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もう始動ですか?

 面食らったハルディアスはぽかりと口を開けて隣のケヤンを見る。


 まじまじと見て信じられないような顔だね。ハルディアスの予想が外れたからかな?


 対してケヤンはハルディアスに見つめられてもじもじ。君、いっそ女の子になった方がいいよ。


 あ、でもまさかの実は女の子でしたって言うやつは止めてね。私には当てられないと思うから。絶対に分からないよ。そういうのには疎いので。


 でもハルディアスをさっきからチラチラと見ていたしあり得そうだよね!もじもじと女の子みたいなんだよねー。やっぱり実は~なのかな?前にもこんな事を思っていた気がする。やばいわー。記憶力の低下とか切なすぎるっ。


 ――確認したいけど出来ないよね……一番手っ取り早く確認する方法は股の間なんだけど。


 貴族令嬢がわざわざ触って確かめるのもどうかと思うよね。変態だわ。人として変態だわ。この発想をする時点で変態かもしれない。


 え、嫌だよ?今度は変態の名前がつくのは。さすがにお母様が黙っていないからね!


「ハルディアス、どうしたの?」


 ジジル、空気を読まない!


 ハルディアスは焦りだしそっぽを向いた。耳がグレーになっている!つまり赤いって事だね!


「一緒だと思ってたんじゃない?」


 エリー、ニヤリと笑って煽る。


「あ、あの、あのあの、」


 ケヤンは混乱した。


 私はそんな四人を眺めて観察です。とりあえずハルディアスは寂しん坊と認定しよう。


 さっきの会話を考えればケヤンを心配していたって分かるし。一緒になるだろう、って思い込んでいたら不意打ちだもんねー。


 なんだ。君も大人ぶっていただけでまだまだ子どもだったんじゃん。


 無愛想だったからいまいち分かりづらくて困るよ。


「どうしてケヤンは魔法師に?」


 進みそうにないからここは私が聞きましょう。エリーはニヤニヤしてハルディアスの顔を覗きに行こうと奮闘中だからね。


 ジジルなんて頭の上にクエスチョンを乗せて首を傾げているからね。ここは私が。


 と言ってもケヤンはどことなく頬をグレーに変化させてキョロキョロ。ぎゅっと両手を握ってたどたどしく話し出す。


 よかった。待っていたら魔法師様が来ちゃうよ。あとどれくらい時間があるのか知らないけどさ。


「あのね、やっぱり……体質、が合わなくて……」


「体質?合わないとはなんでしょう?」


「あー、たぶん魔法具との相性だと思うよ」


「ああ、あれね!ケヤンくん凄かったもんね!」


 なんの事?


「クフィーちゃんがいない時にね、ウィル様が魔法具を一度だけ見せてくれたの」


「授業に魔力操作ってあったじゃない?それを使って魔法具をうまく通せるか試す日があったの」


 え、なにそれ。ウィル様、私がいない時に酷い。私もみんなと一緒にやりたかった!


「それで『小さな灯り』の魔法具を使って明かりの大きさを魔力操作で調節したりして授業をしたのよ」


 なんですと?そんな魔法具があるの?え、私は知らないんだけど?


 てか私だけ抜け者――いや、でもほら何時かは知らないけどきっとその時の私って大人に振り回されていたから……


 騎士棟でむさ苦しい男どもの剣技を見ていてですね。キャロラリンと戯れたり――いや、アビグーア部隊隊長の肩の上に乗っていただけだわ。


 すんごい楽してたじゃん。――部隊隊長って言いにくいね。部隊長にしよう。


 ええと、そ、それで……?


「私たちはクフィーが教えてくれた小人のやり方で魔法具が光ったよ!」


 やめてー!ぶり返さないでー!ハルディアスが怪訝な顔で振り返ってきたー!?


「私も私も!で、ハルディアスも所々光ったり消えたりしててまあ、最終的には一応で合格してた」


「合格は合格だろ」


「で、ケヤンは魔力操作が苦手だったらしくて眩しいほどに光ったのよ」


「光れば合格ですか?」


「ううん。光の強さをそのまま維持できたら合格」


 へぇー。で?ケヤンは?


 なんと、光ったはいいが強すぎて制御が出来なかったとの事。それってただの魔力の込めすぎなんじゃない?て思っていたらウィル様に否定されたんだって。


 なんでもケヤンは魔素を寄せやすい体質だからか魔力で威力を発揮する魔法具を魔素で強制的に範囲を広げてしまったらしい。


 つまり?


「光が広範囲に照らされたのですか?」


「そう。魔力が魔法具に通っていなかったら問題がなかったんだけどその時のケヤンは気持ち少しの魔力が実は結構入っていたみたいで……」


「窓から光が漏れて通りすがりの魔法師様たちや医者のムルセクト様から苦情が来てね、あの時はちょっと怖かった」


「ご、ごめんねっ。ぼ、僕もあんな事になるなんて知らなくてっ」


「いいのいいの。ウィル様も予想外だったみたいでレーバレンス魔術師様と共に研究に火がついて授業なくなったし」


 それはそれは……ケヤンお疲れさま?まさか魔力を媒体にして使う魔法具に魔素が反映するとは思わなかったって。私も色々と気になる!研究結果とかどうなっているのかな!?


 あと、今度トールお兄様に魔法具を使ったらどうなるか聞いてみよう。微量に魔力を放出している人が使う魔法具ってどうなるのか気になるよね。


 微量だから変化がないのかな?気になる――気になるよ!


「ではそれが切っ掛けで魔法師に?」


「う、うん。僕、あの後にウィル様とレーバレンス魔術師様に魔法具を色々と使わせてもらって使うたびに広範囲の影響が出ちゃうみたいで……魔学医も一緒で魔素に影響したら変化する薬ってあるらしいから……魔法師しかないかな」


 なるほど。ある意味でケヤンも私と同じ選択肢がないってやつだね。


 確かに常に集まる魔素の影響で魔法具をきちんと運転できないし薬品も変化するってわかるんだったら作りたいものが作れない。


 そうなると結果的に魔法師としてしか道が残されないね。


 で、ハルディアスは?


 納得したのかいつものぶっきらぼうの顔でそっぽを向いていた。もう耳は白に戻っている。


 ハルディアス的には一緒がよかったのかな、やっぱり。まあそれは本人に直接聞かなきゃ分かんないから教えてくれそうにないハルディアスは謎のままエリーがからかう。


 エリーって度胸がある女の子だよね。私が聞きたい事をずばり口にしてからかっているよ。


 ハルディアスは無視して窓を眺めながら適当にあしらっている。隣にいるケヤンは苦笑い。ジジルは楽しそうに私の隣に座って三人を見る。


「あのね、ハルディアスくんは寂しかったんだと思うの」


 隣が思わぬ伏兵だったよ!今日はビックリする事が多いねっ!こそこそと私も聞き返す。


「寂しかったのですか?」


「ハルディアスくん、体質のせいで孤児院で暮らす居場所がなかったってサーフェン魔法師様から聞いたの。ここに来る時も口減らしって意味で押し付けられたんだって。これもサーフェン魔法師様がこっそり教えてくれたよ。仲良くやってね、て。だからケヤンはいつも一緒だったの。……ねぇ、クフィーちゃん。口減らしって何かな?」


「え。えーと……(切り捨て、は駄目だよね。人数を減らすため、生計の負担を減らすため……ジジルに教えていいのかな?ええっと売り飛ばされる、殺される――もっと優しい言葉はないの!?はっ!奉公?いや孤児院の事情を聞いた後にこれは……)出稼ぎって事だよ」


 ごめんジジル。私には八歳の少女に言っていい事と悪い事がわかんない。いや、子どもの成長を考えるといつ本当の事を知るか時間の問題だけど。


 そのうち分かる事だし……それに今ここで言うのも憚れる事。騒がれたらハルディアスに私は軽蔑されて今後は仲良く出来ないよ?え、さすがに友達が減るなんて見過ごせないんだけど……と、友達だよね!?


 ただ――出稼ぎは、ないね、私。ジジルが「ハルディアスはお金に困っているの?」なんて言い出した。


 後で説明するからこの話は一旦、置いておいてくれませんかね?出来たらハルディアスがいない時に。お願いします。


 まったくもう!サーフェン魔法師様もなんて置き土産を残していくのっ!


 ……サーフェン魔法師様ってさ、あの城で働いている侍女さん達に通報されまくっている子ども好きの人だよね?


 なんでジジルが知っているの?って言う以前にすっかり忘れ去っていたサーフェン魔法師様が影ながらハルディアスを支えていたのがビックリだよ。


 子ども好きは伊達じゃないってやつですかね。


「ふん。今日は騒がしいな。授業を始める。座るように」


 入ってきたのは――エモール先生。お久しぶりです。


 エリーがスッと真面目な表情で私の隣に座る。いそいそと座って深呼吸。ねえ、私がいない間に何があったの?


 ポメアもひっそりとソファーに並んで私たちと対面して座るエモール先生は咳払い一つで場の雰囲気を変える。なんかエモール先生のターンだね。


 それで沈黙して部屋がちょっと緊張してしまうほど重くなってしまうのはどうかと思うんだけどね。


「君たちが話していたように、まずは進路を聞こうか」


 エモール先生、まさかの盗み聞きをしていた件について。気づかなかった方が悪い?いや、そんな、まさか。


 驚いてケヤンのから変な声が上がってジジルの肩がぴょん!と跳ねちゃったじゃん。


「ん?なぜ驚かないのだ?」


 エモール先生は先生で求めていた反応が違ったらしい。なんだろう……もう、驚いているのですが?


 そしてエモール先生は早く説明に入りたいらしい。ちょっと不貞腐れながらも見渡した私たちが聞く体勢であると分かれば話し出した。


 内容はお父様とほぼ変わらない。新設して作られる“ 魔法武装隊 ”についての話で新設のために若魔法師を募っている事。


 私とジジルは是非とも入ってくれないかと誘われていて、もう了承を取った話になっている。


 ハルディアスはそのまま体質の事も合わせて魔術師になる事を返事させた。なんだかハルディアスだけ有無を言わせない感じがしたけど……そこに誰かが何かを言う事はしなかった。


 それで――残りのエリーとケヤンには何か希望があるのか?とエモール先生が問うと二人は順番に話し出す。もちろん、エリーが先手を乗り出して。


「ふむ。話が早くて助かる。魔学医がいないのが少々惜しいが概ねの進路はこれで行こう。では、クロムフィーア若魔法師とジジルニア若魔法師とケヤン若魔法師は私についてくるように」


「「「え?」」」


 返事をしたけど……本当に「え?」だよ。意味が分からない。授業は……?


 そんな表情が3人とも全面的に出ていたんだろうね。あっちもなんだ?と言うようにエモール先生は行くぞ、とだけ言う。


 残されたエリーとハルディアスも驚愕で目が見開いている。わけ分かんないね!


「ああ、そうか。言っていないか?今日から実施される。そろそろ各施設に移動している頃だろう」


「え、あの。それは、来年……では?」


 あれ。私も来年だと思っていたよ。お父様も――ん?いつ(・・)とは、言っていないねー。


 ニュアンス的にはすぐにでも行ける話だね。なんで来年だと思ったんだろう?そりゃあグラムディア様からしたら魔法武装隊を早く設立したいよね。


 私はてっきり来年になってからだとばかり思っていたから寝耳に水だ。


「ポメアは」


「もちろんクロムフィーアお嬢様に付いていき影で支えさせてもらいます」


 遮られた……しかも満面な笑みで。


 ここはあえて私もにこりと笑ってポメアには全面的にもお願いしようっと。ほら、なんかあったらポメアが助けてくれるって言うんだし。


 ただ、騎士棟?に行ったら他の誰かの肩の上にいそうだけどね。


 久しく扉から入ってきた姿を見るレーバレンス様とその後ろからぬっと現れるアビグーア部隊長を見て私は思うよ。


 いつになったら肩から卒業になるのだろうか、と。



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