ただいまと準備
改訂いたしました。27.5.10
帰ってきた我が家。お父様に背中を押されて入った瞬間に私の視界は少しだけ歪んだ。もともと我慢していたからだと思う。
お父様が先に連絡を入れてくれたみたいで、玄関ホールで家族と家臣が勢揃いで私を迎えてくれた。女性陣はみんな口をきゅっと結んで片手にハンカチのような布切れを手に待っている。
「ただいま、戻りましたっ」
それだけを言葉にすれば待っていましたと言わんばかりにお母様が飛び込んできた。締め上げるんじゃないのか、と言うくらい私の体に腕を回して抱き締めてくれる。
耳元で「よかったわ」「心配したわ」としきりに言って離さないよう強く腕は回されたまま。痛いな、とは思ったけどこれが愛情だと思うと逆に私も強く抱き締めて。―――不安なんて、ない。
ひとしきり抱き締めてもらった後はお兄様とお姉様。お兄様はアーグラム王子より少し高くて、体格か少しがっちりしてきた。遠慮のない固い手のひらで私の涙を拭って鼻まで拭いてもらって頭を撫でてくれる。できたお兄様だ。
お姉様は緩やかに髪をサイドに編みこんで涙かバレないようにか、髪の毛で顔を隠したり手元のハンカチでそっと視界を被せたりしていた。眼をあわせようとしないけど、お姉様も心配したといっぱい口にしてくれて、ずっと手を握ってくれた。
その波が終われば今度は屋敷に滞在している家臣たち。長く勤めているダリスさんを始めにジェルエさんたちが順番に声をかけてくれた。
なんでも今回の誘拐はアーガスト家の中で一番、酷いやり方だって。いつもなら正体不明の贈り物や無作法の訪問に息子を使った遠回しの嫌がらせばかりだった。こんな脅しや誘拐までは始めてでみんなから寿命が縮まったと言われてしまった。
個人的にはダリスさんやジェルエさんの寿命が縮まってしまっては困るので私から抱きついておく事にする。本当は貴族の娘と家臣が抱きつくなんてあり得ないんだけどね。変な事になっちゃうから。
でも今回は特別なんだよ。心配させちゃったから。私はここにいるんだよ。その心配をなくすために抱きついているの。
「クロムフィーアお嬢様っ」
「ポメア、ただいま」
「おっ、おかえり、なさいっませ!!」
ポメアにはいっぱい心配させちゃったからね。泣き出してしまった彼女のためにも背中を少しだけさすってあげる。そうすれば―――さらの泣き出しちゃった。
ジェルエさんが声をかけるまで一番泣いていたポメアは私の準備がすべて終わるまでそれは続いていて、ジェルエさんが苦笑い。
眼を腫らしながら寝る挨拶をしてくれたポメアは最後に私の許しがあるならば一生をかけてお仕えしたいと、膝まづいて私の両手を握り―――それを額に当てて言ってくれた。これは従者が主に尽くす最高の忠誠の証である。
町で出会って一年ぐらいしか一緒に過ごしていないし、私はそこまで大した人間ではないのに………ポメアの中で私は聖人様のごとく敬ってくれる。なら、少しでも私が答えられるように立派に育たなくちゃね。私も心を決めて笑顔でそれを受け入れた。新たな決意にまた泣きそう。
ようやく帰ってきた私の部屋にはあのヌイグルミたち。色は分からないけど、白から順に黒になるよう並べた配置は変わっておらず、私を迎え入れる。
子どもじゃないけど、今は子どものままでいたい。
きっとまだ寂しくて心細い私はお気に入りのポーテのヌイグルミを抱き抱えて一緒に寝た。このさわり心地にうっとりしながら眠る夜はあの固い木製ベッドより断然いいとため息が。それに前世はこんな柔らかすぎるベッドじゃないから、余計に身が沈んでいく。眠りにつくのなんてあっと言うまだった。
「手続きは以上になります。何かご質問は?」
「ありません」
「では、魔法院の説明を少しだけお話ししたいと思います」
「お願いします」
目のに眼鏡が似合いすぎるお兄さんに軽くお辞儀して説明を聞いた。
昨日の出来事から3日すぎた今日、私が正式に魔法院へ入学するための手続きが行われています。双子ちゃん王子の理由もあるけど正式な理由はもちろん、私の魔力が多いから。魔力が見えるから。が理由。
そんな特殊な子どもは早めに入学させて魔法を学ばせるのが基本らしい。主に制御の仕方とか。まあ言うなら魔力操作なんだけどね。
あと、私は魔病のためでもある。出来るだけ知っている人を傍に置いておきたいのだとか。この本当の理由はアーグラム王子のためだなんてことはない。あんな事を言っていたけど基本は無関係だって。お父様が言うには。
知っているのは陛下とか宰相様とか―――お父様たちしか知らない。本当に隠し通すらしいね。これは期待しておこうっと。
まあ、魔病について知っているのは認定式に携わった先生とレーバレンス様ともう一人の魔法師様。加えて中にいた護衛騎士。それと家族は知ってるし陛下はもちろん、宰相様に双子ちゃん王子も知っているのでなるべく城で過ごして緊急に備えた。のも本音だと思うね。私はいつ、倒れるか分からないからね。抑制魔法具は付けるけど。
魔病と眼についてはなんで黙っていたのか、散々と怒られたよ。とくにお兄様に………お母様も黙ったまま微笑んでいたから絶対に怒っていると思う。
お兄様がなぜあんなに怒っていたのかは私が色々と相談していたから。しかも「もしかしたら」と話していた魔病が本当で、さらにはいつ発症してもおかしくない状況だった事に空気が冷たくなっていた。イケメンを怒らせてはいけないよっ!
しかも眼に魔塊を持っていて視界は白黒で………と言うさらに病気が発覚したのだから家の中は荒れ狂う阿鼻叫喚とすさまじかった。原因である私は家族に囲まれて縮こまるしかなかったもので………こってり説教を。な、泣かなかったよ!
お姉様はただ、無言で怒ってた。お母様が微笑んで怒りを表すならお姉様は怒りをそのまま表すタイプらしい。終始、怒ったまま最後は力任せの抱擁で去っていかれました………………みんな、恐かった………お父様が怒ってたらどうなっていたんだろうね………………そう言えばお父様が怒っているところを見たことがないかも?
そして、アーグラム王子。ぶっちゃけて王子だから城から出られない。だから、会えるチャンスがほしいそうで………私は魔法院の日帰り時のタイミングを見計らって会いに来る事に決まっていた。うん。決まってました。お父様がよくわからずにポロリと言って下さいました。どうしてそうなった。回避はできるんでしょうか?
結局、お城に着いちゃったからそれ以上は聞けなくて手続きをしているんだけどね。この眼鏡が似合いすぎるお兄さんに。
眼鏡が似合いすぎるお兄さんの名前はウィル・アスナー八進魔法師様。土属性の魔法師で、お父様と同じ十進魔法師の八の席の人。
まさにインテリ系の顔立ちはやっぱりイケメンで少しだけ長いかな、と思われる髪色は私から見て濃いめの黒より。瞳は薄目の白です。答えは赤褐色の髪に水色。お父様がこっそり教えてくれる。普通は分からないもんなんだけどね。
「魔法棟には大きくわけて3つの機関があります。一つは、魔法院。これは10歳からですが特例があり、クロムフィーア嬢のように特殊な方からも認定式を終えた子どもなら機関に入れます。ここでは魔法に未熟な子どもをだいたい成人まで。魔法、魔術の学問や実技を反復させ学ばせます」
「私のような早く来た子どもも一緒に教わるのですか?」
「そうです。一番低い学年と一緒になって学ぶ事になりますね………ただ、“ 特殊 ”な方が早めに入ると言うことなので問題がありそうならば個別と言う場合もあります」
あー………個別の方が楽なんだけどなー。あ、コミュ障ではないよ?ただこの前の件でじゃっかん人と関わるのが面倒だな、て。
思っていたら、お父様の先手必勝。
「クフィーは大丈夫だと思って一緒にしておいたから!大丈夫だ!!抑制魔法具があれば魔力の暴走なんて起こらない。何かが起こってもお父様が駆けつけるから安心しているんだよ!!」
との事で。悩みなんて一瞬にして解決さっ。お父様の馬鹿っ!でもお仕事もあるだろうからやんわりと断っておく。聞いちゃいないが。
「抑制魔法具を付けなくてはいけないのですか?」
そして眼鏡が似合いすぎるお兄さんが食いついて来た!!なんでそこで食いつくんだよ!と言う眼で訴えたら真面目な顔で「対処は最初からしておくものですからね」と諭された………
なんかね、お兄さんもお父様も勝手に進めてくれてもいいよ?私は何も―――やっぱり気になったら口にするよ。
さらっと魔病の事を隣から説明されているけど、それって大事にならないのかな?てか私とあの魔法師たちとの下名制約の権限どこいった。とか思っていたら眼鏡が似合いすぎるお兄さんの、眼の方が光ったような気がする。
気のせいかな、と思っていたらすっごい見られてる。困ったもんだ。お父様も笑いながら「今は伏せておいてくれ。お前が知っておくに越した事はないだろう?」ってさ。お父様は大雑把だ。きっと血液型はO型に違いない。
「失礼。説明の途中でしたね。機関はあと二つありまして、魔法廊と魔法場。魔法場は一般的に『魔法師』が出入りする場所で資料管理や訓練所、それに十進魔法師たちや上級魔法師の各個人部屋が設置されています。魔法場はこの城の魔法師の玄関とも言える場所でしょう。魔法廊は長い通路だと思ってください。そこに各部屋に繋がっていて、主に魔術師と魔学医が携わっているところです。これらをまとめて、私たちは魔法棟と呼んでます」
「クフィーが七日後に入るのか………待ち遠しいな」
私たちはお父様を華麗にスルーして話を進めます。眼鏡が似合いすぎるお兄さん………長いな。ウィル様に眼を会わせれば心得たように説明に入ってくれた。理解にありがとう。
「これは魔法院に入ったらもう一度説明されると思いますが、聞きますか?」
「はい」
「では。魔法師には騎士と同じで階級があります。まずクロムフィーア嬢が魔法院に入れば貴方は『若魔法師』。まだ青臭い若者と言う意味です。次に成人を迎え、魔法院を卒業した『若魔法師』を『見習い魔法師』と呼びます。これでようやく魔法師として仕事ができるわけです。それから実績を積んで下級、中級、上級魔法師となり、最後に一人前として『魔法師』と呼ばれるんです。『魔法師』となれば一人で責任を負うのですが、他の階級魔法師は二人組の行動が原則です」
ほー。となると魔法師って呼べる人って少ないのかな?それで私は『若魔法師』ですか。なんか若い魔法師と勘違いしそう。
「………………………………それと十進魔法師ですが、これは魔法師として一番の名誉で、魔法師が陛下に向ける忠誠心によって自ら決められるので、どうやってなれるのかはお答え出来ません。えーと、そう。十進魔法師は十人からなる魔法師の陛下近衛で、“ 席 ”と数えるのは魔法陣の円陣から来ていますね。そこから円陣は丸いので円卓となり“ 席 ”と数えるんです。一の席は貴方の父君で、言わば特効隊長として有名なんですよ。しかも、魔法師の筆頭で一番偉いですね」
ごめんね、ウィル様………なんで十進魔法師の説明が入ってきたのかと思った隣のお父様がものすごい形相でウィル様を威嚇してた。いきなり入るし視線までさ迷わせての説明だからどうしたのか聞きたかったけど………
そりゃあお父様がガン飛ばしてお父様すごいんだよアピールを押し付けられたら、目線なんて泳ぐよね。視界に入れちゃいけないから必死に違うところを探してさ。
ウィル様が「すごいんですよ」と言えばお父様が満面の笑みで私を見て待機してます。もう、雰囲気が「お父様は凄いでしょ?」って言っている。そもそも顔がそう言ってる。「お父様、すごいの?きゃー」と言ってほしいコール、だね?すごく分かりやすい。
別に言わなくてもいいけどここで蹴飛ばしたらわざわざ説明したウィル様の面目が潰れると言うやつでして―――可哀想だから私も笑みに花を飛ばす勢いでお父様を褒め持ち上げた。うん。娘って大変だね。
お父様は上機嫌で花が飛んでるように見えるよ。これはあれだよね?上機嫌でデレッデレの時に出す花だよね?馬鹿になっちゃった花ならむしりとるからね?
「ウィル八進魔法師様。ご説明等、色々とありがとうございました。………………とくに十進魔法師の説明は痛み入ります」
「クフィー!?どこか痛いのかい!?午後の用事はなしにして帰ろうかっ!?」
「よくある事ですのでお気になさらず。偉大な父を持つと大変ですね。それでは、魔法院に在籍を心よりお待ち申し上げます」
すっ、と立って優雅な一例で去っていかれたウィル様。さすがお兄さんです。ものすごい早足で去っていかれました。きっとお父様から逃げたに違いないよ。だって『よくある事ですので』って。お父様、何してるの?
よくある事だから関わらないように遠ざかったんでしょ?あれ。勘違いだといいんだけど―――スルーはお手のものだったもんね。き、気にしないでおこうかな。
本当、お父様の偉大はどこに雲隠れしちゃったんだろう………未だに心配してくれるお父様は怖いくらいに慌ててる。まあ、誘拐があった後だからね。しばらくは何かあるたびにこうなるのかな?
次はレーバレンス様の所に行く用事だからお父様の手を握って宥めながら向かう。ついでに「大丈夫です」と「お父様が守ってくれるから云々」で落ち着かせて、移動。注目を浴びているようだけどこれは気にしない方向で。お父様が暴れた方が余計に注目をあびるもん。
まだ半日しか経っていないのにもう疲れちゃったよ。レーバレンス様の所に着いたらお茶をもらおう。それで、用事を済ませたら疲れたを理由にさっさと帰ろう。
そう帰る算段を企ててまっすぐレーバレンス様の元へ向かう。ついでにご飯はでるかな、なんて考えてしまった私は決して食いしん坊ではないはず。そんな思考に軽く頭を振って逃がしたらお父様に心配されて逆戻り。
またもや私は歩きながら宥めて向かうのだけど―――この時、お城のメイドさんが微笑ましそうに私たちを見ていたなんて、知るよしもない。




