なぜ思いつかなかったのだろうか
修正いたしました。28.12.31
誰と話すこともなく歩いて魔法廊までひたすら歩いて……そういえばレーバレンス様の部屋って魔法院から来たら一番奥だったよねー、と思い出してうんざりしました。はい。
ようやくたどり着いたのにっ魔法廊までたどり着いたのに!さらに奥に突き進まなきゃなんないのかっ……ぐるりと回って来たからかなり疲れたんだけどな。
メイドさんにはとぼとぼと歩きながらアブルを抱える私を微笑ましそうに見ていくし。花瓶に生けてある花は一段とキラキラだし。魔法院はただいま授業中なわけでして静かである。
そんな中を歩く私とポメア。2人ともおしゃれなヒールとかではない、素材が柔らかい履き慣れたぺたんこ靴なのでコツコツとは言わない。静かに移動ができるので喜ばしいことなのだけど……
授業中の時に歩き回るのって、なんだかサボりたい気分になっていくんだよね。もちろん前世でサボりとかはしていません。移動するくらいなら歴史の本を読んでいたかったから。つまり、必要以上に動かなかっただけです。
何て言ったって友達は自らこちらに来てくれると言うのが一番大きかったかもしれない。気にかけてくれていたのだろう。きっと。たぶん。きっかけは出席番号が近かっただけだったんだけどね。
いやいや。そんな事より廊下だ。もしここで授業していた魔法師がいきなり顔を出してきたらびっくりする。今なら跳び跳ねて驚くね。それが嫌なのです。私は驚かすのは好きでも逆は嫌いなのだ!
しかしですね、このまま出入り口で立ち止まっても邪魔でしかないと言いますか。ポメアだってかなり控えめに私の様子を窺っているようだし……あ。
「行くぞ」
どこから出てきたのかは問いません。目の前に出てきたレーバレンス様はそのまま私の頭を鷲掴みで影渡りですからね!とっさに息を止めるとか慣れたもんじゃないでしょうか!?
ポメアも心得たように場面が変わってもいた。アブルも賢いので私の腕の中にいる。みんな優秀だね!
「ハルディアスは授業ですか?」
「ああ。お前と違ってあいつはやる気がないからな」
それはどんな理由ですか。でもあえて何も聞きません。聞いちゃいけない時って、たくさんあるよね。きっと今がそれに違いない。
早速といっていいほどレーバレンス様は隣を座るように言って魔力を提供するように言われた。別にいいけど集中できるのか心配だったりする。
自分の事だから気づけないときもあるけど、今の私なら気づける。分かるよ。しょんぼりしてしまっていることくらいはね。
と言うことでレーバレンス様を巻き込んでみることにした。たまには生徒の愚痴でも聞いてくださいな。魔力をあげるだけなんて虚しいじゃないか。私は道具ではありませんので。
因みに今回レーバレンス様が作ろうとしている物は私が壊してしまったあの『調べ手』です。あれです。私が壊しちゃったやつですね?分かるよ。その指が6つある手みたいなやつ。知ってます知ってます。
これ見よがしに壊れたやつが机の上に置かれていますからね!見せしめですか?戒めですか?レーバレンス様って実は魔法具を壊されたの、相当怒っています?
しかしそんな事は当たり前に言えません。レーバレンス様の表情がキリリと魔法具しか見ていませんから。邪魔したらどうなるか分かっていますよ。失敗したら延期になるだけですから……でも話しかけますよ。うーんと。
「そう言えばどうして闇の属性の方は魔術師に向いているのですか?」
「闇の取り扱いが難しいからだ」
「と言うと?」
「教本を読み込んで闇属性の魔法をどう思った?」
うーん。どうと言われても……想像していた通りの闇と言えばいいかな?
こう、闇って残酷なイメージがあるからか常態異常な事とか出来るし意外な事に移動も出来ちゃったり収納も出来ちゃったり。諸刃の剣のように強力のようで脆い。特に結界だね。
どう思ったかと言えば闇だね、としか思わないんだよねー。どうしたものか。
「では、どうして闇属性の魔術師が他の属性が付属されている魔法具を作れる?」
「それは……闇の上級魔法に『同化』と言う魔法があるから――です?」
たぶん。この『同化』はむしろ取り込むって思った方がいいと思うんだよね。ほら、黒色って濃ければ濃いほどどんな色でも真っ黒に染め上げちゃうから。そんな感じだと思う。
でも魔法なんだよね。魔法具を使うときに己の魔力を通して使うのは闇と同化するために自分の魔力に染めるため。言うなれば真新しい魔法具に魔力で登録することによって使えるのだ。
だから闇の属性である魔術師たちが練り込んだ魔法具でも、違う属性の魔法師は使える。闇に呑まれるのではなく、闇と一緒になり染まりやがてそれになるから。同系統として存在を認めてもらうから。だから闇属性は魔術師としてかなり向いている。
そうですよね?と言う意味を含めてなんとなく疑問をつけて返したら数秒の沈黙。間違ったのかな?と首を傾げて見るけどじっと見返されてなにもありません。負けじと見つめ返しましょう。
幼女と素敵なお兄さんが見つめ合っても何も起こらない。素晴らしきことかな年齢差!……そう言えばレーバレンス様っていくつ?少なくともお父様よりは年下のはず。けどお父様も四十を過ぎているはずなのにつやつやの若々しさかあるから見た目で判断ができないんだよね。
ずばり、レーバレンス様っておいくつですか?変な沈黙を破るために聞いてみた、ら……
「いひゃいべふ~!!!」
「痛くしている」
「ぐるるるぅぅぅ」
「あの、レーバレンス魔術師様、痕が残ったら旦那様がっ」
「……ちっ」
舌打ちされた!?何で!?
ポメアが助けてくれたからぱっ!と離してくれたけどっ。もしかしてポメアがいなかったら気がすむまでつねられていたのだろうか。恐ろしい。
男でも年齢を聞いてはいけないだなんて。レーバレンス様はいったい何者なのでしょうか……何かだったら怖いな。考えようとしたら悪っぽい何かになるから余計に怖い。
だってアブルの唸りでも怯まなかったんだよ?レーバレンス様に魔王って言う称号を付けても納得ができそう。私から見たら真っ黒だもんね!確かどこかで黒の魔術師って言葉も聞いているからぴったりかもしれない!
「それで、今度は何を悩んでいる」
今度はナンデスカ?悩みを聞いている口調のはずなのに頭を鷲掴みにされているんですが?ぬあぜ。まだ指先に力が込められていないけどこれって前準備だよね?前にもこんなことがありましたよ!?
「女の子ですもの。悩みなんていっぱいありますよ」
「……朝と顔が違うだろう」
「それは体調不良と言っているんですよね?」
「……体調不良ならすでにヴィグマン十進魔法師がお前を捕まえるだろうが」
そうでした。レーバレンス様ったら不機嫌ながら私を医務室に送ってくれたんでした!
「レーバレンス様が気にするほどではありません」
「ほう。ならこの魔法具を作るさいに魔力提供の失敗はないのだな?」
これがなんだか分かるか、とでも言うように目の前でぷらぷらさせる『調べ手』くん。ああ、ようやくしっくり来る言葉がわかったよ。干からびたミイラの手ですね!
あははうふふふなんてレーバレンス様を相手にちょっと落ち込み気味の私が回避できるわけがない。と言うことでわざとため息を吐きながら思っていることを暴露した。
たぶん治らないんですよ。気まずいのですよ!希望すら少しも語ってくれない魔学医たちにちょっとがっかりな訳ですよ!
とまあまあな怒りで吐露する。そうだよ。こう言う不安とか心配とか負の感情は誰かに言わなければ私が駄目になってしまう。うじうじと自分だけの自分だけしか知らない解釈が正しいと思ってしまうことだってあるじゃないか。
そうなると私は誰の声も耳を傾けなくなってしまって孤立してしまう。それはさすがに嫌だよ。それとなく人が回りにいないと――きっと私は爆発する。暴走と言うなの爆発を。
黙って聞いてくれるレーバレンス様は珍しく私の頭を撫でてくれた。撫でたと言うかかき回したと言うほうが合っているかもしれないけど、そのおかげで沈みかけた思考がレーバレンス様の手に移動する。
そして私は小さく怒るのだ。そうすればさっきまで沈没していた思考が切り替わる。完全には消えないけど、それ以上は沈まない。
「泣け。喚け。お前が大人になるのは早い」
でも精神的なものが大人なんだよ。7歳のクロムフィーアの影にいるから余計に私は複雑で……年相応がわからない。
魔力の暴走がちらついて自制してしまう大人の私と子どもを振る舞わなければならない私。でも子どもっぽくならなくて……私を見失いそうだね。
「魔力暴走でレーバレンス様が死んでしまいますよ?」
「あれは二度とごめんだな。ならば話せる人を作っておけ」
「レーバレンス様がそのお相手になってくれないのですか?」
「お前の父親の面倒まで見きれん」
私も見きれません。きっとお母様にしか……いや、お母様はお父様の味方だよね。一瞬でお父様の味方に転じてしまうから期待はできない。
「ジジルとエリーに話を聞いてもらいます」
「それはお前が決めろ」
はーい。
なんて言うとなぜか睨まれましたっ。なんで?しかもしっしってやられたんだけど!?切り替わりが早すぎやしませんか!?
「もうそろそろ昼だ。午後からは騎士棟でお前に用事があるらしい。アビグーア殿が迎えに来るまで食堂から動くな」
えー。久しぶりにアビグーア中隊長に会えるのは嬉しいけどまた魔法の授業が遠ざかったのはなぜですかね?
ちょっと訴えるのに見つめたら手が伸びてきましたよ!?また掴む気ですか!?どんだけ私の頭は掴みやすいんですかっ。
それならば興味を別のところに持っていって差し上げましょう!今思い付いたんですよ!凄いでしょう!
「それよりレーバレンス様にお願いが!」
「……なんだ」
「私に魔法具を作ってください」
あ。ちょっと興味が惹かれたらしい。軽くわしわししていた手を空中に止めて聞いてくれるみたい。なら捕まる前に私は告げる。たぶん作るのに金銭が発生すると思うけど……そこはほら、お父様にお願いしますってね。うん。
作ってほしいのはもちろん『色の世界を見れるようにしてくれる魔法具』です!
今さらだけどありそうだよね?右側の人なんて帝国では数年に1人とかなんだか言っていたし。そうなるとちょっとは対策があると思う。それがこの国にあるのかは……さすがに謎だけど。
だって私がこの白黒の世界を持つ者だとみんな知っている。けど、まるで対策が練られない。と言うかお父様があれだけ奮闘してくれているのに何もないままだもんね。
少しはわがままを言っても、いいよね?アブルの時とかかなりわがままを言った気もするけど子どもにしては子どもの傲慢さが足りないと思う。よし。
なんの持論を立てているんだ、と私の心の内がバレたらため息を吐かれそうだけど……ないものは作ればいいのです!そして私はほしい!
「無茶苦茶だ。材料や経費はどこからくる。あとは私の時間」
「……それを解決したら作ってくださるんですか?」
つまり、そう言うことですよね?最後の時間は些か私では決めかねられない事だけど。真っ向から否定しないと言うことはそう言うことになるはず。
「そうだな。お前が解決できるのか?」
「もちろん、誰にでも相談していいのですよね?ですからレーバレンス様――私のわがままに付き合ってください」
「忙しい」
バッサリですね!私もそろそろ図々しいなと思っているんですけど……欲しいものは、欲しい!そうだよ、なんで作ってもらわなかったんだろう。私ってば人生を楽観視していたかもしれない。
何もできないのではない。何もしないからできないんだよね。
「レーバレンス様、白黒の世界に微力ながらも治す、または補助の役割を持つそう言う魔法具は存在するのですか?」
「……少なくともこの国ではない。あるならお前の父親がすぐに用意するはずだ」
「レーバレンス様が新しい何かを作ってくださる、と言うのは駄目なのですか?」
「………………だから、そのために時間、設計、必要性、承諾、材料、経費、魔力が私には用意できない」
私には――と言うことは?他の人ならできると言うことですね!?暇な人を使えと言うことですね!?そんな解釈をしてしまいますよ?
そうなの?て言う顔をしながらレーバレンス様の顔を覗きこむとフッと鼻で笑われてしまった。そしてまたわしゃわしゃと私の頭を撫でて「回転が早いな」と褒めてくれた。つまり、そう言うことだ!
「やり方を教えてください」
「いいだろう。――だがそれは春からだ。冬はどうしてもやる事が限られ身動きができない。それまで設計でも練っていろ」
「はい!」
よし。ならば作るぞ!




