待ち時間は有意義に使うべし
改訂いたしました。27.5.15
会話もなく、なにかするわけもなく………………私たちは壁の花と言うより置物と化していた。
この始まりはもちろん、私である。私が入れないからと言ったおかげでこんな場所で待ちぼうけ。そうしたら他の人まで一緒に引き留めてしまった。別においていってもいいんだけど。
このままずっと………………もしかしたらウィル様が来るまでこのままなんだろうか?それは嫌すぎる。絵面が最悪だ。
一緒に待ってくれると言ったのは騎士にでもいそうなほど厳つい顔をしたおじさんです。髪色は濃いめのグレーなのでワインレッドを所望します。だって鋭い視線を持っているこのおじさんが怖いんだもん。たぎるとか普通に言ってそうなんだもんっ。
体は中年おじさんにしてはしっかりしているけどそれだけ。鍛えてムキムキではない事と、長いローブを着ている事でギリギリ魔法師と言えるのではないかな。見張ってます、と言わんばかりの鋭い視線は濃いグレー。想像のワインレッドなら赤黒い瞳と相性がいいかもしれない。
因みに一緒にいた子どもは女の子。今はこの魔法師様の影で隠れちゃって完全に見えないけど、見た感じしっかりしてそうな女の子だった。
髪は白に近いからきっと蜂蜜みたいな金髪。女の子らしくちょっと丸みのあるショートカットに。キリリと見据えるあの瞳はくっきりとしたグレー系。それなら蜂蜜に合う寒色系の青か緑ではないかな、と勝手に想像。お母様に近いかな?
色がどうこう言っていたけど、なんだかんだこの人はどんな色だろうかと考えるのがやっぱり面白い。でも、色はほしい。前世の私って幸せだったね。
まだまだ時間がかかりそうなので『今』を考える事にしようか。えーと………いつだったか、魔法院に通っていると進路希望を聞かれるらしい(お父様情報)。だから、早めに決めて真っ直ぐ突き進むように言われたんだよね。
まあ、私の答えは決まってるんだけどさ。魔術で物創りとかしたいけど、魔法文字は漢字だから難しいものを使ってなければ解読可能。レーバレンス様が筆頭だからなんか怪しまれる気がするのでパス。と、言う事で私は魔学の魔学医へと進みたいね。目を、出来たら治したい。
魔法なら、きっとなにか出来るんじゃないかと言う考えもあるし魔学の歴史は単純に面白い。そもそも魔学とは何か、と言われれば単純に魔病について学び研究者として薬の調合などを製造と研究、と答える。そして、その魔学も研究と調合に別れている。分野が色々あるのだ。できた当初はごちゃごちゃしてて調合が疎かになったから分野を分けたらしいよ。
そして魔学医とは―――魔学を駆使して魔病に侵されている患者を診る人。魔病担当のお医者さん。単に魔法で治す魔学医もいるし、薬で治す人もいてこれは人によってまばららしい。ようは【水】と【光】属性の適正がないと薬に頼るしかないのだ。それでも薬に頼る事が多いが。
魔法も、魔術も魔力がたくさんある私だからチートみたいに謳歌したいけど、属性の抑制魔法具が心配なんだよね。魔法を駆使してて他属性の魔素にやられちゃったらいい迷惑だよ。考えめぐってやっぱり目は治したいからね。だから魔学医に進みたいと思っちゃったんだし。
魔学医の一番の適正は【光】だけど、幸い私は【水】。少しの回復なら見込みがある。まあ、魔法は万能ではないんだから大人しく調合に精をだすだけだろうね。面白そうだし。
現在その魔学の魔学医であるヴィグマンお爺ちゃんを中枢に魔学がある。私にはその人のツテがある。魔学を学び終え、医者として進んだならばヴィグマンお爺ちゃんは私を弟子にしてくれるとこっそり教えてくれた。お父様がいない時にささっと言うものだったから半信半疑だったけど、こうして考えるなら行為に甘えたいとも思う。王宮魔学医から教わる技術―――身に付けたいじゃない。
今更だけどとんでもない人たちに出会っているよね、私。でも私の出会いはまだ終わっていませんから!!今思えばそこの少女とお話ししてお友だちになればいいのですよ!!そうだよ気づくの遅すぎた!!
身なりからしてちょっと質素な感じは平民の出かもしれない。対して私は貴族だけど、アーガスト家の基本は気にしません。害あるもの以外はオープンな家系です。私自身も気にしないのでここはどーんと仲良くなりたいね!ぶっちゃけると暇なんだ!
「私たちはここにいて邪魔ではありませんか?」
「魔法師の私がいるので問題ない。君たち二人がとんでもない事をしない限りは」
「とんでもない、とは?」
「うーん………………駆け回るとか」
犬か。
「このような場所では恐縮してしまいますよ。貴方もそう思いますよね?」
「っ!?」
ありゃ。驚かせてしまったか。おじさんを跨いで顔を覗かせたらえらいビックリして後ずさられてしまいました。失敗。
ここは一つ、咳払いで水に流して微笑んでみる。ほら、笑顔は万国共通会話なんだよ。おじさん、笑いが聞こえているから静かにしていてくれませんか。今度からおっさんって言っちゃうよ?てかなんで笑ってるの。どことなく「可愛い」が聞こえてくる幻聴は私の耳が悪いのかな………?私の五感が危機に晒されている!?
気を取り直して女の子と向き直る。私も女の子の部類にはいるのだけど、なんだか中身は三十路と考えるとすごく悲しくなるのはネガティブゆえか。なるべく考えないようにしよう。
それで―――女の子は私と目を合わせるとわたわたして手をふり、顔を忙しなく振っていた。振っていると言ってもそれは慌てているだけで、まるで誰かを探すような仕草だ。女の子がやるとこんなにも可愛い。可愛いよ!
まったく落ち着きを見せないのだけど、もう一度声をかけたら叫ばないよね?ちょっと大丈夫かと思いつつも声をかけてみた。何事にもチャレンジだよね!
「貴族とお話は嫌ですか?それなら引き下がります」
「え、あの、いや、その、えぇええとっ」
「まずは落ち着いて下さい」
口調は同じ女の子だからため口にしようとしたんだけどね。おっさんいるから止めておきました。一応、これでも貴族ですから。
まあ、おっさんは置いておいて今はこの女の子である。あわてふためく姿が実に可愛いのだ。決して少女趣味とかいかないけど、可愛いものには弱い。
深呼吸を教えて私の息を合わせてみる。私の顔を見るのも嫌なのか、貴族が怖いのか―――最初は戸惑って落ち着きなく目をさ迷わせていたけど、無理矢理にでも深呼吸させたり一緒にやったりしていたら落ち着いたらしい。
恥ずかしそうにお礼を言って話し相手になってくれる事になった。おっさんは俄然と前を見据えている。大声だと目立つので、隣に移動して控えめに話すことにした。
「私、クロムフィーアと言います。貴方は?」
「ジ、ジルニア」
「ジジルニア?」
「う、うん」
え、噛んだんじゃないの?てっきり噛んだのだと思って空気を少し軽くしようとふざけたのに。とんだ誤算に今度は私が驚きだよ。
うっかり顔に出ていたらしい(私も顔芸が達者だな。………………父似!?)私に対してジジルニアは少しだけ怒ったように「噛んでない」と言われてしまった。慌てて誤魔化そうとすればつい私も慌ててしまって変な居心地が出来上がってしまったよ?!
だって、今度はジジルニアが私を落ち着かせようと深呼吸を促すんだもん。やった後に互いに気づいてね。なんだかおかしくなって小さく笑ってしまった。
そこでまた「あ」て同時に気づいてまた小さく笑い出す。なんだかあんなに焦っていたのに交互に同じ事をやるのが面白かったのだ。私の隣のおっさんも微笑ましそうに笑っていたけど、ジジルニアが笑った顔の方が可愛いのでそこは見なかった事にしておく。
それからなんだか壁がなくなってしまった私たちは小さな声で色々なお話しをしてみた。共通はやっぱり呼ばれた魔力の高い子どもで、ジジルニアは上級魔法師たちを越える魔力持ちだそうだ。
基準が分からないのでおっさんに聞いてみたところ、順位で言えば現在でお父様が一番。次にレーバレンス様と来て、ウィル様だそうです。その次は名前だけじゃ分からなかったんだけど、上級魔法師が3人続いて次にヴィグマンお爺ちゃん。それから十進魔法師が並んでいるらしい。
じゃあジジルニアはどの辺だろうか訪ねると、今あげた上位に足が届くか届かないかぐらい。この城に属している魔法師は大体で1万越えらしく、今のその上位にジジルニアが割り込もうとしているらしい。ただし、魔力量だけで言っているだけなので強いとか凄いとかではない。
まだ小さい私たちには『いっぱいあるんだね』と思われるだけで評価はそんなにないから。例にあげた人たちはそれなりに活躍している人なので『すごい』人になるのだ。
そして私、自分の事を考えました。ここに呼ばれた理由って、なに?
魔力が多いから?貴重な魔病持ちだから研究対象?魔力が光って見える異能ゆえに?はて。私はどの理由でここに送られてきたのだろうか。お父様が傍にいさせるために呼んだのではない事を祈りたい。て。
そうだった。アーグラム王子の逢う機会を増やすためだった。なんか大層な役目だけど入る理由にしては大っぴらに出来ない隠しミッション。いや、違うか。
でもさっき「真っ暗で怖い」とか「あそこが光って」とか………「光って」なんかウィル様がそれを見えなきゃ私おかしな子だよね?よし、目を理由にしよう。ここは色が白黒と魔力が光りとなって見える異能の持ち主で乗りきろう!よしっ、脳内一人会議は終わり!
「クロムフィーアちゃんも魔力が高いの?」
そうだった!小さい頃から顔だしてたんだった!2年ってそんなに大差ないよね!?私の魔力が高いってこの中の魔法師は知っているじゃん!!
「そ、そうです。魔力が高いですね」
「どれくらい?」
王宮魔法師筆頭様の魔力2倍ぐらいです。言うの!?その王宮魔法師筆頭が私の父だっていずれバレるよね!?―――ならいった方が早いか………その前にどうにか回避してみよう。
「詳しくは聞いてないですね。あ、それと私は魔力が光って見えるんですよ」
「魔力が見えるの!?どんな感じなのかな!」
おお。すごい食いつきっぷりだ。おかげで話をすり替えることが出来たから私的にはじゅうぶんなんだけど。まあキラキラしているよ、としか説明できないのでそう説明したら深く突っ込んでくるジジルニア。まだ好奇心旺盛なお年頃だったみたい。
どんな風に光るのか。どんな光りなのか。光りに色はあるのか。キラキラと光るって綺麗なのか、とか。まるで魔力が目に集まってるのではないの?と言いたいくらい輝かせて聞いてくるものだから私はたじたじである。
でも、せっかくの機会なので私はその質問の全部をなるべく答えてジジルニアと話に花を咲かせた。
そういえば、とおっさんを忘れていて見上げてみる。実はと言うとそろそろ移動したいのだ。立ちっぱなしで疲れたわけじゃないけど、そろそろ9の鐘に近づいているのではないかと思われる。
それを含めておじさんを見たんだけど………私はジジルニアと今、同じ思いで固まっていると思う。とっさにジジルニアの手を握ってしまったのはしかたないと言いたい。ほら、ジジルニアだってぎゅっ、と握り返してくれてるよ!!
このおっさん魔法師はさっきまで見ていた表情と全然、違っていた。さっきまではキリッとしていたのに………………今はどうだろうか。この緩みきった頬と鼻の下。とろけそうな目につり上がる口―――
気持ち悪い。
あからさまなデレッとした顔に私たち少女はまるで変質者と遭遇してしまった感じだ。それはジジルニアも同じで、私が様子を見れば怯えたよえな顔と対面。私もきっとこんな感じの顔でしょう。表情筋が強ばって顎がどことなくカタカタと言ってる。
身を寄せあうように体をくっつけてちょっとだけ距離を取ってみた。怖いから全力は出来ない。おっさん魔法師は私たちをデレッとした顔で見たまま。はっきり言って気持ち悪いよ~!!ウィル様、早くー!!!!
「サーフェン魔法師殿。女官から通報がありましたよ。また少女たちを変な眼で見ていると。いい加減、止めてください」
「あ………………」
願いが叶ったのか、私たちの視界を遮るように誰かが間に割り込んできた。残念そうな口ぶりのおっさん魔法師の声も聞こえる。最初はまさかのウィル様!?タイミングがばっちりだよ!と歓喜したけど、肩に白い丸いものが付いていて違うと分かった。あれは騎士の肩当て。鎧の部分に違いない。
マントが黒かったから騙されるところだった。よく見たら脇のマントがヒラヒラしているし、足元が白っぽくて金属にしか見えない。まさか魔法師がそんなものを履くわけないので、騎士は確定だと思う。
それから小言のように背を向けたままの騎士様はおっさん魔法師ことサーフェン魔法師に色々、日頃の鬱憤でも晴らすべく喋りだした。どうやら日常的にありえる事らしく、お父様と近い思考回路で子どもが大!好き!らしい。一瞬、マルカリアを思い浮かべたけど聞いている限りこっちのおっさんはかなりひどい。お父様よりひどい。あれ、どっかでお父様の張り合ってた人………いたよね?まさか………………
―――孤児院とかに支援はしていないけど、見かけた子どもは連れて帰る勢いで眺めたり話しかけたり、できるなら遊んで過ごすのがこの人の日常。そんなのがよく魔法師になれたな、と思ったけど言わない。私は今この会話に関わりたくはないから。
ジジルニアと体を縮こませながらそれはウィル様が来るまで行われ、玄関ホールに行き交う人たちに多大な注目を集めたのは言うまでもない。
おかげで私たち二人は通りすがりのメイドさんに匿われ、慰められたので仲良くなれたのだが………私の魔法院到達まで、まだ時間はかかりそうです。今度はウィル様からお願い事が。
………………私は問題児でも、トラブルメーカーでもないよ!レーバレンス様の言葉がよぎったから心で必死にそれを否定した。




