寒空の下で餌になる
修正いたしました。28.12.31
落ち着いた私はレーバレンス様に魔力提供したあと色々とお話しを詰め込んで食堂では頭を使ったせいかもしゃもしゃとお喋りをしながら三時間と言う休憩をめいいっぱい使った。
その時の私のもりもり食べる姿はフードファイター並みにすごかったと思う。一人前を食べてもお腹が空くから取りに行ったり……でもまだ足りなくて取りに行ったり――
を、ずっと繰り返していたらハルディアスに止められました!でもお腹が空いてイライラが募ってくるからハルディアスにそれをぶつけるとケヤンとエリーが焦りながら食事を持ってきてくれる。
ジジルはにこにこしながら青ざめていた。それくらい私は食べておりましたとも。もちろん、貴族なのでゆっくり優雅?に食べましたよ。だから時間がかかったんだよ!
何人前を食べたのだろうか。最終的には真っ白な服を来た厨房のおじさまが来て食べ物を粗末にしているんじゃないかと確認までしに来た。
実際に食べ続けておかわりをしたら口をあんぐりと開けたままエリーたちに確認を取りまくり。うん。私もここまで食べられるとは思っていなかったんだよ?
でもイライラしていたし。以前と同じくらいの魔力を提供したはずなのにすっごくお腹が空いてねー。なんでだろう?暴飲暴食は体に悪いのに……
二時間くらいは食べていたと思う。でも一品を食べ終わるのにかなり時間をかけたから8皿ぐいかな?と言うことは八人前か。
「馬鹿だろ。途中から量を増えてたじゃねぇか。ぜってぇ倍は食べてんぞ」
「………………うん。クフィーちゃん、お腹は大丈夫?」
「クフィーってば私より小さいのに胃袋はどうなっているの?何で太んないの!?これが成長期ってやつ!?」
「ぼ、僕は見ているだけでもう疲れたよ」
そんな事を言われましても。お腹が空いたから食べただけであって、これはいわゆる私の魔力回復なわけでして……まあ、いいか。
そんな感じでお昼は終わっちゃったので。アビグーア中隊長が迎えに来てくれたからもう行きます。みんなも授業があるからと解散。コックさんだけまだ理解ができないのか頭を支えながら項垂れていました。いや、美味しかったよ?
いつものポジションに私を乗せて何かあったのか、と変わらず途切れ途切れに聞かれた。何もなかったと思うんだけどなーと思いつつ説明したら沈黙が支配、てね。おかしいな。アブルも負けず劣らず食べていたはずなのにっ。
ちょっと膨れっ面のまま騎士棟に入って魔法騎士隊とご挨拶。相変わらず整列がとても綺麗で……じゃなくて、何で私はここに呼ばれたの?
高いところから眺めていたら名前の知らない隊長さんがトールお兄様の名前を呼んだ。前列に並んでいたらしいトールお兄様はそのままささっと目の前にまでやって来る。それから一言二言なにかを言われて私のところまでやって来た。
「クフィー、ここに呼ばれた理由をわかっているのか?」
「それがさっぱりなのですトールお兄様」
はあ、てため息をされてしまった。もしかしてでもなく、これから何か大変で面倒で避けて通れないような事が起きるのだろうか。
とりあえず脇に退いてくれと言われたので退く。と言ってもアビグーア中隊長が動くんだけどね。そうすると隊長さんが大声をあげて号令をかける。「構え!」でざっ!と動く兵たちは……んん?あれは……なんですかね?
騎士が片膝を付き始めましたよ?一列ずつ間を空けて前に倒れてみたり。仰向け。横向き。あぐら。果てはさらに隣の人を巻き込んで積み重なってみたり。しかもなんか低い声で「う~、うぅ~」とハモる。怪我人の役をしているのか大半が痛いと嘆くように倒れていた。
唖然としてしまった私は悪くない。口も令嬢として大口を開けていないからセーフと言うことにしておいてください!
「今日は救護訓練なんだ」
「……私はなぜ呼ばれたのでしょうか」
「………………………………………………キャロリン」
ああ、なんだろうか。大体の想像ができるような気がしてきた。つまり何か。私は餌か。餌なのか。
ただいま怪我人?の確認をして運ばれようとしていますよ。これはあれか。キャロリンに吹っ飛ばされた時って大抵の人は立てなくなっているからその救助ですか?予行練習なのかな。
隊長さんが怒声を浴びさせながら指示を出していますよ。あそこのスペースは救護施設の範囲らしい。みなさん演技力がありすぎて怖いよ。引きずられている人がいるんですけど……体を張っていますね!
「トールお兄様はいいのですか?」
「ああ。私はクフィーの護衛だ」
「はい?」
「私を含めて一つの部隊を作る。その部隊でクフィーを守りきる事が今日の訓練だ」
「体のいい訓練の題材なのですね」
「こんな事は建国きってで初めてだよ。因みにこれはクフィーの今後に関わる」
……今後?――ああ、こんな事をお父様がやらせるはずがないよね。と言うことはこれで護衛を決める感じなのかな?アブルだけじゃ駄目なんですか。どんだけ護衛をつけたいんだお父様。
いや、でも、まさかね!そんな事はないはず。とちょっと切り替えたら即トールお兄様から私が思っていた事が肯定されました!口に出していたのだろうか……2人でちょっと遠い青空を眺めて現実逃避に励んでみました。寒いねー……
「戻ってこい」
アビグーア中隊長って、短い台詞しか言わないよね。未だにぷつんぷつんと切れる喋り方なんだけどいいのか。
「まあ、もしかしたら無駄足かもしれないよ。元々の発案はコデギス近衛騎士隊長補佐なんだ。キャロリンを止められずに何度も被害が出てクフィーが狙われているからね。……訓練にいいのでは?と議題にまで上がってしまったんだ」
「よくお父様が許しましたね。みなさん日々の訓練に励んでいますからないとは思いますけど、危険がないとは言えませんよね?」
わー。物凄いムキムキマッチョの大きい人と見るからに標準体型で少し背の低い人でやるペアは苦しかったらしい。怪我人の大きい人を移動させられなくて潰れてしまいましたよ。叱責がここまで聞こえる。誰か手伝ってあげようよ。
そんな事を思っていたら手の空いていた騎士にも叱責。助けを求めているのはその人だけではない!て。あの人、騎士の鑑だね!
「そこにアビグーア中隊長が絡まって通ってしまったんだよ」
「……アビグーア中隊長、ですか?」
「昇進試験。護衛」
つまり、今日これから起こる事はアビグーア中隊長の昇進試験。それに私は巻き込まれたと言うことですね?迷惑なんだけど!?
すんごい出汁に使われた感が……むしろキャロラリンじゃなくてお父様が立ち憚るんじゃないの?キャロラリンとタッグを組んだら最強なんじゃないかな。
それにしても昇進かあ~。中隊長だから隊長になるのかな?その辺はどうなんだろう?と言うかそう言う昇格って普通は王様に認められてランクアップなんじゃないのかな。
と、トールお兄様に聞いたらそれは本当に位が高い時じゃないと意味がないらしい。部隊隊長までは昇格でその上は人望と陛下に見初められるかで決められるらしい。難しいね。因みに中隊長の次が部隊隊長なんだって。
兵士(一般騎士)→小隊長(部下10人)→中隊長(部下100人~)→部隊隊長(部下1000人~)→大隊長→総大将→統帥なんだって。近衛はまた違う位置付けで総大将くらいには偉うらしい。近衛はあくまで陛下の騎士であるために部隊配属に置かれないとの事。
そしてアビグーア中隊長は私の護衛をこなした事と今までの実力から試験を持ち出された、と。そっか……今までこうして肩に乗せてもらっていたけど、これは護衛に入るのか……
「これが最後になってしまうのですか?」
「わからない。昇進。名誉。誇り」
「昇進を試されると言うことはその相手を揺さぶるために行われるよ。本当に取るに足りる人物なのか、それを見て任せられるのか――クフィーにも魔法師として任せられる人物になり得るなら、いつか訪れる事だよ」
「その時は応えられるようにしたいです。トールお兄様もその時が来たら、頑張ってください」
「今がその時だから頑張るよ。クフィー、こういう時は話題が出た方から言葉をかけるんだよ?」
「アビグーア中隊長、頑張ってください!」
おおそうだよ。まさか笑顔で訂正されるとは!?まずは先にアビグーア中隊長を応援せねばならないよね!ただ残念な事に肩に乗っているせいで顔が見れません。
因みにトールお兄様は早くもアビグーア中隊長の斜め後ろに移動して待機済み。さりげなく自分もなんだよアピールもやり遂げてしっかりしたお兄様である。トールお兄様の昇進試験ってやっぱり小隊長?実に素晴らしいお兄様だよね!
振り分けが始まって続々と向こうから来る騎士はトールお兄様のさらに後ろへ並んで待機。そのまま待っていたら結構な数がこちらに振り分けられていると思う。
ちらりと後ろを見てみれば百人くらいかな?割り振ったと思ったら向こう側にある2つの出入り口に群がる部隊。まずは入れないように防ぐのかな?
でも前は飛び越えたような気がするな――と上を仰いでみたり。今日も寒くて青空が広がって……灰色って青空なのかな?雲だったらどうしよう。眺めていたら足の裏に固い感触と、視界がトールお兄様に変わる。
「クフィー、護衛をしたいから下がってくれ」
「どこにいたらいいのでしょうか?」
「トフトグル、ヘルトン、オルトはクロムフィーア嬢の傍へ最優先で守れ。最後に来た十人は私と一緒に周囲を警戒に。他は護衛対象を守る事に専念しろ」
アビグーア中隊長が長文で喋った!それと同時に私たちが使った出入り口(たぶん)から集まった騎士が吹っ飛んだ!?えええええ!?私の回りって背の高い騎士の壁があるんですけど!?あれは上空に飛びすぎじゃないかね!?
向こう側から「来たぞ!押さえろ!!」との声が。そう言えばあの人は誰だろうとか過ったけどそんな事よりなぜか向こうからドカンとかぎゃー!って聞こえる。キャロラリンは今日もハッスルしてるね!
「やっぱりこっちに来るか……」
「包囲解放。三人以外はキャロラリンを迎える。クロムフィーア嬢と三人は距離を取れ」
と言うことでトールお兄様に誘導されつつ後ろに下がる。私の後ろにトールお兄様。あまり姿を確認していないオルトさんとヘルトンさんは両脇を固めて守りは完璧だね!
ただ後ろでわーわー大変な事になっているけど。そしてこちらも大変な事になった。ある程度の距離を取ったらアブルが動き出しまして……私では押さえきれなかったので手放してしまった。
すとんと地面に着地したアブルはそのまま四つん這いで唸る。両脇の二人が少しだけ動く。見据えるのは後方であっちはキャロラリンがいる方だよね。まさか対抗するのだろうか。いつか前にキャロラリンと睨み合っていたよね?
「噛みついたり引っ掻いたりしたら十日間、部屋に閉じ込めますからね」
「がっ!?ぐぅる……」
「何を言っているのか知りませんけど、キャロラリンに怪我を負わせたら今後はポメアにすべて任せますから」
「……ベベリアって、会話するんだ……」
「おい、集中しろ」
言っている事はわからないけどね!でもアブルはどうやらしょんぼりしてしまうほどショックを受けたらしい。四つん這いから腰を下ろしてしょんぼり。顔まで下げてズーンて項垂れてしまった。
そんなやり取りの中でもキャロラリンは迫る。迫る迫る迫る!ってよく見たら誰かが乗っていますね!キャロラリンは確かグラムディア殿下のウママンだったと思うんですが!?
「「何やってるんですかっ父上!!!!」」
本物ですか!?声まで揃えて教えてくれなくてもいいよ!と言うかよくあの暴れ馬に振り落とされないね!?
馬術はさすがにわからないけど巧みに操っているような気がする。キャロラリンの前足とグラムディア殿下の棍棒?黒っぽい長い棒に振り払われて次々と人が飛んでいく……と言うかグラムディア殿下って強いんだね!?
「クロムフィーア嬢を死守!何があっても逃げ切れ!!」
アビグーア中隊長の怒声か響いた瞬間に私の体がふわりと浮く。えーと、右に立っていた……オルトさんに抱き上げられてすたこらさっさ!なかなか早い!!アブルは置き去りです!向かうはもう一つの出入り口。抱っこなのでオルトさんの背後がよく見える。
軽やかに棒を振り回してキャロラリンも顔や前足で凪ぎ払い。よく見たら手綱を握っていないよ?あれ、グラムディア殿下って本当にすごい人だったんだ……顔が爛れて隠居してたけどあれだけの腕なら兜を被ってたらわからないのになんで姿を……あー、裏切られたんだっけ。
もしかして人間不信とかだったのかな~なんて思っていたらキャロラリンが飛んだ。文字通り、飛んだ。こっちは走っているけど真後ろに近いほど人壁を乗り越えて飛んできた……キャロラリンが凄すぎるよ!
「いやっ!」
「ぶるっ!?」
「っ――キャロラリン!」
「首を押さえろ!横っ腹を押さえつけて前足から捕らえろ!!」
ちょっと怖くて拒絶したらキャロラリンが目を見開いてショックを受けた模様……さすがのグラムディア殿下も立ち止まるとは予想をしていなくてなんとか棒を投げてオルトさんの足を絡める。
そしてそれは当然のごとく絡まって私は宙に投げ出されるんだけど……トールお兄様がうまくキャッチしてくれて怪我もなく本日の訓練は終了。このまましがみついていたいと思います!怖い体験だったよっ!!
その後、あの救助の実現が叶い隊長っぽい人が指示を飛ばして運んだり手当てをしたり。なんだか一気に混沌と化した。誰かさんが文句を言っている辺りがとくに。
そして今回の目玉であるアビグーア中隊長の昇格試験は合格。私はほぼ聞いていなかったけどいないはずのグラムディア殿下に動揺もせず、的確な指示を飛ばして部下を動かし見事キャロラリンの動きを封じ込めた事から叶ったのだ。でも私が飛ばされてしまったのでちょっとだけお小言があった。でも最後は激励を飛ばして笑いあっていましたよ!部下のみなさんが青白く怯えていたけどね!
それとまさかのグラムディア殿下はキャロラリンがずっとそわそわしている事から自らお世話をしていて、今日は私を含む訓練があると聞いて駆けつけてくれたらしい。駆けつけなくていいよ。危ないよっ。
しかも最後はとんでもない事をしてくださいましたからね!同乗させてもらいましたが、何か?アハハウフフ……キャロラリンを慰めるためであっても視線が痛い。視線が痛いっ!
もうキャロラリンに拒絶の言葉は言わないよ。なんかアブルもキャロラリンにへばりついて唸っているし!キャロラリンが満足そうな表情で鼻で笑うしっ。トールお兄様ったら遠い目でどこを見ていらっしゃるのでしょうね!現実逃避じゃないことを祈るよ!!
そしてこのおかげでまた事件が起こる。とっても面倒な事件。ぶり返した王族どもに私は……激怒ぷんすかドンになるのであった……あれ?激怒なんだっけ?とりあえず激怒するのであった!ふんぬー!




