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もう、疲れたよ

改訂いたしました。27.5.10

 双子ちゃん王子に止められた私の顔はまさに不安そうな顔であったらしい。突然に登場してきて貴婦人はとても穏やかな微笑みを浮かべて近づいてきた。そのままでいいと優しい声色で言ってくれる。


 私から見てその人は―――なんと言いますか、光ってます。キラキラと光りを纏いながら。いや、服とか雰囲気が、とかの意味じゃなくて。魔法を使っているのか全体がキラキラとしています。


 陛下ほどの強い魔力ではないのだけど、細かいキラキラが体全体に纏まり着いて輝いている。少しだけ見にくいけど、キラキラの隙間から覗く姿はおっとりしたお婆ちゃん。


 前髪は長いのか、緩く中央に丸みの円を描かせて左に流れるように髪を一つにまとめ、それをまた緩く編み込まれて左肩に流している。とても緩く編んでいるそれはグレー。所々に少しだけ濃いめのグレーが混じっていて、さらに魔力のキラキラが相まって髪の毛一つでアートが出来上がっていた。黄色?に、赤のメッシュ入りかな?


 優しくこちらを見る瞳は濃いけどグレー。それは赤と思わせるほど私に深く印象を与える。とても暖かい色の、赤。微笑みは絶えず、ゆったりふわふわと広がる淡い系の白っぽいドレスを揺らして近づいてきた。


「まあ。アーグラムが惚れるのも無理ないわね。とても可愛らしい娘さんだわ」


「お婆様、もう時間になっていましたか?」


 訪ねたのはアーグラム王子。もう時間ってなんですか?そういえば私はここへ何しに来たんだっけ………


 ローグラム王子なんかはうっかり、みたいな顔で両手を鳴ならしている。私もうっかりはよくやるけど、ローグラム王子がやると胡散臭く見えるのは何故だろうか?


「早く紹介するように言われてたんだった」


 おぉおい。アーグラム王子がビックリしてるじゃんか!


「部屋で待っていたのですよ?それでいつまでも報せが来ないので出向いてしまったの。遅いわ。早く逢いたいと言ったのに、ひどいではありませんか」


「すみません。こちらとて、また未開な問題に遭遇してしまって………」


「あら?それならわたくしも相談に乗りますよ」


 ゆったりとした口調でそう言って、また優しい微笑みで笑う………お婆ちゃん。レーバレンス様がすかさずエスコートに出て双子ちゃん王子が言うお婆様の手を取り、ソファーに座らせていた。レーバレンス様はそのままソファーの後ろで立っているようで、左手を後ろに隠して直立不動に止まった。扉をよく見れば、騎士が一人ほど増えている。


 てかね、私が思うに、王子が『お婆様』なんて言う事はこの国で言えば王妃様だと思うんだ。お祖父様は陛下だし………………他の側室は陛下が追い出して、一身に陛下の寵愛を受けたお方。その一途な陛下の姿勢に民が観劇すら作るほど称えられてる。


 ―――と、言う事は?私の目の前には王妃様がいるわけで………とてつもなく、私が場間違いだと思わされる訳でして………………逃げようがないのでなるべく黙っていようと思う。


「それで?何が困ってしまったのかしら?」


「お婆様、その前に紹介させてください。私が選んだ婚約者、クロムフィーア・フォン・アーガスト伯爵令嬢です」


 黙らせてくれないのかっ。王妃相手にこれを無言で終わらせるわけにはいかない。しかたなく頭を垂れて挨拶をする。


「ご紹介に預かりました、グレストフ一進魔法師の娘、クロムフィーア・フォン・アーガストでございます。王妃様に」


「駄目よ?私の事はお婆様と呼んでちょうだいな」


 今、何を言われましたかな?被せるように遮る声はゆったりと黙らされる。思わず顔をあげて凝視してしまった。まだマナーとしてちゃんと出来ていないが、本当なら無闇に身分の高い貴族とは眼を会わせてはいけない。でも、あまりにもフレンドリーな物言いを言われて我が眼を疑ってしまったのだ。


 見ると王妃様はくすくすと笑いを浮かべて私を見ている。なんだか「お婆様」と呼ばないと先に進めないよ、と言う空気が流れている気がしたけど………………あえて私は避けるのです!!王族とそこまで深く関わったら面倒そうだもの!もう遅い気はするけどねっ!


「お許しください。私はまだ認定式を終えたばかりの中流貴族の娘です。アーガストと名乗る以上、無礼は出来ません」


「あらあらふふふ。アーグラムはいい婚約者を見つけたようですね」


「はい。クロムフィーアには早く会いたかったぐらいです」


 早くあってたら5歳頃になるのかな?その頃は頻繁に私の顔を見に来ていた頃だから、お父様の騒がしいモーションを直に受けて大変な目に会うと思うんだけど………


 あえて言わないのは出来ないと分かっているから。私がとやかく言う事ではないでしょう。だって、双子ちゃん王子と王妃様はとても楽しそうに笑っているから。こんなところで水を差すべきじゃない。


 ところで………王妃様は待っていたみたいだけど、私は用事なんてないよね?じゃあいっその事、レーバレンス様を引っ張って帰りたいんだけど………どうやら王妃様には筒抜けらしい。私の顔をはっきりと見て笑みを深めた。でも穏やかな笑み。さすがですね。


「帰ったら駄目よ?貴方のドレスを作るんですもの。採寸しなきゃ作れないでしょう?」


 ………………………………そう言えばそんな話が!?すっかり忘れていたよ!!


 またまた顔に出ていたらしい。王妃様がころころと笑って双子ちゃん王子からブーイングをもらってしまった。ごめんなさい。本当に忘れていたわ。


 式典の時はどうするんだろうばかり考えていたよ!そのおかげでもう一つの目的も綺麗さっぱり忘れていました!


 よほど私の反応が楽しいらしい。手に持っていた扇で口元を隠すように笑う王妃様。とってもいいお婆ちゃんで、癒されるのは私だけではないはず。恥ずかしいけどっ。


「それで?問題はなにかしら?私に分かるといいのだけれど」


 首をかしげて聞く王妃様がなんだか可愛いお婆ちゃんです。失礼ですけどマジで可愛い!動作も口調も雰囲気もゆったりとしていて田舎の優しいお婆ちゃんみたい。相手は王妃様だと分かっているけど、思わずにはいられない。


 なんだか重々しい想像していたのに、毒気?を抜かされた気分で双子ちゃん王子の説明を聞きながら私はそんな事を思う。


 そして王妃様はまたにっこりと優しい微笑みで扇を、これまた優しく閉じて言ってくれました。素敵な爆弾をお持ちですねっ!


「愛があれば見分けられるわ」




 そう来たか!




 まさかの検討違いフルスイング!変化球まがいのドストレートに思わずレーバレンス様を見たのは気のせいではありません!助けを求めるには視線だけでも出来るのですっ!


 愛とか言われても分かるわけがないっ。ここは一時撤退の要請をお願いします!!そこ、納得しないで、アーグラム王子!!そっち、沈黙は肯定って言葉があるのだよ!黙ってないでからかいの一つでもいれてっローグラム王子っ!なにか喋って!!


 しかし、残念ながら王妃様は名案とばかりに言い退けてこの話を打ち切られてしまった………ご本人様は大変ご満足のようで、結局は私の手を引いて控えていたこれまた派手な貴婦人とアクセントが濃い貴婦人2名のもとに、連れさられてあれよあれよと体の採寸を。手を休めることなくばばば!とやり遂げてポメアの手に渡った。あの恍惚の顔はいかに。


 そこからポメアと王宮侍女様たちの手によって私はモルモットのように使ってポメアの侍女教育が始まる。大体7歳から柔らかい子ども用のコルセットを付けさせられるのだが、付け方にコツがあるとかなんとかでもみくちゃに。


 とくに王宮侍女たちは久しぶりの女の子の身支度を整えられると歓喜に私で遊んでいた。あれがいいこれがいい、いや、こっちも捨てがたいと皆がきゃっきゃっと喜んで私はぐったりである。因みに私が「少し落ち着いたドレスを」と言ってみたら口出しできぬほどに言い負かされて大人しく着せ替え人形となった………畳みかけられた大人しくするのが常識です。


 出来上がった姿を姿見で見せてもらったけど………すごい、につきる。


 上質な布で出来たドレスはとても柔らかくてずっと触っていたくなるような肌触り。なんとなくどこかで触った事があるような気がするが、触るたびにほっこりしてしまうのですぐにその気持ちは消えていった。


 色は私には珍しい白のあしらい。薄い翡翠の髪に青が似合うと聞いたのだけど、私が身に付けているドレスは何となくピンクとかなんじゃないかと思われます。淡い、ピンク。袖口が広くてフリルたっぷりのひらひらだ。スカートも何重にも重ねてあり、重くないのが不思議。内側になるほど生地の色が濃くなっていた。


 髪は私が一生懸命に伸ばした肩甲骨の長さをハーフアップで留めているが、ハーフアップの部分が編み込みに団子にどこから出てきたのか分からない輪っかの装飾品が飾られていてもう何がなんだか。宝石?羽?この輪っか、なに?まったく装飾品がわかりませんでしたっ。豪華だね!しかわからないっ。


 ポメアがそりゃあもうとろけそうな顔で私を見ては何度も頷いて先輩侍女たちにお礼をいっていた。私としてはやりすぎでは、と思う。そしてこれはどうすれば………………


 そこでまたタイミングよく入ってきた、にこやかに登場の王妃様に連れられて元の部屋に戻ればお披露目で―――双子ちゃん王子の顔色がおかしくなった。薄いグレー。こうやってみたら顔色は物凄く悪いね。赤面ですか。おめかしの威力ってすごい。


 近づこうとすればアーグラム王子に拒絶されちゃうし、視線をさ迷わせてローグラム王子に眼を止めれば顔を思いっきり背けられた。


 そんな双子ちゃん王子を見て王妃様がくすくすと笑えば双子ちゃん王子が猛抗議。矢継ぎ早しに言うものだからほとんどが聞き取れない。珍しく乱れた双子ちゃんだった。解せぬ。


「今日は帰りますね」


「あらあら。姫を怒らせるなんて、貴方たちもまだまだねえ」


「ち、違うんだ!!ほらっ、滅多に見られるものではないからどうしたらいいのか分からなくなり反応に困るだけであって!!」


「アーグラム!落ち着け!それじゃあ何を言っているのか意味がわからないぞっ」


「………落ち着いてくださいますか?」


 一言、声をかければアーグラム王子がさらに訳のわからない事を言い始めて収集がつかなくなった。微笑ましく笑っているだけの王妃様がやけに楽しんでいるように見える。


 その後は双子ちゃん王子が疲れきって顔もあげられない状態になってしまったので、大人しく帰る事に。もちろん着替えましたよ。アーグラム王子がさらに沈んでいた気がするけど。知らんがな。


 今日はもう疲れたのでレーバレンス様も引き連れて王宮をあとにする。あ、もちろん私は騎士様に運搬されてます。レーバレンス様の歩調についていけなかったし、なにより半分も満たないところでへばってしまうため。早々に荷物よろしくされました。はい。


 戻った後も戻ったあとで大変で、偶然にも出会ったお父様が私の姿を見て「可愛い!!さすが私の娘だ!!」といつもの変わらない姿でも絶賛してくれちゃったおかげで注目の的に。お父様を押さえるにも私一人では到底敵わなくて、レーバレンス様に丸投げしようとしたらすでに姿を消してで泣けたっ。ポメアは未だに満足した笑顔で私を見ないで!!


 そのまま抱き上げて魔法棟を一周した時はさすがに顔に能面が張り付いた。いくらなんでもこれは耐えられない。顔を隠すとは言っていたけど、今度の成人の儀でこんな感じに晒されるんだなぁとか思うと表情なんて作れる気がしなかった。練習にもなんないよっ!


 そしてそのまま家に帰ればもう魔法棟一周が耳に入ってたらしいお兄様が哀れんだ目で私を見つめ、化粧が施されていた(らしい。いつの間に………?)私の姿を恨めしそうにお姉様に睨まれ、楽しそうにお母様の元へ私は献上された。そうか、このお父様のはっちゃけっぷりは化粧のせいだったのか………


 もう7歳で私は赤ん坊より断然大きくなっている。それなのに意図も容易く私を抱き上げるお母様に驚くしかない。


 そのまま庭に出て花と私を愛でては今度はお父様とラブラブっぷりを見せられもう口から砂が出そうになった。滅多に見せないくせに今日は喜びのあまりか、目の前で軽くキスを交わされたら私の居心地は悪いでしょうにっ!


 ははは。うふふ。とか聞こえないっ。もう勘弁してください!!




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