消えません。兄様が優しすぎるよ。


 それなのに両親には逢えないと言うなんて不思議なこと。兄様がこんなに優しいなら両親も優しいはず。でもさっき姉を連れて出掛けたって言ってたから忙しいのかな?そうだよね?


 その辺はまだわからないから何も言えないんだけど。今は新しく出会えた兄様がいるからいっか。


 こうしてゆっくりしながら読んでくれるし。なによりも楽しいからいいじゃない。


 二度目を読み終えて私は満足すれば兄様も嬉しそうに笑ってくれる。いいね。笑い会えるなんて最高だよ。


 とくに字なんか覚えられそうだからね。なんと言うか、象形文字?アラビア?丸いけど線が引いてあったり点があったり。


 まさしく異世界の文字だ。違った。この世界の文字は日本語じゃないって言いたかったんだよ。


 ここは転生したんだから特典付けてってば。文字も会話も通常装備にしておいてよ。


 でも兄様のおかげで少しだけ覚えたんだよ!今度は他ので覚えよう。はっ?!もしかしたらこの為に特典が付かなかったとか………?それなら怒れないかな!


 それにしても貴族でこんなに逢っていなかったから嫌われているのかと思ってたよ。赤ちゃんを放り過ぎ。


 実際はどうなのかわからないけど………もしこれが兄様の演技だったら私は間違いなく引っ掛かるね。


「トフトグル様。昼食の用意が出来ました」


「もうそんな時間か。クフィー、またいつか遊ぼうな」


 え、そんな唐突すぎるよ。


 あまりの衝撃にうっかり兄様の服を掴んで見上げる。あ、どうしよう。困ってる………


 でも不思議。涙を出して泣こうなんて思わない。ただ服を握って見つめるだけ。


 扉にいる見たことのないメイドさんがハラハラしてる。そんな表情を出していいのかな?


 でも、もう終わりかー。寂しいな。


 それを悟ってくれた兄様は丁寧に私の指を外して頭を撫でてくれた。


「いつになるかわからないけど、またくるよ。また、って事はもう一度ある、と言うことだ。クフィーはわかるかな?」


「うー…………あい」


 わかってるよ。でもね、私はまだ赤ちゃんなの。何度も、何回も、声に出さずに思うだけだけど。


 赤ちゃんを諭しても意味ないからね?


 仕方ないから離れた手で兄様の足を叩いていってらっしゃい。言葉にはまだ出来ないけど、ジェルエさんの時と同じように感じ取ってくれたのか、もう一度頭を撫でて兄様は出ていった。


 呆気ない別れだね。初めて会う兄様の時間は長くて短いものだ。


 一人になったらこんなにも寂しいのか………しかし、めげないよ。


 兄に逢えたのならもう少しで両親、または姉に会えるかもしれないんだから!


 そう、会えないことはないんだ。この部屋から出れるようになれば自分から会いに行けるじゃないか。


 頑張るぞ、と決意したらほら、ジェルエさんが来てくれた。


 私を見るなり呆気に取られながらも笑顔を向けてくれる。やっぱりジェルエさんは私のママだよ。この温もりしか知らないけど、これだけでじゅうぶんのような気もする。


 その後、私も昼食タイムに入って寝かされた。睡魔には逆らえません。


 背中をぽんぽん。そんな風に叩かれたら眠っちゃうって………まあ、私の本分は遊んで寝ることなんだけどさ。


 今日は少し興奮しすぎたからジェルエさんの手によってすぐさま眠りに落ちた。











 で、目を開けたらなんともまあ。誰もいない事でして。それが私を不安にさせる。


 いつもなら誰か傍に―――ジェルエさんが付きっきりでいてくれるのに、いない。


 まだお仕事が終わってないのかな?全速力で終わらせるって言ってたのに?てかさっき帰ってきてたよね?またお仕事ができちゃったの?


 まあ、ジェルエさんは乳母だから忙しい、とか?でもそう考えると今までなんで付きっきりになってたんだろう。お目付け役じゃないの?


 わけわかんないよ。


 そう思うと、なんだかどっと不安が押し寄せてきた。頭の中がなんだか冷めていく………血の気が引いていく感じ。


 気を失うってこんな感じなのかな?前世でそんな柔な体験したことないからなんとも言えないんだけどね。でも血の気が引いていくって、貧血のような気が………


 そして―――そんな事を考えながらも不安は一気に爆発してしまう。


 頭の血の気が引いた。それからゆっくりと鼻がつーんと痛くなる感覚。淋しい私は泣いちゃうんですよ。


 最初は小さい声で泣くの。次に何もなかったら声は大きくなっていく。


 そしてたまらず我慢と言うストッパーが決壊したら、今度は頭の天辺まで熱くなって私は自身の出せる最大音量で泣き叫んだ。


 誰の名前を呼ぶ?やっぱりジェルエさんかな。一番お世話になったんだし。


「あー!!!」と泣き叫んでから「しーえー!!!」と大声をあげる。


 なにかがガタン!て音がしたけど、何かはわからない。だって、白黒の世界に涙で視界がボヤけているのだもの。分かるわけないじゃん。


 この世界で私は何を頼ればいいのか、そんなのわかんないじゃん。ジェルエさんがいてくれないと、誰かがいてくれないとまだ不安なんだよ。


 その後も不思議な音がなった。バサバサ、とか。パラパラ、とか。あとガタガタも聞こえる。


 でもジェルエさん、来てくれない。


 ねぇ、なんで私は一人なの?





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