頑張れ近衛補佐コデギス
お久しぶりです!生きてます!
休んだ分を取り戻すべく頑張りたいと思います!!
嬢ちゃんに頼まれて俺は素早く駆け出す。ここは関係者以外立ち入り禁止の通路なため遠慮なく走る。
事の始まりは一昨年から代替わりした隣国の教皇のせいだ。シェヌピスの事もまだ片付いていねぇのに教会の旗を掲げて教皇は我が国へ来やがった。
教皇の狙いは今のところわかってはいない。それでも十分に警戒に値する奴らだから俺たち近衛と第一軍は今日から一週間ほど警戒を強めた。
一番の理由はやはり精霊に関しての信教を教え説こうとする事だろう。俺はんなもん聞いていると眠くなる自信があるからガストレアに押し付けて陛下から少し離れた回りを警戒する事にしていた。
魔法師として筆頭のグレストフも今回ばかりは会わない訳にはいかないのでかなりうるさい。あいつが一番接触したくないのは分かるがその不満を当たり散らすのはやめてほしいぜ。
「と、やべぇ。どの辺だ?」
まったく教会の奴等はとんでもねぇ事をしてくれやがって!こっちの仕事を増やすなってんだっ!!
教会は常々から魔力を多く所持するグレストフを狙っていた。シェヌピスが特にそれを表に出してしつこいくらい勧誘していたのでそれはご愁傷さまってもんだ。
しかしそれはシェヌピス一人の事だと思っていたんだがな!他を見ても必ず勧誘しているみてぇだし、断ればしつこく追うこともなかった。まあ……グレストフの魔力がこの国で一番多かったからって理由かも知れねぇ。そのおかげで教皇のお膝元の奴らまで気は回らなかったんだよな。
「おい、変な奴を見なかったか?」
「っ、コデギス近衛補佐!お疲れさまです!」
近くにいた若い騎士に聞けばバッとすぐに敬礼するとはよく言いつけられているじゃねぇか。挨拶と礼は騎士に入団した瞬間からみっちり叩き込まれるからな。
だが今はそんなこと後回しでいいんだよ。まあ叩き込まれた習慣はすぐに抜けねぇけど。魔法師みたいに軽く会釈でもしてれば楽なんだけどなあ。
「楽にしろ。今は魔法師とうまくやっていればいい。ところで変な奴見なかったか?」
「それは、どのような奴でしょう?」
「……騎士でも魔法師でもない奴だ」
しまった。こっちは立ち入り禁止区域。入り口あっち側じゃねーか。
すぐに間違いに気づき頭をかく。案の定、若い騎士からは特に何もないと答えられた。
「……邪魔した」
「私は【風】属性なので他の方々に魔法で聞きましょうか?」
「あー、頼む。入り口付近とあと……クロムフィーア若魔法師と一緒にいた中級魔法師の居場所も教えてくれ」
「わかりました」
こんだけ広いんじゃ探すのも一苦労だよな。焦ってたら意味ねぇってわかってっけどやっちまうもんはやっちまう。
魔法の事はわからねーから情報は金髪頭のおっさんに任せて俺は黙視でとりあえず探って行く。もう紛れていたら最悪だしな。
よりによってなんで教皇に着いていた奴が魔法を使いやがんだよ。しかも辿ったらグレストフの末娘のところだしよ。
余計な仕事を増やすんじゃねえ!と憤りながら心ん中で教会の奴らを殴り飛ばす。こうでもしねぇと苛立ちが治まんねぇぜ。
「コデギス殿、不審な者は誰も入ってきていないそうです」
「はや」
「聞くだけですからね。ただ、許可を認められていない教会の方が別室で騎士と待機しているそうです」
「伝言を頼めるか?」
「どうぞ」
「陛下とガストレア近衛隊隊長、俺とグレストフ一進魔法師の許可がない限りぜってぇーにそっから出すな。後で俺が行く。そのまま待機」
「わかりました。あと、クロムフィーア若魔法師と一緒にいた中級魔法師の居場所は私の魔法結び蝶に着いていってください」
「助かる」
本当に助かるわー。こんなだだっ広い所で人一人探せとか無理すぎるからな!末娘の方じゃなくてよかったぜ。それこそ無理ってもんだしな。
金髪のおっさんはすぐに唱え魔法を作り出す。あれってそんな風に作るんだな。
ぶつぶつ唱えたと思ったら指で円を描いて薄い緑色が光る蝶が出来上がる。どっかのご令嬢が結んだかのような丸い輪が二つに垂れ下がる短い紐も二つ。薄い緑色の幕を張った魔法結び蝶はふわりと飛んだ。
軽く手を振って感謝の気持ちを伝え俺はその魔法の後を追う。ぶっちゃけ駆け出したいが魔法結び蝶はふわりふわりと漂うので遅くてたまんねーぜ。
見失わないよう後を追って――急に曲がりやがるから思わずちっこい若魔法師を撥ね飛ばしてしまった時は焦った。踏んずけてねぇよな!?
泣き出さなかったのが幸いだ。頭をガシガシと撫でて謝りまた魔法結び蝶を追う。
じれってぇー……もっと早く飛ばす事はできねーのか?さっきから不思議そうに追いかけている俺を見て首を傾げている部下に何となく居たたまれねぇ。早く飛んでくれよっ。
ひたすら人を避けながら魔法結び蝶を追いかけ――ついにさっき見た中級魔法師を見つける。そいつの頭にくっついて本人は気づいていない。ぶっちゃけ男に見た目が可愛らしいもん付けるとか面白え。目の前にいた成り立て騎士が瞠目して笑いを堪えてやがる。
不思議そうに中級魔法師は首を傾げ何かを告げていた。どうやら魔力操作について指導をしているようだ。
んで?ベベリアは――と。
「おい、ベベリアは?」
足元にいやしねぇ。なんでだ?
俺が声をかけると中級魔法師は驚いてなぜか両手をあげた。別に取って食わねーよ。まあそのおかげで「ぶあ」って変な音が聞こえベベリアを発見した。抱えていてのか?
「それ、どうした」
「あ、えっと……こいつ目立つから――目立つので、ローブで隠していました」
「あの子が拐われたと、コデギス近衛補佐のご乱心だとも」
……まあ、そーなるよな。
ガリガリと痒くもねぇ頭を掻いてため息を盛大についてやる。俺がただ誘拐するわけねーだろ。
ちらちらと俺を見てくる上級騎士を黙殺してとりあえずベベリアの首根っこを掴んで適当に誤魔化しておく。まあ用が出来たとだけでいいだろう。つーかグレストフの名前を出せば一発で納得しやかだった。当然だけど複雑だぜ、おい。
「ぐるぅあ」
「なんて声出すんだよ」
低く鳴きやがって……て、おい!?なんで唸ってんだよっ。
さすがに小さくてもベベリアに攻撃されたら一溜まりもねぇ!恐くねぇと言いたいが無駄に怪我をしたくねぇ俺はそっと地面に置いてやった。おいおい俺を見るんじゃねぇ。
ただ中級魔法師を見上げた時が一番の低い唸り声を出した。こいつに何かされたか?
嬢ちゃんの通訳が必要じゃねえのか?わからんが唸りながら四足を地面に付け構え始めたぞ。
「え、いや、何で!?ええ!?」
「あれじゃないですか。さっき落とされたから……謝ってませんし」
「それ!?痛いのか!?あの高さでベベリアが痛がるのか!?」
俺を見るな。知るわけねーだろ。自分の身を守るように体を抱き締めた中級魔法師は少しずつベベリアとの距離を取る。
もう少しでぶつかりそうだが相手の方が気づいて道がどんどん開いて行く。その間に情けないほどの恐々とした声で謝り出した。
それで納得したのか知らねぇがベベリアは満足したのかどすんと尻を落として鼻息を荒く出す。ついでに尻も掻き出したぞ、こいつ。
これを持ってかなきゃなんねーのかと思うとうんざりするが仕方がねぇ。教皇が取り立てたら教会の奴らがこちらに来る可能性がでかくなる。そうなる前に俺たちは撤退だな。
「じゃあ、こいつは持ってくからな。嬢ちゃんは早退でもしておいてくれや」
「りょ、了解でしまた!」
「……こういう時は是、と短く言っときゃあいい」
舌を噛んだらしい新人が涙目で俺に覚えたての敬礼を返す。まだまだ慣れねぇのか不格好だが誠意が伝わって来て将来が楽しみになる。
嬢ちゃんをこれ以上一人で待たせるのも後々にグレストフ辺りから文句を言われかねねーからさっきと同じようにベベリアの首根っこを掴みあげ早々に立ち去る。
また「ぐあ」なんて鳴きやがるからなんだなんだと様子を見るが別にどうという事もなさそうだな。紛らわしい。
あー、もうベベリアと関わりたくねぇ。なんでベベリアを奴隷にしちまったんだよ嬢ちゃん。こいつ手を忙しなく動かしまくるんぜ。
短い前足を上げたり下げたり……こいつの抵抗しているようにしか見えないそれに腕をめいいっぱい伸ばして嬢ちゃんの所へ向かう。
だから嫌なんだよ、こいつ。暴れだしたら俺のせいになるじゃねぇかっ。
俺は知らなかったが、はたから見た近衛補佐である俺が抵抗するベベリアの首根っこを捕らえ突き進むその姿はなんとも言えぬ絵面で騎士を含め魔法師にさえも目を見張らせた、らしい。
それを見た奴らはこう言う。
「コデギス近衛補佐が動物を虐待している」
そもそもベベリアの事はそれほど知れ渡っていなかったのが原因か……灰色の小動物にしか思われていなかったのが原因か。
例えベベリアであっても、暴れるベベリア(小動物)の首根っこを掴みあげ(首を締め上げいるよう掴み)進む姿は動物の虐待にしか見えなくなったとの事。その光景は上層部へ伝えられ楽しそうに嫌らしくここぞとばかりに俺を攻め立てる。
回りから何を言われていたのか知らなかった俺はグラムディア殿下から急に笑顔で「しばらくキャロラリンの世話を一人でするように」宣告され非常に困惑した。
そしてなぜか目が座っているキャロラリンに不意をつかれ尻を噛まれて城内に絶叫を響かせた。とんだ災難だぜ……
くそぅっ。なんでだよ!




