行く末はいかに
改訂いたしました。27.5.9
「それで?クロムフィーアは王子たちをどう思う?」
「………………へ?」
おっといけない。変な返事をしてしまった。手拭いで口元を拭いてなかった事にする。や、実はちょっと………げふんげふん。
しかし、陛下が言った意味はどう言う事だろうか。もう食事について云々と考えていたから色々と意識はぶっ飛んでいるんだよね。
だってここの料理………すっごく味が濃い。主に塩で。前菜は生。それに塩一ふり。まあ食べれる。次、お魚。油がそこそこでも冷めてる。味はもちろん、魚と塩。でもそれとなくソースが味を保てている。まあ、いける。肉がおかしい。あれはお肉じゃない。味はお肉だけど。
白黒で料理の外見がいまいち理解できなかった故に、お肉はとんでもなく黒い塊でしかなかった。本当に見た目で楽しめたもんじゃない。食べるのを躊躇ってしまうほど真っ黒だった。因みにウーモルスのお肉だそうです。牛って高級の概念はこの異世界でも一緒らしい。でも塩と野菜っぽいソースは未知の味です。
しかし、陛下の手前でそんな事を言えるわけがない。水をつぎ込んでなんとか食べたけどもう、お腹はいっぱいです。これは何とかしてちょっとだけでも料理の革命をしなくてはならないのではなかろうか。
アーガスト家のは全体的に味が薄かったからなんともなかったんだけど………そうか。やっぱり革命は起こした方がいいのか。いや、王族と関わらないと決めたじゃない。揺らいじゃ駄目だよ!
ではなくて。えっと陛下、なんでしたっけ?王子たちをどう思うか、でしたっけ?へ?そんな事を言われても普通なんじゃない?
反応が遅れているけど王子たちを見てみれば………アーグラム王子がぎこちなくてローグラム王子が堂々、て感じ?双子ちゃんはここで別れるのか。なんでこんなに比が出てきたんだろう。
えーと、王子たちをどう思うか。うーん。
「双子ですから、中身まで一緒だと思ってました。違うのですね」
「え、そこでそう返してくるんですか?」
うん?この返し方ではないの?あれ。そもそもなんでこんな話になったんだっけ。
宰相様がとても驚いた顔で私を見てくる。信じられない、とでも言っているようだ。はて、なんの話でこうなったんだっけ?食事で頭がいっぱいだったために忘れたかも。
えーと、どこから思い返せばいいのやら。ああ、婚約の話だね。それでお父様がだだをこねたんだっけ?それで王子たちにどうか聞いていて、お腹が空いたんだよ。そうしたらアーグラム王子が風邪気味でローグラム王子がおかしな事を言い始めて陛下が晩餐にしよう、て。
婚約の話、かな?誰の?私の。そう、成人の儀に仮の婚約者をお願いできないかと言う話ではなかっただろうか。
「ちょっと、待て。お前、自分の立場を分かっているのか?」
アーグラム王子が怪訝に伺ってくる。立場って………伯爵令嬢、ですがなにか?
「はい」
「本当にか?」
「私はこの場所に本来ならいてはいけない立場、なんですよね?私の地位は伯爵ですから」
「どこからそんな話に飛んでいったんだ?」
いや、ローグラム王子。貴方もどこから手が出てきたんですか。アーグラム王子の方を向いていたら後ろから私のほっぺたが摘ままれていると言う由々しき事態!
このほっぺたは摘まむものではありません!!外そうと奮闘するも、外れないと言う残念さ。おかしい。力はそんなに入っていないはずなのに取れないっ。これが男女の差と言うのかっ!!
痛くはないがこのままは嫌だ。それで四苦八苦していると言うのにローグラム王子は止めてもくれない。むしろ楽しんでいるようです。げせぬわ。
助けを求めるようにアーグラム王子を見たら彼は逆に拗ねたような顔をし始めたのでまるで頼りにならない。私の回りはもはや敵である。
これはどうすれば?泣けばいい?泣けばいいの?これを回避するためにはそれしか方法がっ!!
「ふぇっ!?」
「あ、柔らかい」
「だろ?なんかこの感触、止められないな」
「これ、いいな」
よくないよ!!
アーグラム王子まで参戦してどーすんの!!私の両頬はおもちゃじゃないんだよ!!逃げられないじゃんか!!
両手で取れないのに片手ずつで取れるわけもない。かと言って片方を頑張ったところで終わるはずはないでしょう。あれ。なんでこんな事になってんのっ。
「王子、クフィーへのお戯れは止めて下さい」
「じゃあ、婚約を進めてもいいよな?」
「………………クフィーがいいと言えば、私からはもう何も言いません」
今、お父様や私はどんな顔をしているのだろう。決意を決めた、でも弱々しい声に私の眼に焦りが浮かぶ。
再度、私に問うためか二人は頬から手を離してくれた。さあ、どうなんだ?と聞かれたので私は思いっきり言ってやる。
いじめは好きじゃないんです!ばーか!
「大っっっ嫌いですっ!!!!陛下、御前を失礼します!!」
ありったけの声で叫んで素早く扉から出ていった。走ってはない。早歩きと大股で忙しなく移動しているだけだよ!!
誰も私を止めるものがいないのでそのまま出ていく。部屋の場所は残念な事に覚えていないのでとりあえず、行く。この場を一刻も早く離れたいっ。部屋は誰か見つけたら案内してもらおう。
それだけを考えて、右に曲がってからただ真っ直ぐ突っ切った。後先は考えずに―――なんて、この事を言うんだな、とか。酸欠で立ち止まった時にすごく実感したのは言うまでもない。
「………………え………あ、?」
「………………まずい、よな……?」
娘の出ていった後ろ姿を見て、私はため息だけ吐いてナイフを握った。
まあ、なんとなくではあったがこうなるのではないか、とは考えた。孫たち―――王子たちは、息子によく似ている。
どこが似ているか。それは相手の顔を見ずに自分の行動に疑いを持たない事。王子だから許される行動、とはまた別の意味で王子たちは疑いを持たない。
彼らは帝王学をしっかり納めているし、剣術の鍛練もしっかりとこなしている。魔法も上級を修めている。それ故か―――誰も、彼らの行動を咎める事はしない。
彼らがそれを肯定すればそれが正しく、彼らがそれを否定すればそれが間違い。
出来てしまった法則は、王子だけでは覆す事はないだろう。まあ、これも経験か。これで少しは考えるようになればあの娘は戻ってくるだろう。
何がいけなかったのか。それすらわからなければあの娘を姫に迎えるのは心苦しい。気立ては良さそうだが、この王宮で住まうのなら、この王子たちと共にいなければならぬのだ。
「追いかけなくていいのか?お前たちはその程度でクロムフィーアに声をかけたのか?やはりあの娘は代用で選んだのか?ローグラム」
「それは違いますが………………部屋に戻ってくるでしょう?落ち着いてからでも、と………」
「アーグラムはどうだ?」
「………………追いかけます」
ローグラムは眼を見開いてアーグラムを見た。彼らの意思がすれ違った事に驚いたのだろう。走り去る兄にローグラムは呆然と見送る。
ここまで違う行動に出たのは久しぶりなのかもしれない。いつも彼らの意見は一緒だ。互いに違う事もあるが、最後は結局のところ一緒になる。珍しい事だ。
「陛下。アーグラム王子がクフィーを連れ戻さなければ、話はなかった事にしていただきたい」
「いいだろう。ローグラム、お前は何もするな。これはアーグラムとクロムフィーアの婚姻―――婚約をかけた挑戦だ。余計な事はするな」
「―――すでに私のその権利はないのですか」
「それこそローグラム王子がクフィーを好いていれば、駆け出していたでしょう」
そうだな。アーグラムは好いてこそ分かりやすく赤面したし、遅くではあったが追いかけた。対してローグラムは平然と見据え、腰を落ち着かせてからかう始末。
いくら照れ隠しであっても、あの場でそれをやるのはおかしい。王子たちは成人の儀のために婚約者を探しているのだ。それも日がない。
グレストフに言われたローグラムは苦笑いを浮かべて肯定した。双子でも、好みは違うらしい。
「グレストフ魔法師。本当にアーグラムが連れてきたら結婚をさせるのか?大嫌いまで言われたんだけど」
「連れてこられたら、です。本当はクフィーの気持ちを尊重したいのですが、連れてこられたのならしかたがない。アーグラム王子がうまくクフィーを取り込んだ事にしておきます。それに、これは婚約だけの話です。我が娘は王家に不向きな難病を抱えていますからね。不謹慎ですが、成功するとは思っておりません」
そうか―――白と黒の世界に、魔病………あれは嘘ではなかったか。まあ、様子を見るとしよう。
やけに落ち着いているグレストフに視線を向ければ意図を読んだのか、ヴィグも交えて説明が入った。聞けば聞くほど難儀な娘と思う。
これらの時間で2人は戻ってくるのだろうか。そんな事を片隅に思いながら、じっくりと未来を見据えるように時間を潰していった。
魔病が2つ。病が1つに魔力暴走の恐れ。それといつ起こるかわからぬ気絶。これは今のところ問題ないと言われたが、前者を聞くだけで悩みどころだろう。
これではいくらアーグラムが娘を連れ戻す事が出来たとしても、試練としか言いようがない。このままでは王妃と迎えるには厄介だ。
「一応、魔虚像混合は抑えられるじゃろう。レーバレンスに作らせておる。目はもう少し調べてみぬとわからんな」
先が遠そうだな。しかし―――
「弊害が多すぎる。アーグラムは大丈夫なのか?」
「そこは当人たちの問題でしょう。 了解を得られるなら私が邪魔に入ります。ええ、邪魔してやります」
「グレストフ。お前は何もするな。いいか、何もするなよ?」
「状況によりましょう」
まったく、聞く耳を持っていないではないか。ここぞとばかりに眼を合わせぬように背きよったわ。まったく………
しかし、これで少しは未来が定まるのか。アーグラムを王に迎えるにはまだ力は足りぬが―――若い。王子たちも成長はするだろう。
それに加えあの聡い娘が隣にいれば、あるいは………………さて、二人は戻ってきてくるのだろうか。まあ、あの遅さではすぐに見つかるだろう。あとはアーグラムの手腕にかかっておるぞ。




