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最後はブレません

改訂いたしました。27.5.7

 ん~………………どうしたものか。目の前の光景を見て首を傾げる私は間違っていないと思う。


 今日は朝からおかしかった。何がおかしいか。それはお父様がおかしい。ものすごく、おかしい。


 どんな風におかしいのか?そりゃあ朝の「今日もクフィーは可愛いな~!!」で抱きついて喜びに浸るお父様を見ていないからでしょう。


 挨拶は交わしてくれる。普段と同じテンションで「おはよう、クフィー!!!!」と笑顔を振り撒いていた。でもあの激しいスキンシップがないんです。絶叫に近い張り上げるような声がないんです。




 なにより、私を見て苦笑いなんですっ!?




 思わずお兄様を見つめてしまったら同じことを思っていたらしい。先手を取られて何かしたのか問われてしまった。え、お兄様は私を疑うの?


 すぐに首をふって否定する。それでお父様をチラ見するけど今日は静かに朝食を平らげているね。ものすごく、静かです。


 今度はお姉様から声がかかったのでそちらに意識を持っていけば


「今日の私、綺麗ではありませんの?」


 お姉様。ブレないね。1日1回は『綺麗』って言ってもらわなければ駄目なのかな?代わりに私が言ったら大満足で頷いて食事に取りかかったからお姉様はちょっと放っておく事にした。


 仲間外れじゃないよ。お姉様はお姉様で通常運転してもらわないとややっこしくなるだけだから待機なんです!


 何も言わずに結局は食べることに専念していたけど………はて。本当にどうしたんだろうか?あえて聞いた方がいいのかな?昨日の事もあるし。


「クロムフィーア。後で私の書斎に来なさい。ダリス、今日は昼まで籠る。クロムフィーア以外、中に入れるな」


「かしこまりました」


 お父様誰っ!?愛称じゃないとか絶対になにかあるよね!?


 戸惑いを隠すように返事はしたけど私の中のお父様と違いすぎて変な汗がいっぱい出てくる!


 そのまま口元を拭ったら早々に退出しちゃうしっ!?あなたは誰ですか!?思わずお兄様をまた見てしまったのはしかたがないと思うんだ!お兄様っ、アレはどう言う事かな!?


 ぽん。ぽん。


 肩に手を2回だけ叩いてお兄様が退出されましたー。今日は訓練の日だそうです。味方も早々に消えた事のショックで落ち込みそうですっ。


 あれはなんの意味が?私、なにかしちゃった!?誰か教えて!!


 待機してるお姉様にすがるように視線をっ―――て、お姉様もいないしっ。


 よく見たらお母様までいつの間にかいなくて私だけナイフとフォークをもって食事を頑張ってるっ。置いていかないで!!


 もう頭の中が大混乱で朝食を終えたよ!でも次はお父様の書斎に行かなくてはならないので………着替えらしいです。ポメアが喜んで私を着せ替え人形にする気満々です。着替えの必要は、あるのかなあ?


「お嬢様。本宅でお寛ぎでも、着飾る事は必要でございます」


 すみません。意味わかんないんですが?なんで必要なの?別にこれから外にでてお披露目するわけでもないし。お父様に会いに行くだけだよ?


 しかし、ポメアは首を緩く振って説明してくれる。もっとも私が諦めなくてはならない言葉で教えてくれた。


「今は外へ出られないお嬢様に、旦那さまのささやかな配慮でございます。今日からお着替えを最低2回は行うよう、言伝てを承りました」


 着せ替えさせたかったのはお父様か。そうか。外へ出られない私を思っての行動か。道理でポメアが開けたクローゼットの中身がぎゅっぎゅうになってると思った。お父様、買ってきたね?


 もう抵抗も疲れるのでポメアにお願いして着せ替え人形よろしくになるしかない。だってポメアがドレスもって待ち構えているし。


 白だと思われるドレスを脱ぎ捨てて今度は灰色のドレスへ。たぶん青じゃない?この家の者はやたらと青を推してくる。


 肌触りが良すぎるドレスに身を包んでさっそくお父様の所へ………………まったく乗り気がしないのは、きっと昨日の事で色々と話すからだと思うんだ。


 お父様が朝に変な動作をするからこんな事になるんだよ。自分に言い聞かせるようにそう締め括って背筋を伸ばした。もう、書斎の前である。


 果たして私の予想が大いに違っていたらどうしようか。なんの心構えもなくお父様と真剣な話はしたくないな、と思う私はちょっと臆病なのかも。


 普段と違う事をすると、怖いんだよ。まあ、入ればわかるよ!よしっ!!


「クロムフィーアです」


「入りなさい」


 おう。なんといつもより声が低めに聞こえるよっ。扉の奥から聞こえるせいか、どうだかわからないけど低く聞こえてしまった私は内心ビクビクさせながら部屋の中へ足を運ぶ。


 入ったすぐにドレスの裾を持ち上げて挨拶を取った。なんだろう。そんなに重くない空気なら怒られない?


「ご用はなんでしょう、お父さま」


「とりあえず、かけなさい」


 あんれー?別に怒ってるわけじゃない。なのになんでこんなに真剣なの?いや、お父様だって王宮魔法師筆頭だし、真剣な時くらいあるとは思うけどさ!


 やはり普段が普段がために今のやり取りがすごく変に感じてしまう。馴れって怖いね。


 言われるがままに少し長めのソファーに座って改めてお父様を見る。うん。真面目なイケメンは最高ですっ!半分オールバックが格好いいよ!!もう少ししたらオールバックになるのかな?どうなのかな?


 これで色がないとかマジで虚しすぎる。こっちも改めて思い知らされた気分だけどイケメンの顔は白黒でも格好よく写るのでよしとしよう。


 ポメアとジェルエさんが淹れてくれた紅茶を待ちながら待機。その間に一言も話さないお父様に警戒しつつもじっと待った。


「わかってると思うが、件の事で私はクロムフィーアに聞いておきたい事がある」


「お聞かせください」


 なんの前振りもなくお父様が告げる。娘だから直球で来たらしい。構えている私は考えが一致した事に安堵しつつ待った。お父様は昨日の事で何を聞くか―――来いっ、お父様!


「お前は、以前に出会った双子の少年たちに興味を持ったか?」


 ………………………………だ、と?危ないちょうど手に持っていたティーカップの紅茶を溢すとこだった。これ飲んでたら吹いてるよっ。お父様はなにを考えてるの!?


 まだまだ真剣な顔を崩さないお父様はずっと私を見てる。本当に溢さなくてよかったと自分を誉めたい。


 で、お父様なんだって?興味を持ったか?は?それって遠回しに好きになったのかって聞いてるよね?どうしたお父様。本当にどうした。私はまだ6歳なんだけど!!


 まさか貴族はここまで早い結婚話を持ちかけてくるの?そうなの?絶賛混乱中の私をよそにお父様はさらに双子ちゃんである彼らの良さを話始めた。


 これはあれか?私に結婚を進めているの?あの、「クフィー大好きだあああああああああああああああ!!!!」と城の中で盛大に抱きついてやってくれたお父様が?


 これはなにか魔法で別の人に変わってるんじゃない?もう意味がわかりません。


 疑いの眼差しが通じたのか、今まで双子ちゃんの良いところをとりあえず挙げまくっていたお父様を止める。まったくどうして昨日の件と今のが関係あるのかがさっぱりわかんないよっ。


「お父さま。私はもう、とつがなければなりませんか?」


 ちょっと泣きそうな顔も付けておいた。そうすると慌てるお父様が面白くて、それがやっと普段のお父様らしくて失礼だけど笑ってしまった。親を笑っちゃったよ。貴族として大丈夫かな?


「一応、関係があるかもしれない。まあこれはもう少し決定的な物が揃ったらもう一度聞こう。考えておきなさい」


 聞くんかい。


「彼らは私を逃がして下さいました。出来るならお礼を申し上げたいです」


「うっ。そう来たかっ」


 いや、どう来る予定だったの?


 カップで顔の半分を隠してお父様を盗み見る。頭を抱えてなにか唸っているね。いったい双子ちゃんはドミヌワ伯爵とどんな関係があるんだか。


 澄まし顔で聞き返せば再びキリリと凛々しく見せるお父様に笑みが崩れる。お父様はこう、表情を分かりやすくしていてくれなければ調子が狂うよ。


「今のは忘れなさい。いらない虫をわざわざ付けなくていい」


「お父さまから振ったではありませんか」


「忘れなさい。私の可愛いクフィーに面倒な虫は呼び寄せないように処理しておくから、忘れなさい」


「あの双子の方たち、とても優しい方たちでした。ぜひお礼を」


「私からしておこう!!私から!なにかお礼しておくからクフィーはまだ純真で無垢な私とクレラリアだけの可愛いいっ!クフィーでいるんだ!!!!娘は誰にもやらんっ!!」


 結局はこうなるのか。いやに冷静な私はどうやってテーブルを飛び越えたかわからない早業で私を抱き締めるお父様に苦笑いを浮かべておく。


 嫌な素振りはさすがにジェルエさんやポメアに見せられない。それがちょっと辛く思えるなんて涙が出てきそうだけど。


 息苦しいほどの暑くらしい抱擁はいつものお父様なので安堵しているのは内緒にしておこう。だって言ったらお父様の自制が決壊してまた屋敷の全員で食い止めなきゃいけないし。


 それから結婚するまでに至る約束事をいくつも聞かされて遠い目になったのは、きっとまだ私が6歳だったからにしておこっと。


 恋愛結婚をマジでさせるらしいので、どんな男を選ぶかどんなのが駄目なのか散々聞かされたけどする気はないからね?結婚。言わないけど。


 その後は泣く泣くお城に向かったお父様は最後に


「私より強い魔法師で私よりクフィーを大事に思っていて私よりクフィーについて多く語れる男で私よりクフィーと一緒にいられて私よりクフィーの事をよく知っていて私よりクフィーを第一に考える男でなければ結婚はさせない。覚えておくように」


 一息で言い残した。


 ああ。やっぱりお父様はお父様なんだなあて、しみじみ考えてしまった私は決して他人事ではないはずなんだけど………あえて考えない事にする。


 だってまだ人生が始まったばかりなので。それらは記憶の遥かどこかに追いやる事で私の日常を取り戻した。これが平和なんだよ。


 さて、午後からなにやろうかなー。





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