胃も痛いレーバレンス
アンバランスを不均衡に直しました。
一応、英語は使わない…………世界の、はず。汗。
使わないんです!←言い聞かせ
改訂いたしました。27.5.8
突き刺さるような視線を右から受け流して陛下の顔を伺う。一つ頷かれればそれで俺の話は簡単に言い出せた。
回りくどい事は必要ないだろう。簡潔に述べて後は助力を乞おう。そうしよう。これは絶対に俺の手にあまる案件だ。
「で。私の娘になにかあったのか?なにがあったのか?なにかはあったのか?」
「グレストフ魔法師、少し落ち着かれてはいかがか」
「すみません。家族の事になると抑えが効かないもので」
「本当に、お前は家族の事になるとすぐに熱くなる。この前はその腹いせか何かで魔物の群れを吹き飛ばしたそうだな?一つ失敗すれば我が兵士に怪我では済まない魔法だったと聞いておるぞ」
「我が国の兵士は鍛えぬかれた衛兵です。私の魔法で怪我など負いませんよ。なにより愛しい妻と自慢の息子と可憐な娘に可愛い娘二人とのふれあいが少ない私が重症なんです。それをどこかで爆発させないと私が危ないのです」
なにを言っているんだ?重症って自覚はあるのか。いや、俺の考えてる部分が違うかもしれない。止めておこう。
その前にあれはさわざわざ騎士を下がらせて撃ち込んでいたよな?「私が先制します」とかなんとか言って打ってたよな?それがあの結果だろう?
さもありなんと頷いて何一人で納得してるんだ。そんなグレストフを見た陛下は呆れてこめかみを押さえ込んでしまったんだぞ?できるなら俺も重くなる頭を押さえたい。
もし、この調子で教えたのならばグレストフの反感が嫌と言うほどうるさそうにしか考えられない。信じられないと言われても、この結果は変わらないのだ。言い切るしかないのだが………
―――せっかく集めた決心をまたひたすらかき集めて俺は口にする。もう言ってしまえ。その方が身が軽くなるんだ。
「率直に言う。クロムフィーア・フォン・アーガストは、3つの属性を不均衡に宿して生きている」
それだけ口にすれば静まり返る部屋。誰も音を出さないので居心地は最悪だ。グレストフがなんの反応も示さないのもまた居心地が悪い。今度は俺の胃が痛くなりそうだな。
横目でグレストフの顔を一瞥すればあそこだけ時が止まったように固まっている。どこを見ているのか、まったく分からない上に動く気配がまったくない。
それは陛下も、宰相も同じで、これから起こる言葉を想定して身構える。ああ。早く終ってくれないか?俺の胃が早く終われと絞めあげてくる。
「私の名で水属性と改めさせました。クロムフィーア嬢は水の属性が大きく、極僅かに混じるよう火と風を宿しています。その場で箝口令をひきましたので知っているのは私と、同席したエモール魔法師、ゴーデ魔法師、上流騎士のワトック殿と本人のみです。本人にも了承は得ています」
まだ黙りか。誰も動かなくなった部屋に俺はさらに言葉を足す。
「魔力ですが、ほぼグレストフ魔法師の倍です。それに加えてヴィグマン魔法師によると眼に魔病を患っている可能性があります」
「………………それは、本当か?」
ようやく正気を取り戻したのは意外にもグレストフ。なんとか、と言うように立ち直った。まだ藍色はどこかさ迷っているが、俺は一つ頷くだけで肯定する。
そこからようやく陛下も我に返ったのか、ぎこちない手つきでお茶に手をつけ始めた。どうやらお茶で落ち着こうとしているらしい。
それらをゆっくりとした動作で、全員で行い間を持たせる。なんとか復活した宰相も、お茶で少しは立ち直ったらしい。
俺はもう報告したのだから、今後この対処をどうするか話てとっとと帰りたいと思う。これ以上なにか言われても、俺は対処できそうにないからだ。
グレストフが噛みつく前に、事は穏便に終わらせておくのが一番に違いないだろう。はあ………胃が。
「その話が本当ならば、生きているのが不思議ではないか?バランスが悪すぎる」
「どう言う事だ、レーバレンス。娘が、3つ?確かに私の子ならば可能性はある。それは受け入れよう。しかし、普通は2つ以上持つ属性はそれぞれが牽制しあって均等に保たれる。私のように………クロムフィーアの属性は本当に3つなのか?その極僅かは間違いないのか?もしそれが本当だとしても、それはどうやって保っている。属性が混ざれば互いに反発しあって体は朽ちるぞ」
「実際にみていない私たちが言うのもなんですが、確かにレーバレンス魔術師が言う言葉は不可解すぎます。極僅かなら見間違いもあるはずでしょう」
だったら、俺に仕事を押し付けずにお前らが見ろよ。
思わず喉から飛び出しそうな言葉を必死に押し止めて、さらにお茶でそれを押し戻した。
こんなところで本音を言えるものか。今言ったら余計な火種が飛び交い、収集はつかないだろう。
けれど、その態度が気にくわなかったグレストフは眉を片方だけ持ち上げると言う器用な表情を作って俺を睨み付けた。元々この話を持ち出した辺りですでに睨んでいるようなものだ。軽く受け流して言葉をつける。
「魔法院に入れば、多少は精密にわかると思います。ただそうなるとクロムフィーア嬢に何が起こるか分からないのです。親元でもう一度査定しても変わりませんが、事実が変わらなければこの子の身のふりはだいぶ絞られます」
「そうだな………………グレストフ魔法師の前にいて言いたくはないが、危険ならば摘まねばならぬし、何もなければせめて城から出る事を禁じたい。魔力が多いなら殺すのは惜しい。それに何が起こるかわからぬ」
「………………飼い殺す、と仰るんですか?」
「そう聞こえるでしょうが………貴方も一度は魔学を学んでいたでしょう。3つの属性を宿す人のみが持つ魔病を」
「出来るだけ僅かに残る2つの属性には近づけない方がいい。少しでも均衡が崩れるだけでその魔病は発生する」
「魔虚像混合………ん?ちょっと待て。お前、さっき極僅かな属性が混じるように、と言わなかったか?」
………………ああ。そう言えば言ったな。気づいてしまったか。とりあえず頷いておく。
グレストフが言われた事に改めて思案するに、自分が言った言葉はおかしい事になっている。
普通、異なる属性があるならばそれは交わらない。それは魔法陣の影響があって、魔法陣は一つの属性でしかまず作れないからだ。
元々一つに定められた魔法陣に2つを注げば魔法陣は壊れて、発動はできなくなる。そもそも混じる事はない。
ならば混じり合うのはおかしい事なのではないか。その魔法具が壊れているのではないか。誰もがそう思うだろう。
私が作り上げた属性が分かる魔法具は水晶の球体全体が光るように施している。もし2つの属性を宿しているならばそれは半分ずつ、同じ光の量で光るはずだ。
あの時、クロムフィーアの属性を示す水晶はまさしく混じっていた。水色に線を入れたような赤と緑。もし仮に3つならばそれが三色均等に別れその色を示す。
なぜ言わなかったか。混じりあっていると言うのであれば、それは魔虚像混合になりかかっていると言っていい。その事実をこのグレストフに伝えるのを俺はためらった。記述がすくなく、対処するすべが俺には分からないからだ。
言ってしまえば、この親馬鹿がその真実をちゃんと受け止められるのかがわからなかった。混ざりあって生きているんだ。例外には対処しきれない。
「もう一度娘に属性を見させよう。本当かどうかも信じがたいし、何より私が落ち着いていられない」
「その時は私も賛同させてもらおう。それが本当ならばその娘は奇跡だ。少し調べたい」
「本人の許可と、私の許可を得てからでお願いします」
「貴方は許可をくれるのですか?なんだか調べようがないような気が……………」
「娘の気持ちを聞かずには出来ないと言ってるだけです。―――そうなると、もし仮にマルカリア様が娘を使って王宮入りを企むのなら無理な話ですね。目にも魔病をもち、魔虚像混合を患っている節があるなら、王子たちが執着しない限り迎えられない」
あの顔はなんなんだろうか。グレストフがまるで盗賊のように眼を細めて左の口端だけを器用に動かして笑った。芸達者な表情を作るな。
あとはドミヌワだけだ、と。わざわざ声に出さなくてもいい。家を壊すと言っているが、お前ならやれそうで後が怖いな。始末書は一人でやれ。
「その娘の事はドミヌワ伯爵とマルカリアの事が終わり次第、取りかかるとしよう。私たちはマルカリア自身を調べてみる。グレストフ魔法師は近辺をしらみ潰してくれ」
「御意」
「確かあれは家を出ていたな。宰相、お主は嫁ぎ先もじゅうぶん調べておけ」
「承りました」
「レーバレンス魔術師はまだまだ聞きたい事がある。近衛を呼べ。以上」
まだ話す事があるのか………………もう胃が持ちそうにないぞ。
任を受けたグレストフは早急に出ていく。始めの不躾た態度ではなく、今度はしっかりと貴族の風格で立ち去っていった。普段があれなら、きっと会話などもっと堅いものだったかもしれない。
それと同時に近衛騎士が3人が入ってくる。宰相は流れる動作で机を少しだけ動かし、陛下が使っていたデスクから1枚の紙を差し出す。
受け取った陛下は一度はそれを流し読みして小さく頷いてこちらを射ぬいた。
「査定の結果は先ほど以外にはないのだろう?」
「ございません」
「なら、次はこれに取りかかってくれ。ローグラムとアーグラムなんだが、もうすぐ成人する。成人の儀を知っていると思うが馬に乗り城から下りて中央を通り、往復のお披露目だ。その間に二人は無防備となるだろう。身を護れる魔法具をいくつか作ってくれ」
「………………以前お渡しした魔法具はどうされたのですか?」
「セレリュナが言うにはまだ狙うものがおるみたいだな。いくつあっても足りないそうだ」
ふざけるなよ。まだいるのか?あれを作るのにどれだけの時間を必要すると思っている?
材料は城から支給されるのでよしとしよう。それでも陛下が注文した魔法具は複数の魔法陣が重なった、作るだけで面倒な代物だ。寝ずにやったとしても一つ魔法文字にかなりの力を使うので普通の魔法具で1日はかかりきりだ。
陛下が求めるのは複合魔法具で一つのもとに多重の魔法陣を書かなくてはいけないので骨が折れるところではない。1つ間違えばそれは発動はしないし、下手したら全体のバランスが崩れて壊れる。
また魔力を戻すのに俺の量では使いきって3日は寝込む。以前は一つの魔法陣に20文字以上を二週間前後。回復を見込んで15日間。それを4回。それが二人分。それに起動する結界が有効か確認。………………死ぬ。
頭と胃の同時攻撃に思わず抱えたくなる衝動を抑えて俺は陛下に進言した。一人では無理だ。せめて人を百人。しかも魔法具の知識を持っている人材を寄越してくれ。
「グレストフ魔法師に頼めば良かろう?」
「今では出来ませんよね?成人の儀はたしか半年も無かったと思うのですが」
「出来るだろう?魔法結界。物理結界。異常物結界。精神結界」
「………言わせてもらいますが、その4つがとても厄介なのです。それを目立たないように小さくカフスのような飾りに魔法陣を発動しやすいように、互いの邪魔をさせないように施すのですよ?それぞれを一個体の魔法具を付けるならまだしも、陛下のご所望の品はそれらを一つにまとめた複合魔法具です。前回のはどれくらいの期間で出来たか報告したはずです。それに女性のようにネックレスなどで飾れるならばまだやり易いですが王子たちはそれを否定してるではありませんか。結局ブローチに修まりましたがそれを、半年で私の魔力だけなど出来るわけがありません。グレストフ魔法師を缶詰にしてもいいならなんとかなるかも知れませんがあの人が同じところにじっとしていられるはずがありません。家族愛が足りないとか言って雲隠れするのが落ちです。他の魔術師ではまだ私の力に及ばないので任せられません。他にも魔法剣の発動をしやすいようにと研究中なんです。私一人ではどうにもなりません。死にます」
「………言い切りましたね」
気づいた時には言いたい事をすべて放っていた。これはまずい。普通に言い過ぎであろう。不敬罪だ。まったく止まらなかった言葉はすでに出してしまっているが、解放感はある。いいじゃないか。死んでも今困るのは陛下だ。魔法具はそれだけまだ進展していない。
しかし、陛下は咳払いで気に止める事はしなかった。心底よかったと安堵する。よし、このまま帰ろう。俺にはまだやらなければならない事があるんだ。逃げるが勝ちである。
「グレストフ魔法師の娘は魔力が多いのだろう?あれに知識を叩き込め。無理でも魔力は補える」
「………それこそグレストフ魔法師に聞いてみない事には………………」
「………………面倒だ」
俺もそう思う。
結局は人を派遣してもらう事が今のところ難しいとの事なので、優先順位を立てて作る事になった。
今から研究所に篭って作る事を考えても間に合うかどうか………………まだ終わっていない書類整理を思い出して深いため息がキリキリする胃を通り越して腹の底から飛び出した。




