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不毛に真実を

改訂いたしました。27.5.9

「陛下も老いたのですわね。こんな小娘の話を真に受けるんですもの」


 ふん。と一言を付け加えるようにマルカリアはふんぞり返って私を見下ろす。まだ立ってて本当に見下ろしている図は腹が立ちます。私、こう見えても前世を引き継いでいるからもう三十路が近いんです。


 私がマルカリアも共犯者ですって言ってるのに………よほどバレないような抜け道を用意しているのか、強気にいるマルカリアに敗北と言うものは見つからない。


 ここで畳み掛けたいところだけど、私はただやられた側で体験した事しか伝えられない。こんな7歳児が回りを調べあげる事なんて出来るわけがない。


 たぶん、それを見越してマルカリアはふんぞり返っているんだと思う。この場でブタさんがすべて悪いと、擦り付けてしまえば逃げられるとマルカリアは思っているのだから。


「口の聞き方には気を付けるように。陛下の御前です。控えなさい」


 終わった私はまた同じように指を組んで頭を垂れた。退席したいのは山々だけど、またマルカリアのせいで話が逆戻り。


 すでにマルカリアは見ないようにしているけど、これが本当に宰相様の娘なのかを問いただしたくなった。


「私は関わっていないのよ?証拠はあるの?先程、わたくしに忠誠をつくしている女性がいると言うけど、私はウェケニー公爵家の者ですのよ?それが勝手に言ったのではないかしら」


「私はそちらのドミヌワ伯爵………と見張りの女性が言い合っている時に聞いただけです。証言には薄いかも知れませんが、ご本人から仕えているのはドミヌワ伯爵ではなくマルカリア様だと」


「そんな事があるはずないと言っているのよ!!」


 そんなに怒鳴らないでよ。耳が痛いじゃん。しかもご丁寧に言葉まで被せて、ね。普通に怪しいよ?


「恐れながら、私はマルカリア様のご紹介でドミヌワ伯爵を知りました。騎士様をも遠ざけて私を運び、養子縁組みへとお話を持ちかけたのは」


「知らないと言ってるでしょう!!小娘が私に逆らわないでちょうだい!!」


 逆らうって………たかが公爵夫人となっただけでしょ?それに確かあそこって―――


「………………マルカリア・マーニャ・ウェケニー公爵夫人。確か、夫は北の領地を収めており、マルカリア様がそこの孤児院を担っていらっしゃるとか」


「ほう。知っておるのか」


「はい。紙に納められた知識しかございませんが、ウェケニー公爵領地はとても面白い場所にあると思いました」


「まだ子どもから見る他の領地はどう面白いのだ?」


 はい、陛下が釣れましたー。やばい。私はただ本の知識から頭に押し込んだ情報を引っ張ろうとしただけなのに。


 うっかり声が出てしまってそれをなぜ陛下が拾っちゃうかっ!ここから遠いでしょっ!!なんで聞こえてんの!?てか私はどう言い返せばいいのっ。


 さすがに陛下の前、お父様の前で失態はしたくない。ない知恵を絞りまくって私はゆっくりと面白いだらうところをあげてみた。てかただの疑問。ほら、子どもが考える面白いだから!期待しないで!!


「領地はとても豊かな広さで、誰でもゆとりが取れるような緑が溢れる場所でした。そこで私が気になったのは孤児院です。中央と遠く離れた領地の隅に一軒ずつ。中央はとても不自由はないだろうと思ったのですが森との境界線に設置されている孤児院は不便だろうと私は思いました。書かれた本によれば、その豊かな緑ゆえに領地は食物の飢えがなく中央の孤児院は何百年もの歴史が書いてあり、今でも使われているそうですが領地の隅に置かれた孤児院のお話は何一つ、記述がなかったのです。他に、その隅の孤児院は数年前に建てられたようですが森と隣接する孤児院では住みにくいのではと考え、その孤児院はどのように工面されて建設されたのか、とても興味が沸いたのです」


「クロムフィーアよ、それはどこの、どの本の内容だ?」


 えー、まだ聞くの?私はもう冷や汗もんで背筋が寒いんだけどっ。


「私は小さい頃より魔病を患っております。そのため不用意に出歩けなかったのです。父の配慮によりレーバレンス様とヴィグマン様のお二人とお手紙を交わしていました。そのやり取りの中、魔力暴走や今回の件で外出はほぼ出来ない私のために、とくにヴィグマン様からたくさんの本を読ませてもらったのです」


 なんとなく、ヴィグマンお爺ちゃんが右側にいなかったから左側に視線を送ってみる。するといるんだよね、これが。だから私的にはそうだよね?と言う感じで見たつもりだったんだけど、陛下は違うらしい。


 まるで呆れるような目線でヴィグマンお爺ちゃんを睨んでいたんだろうね。ほら。私の時は反らさなかったのに陛下の方を見たと思ったらヴィグマンお爺ちゃんが素知らぬ顔で反らしてる。顔を完全に反らしているよ。


 私の言葉でなんとも言えない空気が漂ってきて―――私はどうすればいいんだろうと戸惑ってしまう。


 だってさ、普通はないよ?こう言うのってすぱーん!と決めちゃって終わるもんだと思ってたし!なんで私はこんな事を答えているのかもわかんないのにっ。


 今はマルカリアをやっつけようぜ!て話の流れだったはずなのになんでこの居たたまれなさっ。お父様が目を閉じて眉間を揉み始めちゃったよ!?


 そうしたら陛下が「普通は、公爵家の領地内部の情報など中級、下級貴族にはそこまで分からんものだ」との事。ちょっ、ヴィグマンお爺ちゃん!?何してくれてんのっ。私の普通を返して!


 それに対してヴィグマンお爺ちゃんはと言うと………


「娘っ子がグレストフ魔法師を嫌になったら引き取ろうかと思うてな」


 妙な空気が再びで、時間が止まった。お父様が暴れなかったのが凄いと思いました!


 そんな中で自己中のマルカリアは大声を張り上げて自分に注目を浴びさせる。もはや顔の色は思わしくない。お化粧が剥げてきているので、やけにお化けが進んでいて違う恐怖が出来上がっていた。


「それとわたくしとなんの関係がありますの!不毛な話なら帰らせていただきますわ!」


「待て、まだ話は終っていない。お前が認定式の時に娘を勝手に連れ去ったのも私の耳に入ってきている。そに養子縁組みで使われた王家の刻印をどうやって手にいれたのか聞かなくてはならぬ」


「知りませんわ!私はそもそも関係ありませんもの!」


 ああ。また逆戻り?もうだらだらしないでさっさと片付けてよ。私の証言が甘すぎるの?いやいや、マルカリアの強情さにはお手上げだよ。


「関係がなくとも私としては孤児院の事も詳しく聞きたいのだがな?初めて聞くぞ。まだ言うならばこちらを見てもらおうか」


 宰相様の名を呼んで豪華な玉座の椅子の肘掛けに体を少し預けた。大変、お疲れのようです。顔は見えないけど。これは私だって疲れる。


 私はどうなるんだろうと興味津々に。でも失礼のないように目を反らしながら宰相様の姿を追った。最初だけ。


 だって宰相様も頷くだけで片手をあげただけなんだもん。そうしたら私の後ろの方から出てきた騎士様から箱を貰って、それを私たちに見えるように掲げただけなんだもん。


 最初からこの動作はやるつもりだったんだよね?言われてすぐにこんな連携がとれるんだからそれしかない。


 筒状にくるまっていた紙をバンと伸ばして見せてくれたのは、私が「これに署名を」と押し付けられそうになっていた養子縁組の契約書。右下の方に、しっかりと黒字の印であるあの木の紋様が。それにブタさんの署名も。でも………キラキラしてない。前は少しだけだけどあったはずなのに………


 それを見せたのにも関わらず、マルカリアはふん。と鼻を一つ鳴らせて未だに否定。どこから逃げられると言う思考が沸いてくるのか、ぜひとも聞いてみたいね。


「この刻印は、もしやグラムディアから盗んだものではなかろうな?」


「わたくしはもう後宮に身を置いておりません。接触は不可能ですわ」


「では、本人に聞けばいいな」


 ここへ、と。たった一言で次々に行動をさせる陛下ってすごいと私は思うんだ。説明なしにやってくれるんだもん。それだけで相手の事をわかっているし、長い付き合いじゃなきゃ出来ないと思う。


 その対象が宰相様で、宰相様は一言二言で騎士に命令を下して堂々した顔で待っていた。少しガタガタと言わせて動き回る騎士に目を追わせれば、並んでいた騎士の後ろから運び込まれた男性が一人。


 艶がある白に近いグレー。深く考えずに私はどこかでみた銀髪希望の色と、判断した。隠すように伸びた前髪から覗く顔は―――正直、ホラーに近い。男性でもあれは希望が薄れていく。


 だがしかし!白黒世界のおかげでそこまでグロくなかったりするのです!!ようは鮮明に見えないので怖くはない!


 きっとこの方が、あの悲劇の王子様なんだと思う。仲間に裏切られて敵にも攻められた………本来、あの玉座に座るはずだった王子。グラムディア・ロスト・フェルニ・サファリナ様。王子、だよね?


 なんだか眼があったような自惚れか、少しだけその人の姿から眼が離せなかった。


「我が息子、グラムディアに問う。これはお前の(・・・)刻印か」


「………間違い、ありません。3、4年前、マルカリアに『この子のため』と、私が押しました」


「っ………」


 あー。舌打ちが聞こえちゃいました。なんなんだろう。私には女運と言うものがないのかな?女性から舌打ちをよく聞くような?


 見下ろしていたマルカリアがすごい形相、むしろ剥がれ化粧で本当に化けているからなおさらひどい顔で私とグラムディア樣を睨んでる。なんで私まで睨んでるんだろう?


 陛下はこれを聞いてマルカリアにさらに問う。間違いはないか、と。


 それでも否定し続けるマルカリアは「偽物よ!」と啖呵をきっていた。私には愚の骨頂にしかみえない。なにが偽物なんだろうか。将来、こんな人にはなりたくないな、とだけ強く思った。


「私は嘘、偽りは申しておりません」


「違うと言ってるでしょう!!」


「これでもまだ違うと言うのか?」


 さらにもう1枚、宰相様が広げたものは同じもののような紙。ちょっと字が見にくく内容までは読み取れないけど、大きめだったサインだけ少し分かった。それはマルカリア公爵夫人と、クロムフィーア・フォド・ドミヌワと言う名前。誰の事を言ってるのか、明確にしている。しかも、それにも刻印は刻まれていた。


 これはさすがに言い逃れは出来ないんじゃないかな?名前は明らかにフルネーム。しかも宰相パパが言うにはマルカリアの直筆は間違いなし。


 どこからだしたのか、マルカリアが書いた書類と私が書いた紙を見比べて―――その契約書?に書いてある筆跡とマルカリアは同じで私のは明らかに違うものだとわかった。うん。逃げられない。


 それでもまだ逃げようとするマルカリアは本当にすごいと思う。今度は黙りで押し通すつもりらしい。急に静かになったものだから陛下もため息で苛立ちを表していた。


 場の空気がとても悪い状態である。こんなところにはとてもじゃないが、長くいたくはない。


 マルカリアも手が混んでるんだか手抜きなんだかわかんないよねー。わざわざ王家の刻印まで持ち出して逃げ出さないように。そして次の段階はすでに終わらせるように手はずは整っている。


 はて。こう言うのって契約書で取り決めるん、だよね?すでに書かれてしまっている契約書が出来上がっているのなら、私はわざわざブタさんのところに養子へ行く必要がないのでは?形がそんなに必要なのだろうか。


 マルカリアとの養子縁組みはすでに整っているならそんな手順はいらないよね?もう、それは契約書で………あれ?あの紙、輝いてない?えーと………こう言うのって口出ししちゃ駄目だと思うんだけど―――被害者だし、子どもだし、多目に見てくれないかな!


「ベルック宰相様、あの」


「どうなさいました?クロムフィーア嬢」


 よし、断られなかった!このまま聞いちゃおう!!


「無理を承知で申し上げます。まだ未熟な私に、宰相様からご教授を願いたいと思いお声をお掛けしました」




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