まさかの事態です!
んー……暇だねえ。
コデギス近衛補佐が出ていちゃったあと……私と言えばやる事がなくてぽけーっとしています!
本当にやる事がない!
せめてなんか本とか置いていってくれるとありがたかったのに……教本は嫌だけど。
飽きたよ、さすがに。大体は覚えたと思うけどあれは飽きる。
と言うことで部屋を見渡してみる。
なぜか中心に四角い角も整えられていない触り心地からして木のテーブル一つにこれまた角を整えていない木の椅子。
なぜか背もたれが短い。たぶん大人が座ると背中半分ぐらいしかないと思う。
私にはぴったりだけとね!
一辺には二人分の椅子があるため合計八人分もある。
棚はあるけど白黒じゃあちょっとよく分からない。小物が少し置いてあるかな。
窓は小さめの上下するものが二つ。なかなか高い所にあるよ。私には絶対に届かないでしょう。
後は――ハハハ!下りられないから壁さえも見に行けない!!
なにこの下りられない歯痒さっ!泣けてきそうだよ!足に届かないじゃんっ。何気に椅子が高すぎて下りれないって誰が使うの!?
「これ、バーカウンターの椅子より高いって。……あれだ。寄りかかるために作ったやつ。なんて言うんだっけ……」
実際はかくかくの四角い椅子なんだけど。脚がやたら長くて私、下りれません。
あ、足だけ長いから見た目だけならレストランで見るお子ちゃま用の椅子だね!
いや、別にジャンプして飛び降りてもいいんだけど……戻れないし。足を引っ掻ける真ん中の棒さえもない。
あと何となくこの部屋がなんなのか予想が出来て勝手に下りたくないな、と思う。と言うか下りたあと登り直せないから立っていなきゃいけない事実が辛い!
なぜならここの床が土みたいなこう、黒い粉が所々にあるんですよ!汚いね!掃除しておいてよ!
しかも回りを気にしだしたらどことなく土と汗の臭い……ここ、客間とかじゃない事は確かだね?
なんて所に置いていったんですかコデギス近衛補佐!
急いでいたから適当に放り込まれた感バリバリ伝わってくるよっ。
気にしないようにすればするほど気になる。うん。きょろきょろしなければよかった……
壁に地図が見えるよハハハ。あれ我が国じゃないか。細かくもしかして地名?が書いてあるのか地図の中がちょっと黒い。地形なんてほとんどわかんないよ。
あ、じゃあ地図の側に立て掛けてある白に近い薄い灰色の棒は丸めてある他の地図だったりして……
領内の地図とか……隣国の地図、とか。
あと、どう見てもお偉いさんが着ました!と言わんばかりの軍服がハンガーに掛かっているのですが?
見て、あの胸元の丸い粒々。ここからじゃよく見えないけど勲章バッチに違いないよっ!
五個も付いている、だと!?どんだけ功績をあげた人なの!?
「でもそんな人知らない……私が知らないだけ?」
うーん。もしかしてグラムティア殿下とか?いや、王族のをここに飾るとかないよね。
そもそも何で軍服が掛けられているのかが分からないんだけど……よし。スルーしよう!
ここどう見たって会議室!そんな雰囲気がしてきた!ちょっと汚くて臭いけど。想像とはなんて恐ろしいんだかねっ!
いや、地図を使うだなんて軍議ぐらいじゃない?それしか思い付かないし。その他って保管行きじゃない?
まさかのここが保管庫……?スッカスカだけど。そんな所に置いていかれた私がいたたまれないわー。
「よし。切り替えよう」
独り言とか空しい……早くアブル帰ってきて。
最近ノルアはトールお兄様の所に行っちゃうからちょっと寂しいんだよね。
そんなにお父様やトールお兄様の頭の上って心地いいものなんだろうか……リッスンがよく分かんないよ。
さて、気持ちを切り替えまして――まだまだコデギス近衛補佐は来ない模様。
不貞腐れるよ?
初めての授業がおじゃんですよっ!
「……つまんない」
一人ってこんなに寂しかったっけ。
よくよく考えたら一人っきりになるなんて寝る時以外になかったんじゃない?そのままスコーっと寝ちゃうし。
いつもポメアがいたし。護衛にアブルもいた。ノルアだって気分屋だけど家にいれば私の近くにいる。
ふむ。一人の時間がないのもどうかと思うけど。
そこは私がポメアをうまく采配しなきゃ駄目なのかな?今度お母様に聞いてみよう。
行儀が悪いけどテーブルに突っ伏しまして――そう言えば色が見えるように魔法具を考えなきゃ。
作るためには形、材料、属性、魔法文字――だよねー。
そもそも色を見えるようにする属性ってなに?
形は当然ながら眼鏡でしょう。材料はダサくならないようにウィル様八進魔法視様の様なインテリ眼鏡がいいな~。
普通のガラスと……金属?あれ、魔法文字を書き込むところってレンズの部分になるの?
そうなると魔法文字が邪魔になりそうな?
そもそも私の場合は魔法がキラキラと光って見えるからレンズに魔法文字があったら色どころか回りさえ見えないんじゃあ……
て、あれ?て事は下手をしたら魔法具そのものが発動すると身に付ける私にはキラキラが見えるだけで意味がない?
となると眼鏡はダメってこと?
「じゃあどうしろとぉ?」
いや、でもまだ作ってもいないし――そもそも作れるかも分からないじゃん。
となると……別の案も考えた方がいい?
別、別……一瞬だけ脳に埋め込んで音で色を判断する某有名な画家さんを思い出したけど却下だね。
脳に埋め込むとか手術が発展していなさそうなこの世界でそれは無理だよ。実験もしなきゃなんないだろうし。解剖怖いっ。
しかも大変失礼だけどあれは頭に汲み取りセンサーがひょっこり頭の天辺から出てくるので大変見た目が怪しい。
伯爵令嬢である私にそれを生やしたらお母様は卒倒するだろうしお父様は発狂?まず手術する段階で計画が潰れそう。
トールお兄様はどうだろう?やんわりと叱られる様な気がする。
ポメアも卒倒するだろうね。
考えただけでダメダメが浮き彫りになる。と言うことで改めて考えよう。
眼鏡じゃない媒体方法は何か、となると普通に腕輪とかになるのではないかと思われる。
しかし特定の場所に発動したい場合はより近い方がいいとされている。
アクセサリーで言うと目に一番近いのは耳か額か。額かな?
魔法文字を入れ込むのにも多少の大きさが必要。
かなり目立つ。いっその事イヤリングにして魔法具を二つに分けるのもありかも知れない。
と言うか私の体に三つの属性だから反発しないように考えなきゃ……
う~ん――今度レーバレンス様かお父様に相談しよう。
魔法文字も考えなきゃ。でも一人で文は考えない。こんなのがいい!てレーバレンス様あたりに押し付ける気満々です!
怪しまれないようにしたいからね!
「それにしても遅いよ……」
足をぷらぷらさせて拗ねてみる。いや、拗ねているんだけど本当に一人って虚しい……
ただ座っているだけってこんなにも退屈なのをコデギス近衛補佐は知らないのだろうか?
騎士だし見た目から絶対にじっとしていられないタイプじゃんか。もうっもうっ。
そんなコデギス近衛補佐には天罰が下るといいよ!
なんて思っていたら私に天罰が当たりそうです。
ガチャっと一つしかない扉が空いちゃいました!因みに私はまっすぐ椅子に置かれたので扉に背を向けている状態です。
そして何がどうなったのかトン、とブーツが床を鳴らしたと思えば顔の両サイドから刃物がにょきり。
綺麗に磨かれているためか私が写っているよ!……怖っ!?
「動かない方がいい。これは遊びではない。まずはどこの誰か、自分で言え」
死亡フラグっていつの間に立つんでしょうか。
首に当てられていないのが幸いなのかよく分からないことを考えながら私はゆっくりと名前を紡ぐ。
騎士棟って本当に危険がいっぱいだね!誰かー!助けてー!
本当にコデギス近衛補佐へ天罰が下りますようにっ!!




