表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/242

お疲れさまでした

修正いたしました。28.12.31

「もう母上は近づかないでください。嫌われてもいいならいいですよ。むしろ歓迎します」


「まあ!孫が可愛いからいけないのよっ。今日は足の調子もいいからいける!と思ったからもう嬉しくて。リディちゃんも可愛かったけどクロムフィーアちゃんも可愛いんだもの!!持って帰っていいかしら?」


「駄目に決まっているでしょう!もう帰れ!」


「まあまあ!母親に向かってなんて言い草なのでしょうっ。貴方!可愛い孫と素敵隠居生活をするために交渉してくださいな!」


「うむ。任せろ。腕は鈍っておらん!」


「落ち着いてくださいませ。お義父様、お義母様。よくお考えになってくださいませ。娘たちを連れていきましたら誰も黙っていませんわ」


 ………………ちょっと落ち着いてきた頃でしょうか。一番の安全だろう場所、トールお兄様の膝の上に抱え込まれながら呆然と両親VS祖父母の口喧嘩を眺める。貴族の威厳はどこ行った。むしろお祖母様とお母様は最初が肝心と厳しく言っていたじゃんか。最初だけすぎて泣ける。切り替えが早すぎてついていけないよっ。


 なんだか無駄に考えたくない理由で言い争っている気がするけどそこはスルーで。今落ち着いたばかりなのだから余計な事は考えないようにしたい。


 それにしても凄かったな……胸で窒息するとは思わなかった。確かにどことなく胸元の膨らみがお母様よりどん、とあった。深く考えなかったけどでなんで気づかなかったのだろうか。抱きつかれて意識を落とすのは締め上げる腕力だけではない。顔を覆って窒息もあり得るんだよ。


 抱き締められて窒息って相当だよね。そりゃあの豊満な胸で子どもの小さい頭を包めば呼吸なんて出来るもんじゃない。なるほど。お祖父様に抱き潰される警戒をしていたけどそういう意味だと同じ同性のお祖母様は危険だね!


 それにしてもアブルよ。君は私の護衛ではなかったのかい?もしかしていちいちアレコレと指示を出さなきゃ何もしてくれないの?ちょっとこの辺もお話ししなきゃ駄目かもしれない。


「落ち着いたか?」


「……はい。殺されるかと思いました」


 おかげでダリスさんの慌てふためく姿が見れたので……いや、帳消しに出来ないかな。トールお兄様が異様に冷静な判断で仕切ったから持ち直しが早かったし。因みにあのよくわからない口喧嘩をしている親子は放っておくのがやり方らしい。誰一人止めやしません。


「場所が悪かったのですわ。まさかわたくしたちが挨拶をしている時に動くとは思いませんでしたもの。それに、前より早かったですわ」


「アブルも助けてくれませんでした」


 軽く睨んでおこう。


「くぅ」


 そんな頭を抱えても駄目だからね。護衛なのに助けてくれなかったじゃん!これじゃあ一番近くてすぐに助けてもらうために抱えている意味がないじゃないか。


 ぶー、と不貞腐れていたらトールお兄様がアブルを援護した。なんとっ……。


 隣で見ていたトールお兄様が言うには、一緒に潰されていたらしい。もがく足が見えたがお祖母様は立ったまま腰を折って私を抱き抱えていたので、暴れた手足はただのばた足状態だったのだとか。それはそれで滑稽だ。


 で、結局のところ私を救出してくれたのはトールお兄様。素早くお祖母様の脇腹を突いて油断したところを奪取したらしい。そして今、抱えられている――と。お父様からの指示だったらしいよ。


 これだとトールお兄様も一緒に抱き抱えられるのでは?なんて考えたけどトールお兄様だってあの頃より成長しているし騎士の訓練も受けている。


 お茶会など花を愛でるお祖母様ではきっと相手にならないはずだ。ただ、お祖父様も参戦しようとしているから油断は禁物。さらにヒートアップしてどちらの暮らしがより孫(息子たち)が快適であるかいい争っている模様。


 頭上で繰り広げられる口喧嘩にげんなりである。トールお兄様とリディお姉様は俄然とお茶でそしらぬ顔。……場馴れしていると言うか、なんと言うか……動じないんだね。


 因みにお祖父様は一度だけあの言い争い?から離脱して私の目の前で両手を広げて見せた。片膝をついてさあ来い!みたいな感じ。隙を狙った行動なのだろうか……?


 顔もなかなかの強面だしお祖父様もトールお兄様たちから聞いている。きっとあの胸に飛び込んだら文字通り抱き締めあげられるので無言で首を振っておいてあげた。


 するとかなりショックを受けたのだろう。限界まで見開いてお父様とお祖母様の言い争いに参戦してかなり酷いことになっています。身ぶり手振りがすごい。ほぼ八つ当たりになっていますよ。


 孫をあれこれと想像と直感やらお告げやら私にはわかるやら――褒めちぎって我が子の素晴らしさを語る親にもう誰も止まりません。


 ああ、けっこうどうでもいい話だという事はよくわかったけどね。だからトールお兄様もリディお姉様も無関心なのかもしれない。


「これ、いつまで続くのでしょう?」


「言い合いがまとまっていませんもの。きっと長いですわ」


「長いだろうな。ああ、クフィー、むやみに動こうとするなよ?巻き込まれるし目を付けられる」


 私たちは猛獣達の獲物か何かかっ。でもこの勢いでターゲットにされたら困るので頷いてゴリンティーを堪能することにした。アブルは飲むのに邪魔なのでリディお姉様にバトンタッチで。


 でも残念な事に私のカップが遠い。トールお兄様なら取れるかもしれないけど手をぐんと伸ばさなければならないので目を付けられると思う。なので、誰かに新しく淹れてもらう事になった。


 くるりと振り返ってもトールお兄様しか見えないのでトールお兄様にお願いする。すぐ動いてくれたのは意外にもダリスさん。手際のいい動きで一杯のゴリンティーを手渡された。


「クフィーはゴリンが好きなのだな」


「……他のは渋いのです」


 飲めるけど。甘すぎない甘さが痛く感動してしまったので。だってこっちのお菓子が激甘なんだよっ。それ食べて渋い紅茶なんて飲んだら渋さが際立つわ!!それなら緩和された甘味で人心地をつきたいです。甘すぎるのは駄目なんだよ。微かにある甘味がいいんだよっ。


「お茶の良し悪しが分からないなんて、まだまだですわ。これから大変でしてよ」


「大変なのですか?」


「お茶会でお茶の話をするのは当然です。語れなければはみ出しものですわ。とくに自分で催したお茶会で出した物を教えない事は相手に失礼ですのよ」


 自慢話を聞かされないのなら別にいいのではないだろうか。でも話さないと興味をもってもらえず、仲間はずれになるのだから知識は必要らしい。社交界が怖い。でも私の場合はどうなるのだろうか。お茶会なんて開く機会もない気がするんだけど……


 まだまだ言い争っている4人に私たち3人はほのぼのと語り合う。なんか次元が別になっているような気がするけどそこはあえて気にしないでおこう。おお。お父様がヒートアップした。自慢話はまだまだ続くそうです。よく尽きないね。


「クフィーはもう魔法院には慣れたか?季節一つで色々とありすぎているような気がしてならない」


「どうなのでしょう?そういえば季節が一つしか経っていなかったんですね」


「わたくし、城には認定式でしか行ったことがありませんわね。私の成人の儀は王族がいらっしゃらないから公爵家でやりますわ」


「ではリディお姉様は今後お城には入れないのですか?」


「騎士でも魔法師でもありませんもの。入ることは許されませんわ。事業が功を成して陛下のお目に止まれば、機会があるかもしれませんわね。それでもかなり長い年月を必要とするでしょうから……無理ですわね」


「リディお姉様……」


 あー……そういえばリディお姉様ってば知らないんだっけ。貴族から抜ける事なんてかなり汚点として扱われると思うのにそれを受け入れられるリディお姉様がすごいね。真実は降格もなにもないんだけど。


 聞いた話では兄夫婦の実家を拠点に染め布や織布を作ったり販売したりして貴族街の販売をハウジークさんとリディお姉様が取り持つ事になっているんだけどね。だから貴族枠から抜けないんだけど……


 しょんぼりとしてしまったリディお姉様はそれでも気丈にカップを口にする。明らかに伏せ目がちで元気がなくなっているのだけど――知らないんだねえ。


 なんだか思い詰めてしまったようだからトールお兄様に話題を変えてもらおうと振り返る。と、言うのは嘘でトールお兄様は知っているのかな気になったのだ。長男だし。襲名するならある程度ほど知っているような気がしたんだよね。


 でも一発でわかりました!逆にトールお兄様の方が私を見抜こうとしていたらしい。私の顔を見た瞬間に判断したのだろう。頭を撫でながら人差し指が口元に一本立てられている。しぃーと音を立てて黙らされてしまった。


 困った顔も、慌てた様子も、姉を気遣う様子も見せない私に知っていると分かってしまったのだろうね。端からみたら私って薄情な奴かも。


 こくりと頷いて返事を返す。リディお姉様ったらまだしょげている。でもその心配は私だけではない。気配で察知してきたのかお父様が急にリディお姉様の名前を呼んで心配するのだから。


 どこかで見たような――ば!と瞬時に傍によって来る光景はちょっとドン引きです。怖いよ、お父様。


 でも口に出す内容は心配+気遣いだ。……早口に心配して気を使って話題をぶった切った感じだけど親子喧嘩が幕を閉じたのでよしとしましょうか。それでもお祖父様とお祖母様は抱き締めたくて渋っているけどね。笑顔で遠慮しておきました。


「すぐに会いに来てよかったわ」


「ああ。孫はやはり可愛いな」


「そっちから来てくれたら歓迎はする。だが兄上たちは別だ」


「わかっている……そんなお前にいいことを教えてやろう」


 顔が厳ついからきりっとしたら怖いね。というか、シリアスに話せるなら最初からそうすればいいのに……なんでみんな暴走しちゃうかな。


 今思ったらトールお兄様の暴走って見たことがないね。それだけ条件が揃わないのか暴走のベクトルが違うとか?見たいような……見たくないような……でもアーガスト家だからね。何かで暴走すると思うんだけど。


 そんな話は置いておいて、お祖父様からいいことを教えてもらう。しかし残念だけどいいことと言うより悪い報せでした。


「他領地の上流貴族が動くらしいぞ。現に、ケーリィムは動いた。ウェルター殿にも言っておけ。繋がりは調べあげるだろうしウェルター殿だけでは太刀打ちできなくなるやもしれん」


「はあ……あっちを終わらせたら今度はこっちか……」


「だから、少し私の方に娘を預けるのはどうだ?数年だけなら目眩ましは出来る」


 え、隠れるの?今さらな気がするんだけど。てかなんの力も持っていないはずのお祖父様がどうやって私を匿うのだろうか。よくわからないよ。あ、別荘とか?


 そもそもお父様がいいよと言わないでしょう。子離れがなかなか出来ていないのだから。もしここで二つ返事を返したら速攻で魔力暴走をするよ。悲しくなるから出来る自信がある。


 だけどお父様は私に意見を求めてきた。少しは娘の主張を汲み取ろうとしているのかね?いや、でもなんだか口の端がにやりと笑っているような気が……


「お友達と離れたくありません。嫌です」


「なっ!?」


「そうだろう、そうだろう!それにクフィーは魔法院に通っている。途中でやめさせる事はもう無理だ」


「魔法院にそんな決まりがあるか!」


「あるに決まっているじゃないですか。中途半端な魔法は一つ間違えば己を滅ぼします。貴族どもが途中から抜けられるのは魔法にそれほど興味がないものや親が自ら教師を探して習わせるためにやめさせられるんです。じぃ様は騎士だったから知らなかったでしょう」


「ぐぅっ……私だって孫と暮らしたい!」


「私だって休暇がなくて家族との時間が少ないんですよっ!!今日だけ堪能してとっとと帰ってください」


「とか言いつつクロムフィーアを遠ざけているではないか!トフトグル!来なさい!」


 さあ来い!と両手を広げて構えられても……私は未だにトールお兄様に抱えられているのでトールお兄様がもしお祖父様のところに向かってしまったら終わりだよ。文字通りサンドで抱き締めあげられるに違いない。


 因みに隣ではお祖母様とお母様がリディお姉様を巡って粛々も言い合っていた。やっぱり静かに怒るタイプだと思う。


 トールお兄様はすごく面倒そうに断ってくれたおかげで何もなく終わったけどね!ただお祖父様が頭を抱えて膝から崩れてしまったのですごく面倒な事になった。床がゴスッ!ていい音をしたのだけど大丈夫かな……もう年なんだから膝なんて壊したら大変だよ?


 因みにリディお姉様の方は来年に成人してしまうお年頃なので丁寧に断っていたりする。そんな断り方、アリですか?私も起用してよ。


 前のソファーにずぅーんと黒い影を背負った祖父母たち……ぶつぶつ何か言い始めたんですが、大丈夫でしょうかね?


「いっそ誘拐……」


「帰れ!」


 お父様がずいぶんと子どもっぽいですね。親が貴族の重みを捨てちゃったらみんな連鎖でこうなっちゃうんだね。知らなかったよ。


 仕方ないので私はトールお兄様にお願いしてお祖父様とお祖母様のしばらくだけ話相手になることにした。二人同時は怖かったのでまずはお祖父様に騎士のお話しを聞きたいと言えばすぐに食いついてくる。お祖母様はそのままリディお姉様にお願いしよう。


 ぎらぎらとした眼でちょっと怖かったけど……せっかくのおじいちゃんとおばあちゃんなのだ。前世では残念な事に両方とも県外で年に一回しか会っていなかったのでここで孝行をしてもいいのではないだろうか。ただ、トールお兄様の顔がすごく渋っていたけどさ。


 これからまた会えるなんてわからないのだし――トールお兄様も一緒に、と笑いかけてたらお祖父様がにこにことお父様をわざと押し退けて隣へやって来た。因みに抱きつきは近づいてくる瞬間に遠慮しておいきましたよ。


 傍にいるだけならたぶん、ほぼ危険はないと思うし。トールお兄様がいるから大丈夫、なはず。――傍にいるだけって大丈だよね?なぜか密着がすごいけど。むしろ腕を回していないだけで抱きつかれているような……ああ、トールお兄様の顔が能面にっ。


 お祖父様のお話しはなかなか勇ましい。武勇伝が大袈裟と言いたいほどすごいよ。一人で突っ込んだとか敵の大将の首をこの手で何人とか怖いよ!あと一閃で十の敵を凪ぎ払ったってどれだけ凄いんだろうか……能面を崩してへぇ、とトールお兄様は興味が引かれたようだけど私は微妙だ。楽しく聞けたのはお父様の子どもの頃の話。剣はからっきし駄目でよく泣いていたらしい。お父様の視線が痛い。


 密着が高いまま昼食が終われば次は待っていましたと言わんばかりにお祖母様にバトンタッチ。これもお祖父様と一緒で密着が高く、興奮しながら話し出した。


 お祖母様は見てもわかるように夫人なので騎士の話ではない。可愛いもののお話し。と言うわけでほぼターゲットを私に絞ってトールお兄様には意見(むしろ同意)を求める時に話題を振ったりと大忙しだ。


 私の好みを知りたいのかあれやこれやと似合うものを語ってトールお兄様に相づちを打ってもらうと言う変な光景。すでにトールお兄様の顔はまた能面に逆戻りでほぼ生返事だった。


 アブルとノルアの話も出てきたけどそれほど気にしてはいないらしい。可愛いと興味で少し気をまぎらわす事ができたがただ話題が変わっただけで密着度は変わらず。


 ……約9時間のぶっ通しお喋りはかなり苦行のもので、同じくリディお姉様もお父様たちと密着されていたらしい私たちはかなり疲れきっていますとも。


 興奮覚めやらず――なんとかダリスさんとジェルエさんの力で部屋から追い出してもらった後はさすがに疲れがどっと出る。三人になって速攻トールお兄様は私をどかしてソファーに仰向けに寝転んで顔を覆ってしまった。……お疲れさまです。


「……クフィー………………いっそ意識を落とされた方が俺たちのためだと思わないか?」


 ああ、『俺』になっている。相当お疲れなんですね?わかりますよ、その気持ちっ。


「トール兄様、それだときっとダリスやジェルエを抑えつけて寝ずの番でご一緒されますわよ。目覚めるまでお側で――目覚めたらお喜びにきっと」


「リディ、やめてくれ……」


「トールお兄様は私を守ってくれていましたから余計にお疲れですよね。ありがとうございます」


「クフィーを抱えていないとすぐにお祖父様たちの手によって抱き締め上げられるだろうからな。すでに潰されかけていたからあれが最良の手段だ。……こう言ってはなんだが、ようやく明日には解放される……」


 トールお兄様がお疲れすぎてだらけてしまった。それを見ているリディお姉様が行儀が悪いとぷりぷりし始める……


 もう何を話していたか覚えていないが、印象が強すぎるお祖父様たちだったと言うことは覚えた。今度があるのかさっぱりわからないけど、その今度は窒息しないこと祈るしかない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ