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代理のクレラリア

改訂いたしました。27.5.7

 玄関にダリスを置いて、なんとか時間が取れた私は今いる子ども達を早急に部屋へと押し込めて顔を引き締めた。


 玄関にはあのドミヌワ伯爵が気持ち悪い笑みを浮かべて私を見ている。嫌だわ。本当に気持ち悪い。


 私と同じ金糸の髪。同じ髪色と思うだけで身の毛がよだつ。それに同じ瞳の色と思うと外に出歩きたくなくなってしまう。


 ドミヌワ伯爵の体は全体にまるで分厚い布でも押し込んでいるのかと思わせるほど膨れていて、動くたびに揺れる腹部がとても視界に入れたくない。


 かと言って眼を反らす事はとても失礼で………………顔を見るしかないと思うと眼を覆いたくなります。髪ならまだしも瞳まで碧眼。ああ。見間違いではありませんね。アーガスト伯爵夫人としてはとてつもなく、不愉快でだわ。


 毎回、来るたびに困った事をわめき散らせ、押し掛けてくるドミヌワ伯爵は何をしたいのかさっぱりわからない。


 関わらぬようにこちらからの接触は一切してこないように配慮しているのに、意味もなく自分から突っかかってくる。


 前回はなんだったかしらね。確か………………いいえ。いつもどうでも良い事で来るのです。考えるだけで無駄でしたわ。


「これはこれはアーガスト伯爵夫人。今日もお美しい。会うたびに貴方の美貌が光輝きますなあ」


 貴方に誉められても嬉しくもなんともありません。早く帰って下さいな。


「お久しぶりですね、ドミヌワ伯爵様。いつもわたくしたちの返事も聞かずによく参られました」


「おや、私とグレストフとの仲ではございませんか」


 誰と誰との仲ですって?身の程を弁えてほしいものですわ。微量の刺はその厚い肉で弾き飛ばしているのかしら。


 当然と言わんばかりに口角をあげて、わたくしの皮肉を交わす。


 同じような事を、何度返した事でしょう。とても会話という会話が成り立たず、会うたびにとても不愉快で疲れが溜まっていると言うのに。


 いつも『グレストフと私の仲』と訳がわからない言葉で片付けてくる。実際はそんな仲なわけがないでしょう。仲がいいなど、気安く語らないで下さいな。


 いったいこの男はなにをやりたいのやら。まったく検討も………ああ、嫌がらせよね。


  夫であるグレストフと、このブタ―――失礼。このドミヌワと言う名で伯爵と言う地位の椅子にすがり付いている人の形をしているものは昔から好敵手であると教えられた。それはまったくの嘘でしたが。


 夫の実力は知っているので、まさかこの人の形をしているものも強く“ 異常 ”で優秀なのかと愕然とした事を覚えています。


 最初の頃はただ夫を立てるように少し控えめに対話しておりましたが。夫が知らない、と言われた時は驚愕と怒りに燃えたものです。


 すぐに体裁を変えてこの家に踏み込ませないように守備を固めたのは当然の事。夫がいない屋敷は私が守るのです。そう毎回来てもらっては困ります。


 それなのに何かしら理由を付けてこちらに足を踏み込ませようとする高慢さ。とても同じ伯爵とは思えません。


 わたくしが子を宿せば彼方も狙ったかのように子の話でわざわざ、訪問される。しまいには奥様までも使ってアーガスト家に踏み込もうとするではありませんか。


 わたくし、忘れておりませんのよ?奥様の申し訳なさそうなあのお顔。同情となるでしょうが、とてもお可哀想でしたわ。


 なんて図々しいのでしょう。この時もお手紙など、一切もらっていません。勝手にあちらから押し寄せてくるのです。


 そのうち夫は王宮魔法師筆頭に選ばれ、私にも娘が出来ればまたさらに人の形をしたものが画策してくるのには本当に困ったものです。


 さすがにこれ以上はアーガスト家にとっても子どもたちにとってもよくありません。


 完全な決別を言い渡しました。がしかし、全く聞かないのが人の形をしたものなのです。耳はきっと脂が固まって聞こえないのかも知れません。


 もう、うんざりしてユリユア様にご相談したところ、護衛騎士様を数名お借りいたしましたのに………なぜこの意味がわからないのかしら。明らかに鎧が違うでしょう。まさか、気づいていませんの?


 これは一度、痛い目を合わせなければなりませんね。わたくしの力をもってなんとかしなくては、夫に顔向け出来ませんわ。


「ご用がないのであればお帰りくださいな。本日はとても忙しく、立て込んでおりますの。手紙一つ出して日取りを後日に決めさせてくださいな」


 これも恒例の、追い返しの挨拶。顔くらいは見て差し上げますから弁えなさいと申し上げているのです。そして早く出ていって下さいまし。子どもたちを窮屈にさせてしまって心苦しいのです。


「今日は、お願いがあってきましてね。客間の案内をして下さいませんか?」


 まあ、なんと図々しいしく厚かましい。わたくしは忙しいと遠回しに言っていますのに、それがわからないと言うの?


 当然、こんな輩を玄関からこれ以上を踏み込ませるわけには参りません。わたくしの後ろには王城の騎士がいるのです。よく見て考えて欲しいものですわ。


「今日は立て込んでいますの、と申し上げましたわ。伯爵ともあろうお方が手紙もなしに突然訪問されたのです。わたくしの意を汲み取って頂きませんこと?」


 早く帰って下さいまし!わたくしはそうお伝えしていますのよ!!


 少し間違えればわたくしでも憤慨を表してしまいそうです。これでまた踏みとどまると言うのであれば騎士様に追い出して頂きましょう。


「客を入れぬとは無礼ではありませんかなあ。そんな無礼ではアーガスト伯爵家の品位に関わるのでは?夫人では話にならぬ」


「それではちゃんとした書状をこちらに届けて旦那様がいる時に顔を見せてくださいませ」


 ところどころ強く主張して言い返す。もう嫌ですわ。お帰りになって下さいませ。


 ダリスと騎士様に目配らせをすればスッと流れる動作で人の形をした輩を追い出してもらう。騒ぎだしてうるさいわ。


 なんだか空気も嫌な気がします。傍にいたジェルエにいなくなってから空気の入れ換えを頼みましょう。


 私はこの事を旦那様にお伝えしなければ。寝室に戻ってレーバレンス様が造ってくださった水晶の前に座る。これと同じものを持っていれば、魔力によりますけど、遠くの方へと会話が出来る優れものですわ。


 さっそく魔力を少し流して夫に繋ぐ。水晶が少しだけ、白く輝くこの瞬間はとても儚く感じるのです。お忙しいのに、本当に迷惑な輩だわ。繋がるかしら?


『―――……………………クレラリアか?どうした』


「わたくしよ。また、このために使ってしまいましたわ」


『………またか。だいたいは掴めているのだがどうも長くなりそうだ。次も来そうか?』


「貴方とお話がしたかったそうよ。来ないでと言っても来ると思うわ」


『………早めにまとめるとしよう』


「そうして下さい。わたくしの方も色々と回収しますわ。それにしても、なぜアーガスト家に絡んでくるんです?」


『………私も聞きたい。まったく、何を思って絡んでくるのやら』


 あら。貴方様でもわかりませんのね。これは嫌な予感がして嫌だわ。


「ごめんなさい。そろそろ魔力が持ちそうにありません」


『………ああ、わかった。そっちも気を付けてくれ。ドミヌワ伯爵にはニアキスの件がある。警戒はしておいてくれ』


 そうしてゆっくりと魔力を離すと水晶の光は消えていく。


 さて。嫌な朝になってしまったわ。こんな時は外へ出て楽しくお買い物で忘れたいのですけど、警戒するなら外出はできないわね。


 ジェルエに子どもたちを食堂に通すように伝えて私も階段を下りる。換気が行き届いたのかしら。空気が清々しい。まあ。ジェルエったらハーブの香りでも一緒にやったのかしら?


 この屋敷には家族以外、ジェルエしか魔法が使えないから困ったものね。ポメアにもその兆しがあるのに、うまくいかないからもどかしいわ。


 今では魔力が少量しか持っていない者でも使えるように、色々な魔法具が出たわね。


 生活用品の火や水。少量の風に照らす光。様々なものが産み出されてこの王都も栄えているわ。


 一番はやはり、少量でも使える魔法具ね。あれは本当に便利よ。浴室の湯を簡単に溜められるし、ドレスだって水の魔法具一つで綺麗になってしまうのだもの。


 知らぬ先代の方々には感謝をしたいわ。ただ………それが少しお高い事が難点ですけれどね。


 考え事をしていればもう食堂に着いてしまったわ。どうやらわたくしが一番だったみたいね。よかったわ。


 メイドにお茶を用意させて待つこと数分。一番始めに来たのはトフトグル。旦那様にますます外見が似て逞しくなったわ。


 教えた通りの作法に満足して席を薦める。次は誰かしらね?


 もう少し待てば今度はクロムフィーアが顔を出したわ。さあ、貴方はどうやって入ってくるかしら。


 まだまだマナーをしっかり教えていないのだけど、クロムフィーアは幼いわりにしっかりとしていて母は少し寂しいのです。


 ほら。少し驚いていますけど、微笑んでスカートを少し摘まんでお辞儀をしてくれる。教えていたかしら、ね。


「遅れてしまってもうしわけございません、お母さま」


「大丈夫よ。トフトグルの隣に座りなさい」


 本当に、どうやってその知識を得たのかしら。午前は本を読んでいると聞くけど、我が家に礼節の本はあったかしら?それとも教えたかしら?嫌だわ、今度ジェルエと相談しなくてわ。


 とことこと可愛らしく椅子に近づけばポメアがすかさず椅子を引いて座らせる。一言、ちゃんと添えて。


 ポメアも素晴らしいわ。娘の可愛さを最大限に引き出してくれるもの。


 椅子に座らせるのは大変ですけどそれでも優雅さは失われずに、音もなく座らせる。リアディリアが取り込んだらしいのだけど、いい判断ね。


 その最後にリアディリアが顔を出す。この子は甘やかしてしまって少し、上から物を言う癖が残ってしまって私は悔やんでいます。


 今は調整のおかげでだいぶ回りを見るようになりましたけど、本当にダリスたちがいなければきっとアーガスト家は没落していたわね。


「お待たせし申し訳ありません。レッスンに夢中で気づくのが遅れてしまいました」


「まあ、それではしかたないわね。今日のレッスンは何かしら」


「ダンスでございます。まだ未熟な故、練習に励んでおりました」


 対応も角度も完璧だわ。さすが私の娘たちね。笑顔を送って座らせてあげる。ちゃんとマナーを学んでいるみたいで、わたくしは誇らしいわ。でも、誉めるのは後ね。


 さあ、少し面倒ですけど家族会議を始めましょう。




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