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熱意にやられて

この小説に出てくる恋愛フラグはへし折るためにあります。あれ?と思われましても、全力でへし折ります。悪しからず!

改訂いたしました。27.5.9

 全力で駆け出しました。私の全力です。ええ、慎みとはなんだろうか、と聞かれるくらい大股でかけて走りましたとも。


 スカートはさすがに持ち上げなかったけど、邪魔なスカートの前を蹴飛ばすように駆けた私は貴族とは言えないだろうね。遠ざかるのに必死でしたから。


「まあ、見てて思ったんだけどさ、まさか………………こんなに遅いとは思わなかった。目を疑ったよ」


 それ、私も思ってます。


 追いかけてきた………………えー、んー?なんとなく濃いからアーグラム王子、かな。に、捕まって数分。廊下を曲がろうとした矢先で捕まりました。本当に速い。


 そして私はぜっはぜはと肩で息をして踞ってます。まさかこんな距離を走っただけで疲れようとはっ。距離からして100メートクターぐらいしかないよっ!捕まるの早すぎるよ!!


 日頃からだらだらしてたのが仇にあったかっ。


 掴まれている腕から伝わる指は剣を握っているせいか固い。まるでお兄様ような指。そう考えると王子たちは剣の訓練を受けていると言うわけで―――運動をまったくしていない私と、鍛え抜かれた王子とまず土台が違いすぎてすでに負けていた。しかも体格と言うなの足の長さがまったく違う。


 私の身長は少し小さめ。お父様が180越えとするならば王子たちは160は、ある。対して私はまだ120ぐらいと小さいのだ。この40センクター差は実に大きいでしょう。


 あそこで「大嫌い」と叫んで駆け出したのに、アホみたいに近くで捕まってしまうこの空しさっ!ちょっと泣けてくるものがある。


 しかし、ここですぐに帰っていく訳にはいかないのだよ!体裁的に出てすぐ戻ってくるとか恥ずかしいからね!


 そこはわかってくれたのか、はたまた私の息が整うのを待ってくれたのか。掴んだ腕は離さなかったけど待ってくれた。強引ではないらしい。


「大丈夫か?」


「っ………もうちょっと、待って………下さい」


 まだ息が整っていないよ!見ればわかるでしょっ!!本当は走ったら少し歩いて呼吸を整えた方がいい。その方が自然と整うし、早く戻る。


 しかし、残念な事に捕まっているので整う息は完全ではない。喉、痛い。こんなに走ったの久しぶりかも。前世でこんなに走ったのはいつが最後だったかな………


「動くなよ?」


「っ!?」


 ―――いや、動けないよ………………


 何をするのかと思いきや持ち上げられました。それは乙女が声を揃えてやっとほしいと願う姫抱っこ………………私をどうしたい。彼はそのまま歩き出して進んでいく。お父様たちがいる食堂ではないらしい。どこいくのかな?


 怖いので胸元の襟を軽く掴んでおいた。本当は首にでも回したいところだけど―――如何せん。腕が短いのでそんな事をしたら完全に抱きつく形になる。それは避けた方がいいと思う。


 しかし、再び顔が薄いグレーへと早変わりな王子様。なんと分かりやすい。貴方はアーグラム王子で決定だね!本当にそっくりで分かんないよ。


 そしてさ迷う視線は定まらず、明後日の方を向いて歩いている。転けないか、すごく心配です。


 しばらく無言で連れてきて下さったのはまあ、庭かな?て事はこれが王宮庭園………………白黒が怨めしいっ。


 まだまだ進むアーグラム王子はそのまま突き進む模様。はて、どこに行かれるのですか。ランデブーは止めて下さいね?そんなまさかな夢物語だけど。


「少し、話をしようと思う。ここはよく母上が物見する場所だ」


 そう言って植木の隙間を通った先は………………花畑。白にグレーに黒と見える花はきっと多種類と存在する。ここは風がよく抜けるのか、そよそよとゆっくり、花の波が見えた。


 その地面にゆっくりと下ろされた私の息はすでに整っている。もちろん、目線は花。色はわからないけど形はとても綺麗で甘い匂いを漂わせている。


 花に眼を奪われている間、アーグラム王子は何も言わない。私が言うなとも言ってないし、本人が言おうとしないからか。その場が静寂に包まれる。


 一つの花弁に指をはわせれば滑らかな触り心地。何度でも触りたくなるそれはユリの花。この世界では、ユーリリー。白が多いみたいでよく花嫁の飾りに使われるらしい。花言葉、なんだっけな。


「先程の、事なんだが………」


 そんな静寂を破るのはアーグラム王子。目線を合わせれば緊張した、少し強張った顔で私を見ている。きゅっと握っている手は力強く握ってるせいか、白い。


「わっ、私はお前に!ひっ、一目惚れしたんだ!だからっ―――嫌いと言わずに、婚約の話を………考えて………くれない、だろうか………………」


「………………え?」


 予想外。それしか浮かばない。


 最初は強めに来たと思えば最後は実に弱々しく尻すぼみしていたが、言い終わった顔は薄いグレーから濃いめのグレーに変化していた。


 これはさすがに私でもわかる。一目惚れしました、と言われて顔色が変化したなんて一つしか思い浮かばない。つまり、彼は赤面しているわけで………


 先程の、と言われて私は瞬時に説明なしにごめんね、婚約者の役をやってほしかったんだ。と言うものだと思っていた。


 まず、王子と私は一度しか出逢っていない。接点は皆無に等しい。一目惚れ………それが何度も私の頭に木霊と一緒に鳴り響く。


 出会った時は?私、5歳。アーグラム王子、たぶん13歳。なんとか取り繕った顔をしていたとしか記憶にない。王子の顔は面倒、と書いてあったはず。


 その出逢いに一目で惚れる要素はあっただろうか………一目惚れをそこまで考えた事がないので私の脳内は大変、激しく議論を立てている。


 しかし、黙っているわけにはいかないので、まったくと言っていいほど解決に結び付かない議論を止めて聞いてみることにした。これは、確かめるためであって、拒絶ではない。あれ、なんで断ろうとしないのかな、私。恋愛経験が浅すぎて好奇心が勝ったか………?


「どこを見て言っているのですか?私はアーグラム王子と8つも違います。一目で惚れる要素がわかりません」


「―――その、初めてあった時は小さくて可愛くて、だな………懸命に虚勢を張る姿が頼りなくて………………初めて守りたいと、思った 」


 声が小さくなる一方で、しっかり私と目線を合わせたアーグラム王子は一つ一つをゆっくり話していく。


 小さくて可愛いと言われた時は小動物が好きなのか、とか。懸命に虚勢を張る姿と耳にすればもう小動物説が強くなる。疑うように見てしまったのは、しょうがないじゃないか。そんな事を考えていた私はふざけてるつもりはない。本当にそう思ってしまったのだ。


 続けて王子はさらに言葉をのせる。その声はだんだんとしっかりとしてきていた。


「2年間、逢える事はなかった………今日、久方ぶりにあって改めて心を………打たれたんだ。―――我が陛下を真っ直ぐに見据える力強い瞳。焦る事なく対応する姿勢。なにより………なにより、父上を見て叫ばなかったお前が、嬉しかった」


 いつの間に動いていただろうか。私の左手を握る彼の手が逃がさないように包み込んでくる。そのまま探るようにアーグラム王子を見つめるが、もう彼の表情に決意と言う一文字しか浮かんでいなかった。


 どうやら、一目惚れは本当らしい。とくに―――最後のグラムディア様の時が一番の衝撃を受けたようだ。


 彼らもこの2年で様々な姫たちにあっていたそうな。もちろん、婚姻・婚約者候補たち。未来の王妃を見据えて公爵令嬢から社交と言うなのお見合いを続けていたらしい。


 その中で自分と寄り添ってくれそうな姫を探していた。親―――陛下からの紹介もすべて受けて社交は執り行われていたけど、肝心の最後がいつも、無惨に散るのだと。


 この二人の王子は最後の条件の絶対として父親と対面させていた。理由は至極簡単なもの。王妃と据えるものなら将来性として父と対話の数は増える。王子たちも公務で父から指導を受けているので『逢わない』事はない。まだまだ父の指導は受けなくては心もとないとの事。


 王子が父親と逢うたびになんらかの理由で『逢えない』のは非常に自分の姫に対して居心地が悪くなる。不自由な父親はこの王子たちから見て眼が離せないのだ。当然、王子たちが逢わない日はない。


 それに母であるセレリュナは父のグラムディアに付きっきりが多い。姫は母であるセレリュナに、王妃の心得(グラムディアの事もあり王妃ではないが、位置付けは王妃に一番近い)などを引き継がなければならないので、必然的にグラムディア様と対面する。


 逢わないのもおかしいし、王子だけとなれば姫の役目は全うできない。それは王族としてあり得ない行為だ。姿を見せない姫の外聞はよくないだろう。


 そのために、最後は父親と対面させるのだがあの容姿は隠せない。ホラー役者顔負けの顔と体は誰が見ても一度は唾を飲みこんでしまうほどに恐ろしい。


 私は白黒なのでよく見えないと言うのが正しいが、アーグラム王子にとっては父親を見せるたびに泣き叫ぶ女性に嫌気がさしていた。少なくても気丈に振る舞う姫もいたが、結局のところ全員が自ら身を引いたと言う。そこで私。


 私なら大丈夫と言うのは外見に囚われない、普通の態度が実に好きになる要素を押さえたらしい。驚いては見てとれたが、笑い返して気遣ったのは初めてだそうだ。みなが虚勢を張るのが当たり前だったらしい。その判断基準に涙が出そうになるんだけど本人は本気です。てかアーグラム王子の恋愛基準がグラムディア様なのか………


「私は白と黒のでしか見えないのです。グラムディア様のお顔ははっきりと見ていませんよ?」


「あの至近距離で見えなかったのか?」


「見えましたけど………色はそれぞれに印象を大きく変え、与えるものです。私では印象の捉え方が薄かっただけであの反応ではないでしょうか」


「それでも、父上の体を心配して退こうとしたじゃないか。自分の方がきっと辛かっただろうに…………」


 自然な動作で私の手が持ち上げられた。それを優しい手つきで自分の額に当てる。


 これは貴族が言う、お礼の仕方だ。相手の手をとり、自分の額を会わせる。『感謝してます』という意味。貴族はそうそう頭を下げないから、これはある意味で挨拶だと言える。他には『貴方に敬意を』なども。さらに言えば様々な意味合いがある。ただ、右と左では大きく違うので注意が必要だ。


 右手が誠意、敬意を表したい時。友人や目上の人に対する行為で、ほとんどが目上の挨拶代わり。左手は恋人や夫婦。特別な相手に送るもの。この異世界で恋人や想い人と恋愛関係が多く左手に課せられている。それは誠意より好意が多く用いられております。


 つまり―――私の左手を握って額を当てているアーグラム王子は、態度で貴方に好意があり、特別な貴方だから感謝してる。と言う感じに………………


 こんな事をされて私の逃げ場がなくなったような気がするけど、忘れてはいけない。私は病を少なくても3つも患っているのだ。いくら条件を満たして好意を抱いていると言えど、いつ倒れるかわからない私を迎えるのは難しいはず。王子はどこまで未来を考えているのだろうか。


 大人たちばかりと交流が深かったから、恋愛フラグはないと思っていたけどね。異世界を満喫するため、これは折っておかなくてはいけないでしょう。現実を突きつけて逃げればいい。そうして逃げなきゃ。王族は異世界ライフに避けた方が懸命な生き方になる。


「アーグラム王子、私は」


「クロムフィーア。未来は分からない。私は王子で王族から抜け出せないだろう。君の時間はまだある。だから、今だけでも頷いてくれないだろうか」


 あれ。どうしよう。私を抑え込むような強い視線と言葉で次が出てこなくなる。私は否定しようとしてるんだよね?こんなに私は押しに弱かったかな?駄目だよ、視線を反らさなきゃ―――


「私は、クロムフィーアの病とも向き合いたい。魔病で私が出来る事なら手助けもする。見えない色は私が一つ一つ教える」


「アーグラム王子、待って下さい」


 駄目だ。これ以上を聞いてしまうと、深みにはまってしまう―――そんな危険がよぎって私は目の前の王子を黙らせようとした。


 右手で彼の口を塞ごうと持ち上げて………簡単に、その右手も繋がれてしまう。まだ王子は私の制止も聞こえず、伝えたい事があるらしい。その唇から、止めどなく彼の愛情が溢れた。


「私はクロムフィーアに世界の、様々な色彩を一つ一つの物を一緒に見てそれを私が伝えたい。伝えたものを、一つでも一緒に共有したい。好きになれないなら私に時間をくれないか。今は形だけでも、隣いてくれるだけでも構わない。君の存在は決して誰にも悟らせない。君が成人するまでは好きな事を好きなだけやっていてほしい。君が成人するまで―――いや、君が私を拒絶する前にクロムフィーアが私を見てくれるように努力する」


 どうだろう、と。最後は懇願するように言われてしまった。自分の想いを告げ、私の逃げ道も作りながらも居場所を与え、自分の姿勢を少しだけ鼓舞する。


 前世を含め約30年。私はこんな真剣な告白を耳にしたことはない。しかもプロポーズだよ、これ。こんなの初めてで、上っ面で断れそうにない言葉に私の頭は途端に熱くなる。


 それは私の顔が熱くなる事も一緒で、私は今、真っ赤なリンゴのように赤面しているであろう。さらに顔も隠せない恥ずかしさに茹タコ状態に違いない。


 絶対に眼を離さないアーグラム王子に私の思考はこれで逃げる意思をなくした。抗う気力など、出てこないのだ。流されてしまってるとも、言う。なぜっ。


 小さく、ただ小さく「今は婚約だけで」と伝えるのが精一杯で私は下を向いてしまった。否定するはずだったのに、今ごろになって告白を理解して受けた衝撃にこれだけの恥ずかしさがあるとは………穴があったら入りたいっ。恋愛の免疫なんてないよっ!


 目の前でありがとうと同時に少し強い抱擁で体内の熱はヒートアップしていく。それだけのはずなのに、多分、熱意のこもった告白にやられた私は興奮したのだろうね。残念ながら前世でそんな免疫は付けてこなかったから。恥ずかしいしっ!!もう1回言うけど恋愛の免疫なんてないよっ!


 王子の腕の中で、顔を真っ赤にしながら意識を簡単にも、手放した。これ、いつ以来だったかな………




15歳と7歳の恋愛を成立させるつもりはありません。

改めてご了承ください。

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