いざ、魔法院へ
改訂いたしました。27.5.10
とてつもなく疲れた連日を終えて、今日。私はついに魔法院へと入学する事になりました!
と、言う事で細かい予定はポメアに丸投げである。
「本日は朝9の鐘より魔法院へ赴き、説明会でございます。朝12の鐘であらかた終わりまして、旦那さまが迎えに行かれるとの事ですので、そちらでお待ちください。昼食後の午後はトフトグル様のご様子を伺うそうです」
と、言う事なので―――今日から魔法院に通うことになりましたよ!ひゃっふー!!
とうとう来たよ。私に自由な時間がっ。この7年間はほとんど家だったからね!出掛けたかったけど問題が起こったら~てお父様が出させてくれなかったんだよね。
まあ、本とか読ませてもらったからこの異世界の知識が少しだけ身に付いたけどね。
そう言えばこの世界って24時間で、鐘が3、6、9、12と鳴る。朝の~と言われたら午前中で、夜の~となると午後を指すみたい。そしてこの世界には月の数えはない。四季でだいたいの感覚を見てるみたいだね。あ、でも一週間はある。これは分からなくなりそうだった。
一週間と言っても7日のサイクル表現があるだけ。
月曜日が→闇の日。
火曜日は→火の日。
水曜日は→水の日。
木曜日は→風の日。
金曜日は→光の日。
土曜日は→土の日。
日曜日は→無の日。
それぞれ属性を当てはめてサイクルしているみたい。無属性はビックリだね。
それぞれ月曜日の闇の日から始まって無の日で終わる。それにはちゃんと歴史があって私は痛く感動した。そこにも、物語はあるのだ。
無から始まる事はありきたりでしょう。しかし、色はずっと同じではいられない。物についた色はやがて霞むだろう。やがて褪せるだろう。また、それらの色は留まる事を知らずに変化する。無のように白く透明となるのだろうか。無のように陰る深淵となるのだろうか。
この世界、『ルディアリア』に最初として生まれなのは『闇』だと言う。それも―――産み出されたのは、人。この世界は何もない無から、一点の闇を産み出した。人に名前はない。その闇は世界から知恵をもらい、新たに産み出す力を手にいれる。
知恵を得た人は最初に明かりを求めた。暖かくて消えない光り。しかし、完全な光は闇の自分に叶わないと本能で恐れ、逃げた。考えた人は始めに『火』を産み出す。それは暖かく、眩しい。次に『火』を産み出した人は体が暑くなることに気づく。知恵を得た人体の水分がなくなったのだと理解して『水』を欲した。それにより『水』が流れ、体を通って満たされる。
次に欲したのは空気。無の世界では呼吸がとても辛く、身動きが取れなくなる一方で人は『風』を求めた。身が軽くなること安心を覚える。ようやく動けるようになった人は次に自分と同じ“ 人 ”を願う。この世界にただ独りの『闇』の己は心が朽ちようとしていた。そして願う。
次に生まれた“ 人 ”は『光』だった。同じものは作れないと、世界が教えたからだ。己と正反対であると警戒するが、これで独りではない。付かず離れずの距離で『闇』と『光』は同じ無の空間に佇む。
しかし、『闇』と『光』には食べ物が必要となった。空腹の胃は人の意に背いて体を衰弱させる。その必要性は互いに同じで人は『土』を求め、願い、望み、実る木を手にいれた。
初めて生き得た“ 人 ”は次に何を望むか。これ以上に何を望むか。正反対の『闇』と『光』は次に望むもの。考えた。これ以上になにがいるのか。考えた。これ以上になになあるのか。答えは出ず―――知恵は無へと返る。
それからまた『闇』が生まれ始まり、暖かく時に冷たく通りすぎて『光』と出会い分け与える。“ 人 ”はここから産まれたのだと謳い、それから栄えて村ができ、町が出来上がり、更なる発展で国ができあがり、7日のサイクルが出来上がった、と。
こんな感じでこの7日のサイクルがある。因みに今日は闇の日で始まりの日とも言うらしい。月曜日だね。そして無の日はリセットの日。いわゆるお休みの日だった。
そして私はこの本を読んだとき、この“ 人 ”を示す『闇』と『光』はなにか。お父様にお願いして読み漁ってみれば『闇』が魔王と言う話を見つけました。つまりこの世界は魔王がすべてを産み出した事になる。
それは驚きだ、と思えばこの『闇』は人の心だと言う記述もあった。探せば探すほど面白いものが見つかるけど、一番に考えられる『闇』は魔王説がすごく濃厚に書かれているものが多くて、この世界の人たちは始まりは魔王と言う認識が強くなっていたりする。『光』が『闇』を受け入れなかったから、とも。それも理由の一つ。
しかし、魔王を書物で探せばその魔王はやっぱりと言っていいほどの悪役っぷりが書かれていて、今は勇者に討伐されて平和な世界となってるんだって。だから始まりの魔王説が強くなっている今は解釈は受け入れるけど信じるものはいない。まったく面倒な事になっているね。てかこの世界って魔王に脅かされているの?そんなお話しをまったく聞かないんだけど………?
「クロムフィーアお嬢様。そろそろお時間でございます」
「もう?では、行きましょう」
準備をしていたらすぐにポメアが教えてくれる。私が思い耽っていればほとんどがこなされているから最近は怠け者になりそうだな、て。ちょっと怖い事を思っている。
なんだか貴族って指図するだけてすべてやってもらう的な印象が強いんだよね。私はそんなのになるつもりはないけどさ。ポメアが全部をやってくれちゃうからちょっと罪悪感。本人は気にしてないから思うだけに止めるよ。
「ポメア。今日入る若魔法師は何人いるの?」
「本日は特別な方々が入られますのでお嬢様をいれて貴族が2人、平民が3人でございます。特別な方々は季節を問わず入れるのですが、希望の方々は本来は春の半ばで入学です」
さすがポメア。私が知らない情報を入れてくれる。満足にお礼を言えばポメアだって嬉しそうに笑ってくれた。うん。ポメアは可愛い。
でも見ているだけでは時間が過ぎてしまうので用意された馬車に乗っていざ、お城へ。今回はさすがにポメアを同行させられないので、一人で密室空間に入り込む。侍女が付けれていけないのはお父様からの伝言。それを言われたら誰だって従うしかない。
緩やかに動きだして目指す間に私は昨日、お父様からもらった手紙を広げる。大事な書類だそうなので、なくさないようにとの事だ。前日に渡したのだから、よほど重要な書類なのかもしれない。でも前日なら重要でもないか?うーん。
でも馬車に乗ってから見るようにと言われたのだけど………えーと、この紙はなんだろうか。書類とは思えないんだけど………………。少し揺れる馬車の中で弾む手ぶれと戦いながら折り畳まれた紙を広げる。
封筒に入っていたそれを落とさないように膝の上に置いて中身へ。そう言えばこの紙は少しだけ黄色が混じっているらしい。一般は白だけど、こう言った人様向けは色を付けるんだって。私には白のような気もすることもない色なんだけどね。断定できないから黄色が当てはまるのかな?
それは置いとくとして中身だよ、中身。
『これは若魔法師へ。門からの通行書類となるので魔法師の迎えが来るまで無くさないように。集合場所は魔法院の中。騒がないように自由に待っている事。集合は時間厳守である』
合格通知かっ。手紙が簡素すぎて泣けるんですけど!まあ、こんなものかも………しれない?いやいやいや。流されちゃ駄目だよね!と言うかこれを前日に渡すお父様もどうなのよ。
ちょっとだけ疲れて手紙を元に戻したら意外と早くお城についたみたい。まあ、色々と考えていればいつの間にか着いてもおかしくないよね。
いつの間にかいた騎士に手を貸してもらって降り立てば………………あ。よく見たらウェルターさんじゃん。数日前ぶりですね。声かけてみようっと。
「お久しぶりです、ウェルターさん」
「やっぱり来たか。グレストフの末娘。さっきまでここまでこれるか心配でうろうろする父上殿が邪魔でしかたなかったぞ?」
「お父様………すみません。伝わるか分かりませんが言っておきますね」
「本当に出来た娘だ。冗談だから気にするな。ほら、書類は持っているか?」
「こちらですね?」
お父様、何してくれちゃってんだー!!と言う言葉を必死に飲み込んで私は手紙をすぐに出した。受け取ったウェルターさんはざっとその内容を読んで一つ頷く。すると私は一度は行ったことのある応接間へと行くように言われた。騎士は魔法棟には基本、入れないそうなので、魔法師を呼んでくるんだそうだ。そう言われたらいつぞやとちょっと違う場所かも?
私は貴族の娘なのでそのままウェルターさんが送ってくれる。門はいいのかと聞いてみると、相方が気を利かせてくれたらしい。ちょっとだけお話しができるそうな。ならばやはり―――ここは適当な事を聞いていようかな?
「お城って広いですよね。騎士や魔法師は場内を覚えていたりするのですか?」
「部署にもよるよ。魔法棟だけしか行かない奴もいるし、騎士棟だけの奴もいる。それに王宮なんて極一部の人間、近衛ぐらいしか知らないだろうなあ」
「そうなんですか?てっきり城で働いていれば、と思っていました。よろしければ行けるだけでも内部を見て回りたかったのですが………無理そうですね」
「いや、グレストフに頼めばいいだろう」
「父はお忙しいみたいなので」
実際は知らないけど。そんな事を言ったらウェルターさんが「さっきのも忙しいのか?」と真面目に聞かれてしまった!それは言わぬがってやつだよ!!
つまってしまったのであえなく愛想笑いで誤魔化しました。でもバレバレなので逆にウェルターさんが苦笑いするはめに。ごめんなさいね?お父様は一応、忙しい人の身のはずなのだけどね?
なんだか聞いているとお父様は偉人です、って言うの嘘なんじゃないのか疑っちゃいそう。言ってる時点で疑っているけどさ。
なんとも言えない空気になってしまったのでここはあえて話題を違う方向に変えようっと!そうだよ、私はあれが気になってたんだった!
「あの、答えられるだけでいいのですけど………私の親の、二人のなれ初めってわかりますか?ウェルターさんって父と親しそうですからなにか知ってますよね?」
ほら、この前のブタさんがお母様って実は公爵の娘なんだよって発言していたし。お父様といったいどうやって出会ったのか気になってて。ちょうど知っていそうな人がいるなら聞いてみようと。
思っていたらウェルターさんの顔がなんだか笑い出しそうな、表現で言うならニヤニヤしだして私を見てくる。これはどう受けとればいいんだろう。考えていたら先にウェルターさんが喋ってくれた。
「嬢ちゃんも女の子だな~。やっぱり親の恋愛は気になるのか?」
「気になりますよ。いつも仲睦まじい親を見ているんですから。いったいどんな物語なのか、気になるじゃないですか」
「本人たちに聞けばいいだろう?」
「それだけは遠慮したいです。語り尽くすまで眠れない気がしますので」
「よくわかってるな。でも、本人たちの方が正確な情報だろう?」
「情報って………結局はそれを判断するのは聞き手ですよ。それに、父ですから話すかもしれないけど普通は自分の恋愛を包み隠さずすべてを話しますか?少し伏せるのが当たり前じゃないですか」
それに、お父様たち本人から聞いてしまったら私はそれを信じてしまう。だって本人からの情報だもの。今のところ隠すような人たちではないけど、すべて話してくれるとは限らない。家族だからこそ、ちょっとぼかしてみたり?
それに、第三者が聞いた内容を照らし合わせてそこに誤差ができたら?間違いなくどれも疑ってしまう。それが必要性のものであるなら情報を細かく絞り出すけど、恋愛なんてその時の話題にしかならない。たくさんあるなかのどれかなんだろうな、としか考えないよ。
ウェルターさんは面食らったように私を見て驚いていた。まさか、私が言い返さないと思ってた?お生憎さま。この口は我慢ができなくなったら言い返しちゃうんだ。
「親を信用してない、って聞こえるぞ?」
そう来ましたか。別にそんな感じで言ったわけじゃないんだけどな。
「信用してますよ。私は別の角度から物語を聞きたいだけです。本人たちのを聞いたらそれで満足してしまいますから、答えあわせは後にしたいのです。色々な情報を得てからの答え合わせの方が楽しそうじゃありませんか」
「俺にはできない考え方だ。楽したいな」
「それがウェルターさんなんですから、それでいいじゃないですか。みんな一緒なら気持ち悪いですよ」
もう、と頬を膨らませて見せればまるで自分の娘でも見るような優しそうな眼で私の頭を撫でてくれた。驚いて見せれば笑みを浮かべて「あの人の子だ」と言う。
その“ あの人 ”とは誰なのか、なんとなくではお母様ではないかと思う。お父様だったら親しい感じで言いそうだし。
そんな事をしていたら案内してくれる魔法師が来てしまったみたいなので私は両親の話が聞けなくて少し残念に思いながらウェルターさんと別れた。ちゃんと、今度お話ししてくれるって言うので念押しして約束をつけておいた。逢えるのかも、微妙だけどね。
案内に来てくれたのはこの前わざわざ説明してくれた眼鏡の似合うお兄さん。十進魔法師の一人だからウィル様かな。今日も眼鏡が似合うお兄さんで、歩調まで合わせてくれる優しいお兄さんです!案内は後ろをついていくだけで空しいものだけどね!
玄関ホールを少し進んで左のトンネルへ。うん。トンネル。長さはさほどないけど、私から見れば真っ暗なので躊躇ってしまったのは言うまでもない。
ウィル様は不審に振り返ってくれるけど、声はかけてくれない。ぱっと見、向こう側まで3メートクター。この距離がまた微妙である。
見えない事はない。ただ、壁が見えない。向こうの光りはあるけど凄くボヤけて見えるというだけで、足元なんかも見えない。それがなんだか恐怖に思えた。それに………………あの隅にあるもの、なんどろう、ね。
白い点が二つ、魔力なのかキラリと少しだけ輝いていてなんだか見られているようでさらに怖くなる。
「何かありましたか?」
「………………あの、」
言って、いいんだよね?これからこの魔法院に通うのであれば、眼はいつかぶつかる壁だし、このよく分からないものも見なくてはならない。でもこのトンネルはほんの少し歩くだけで動作もないほど遠くはない。言うべき?隠しておくべき?困るのは私だけ。どれが正しいんだろう。
「何かあるなら言ってもらえないだろうか?黙っていられるとこちらは対処できません」
ええい。言ってしまえ。ひどい扱いを受ける厄介さではないはずだよ!
「すみません。この道では回りが見えないほど暗いのです。ここしか道はないのですか?それになんだか怖いです」
「怖い?魔法院―――若魔法師はここしか通れない仕組みです。回りが見えないとはどういう意味なんでしょう?見えなくて怖いのですか?暗いと言うのもわからない」
「私の眼は白と黒しか色を表しません。この通路の暗さではいくら向こうが明るくても、足元も分からないですし、上の部分が一部だけ光っていて怖いのです」
あれ、なんだか本当に怖くなってきた。うん。怖いから、できたら足元を照らしてくれるとありがたい。それなら歩けるし、あの2個の光りも気にしなくてすむ。
しかし、考えるように顎に手を当てたウィル様は「あ」と声を出して入り口まで戻り、ここに待つように言われた。私は所在なさげに出口で待つしかない。
こんな小さな私を残していくなんて、どういう事でしょうね?数少ない行き行く人がチラリと私を見ていく。気にしすぎかな。なんだか先が思いやられるよ。
しばらく待ってもウィル様はこないし。待ってたら子どもを連れた別の魔法師が来てしまった。なんだか首を捻りながら近づいてくる。
「失礼。貴方はここで何をしていらっしゃるのでしょう?」
一応?身なりで貴族とは思ってくれたのかな?眼は完全に疑っているけど、言葉は丁寧だ。私は傍にいる子どもを見てからここに来たのなら行き先は一緒なんだろうなと思いつつ素直に答えた。
「魔法院へ行きたいのですが、私にはこの先が暗く、何か光っていて恐くて入れないのです。一緒にいた魔法師様は何か考えながら待っているようにと告げて先に行かれました」
「光って?暗いかな?確かここは何もないはず………」
「そう、ですか?暗いですし上の部分に2個ほど光るものがあるんですが………」
「んー?暗いか?光りは………私には見えない。連れの魔法師はどんな人か、言えるだろうか?」
「ウィル・アスナー八進魔法師様です」
答えたら納得したような顔で頷かれた。そしてなぜかこの人たちも待ってくれると言う意味不明な展開。
魔法師様を挟んで待つ子ども二人。回りからどう思われるのだろうか………さっきより見る人が増えた気がしたのは、きっと私の気にしすぎが原因なんだろうと思っておいた。




