完治!
改訂いたしました。27.5.6
はーい。まだまだ冬は続くなか、結局は風邪をこじらせて色々なところに迷惑をかけまくった私、クロムフィーアです。
本当にごめんなさい。一日はジェルエさんたちのお話の途中でぐっすり寝ちゃってね。起きたらお腹すいて半べそでしたよ。
まあ、泣かなかったけどね。でもね、余計な心配をさせてしまったらしい。
ジェルエさんから伝言ゲームのように伝わって結局みんなからお見舞いに来てくれることになりました。たぶん魔力が暴走すると思わせたかも。
抑制魔法具は微力ながら機能してるよ!いや、私、半日は寝てたらしいからまさかっ―――みたいなのがよぎったんだって。
慌ててきたお医者様が呆れ返るほど私はただの風邪なんだけどね。みんな(とくにお父様とお母様)はちゃんと見たのか!?とほとんど脅迫まかまがいに迫ってた。
お医者様も災難だよね。お兄様とダリスさんが深々と頭を下げてたの、私はみたよ。
お姉様も遠目から私を伺ってた。でもお姉様は近づいてこない。一人の時は。やっぱりお姉様はツンデレ属性らしくて、甘くておいしいリンゴ(この世界ではゴリンだった)の切ったヤツを持ってきてくれた。けど
『私が用意したのだから食べなさい』
『いたーき、ます!』
『何を言ったのかは知りませんけどクフィー駄目よ!それは私があげたのだから、あげた人がいなくなってから食べるのが礼儀ですのよ!』
そんな礼儀しらないよ。思わず突っ込みそうになったけど、ここはあえて笑顔で頷いておいた。にへら。
ちょっと怒りながらすぐに出ていかれました。でも声だけなんだけどね。顔は少し赤かった事を、私は見たよ。
そしてお兄様は相変わらずのイケメンです。イケてるメンズ。その名の通り、私が眠れなくて困ってる絶妙なタイミングで現れて絵本を読み聞かせてくれました!お兄様イケメンすぎるっ!!
しかも頭を撫でながら読んでくれるとかどんな至福ですかっ。逆に寝るのが惜しすぎて結局寝ちゃった自分が憎かったよ!
お父様は言わずと分かるほどにシンパイ、シテクレタヨ?ウザ………ツカレタ、ナンテ、オモッテナインダ。
私の部屋にモッコモコの防寒対策グッズが置いてあるだなんて、知らない。あれは箱だよ。ビックリ箱なんだ。いや、開けたら確かにビックリ箱か。
風邪ひいたらここまで見舞品を贈り寄せてくるのか。そうか。お父様って本当に加減が分からないんだね。防寒グッズは一種類1セットでいいよ。何種類もいらないから。
因みにお母様はなにもなかった。なかったけど、一日私の傍を離れなかったのは、決して暇だったからではない。ジェルエさんから仕事を奪って閉め出したなんてそんな。
アーガスト家の奥様、なにやってるんですか?タオル?絞ってくれるのはありがたいけどもう少し強く絞ってくれません?なんかだんだん水が滲むように出てくるんですけど………………
言うまでもなく、このおかげで私の風邪は長引きましたとも。7日はきつい。色んな意味できついっ!
取っ替え引っ替え―――じゃなかった。入れ替わり立ち替わり両親が忙しないよ。
まあ、珍しいお客さんも来てくれたんだけどね!
なんとなんと!レーバレンス様です!なんでかって?そりゃお父様が「嫌だ!クフィーの看病するう!!」とか言っていつまでも私のベッドにしがみついていたからだよ。
レーバレンス様の無表情が氷のように………全体的に黒っぽくてさらに怖さが増してなかなか冷たい空気が部屋を占めていたよ。あの時の髪が浮き上がったのが見えたのは気のせいかな………?
私を出汁にレーバレンス様は引きずって持っていってくれたけどさ。さりげなくお見舞いの品を置いていってくれましたよ!
「子どもでも分かる魔法、か」
うん。何度見ても、絵本だよね。まさかレーバレンス様がこんな、タイトルの絵本を持ってくるとは誰が想像できますか!
なに食わぬ顔で、でも買うまでこそこそしてたらレーバレンス様ちょっと可愛いのに。元気になった途端、夢が膨らみます。妄想とも、言うね!
「クフィー!よく元気になった!!お父様は嬉しい!嬉しいあまりにお休み取ってきた!」
「え」
「は?」
「まあ」
お母様嬉しそうですね。お兄様と私はきっと同じ事を思ってるよ。何言ってるの?それが本当ならまた厄介な………て。
「そんなわけが、あると思うとるのか?十進魔法師の一の席、それに加え王宮魔法師筆頭と名を馳せるお主が―――簡単に休みを取れると思うとるのか?グレストフ」
「………………ご無沙汰しております、ヴィグマン十進魔法師殿」
「挨拶はけっこうじゃ。行くぞ」
首根っこで運ぶときって、けっこう力使うよね。ヴィグマンお爺ちゃんを見ているとすごくそう思います。
こうして私の風邪は幕を閉じる。うん。色々あった。お父様が濃すぎて。
でも気になる事がいっぱい出来ましたよ。私が風邪を引いたのに、ニアキスが一度も姿を見せなかった事。やっぱりおかしいって。
結局みんな忘れちゃって、私は動けないから確認のしようもない。まあそこまで気にすることじゃないんだろうけど。
なんか嫌だな。やっぱり野放しにしておきたくない。かと言って、誰かが場所を知るわけでもない。ほらおかしい。なんで姿が発見できないの。
まあ気にしたらしょうがないのかな。頼ることなんてほとんどないし。
素敵快適異世界ライフを送れればそれでいいか!
しかしあれだよね。外をチラリと見てみるけど雪なんて………ないねー。いや、寒いから別にそんなほしいわけじゃないけど。ほら、冬といったら雪じゃんか。銀世界にダイブ、したかったな。
てかね、思うに水はちょっと見にくいんだけど、なんとかなんないかな?
コップを手渡された時なんか、重みでしか入ってるのわかんなかったよ?コップは透明だったから向こう側の世界がおかしすぎてさすがにわかったけど。
見分けるの疲れる。そして、ヴィグマンお爺ちゃんが置いていった丸い物体がわからない。私は見てたよ。さりげなくお父様を持っていくついでにダリスさんに渡していたところを。
それで出されたのが丸い物体なんだけどね。ダリスさん………「どうぞ」だけじゃわかりません。私はご飯を待ってたんです。丸い物体なんて………これ食べられるの?
色はとりあえず白っぽい。白と断言できない白。淡い色なのかな。それで本当に真ん丸い物体。お皿の上で転がらない不思議。謎だね!もしかして一部平ら?
あ、なにこれツルツルしてる。肉まんかと思ったのに違うのか。むしろライスボールかな?でも暖かくないね。だからなぜ転がらない??
掴んだのはいいけど食べるのに悩まされる。うーん、どうしたらいいんだろう。隣を見てみるとお兄様とお姉様がちぎって食べてる。え、これ固くなかった!?………やっぱり食べ物なのか。匂いしないよ?
「クフィー、どうした?」
「こえ、たべらえうの?」
「ああ。クフィーは初めてよね」
「私が説明してあげてもよくってよ!」
「じゃあリディが教えてあげなさい」
「はい。クフィー、私が特別に教えて差し上げますわ」
えっと、はい。分からないので教えてください。
妙に張り切って胸を張るお姉様に押されつつ、私は頷く。ビビってないよ。お姉様が珍しいと思ってるだけだから。
「これは、小さな子どもが病気を持ったら親族の年長者がこれ以上悪くならないよう精をつけるため、タブヒを煮込んで体調が元通りになる薬草を練り込んで作ってもらったタブヒブンよ!」
………………………………なにそれ。
え、親族の年長者?これヴィグマンお爺ちゃんから貰ったよね?本当にお爺ちゃん………になっちゃう。あとタブヒブンてなに。ネーミングセンス疑っちゃうよ?
「私たちの家系は少し複雑です。ですから今回は、ヴィグマン様にお願いしました。本当の親戚ではありませんよ?」
なんだ!ちょっと本気で驚いちゃったよ!
「タブヒの肉は食べれる肉の中で精力が一番つくんだ。子どもは一度体調を崩すと体力が失われて死んでしまうからね。けっこう大昔から伝わってるんだ。王都では珍しい風習だよ。実際やっていなかった頃は子どもが熱を出せば八割がた死んだから尚更信じるものが増えたって感じかな?」
「兄様、説明は私が任されましたのよ。お話させて下さいませ」
「それは悪かった」
とかなんとか言って。ちょっと頬を膨らませて黙っちゃったよ。まあ、お姉様だからそれもアリだ。
それでもお姉様はボソボソと付け加えていく。タブヒとは丸く太った家畜だって。そうか。すっごいザックリとした説明をありがとう。
他にもこのタブヒブンの由来がそのまま名前と鳴き声で決まったとか、練り込んである薬草はヨグナ草だとか。出所が王宮説云々。形とか食べ方とか。
よくもまあ、いっぱいでた事で。お姉様の鼻がかなり高く見えます。
異世界となると面白いものもあるんだね。で、食べ方は?
分からないのでお兄様に丸投げしたら丁寧に半分に割ってくださいました!中からちょっと汁が溢れそうで………みんなどうやってちぎってたの?
かぶりついていいよ。なんて言われたので遠慮なく。ってあっつぅう!?
「湯気が出てるだろう?慌てなくていいから食べるんだ」
「………あい」
よくみたら湯気がすごい出てるよ!!なんで気づかなかったの私っ。
その後、何度かかぶりつこうと挑戦したけど暑くて無理だったので、しばらくお皿の上に置いて眺めてた。
お母様がすごく微笑ましそうにこっちを見てたけど、これは食い意地を張ってる子が我慢してる構図ではありません!冷めるの待ってるんです!
そんな私をお母様は名残惜しそうに退席して、さあ。もういいよね?食べようじゃないか!
もう一回豪快にかぶりついて!………………うん。腸詰めの饅頭ってとこか、な。外がパリっとして次にふっくらとした生地。肉っぽい味がするけどさっき言ってた薬草のような―――てか草の味もしてなかなか………………オブラートに包んで言うならちょっと強い癖のある味。
それが顔に出てたのか、お兄様とお姉様が口を揃えて笑いだした。お兄様は隠すことなんてしない。遠慮のない笑い。お姉様は必死に背を向けて声を殺して肩を震わせてた。
うん。知ってたのなら教えてくれてもいいんじゃないかな!?薬草ってあたりで薬膳食って気づけばよかったよ!!とんでもない味だったわっ!苦しょっぱい!




