後回しでも遅くない、はず
お久しぶりです!
これからまたちょいちょい書いていきますのでよろしくお願いします。
修正いたしました。28.12.31
まさかね。いや、まさかねー……
お父様の言っている事がいまいち理解できない。追い付かない。
何て言った?なんて言われた?
考えない方がいいな、と思った時には受け止める言葉はすんなりと脳に刻まれて拒絶する。
騙す目じゃない。嘘をつく目じゃない。とても真剣で悲しそうな目。
「クフィー、よく聞くんだ。クフィーは前世の記憶があるからと言って受け入れられないかもしれない。けど、賢いクフィーだから私はこれを今、伝える」
賢くなんかないよ。好きな歴史がなんの役にも立たないじゃない。
「クフィー……ヴィグマン様は、八歳のクロムフィーアを思って真実を伝えなかった」
一瞬でもヴィグマンお爺ちゃんを恨んだ。職務怠慢だとも思った。けど、それは私を思ってだ。
けど感情はそう簡単には止まってくれない。涌き出た感情はすぐに私を襲う。
ピリリと刺激される左目。熱くたぎる右目。目の中の魔塊が反応する。
「ぐるぅあ!」
アブルが叫んだと同時にお父様が気づいて私を抱き止めてくれた。背中を優しく撫で落ち着くように宥める。
分かってるんだよ、本当は。
子供に真実を突きつけるのはヴィグマンお爺ちゃんだって辛かったでしょう。お父様に押し付けるな!と言う感情と、辛い言葉を他人に任せるなんて魔学医としてどうなの!とか気持ちが溢れる。
でもね、もし私がヴィグマンお爺ちゃんの立場だったら、躊躇うと思うんだ。
だって、私は8歳の幼女で、あの時私の傍には保護者がいなかったんだもの。
ピリリとじわじわと熱く痛かったけど……なんとか私は落ち着きを取り戻す。
一方的に医者を罵るのはいけない。ましてや相手はヴィグマンお爺ちゃんだ。
孫のように可愛がってくれるんだから感情が邪魔をしてしまうのは仕方がない事もあるよね。
お父様に促されて深呼吸。よし、大丈夫っ!真実を――受け止めなきゃ。
「あのね……クフィーの両目にある魔塊――本当は目の半分も大きさがある。それはこれからもだんだんと大きくなり、十五歳を迎える頃には……目と同じ大きさになり失明する。魔塊が目を侵食する状態に、なる」
っ……死ぬ訳じゃないよ。目が犠牲になるだけ。
悲しくないと言えば嘘だよ。涙が出なかったのはまだ整理ができなかったから。
なぜヴィグマンお爺ちゃんは私に言わなかったのか……それはきっと子供の夢を壊さないためだよね。
……やっぱり思っちゃうな。ヴィグマンお爺ちゃんはなんて卑怯なんだ、って。魔学医のくせに最後の責任を親に押し付けるなんて……
「ヴィグマンお爺ちゃんも覚悟の上かな」
「……ああ。言わなかった事を後悔しているし、伝えられなかった事実に心を痛めていたよ」
医者って理不尽に責められる時がある。助からないかもしれないのに出来る事すべてをやり遂げても人は脆く死ぬ。
死んでしまったら医者のせいだって罵られてさ。理不尽だよね。今の私も理不尽にヴィグマンお爺ちゃんを攻めてる。
だって、て考えちゃう。私の魔塊は前代未聞でもなんでもないはずだよ。
だってそうじゃない。
身体強化に失敗して爆発が起こるその理論は魔力操作。
失敗は負傷でする事で終わり成功は魔法になること。そして魔塊は特例……実際に私は作ってしまっている。
私は魔力の違いでこうなったのではないかと思うんだよね。まあ、それがどうした、なんだけど。
ヴィグマンお爺ちゃんもお父様から聞いた方がいいと思ったに違いない。ほら、私はまだ8歳児だし。
保護者がいないのに本人に告げるのは駄目ってやつだったんだと思う。きっと私が取り乱すと思って……
まさか理解できないと思った?そんなの実は出来るんだよ。でも受け入れられなかったね、私。何も言えないや。
――ふぅー……落ち着いてよく考えよう。相手の気持ちばかり考えても意味がない。本人が納得しなきゃ他人の言葉なんて意味をなさない。
「クフィーは怒る方なのか?」
「……何がですか?」
「こう言うのは担当の魔学医が直々に知らせるからね。クフィーは怒っているのかと思ったんだ。実際に両目の魔塊が疼いたのだろう?」
「……そう、ですね。悲しみましたけど……死ぬことじゃないから、だと思います。だから治らないんじゃないか、と言う前になんであの時言ってくれなかったの?て思いました」
そう、死ぬ訳じゃない。有るものが無くなるのもまた絶望するけど、何が一番苦しいのか分かっている私はそこまで悲壮感に襲われなかった。
そう――前世で痛みと共に突然死んだしまった渡利真綿より、悲壮感はない。
「目を失うと分かったら、クフィーもだが孫のように可愛がっているらしいヴィグマン様は絶望したそうだ。長年勤めるだけに治せない魔病はいくつもある。その魔病を持つ者がクフィーで、治せないヴィグマン様は――」
「私を思うばかり真実を伝えられなかった。私がヴィグマンお爺ちゃんならそうします」
「それだと魔学医として失格なんだけだね……ところで“ ヴィグマンお爺ちゃん ”て何かな?前にもそんな事が……いや、気のせいだよね?ん?」
むぎゅっと包むように頬を挟まれて超絶笑顔のお父様とにらめっこ。
40越えのはずなのにイケメン!で通るんだから恐ろしいよねっ。お父様に言い寄ってくる女性がいないのはお母様と子どもたちを溺愛しているからで……
こんなところでうっかり発動しなくてもいいんだよ、私っ。
で、ヴィグマンお爺ちゃんって何?身内?なんて聞かれて私もにっこりと笑顔だけを返す。
私の膝に前足を乗せ心配して様子を伺っていたアブルは疲れたのかどすんと腰を下ろして存在を消す。
え?いるよね?どすんって言っていたからいるよね?アブル、こんな時こそ助けてくれればいいんじゃないかな!?
「まさか、レーバレンスも呼んでる――なんて事はないよね?呼ぶなら年齢的におじさんかな?身内はお父様とお母様とトールにリディだけだよね?他に身内がいたなんてお父様悲しくて泣いちゃうよ!?クフィーが認めても血の繋がりがあっても私が認めないと身内とは認めないがな!」
むぎゅー!と抱き抱えられ泣き叫ばれた。さっきのシリアス返して。
頬をぐりぐり擦り合わせて「可愛い可愛い」とか「ジジィは認めん!」とか「うわぁああああああああ!!」とかもうよく分かりません。
お父様が暴走したのだとしか分からない。
そして聞き付けたのか、はたまた予定があったのかトールお兄様が登場!ちゃんとダリスさんが訪ねていたけどたぶん聞こえていないよね。
まあ、トールお兄様が来てくれたおかげで私は見事脱出に成功しました!
お父様がまだ叫んでいるけどトールお兄様に標的を変えたのか何やらヴィグマンお爺ちゃんの愛称?を許すか許さないか議論する模様。うんざりした顔のトールお兄様、頑張って!
私はその間にそそくさと脱出であります!!
ダリスさんの手を借りてそそそ、と。廊下にいたポメアを連れて自室に戻った。
部屋に戻って一番大きなライオンくんのぬいぐるみにもたれ掛かりながらアブルと部屋にいたノルアを抱えて蹲り休憩。
ポメアがちょっと心配そうに声をかけるけどこれは休憩です。うん。
きっとお父様、私が沈んでいた気持ちを払拭するためにわざと騒がしくしたんだと思う。……たぶん。いや、でもあの目はマジだったんだけど……
うっかりだよねー。普通にヴィグマンお爺ちゃんって言ってたよ。気を付けなきゃ。
と思いつつノルアの背を撫でていたら早々に脱出して自分の寝床に行ってしまった。いいんだけどね。
何となく指で弄りたかったからだし。
ごめん。普通に暑いわ。なのであえなくアブルも解放。春の季節で毛皮ともこもこに囲まれればね。普通に暑かったよ。
解放したアブルはそのまますとんとお尻からどすんと落として顔をかくかくし出した。そのままゆらゆらと体が前後に揺れて――早くも床に突っ伏した。
可愛いなぁと思いつつアブルを抱き上げて寝床に移動。こうやって見るとおっさんの欠片もない。
ただたまーに大の字になって篭から足が飛び出てるんだよね。ぽこんとしたお腹まで出してさー。
二匹のマイペースっぷりに思わず苦笑いが漏れる。考えているのが阿呆らしい。
じっと見つめていればノックの音。ポメアが夕食をどうするか聞いてきたけど……
「いりません。もう寝ます」
食べる気はないねー。一通り考えてから元気になろう。……なれるよね?
伝言を頼んだポメアが入ってきてささっと身支度を整えてくれる。
なんか言いたそうな顔をしているけど私はベッドに潜り込んで小さく微笑み「お休みなさい」。
出来る子のポメアは気がかりだけど話そうとしない私を見て諦めたらしい。丁寧な挨拶をして下がっていった。
さて。後でお父様たちが突撃してくるかも……いや、もしかしたら気を利かせてくれたり?
まあ、悩んでも明日の朝には元通りにしなきゃお父様たちが暴走して色んな人に迷惑をかけちゃうから今、整理しなきゃね。
「15が限界かー……」
声に出すと実感するね。
お父様は何を言い出すんだと言いたかったけど、あの真剣な目は白黒の世界の私でも分かる。
「……うん。うだうだ考えるのは止めよう」
これは、底なし沼に嵌まるヤツだ。もう一度お父様やヴィグマンお爺ちゃんに話を聞かなきゃいけないやつ。
一人で悩むな。そう、一人は駄目。誰か信頼できる人に頼らなきゃ……私は、生きているんだよ。
一人だけが絶望じゃないんだよ……
と言う辛気くさい感情に蓋をしてなんとか寝た私。いつの間にかノルアを抱き抱えていました。背中には丸まったアブルがいました!ちょっと暑かったよ……
そして私を起こしに来たポメアに怒られましたとさ!ちゃんちゃん。
理不尽!!
私が招いた訳じゃないのにっ。シーツに毛がついて洗濯が大変なんですってしょんぼりしながら言われたらこっちが悪者だよ!
しかもやっぱり心配させたみたいでちょっとした愚痴まで聞いてしまった……
こりゃあ朝食も大変な事になりそうだな、と思ったら案の定。
お父様とお母様が離してくれません。椅子をギッチギチにくっつけた距離で朝食です。
トールお兄様が遠い目をして見なかった事にしてる。私は見たよ!?助けてよ!?
リディお姉様は我が道を突き進んで優雅にお食事です。おかしいな。みんなこの食事風景に疑問を持たないの?
黙々と仕事をこなす侍女さん達とか――あ、ダリスさんも笑みを絶やさずちょっと遠い目をしてる……器用だね。
食事の味があんまり分かんなかったよ……「アーン」は3歳くらいまでだと思うんだ。
そして両頬に両親の熱いキッスを頂いてお城に向かう。もちろん私はお父様の膝の上。向かいのトールお兄様と目があえばなぜか諦めた顔で頷かれた。そんなっ。
「相変わらず親馬鹿を発揮させてんな」
「クフィーが可愛いからね!もちろんトールも可愛い!」
「成人した息子に可愛いはねーな」
「自慢の息子なら可愛いもいける!!」
「その自信はどっからくるんだ?」
それは私も聞きたい。
門番のウェルターさんとなぜか言い合いが発展してなかなか入れないんだけど。
誰も後ろから来ないものだからそれは長く続くと言う、ね。
相方の門番さんが石像のスキルでも持っているのかな?微動だにしないよ。突っつきたいわー。
全身鎧だから私が触ったところでなんの変哲もないだろうけどね。鎧の隙間もいまいちわからないや。
まあ、その後はトールお兄様の遅れますから~と言う逃げ技でなんとか私も中に入れた。さすがトールお兄様!
因みにお父様はウェルターさんに教え込まなきゃいけない家族の魅力があるらしいので放置。
ウェルターさんの相方になってしまったあの人が可哀想だけど仕方がないよね!
心なしか背中に視線を感じたけど……私たちはそそくさと中に入っていった。
よし、私もあんな風にお喋りして吐き出してヴィグマンお爺ちゃんとすっきりしよう。




