どーしよ
我慢強く耐えて乞う姿。感服したよ!私にはやじゃ馬に対して真似できないね!
ちょっと睨むような形だけどプクティスくんはやじゃ馬にお願いする。なんだか殴りに行くような気配も漂ってくるけどぎゅっと握って堪える。
そんなプクティスくんに圧されぎみなやじゃ馬は咳払い一つでなんとか自分を保てたよう。ちょっと動揺の色が見えるけどこっちはこっちで大人の対応をし始めた。
貴族だから見下すのかと思えばそうではない。驚いてはいたが教えるのは好きなのか真面目に答えだした。
ただ……やじゃ馬は感覚派に近いものがあるらしく、その説明はプクティスくんをより混乱させた。
「薄く伸ばすには体の魔力を動けと念じればいい。そうしたらなんかぼやっとしたものが動く」
プクティスくんが明らかに半眼になった!
「それが出来ないから、どうするんですか、って聞いてるんですけど。てかそれ薄くなってる?」
もう敬語をやめたらしい。見上げたままプクティスくんはやじゃ馬にため息を吐いた。
これにはやじゃ馬もムッとしたようで、顔をしかめながらこうするんだ!と主張し始める。
そして魔力操作をやるんだけど。まあ目に見えるものではないからやじゃ馬がただ目の前で静止しただけの絵になった。
そんなやじゃ馬を見る私とプクティスくん。アブルが鼻で笑ったのかそれともくしゃみでもしたのか「ぶっ」て言っている。
……一応、フォローでもしておこうかな。
「感じとる事も大事です。彼に触れて読み取ってみてください」
「え」
嫌なんだけど?って表情を全面に出して私を見ないで下さい。感じとるのも本当に魔力がどう言うものなのか分かるからそう言っているわけであって、決してセクハラをしろと言っている訳じゃないのです。
やじゃ馬も「いいぞ!」なんて言っているのでどうぞどうぞ。動かないなら私が無理矢理にでも動かしちゃうぞ!
なんて呟いてみたら渋々とプクティスくんはやじゃ馬の腕に触れる。
「まずは意識をしてください。何か暖かなものを感じ取れませんか?」
「暖かいもの……んー?」
「こう、ぼやっとしたやつだ」
やじゃ馬は黙っていてくれないかな。やじゃ馬が何かを言うたびにプクティスくんの表情が不機嫌になっていくんで。
けどまあそんな事を若魔法師の私がいえるはずもなく。言えるけどあえて私は言わないよ!面倒だし。
「分かるような、分からないような……」
「やじゃ――る、中級魔法師先輩(なんかださい言い方になっちゃった)どうしますか?」
受け流してくれる事を祈りながらどうするか聞いてみた。とりあえず立てておかなきゃ後が面倒だもんね。
そんなやじゃ馬は私が変な風に呼んだせいかぎゅっと眉間を寄せて口をへの字に唸る。
言いたい事を我慢しているのかしかめっ面をそのままに少しだけ待つ。なんとも辛そうである。
そしてやじゃ馬は――ふん!と鼻息荒く出したかと思うと私の事は受け流してくれたらしい。魔力の感じ方を教え始めた。
体の中で感じるぼやっと暖かいものを探せと言えばプクティスくんがあっちこっちやじゃ馬の体を触り出すから驚いたけどね。
さすがのやじゃ馬もちょっと焦って止めていた。
これではプクティスくんに魔力を関知させる事は出来ないので……なぜか、私にどうする?とお鉢が回ってくる。
言いたくないけど先輩、自分で後始末して欲しいな!
「プクティスさんが探すのではなく、ヤジャル中級魔法師先輩がまず触れたところに魔力を這わせ魔力を感じ取ってもらってはいかがですか?」
「なぜ私が――」
「そもそも、プクティスさんは魔力を理解していますか?」
「たぶんしてない」
「じゃあなんで触ったんだ!」
「探せって言ったのはあんただ」
途端にやじゃ馬の眉間がぎゅっと。怒鳴り散らさないだけましなんだろうけど止めて欲しい。もうこの二人を近づけてはいかないような気がしてきたよ。
お互いが睨みあってても私はいいから私を巻き込まないでね?
「まずは魔力を感じましょう」
と言うことでプクティスくんはやじゃ馬と握手でもしてくださいな。と言うと凄い嫌そうな表情でお互いを牽制し合う。
握手するだけで何じりじりと睨み合ってんだか……私は呆れてため息が出そうに――
「え?」
「っ!?」
「うわ!」
実際ふぅっとため息を吐き出したら濃い灰色の布か何かが視界を遮ってきた。それは私の目の前を暗くすると同時に布だとわかったんだけど……この布、なかなか大きいらしい。
足元に隙間なんてないんだけど!?完璧に真っ暗だよ!
何が起こったのか分からなくて固まっていた私は棒立ちで――たぶん意識が数秒ほど飛んだ。
って!?そんな悠長な事を言ってる場合じゃないよね!?
慌てて体を動かすけどもう遅い。手を前に伸ばして被せられた布を退けるようにもがくけど逞しい腕にすくわれてしまえば何も出来なくなる。
どうやら小脇に抱えられているのかお腹にしか支えがなくて上下に揺れまして……酸素ください!!
「酸素!空気!呼吸!」
「もうちょっと待て!」
くぐもった声で誰か分かるわけないでしょ!でも頭から照る照る坊主みたいに抱え込まれた私は足しかバタバタと出来なくて……酸素もないんだし余計な体力を使わないように大人しくする事にした。ぶっちゃけ疲れた!
なんて危機感がないんだ、と自分に叱責するけど……うーん、デジャヴュ?こんな事が前にもあったようなないような……拐われるのは何回かあるからね。て言うか小脇に抱えられて運ばれる感覚っておっさんの一回だけなんだけど。
そう言えばアブルはどうなったんだろうか。
大人しく運ばれてしばしば待ちまして――ようやく下ろされましたとさ!意外と優しく下ろされた!
丁寧に布を取られるとあら不思議!その涼しそうな頭皮を輝かせる貴方はコデギス近衛補佐様ではありませんか!
「まさかコデギス近衛補佐様が誘拐だなんて……」
「こらこらこら!誘拐じゃないからな!?これにはちゃんと訳があるっ!」
「犯人はみなそう言うんですよ(言ってみたかった!)」
「だから違う!まず弁解させろっ」
あっせあっせしてるコデギス近衛補佐様。頭を抱えてがっくり。ごめんね?なんか楽しいよ!
「あの、アブルはどこでしょう?」
「嬢ちゃん――俺で遊んだか?」
ん?とすっとぼける。遊んだと言えば遊んだけど私、まだ子どもですから~!
そんな風に交わしたらため息をつかれた。頭や気が重いとでも言いたいのかあんなに大きな巨体がたいぶ小さく項垂れる。
……回りを見渡してみたけどアブルはいない。因みにここはとある部屋みたいです。それしか言いようがない。
距離的に騎士棟のどこかだとは思うけど。私はちゃんと帰れるのか不安になる。まあ、何とかして帰るけど。たぶんトールお兄様が迎えに来てくれるはず!それかコデギス近衛補佐様が送ってくれるはず!
「あのな、しばらくここで待機しててくんねーか?」
「なぜですか?」
「あー……めんどくせぇお偉いさんがここに来んだよ」
面倒なお偉いさん……誰だろ。ある意味でお父様が当てはまるんだけど。
コデギス近衛補佐様が面倒に思うお偉いさん……お偉いさん……グラムディア殿下!?
いやグラムディア殿下は魔法騎士隊と魔法武装隊を創立した総大将だから違う……よね?
まあ王族って言うワードがもう面倒なお偉いさんのイメージで間違っていないけどね!
「どなたなんですか?」
「あった事はないと思う。嬢ちゃんの親父が追い返していたからな」
だから誰?
「教皇様がここに来てんだよ」
「え?……教皇様、は、教会の一番偉い人ですよね?なぜここに……?」
「表向きはシェヌピスの詫びだ。だが本当の狙いは嬢ちゃんだと思う。現に連れの奴が嬢ちゃんに魔法を使いやがった」
ええ?そんなのいつ使われたんだろう?
なんて思ったらコデギス近衛補佐様が蹴散らせてくれたらしい。なんでもその魔法はあの追跡魔法である魔法結び蝶だったのだ。
どこからやったのかは知らないけど私の所まで来ると言うこと。連れが使ったって事から城内で使われたんだよね?少なくてもそれくらいの距離。
でもあれはかなり魔力の消費が激しい。なんたって追跡するターゲットがどこなのかわからないから距離が伸びれば伸びるほど消費する。
まあ私がどこにいたかなど分かっていないけど。文字通りターゲットの跡を追うからターゲットがぐねぐねと歩いたらその通りに魔法結び蝶も辿る。
もちろんそのぐねぐねが最終的にたどり着くルートと重なれば短縮されるけど。でもあまり使われない魔法だったりする。やっぱ消費量がね。それに妨害されたらそこで終わりだし。
「なんか追跡の魔法だったか?斬りゃあいいって言われたから斬ったけど魔法の欠片も防げって言うからマントを被せて連れ出したんだよ」
「え」
それは……回りはビックリだね。突然コデギス近衛補佐様が剣を振り抜いて私にマントを被せるとか怖いわー。
しかもマントごと連れ去られました。絵面的に不味いんじゃないかな?ちゃんと説明されてるといいね、コデギス近衛補佐様。
「ところで今さらなんですが」
「あん?」
「教皇様が訓練所に足を運ばれるのですか?」
「いや。たぶん連れの奴等だろ」
「どっちにしろ教会の方が来るんですか?」
「追っていた奴がいると報告を聞いていたからな。来るだろ」
……ちょっと不味い、かも?
確か協会って精霊主義だったよね?精霊を崇めていたと思うんだけど。
「急いでアブルを回収してください」
ベベリアは精霊に愛されている動物って言われていたんだよ?それを教会の人が見つけたら……やっばあい。拐われる想像しかできない!
アブルを崇めて精霊を呼び寄せようと奮起するかも!?
私の言っている意味を理解したコデギス近衛補佐様はやっちまった!みたいな表情で額をガスッと叩いてすぐに駆けていった。
お願いだから騒ぎにならないでよ?アブルが人形のフリをしていますようにっ!




