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魔学医ヴィクマン

誤字・脱字・加筆・修正いたしました。27.4.9

 

 私の名はヴィグマン・マルセイン。侯爵の爵位を持ち、十進魔法師の十を担う魔法師で王宮専属の魔学医である。


 この老いぼれは早く次の世代にこの『魔学医』の名を明け渡したいと懇願しても、友である王が許さぬ故にまだここで任を尽くしている。


 白銀の髪は歳をとるにつれただの白となって早15年あまりか?早く引退したいと言うに鞭を振りおうて。


 わしの特性は魔力を的確に感じとる事。そして医学を納めている事から魔学を専門としている。


 魔力を感じるとはその名の通り、体内に流れている魔力をわしが感知すると言う事じゃ。


 魔力を持ってすれば、誰でも出来ること。しかし、わしはその先を感じる事ができる。言うなれば他の奴より魔力が感知しやすいだけじゃがな。


 他人が『なんとなく』と感じれば、わしは『ここにある』と適切な場所までわかるぐらいじゃ。それ故にわしは魔学の王宮医師筆頭となり専属に就き、魔力持ちの病を看ている。


 魔力持ちの病も様々じゃ。魔力の循環が滞り気分を悪くするもの。魔力が一ヶ所に塊となってそこに何らかの症状を訴える者。魔力が漏れ他の者の魔力に感染、腐食する者。魔力が溢れだし暴走する者。魔力の枯渇により死に直面する者。


 人、様々に魔力によって影響を及ぼした病を魔病と言い、普通の医師たちでは見つけられない。が、わしはそれを感じ取れる。見つけたそれを正しい薬草を煎じて処方するのもまたわしの仕事。


 これがなかなかに忙しく、弟子の成長を誰よりもわしは強く願っておる。魔学はそれほど広がっておらぬからじゃ。なぜ、広まらぬ。どれだけ必要か、なぜ分からぬ!


 例えば―――魔力の循環が悪くなり気分が悪くなる。知識さえあれば自分は魔力持ちで普通の医師に看てもらって首を振られれば魔病なのかもしれない、と思い付く。


 しかし、ただ『気分が悪い』と思うだけではすぐに医師に看てもらう事はあまりない。少し横になれば良くなるだろうと考えてしまうし、また、魔学医師に看てもらうと言う事は普段より高額な金を足さねばならなぬ。


 貴族なら出すであろう。貴族はその名を残すのにずいぶんと必死だ。伯爵高位となれば金は動く。しかし平民はどうじゃろうな。そんな高値がすぐに出せるとは思えぬ。


 話がそれたな。この循環が乱れる魔力は普通の医師では分からぬし、魔力持ちの魔法師でも魔力の大小ぐらいしか感じる事が出来ぬゆえ、わからん。故に魔病を患った者は死ぬ確率が非常に高い。だからわしが色々と飛び出さなければならぬのじゃっ。


 これがわしと普通の魔法師との違い。魔法師の中の“ 異常 ”魔法師。十進魔法師の末席に座るわしの実力じゃ。と言っても主に陛下の為じゃがな。


 ただ感じるものが知識だけではどうにも対処など出来るわけがない。とすれば、自ずとまだ的確に魔力を感知できるわしが働かなければならぬ。


 して、そんなわしに面白い報せが半年前に届いた。


 以前まで王の命により同盟国である隣国ロワクロの王子が倒れたと報せを受け、普通の医師ではわからないのでわしが赴任しに行ったのだが………


 その間にこちらもまた奇妙な出来事が起こっていたらしい。


 あの十進魔法師の一の席につく魔法師―――グレストフ・フォン・アーガストの末娘が魔力暴走を起こしたと。それもわずか1歳と半年ほどのまだ小さい子どもが。


 グレストフは若いながらも二つの属性を持つ。こやつも“ 異常 ”魔法師の一人じゃ。魔力が高く、扱う魔法すべてが精密で初級だけでも威力は上級レベル並み―――を放つ親馬鹿じゃったな。


 前者を聞けば誰しも感嘆な声をあげ、誰もが尊敬をするような位置にいるくせして親馬鹿。あれさえなければグレストフは爵位をあげられたじゃろう。王に貢献はしっかりしているようじゃからな。


 ただ、二番目じゃったか?上の娘に貢ぎまくっていると噂を聞いた故に王と宰相、それにわしと共に相談のもと、今後を考えて止めさせたな。爵位は要らんようじゃったし。


 ああ。また脱線してしまったわい。歳じゃな。物忘れしていないのがまだ救いかの。


 とりあえず今日、ようやく。そのグレストフの末娘を診てやる話になっておったんじゃが………扉を前で何をやっておるのじゃあやつは。


 娘が可愛いだの、挨拶がどうこう。おい。娘は確か3つと言っておらんかったか?3歳の娘の方がしっかりしておらんか?


 しかし、わしの部屋の前でぎゃーぎゃーうるさくて敵わん!怒鳴りこんでやっとの事で中に入れる。その頃にはすべに疲れ果てたわしがいるが、もうこいつと付き合うには体力が持たんのぅ。早く隠居したいものじゃ。


「さっそく本題に入らせてもらおう」


「え、まだクフィーの可愛さを語っていないんですが」


「いらんわ!」


「語らずしてクフィーの良さがわかるはずがないのです!まずこの透き通る翡翠の髪をっ」


「お前は黙っておれんのかっ!!」


 くっ。こやつとおると本当に疲れがたまるわいっ。


 なおも娘の良さを語ろうとするグレストフに嫌気をさしながら黙らせる。面倒なので娘を餌に使えばすぐに黙ったので今後もこれを使うとしよう。


 グレストフの膝の上でしっかりと抱き締められた娘は抵抗もせずに嫌そうな顔を浮かべておる。ように見えるのは気のせいにしといてやろう。


 すまぬな、幼い娘よ。恨むならこんな親馬鹿をところ構わず爆発させているグレストフを恨むのじゃ。


「この娘っ子は抑制魔法具でも付けておるのか?」


「ええ。レーバレンスに頼んで一番弱い奴を」


「いい判断じゃ。こんな幼子に強いものを着けると魔力が固まる恐れと、外れた時の魔力の爆発に繋がる」


「外しますか?」


「頼む」

 

 躊躇いなく魔法具を外しよったか。なら付けずに過ごしてもよかっただろうに。


 わしは感じる者なので、一応、グレストフに断りを入れてからまだ小さい手を取った。こうでもせんと後々うるさいからのぅ。


 ―――ふむ。あまり抑制魔法具は意味がなかったようじゃな。よほどこの娘が落ち着いておったのか………回りがそうならないように環境を作ったか………


 もしくは、この小ささでグレストフのように魔力を操っておるのか。さて、どうなんじゃろうな。


「結論から言うと、お主より魔力が高い。魔力の扱いは教えておるのか?見習いより循環が良いぞ」


「いいえ。まだ小さいのでそこまでは。泣くと魔力暴走に繋がるので泣かせないように周りが気づかっていました」


「これほどの魔力をよく循環できるものじゃな。人見知りもしないようじゃし………」


 しかし変じゃな。頭の方の循環が何重にも重なっているように感じるの。特に眼の回りが異常に密集しておる。なにかありそうじゃ。


 魔力の循環は血液とほとんど一緒の動きをする。だが、この幼子はなぜか頭と目の方が濃く、魔力の循環を感じる。高い魔力保持ゆえになにかあるやも、しれんのぅ。


 生まれもってそうなったか、この1年半、3年で何かがあったか………


「何かここ最近で変な事が起きた事はあるか?」


「1歳ぐらいですか。伝聞で申し訳ありませんがその頃に3回だけ、気絶してます」


「………昼寝の間違いじゃろ。なぜ伝聞なんじゃ」


「乳母が言うにはハイハイしている途中で急に倒れたとか。その3回以降は起こってないので確約できません。伝聞の理由は…………………………その………」


「おねーしゃまを、あやまかしすいたって。じぇうえが、いってた!そーした、ら、でぅえきんん!」


「クフィー!?ちょっと待とう!お父様ちょっとまだお話したいから!!」


「あやまかし―――甘やかして出禁か?そうか、そうか。娘はずいぶんと優秀のようじゃな」


 顔を少し赤らめながら恥じらうように笑う娘っ子の頭を撫でてグレストフを見やれば片手で顔を覆いながら天を仰いでおる。


 さすがにこんな事をわしに知られたくはないらしいのぅ。わしもそんなに親馬鹿だったのかと改めて知りたくはなかったぞ。


 親馬鹿で甘やかしすぎの上に家主が子ども部屋の出禁?その家臣もずいぶんと大変だったろうに。


 そこまで重度の親馬鹿だったのかと思うとこの娘が気の毒になってきおったぞい。


「のう娘っ子、もしこの父親に愛想が尽きたらわしの孫になるか?」


「ヴィグマン様の場合は曾孫でしょう」


「反対はないみたいじゃな。どうじゃ?わしの家に来るか?」


「ちょ、なにを本気にクフィーを口説いているんですかっ!あげませんよ、絶対!!」


「お主を見ておったら娘っ子が可哀想に見えたのだから仕方がない事じゃ」


「老害ですか?名医なら私の方からも紹介しますよ」


「口が減らん奴じゃの」


「ヴィグマン様もクフィーへのお戯れは止してください。犯罪です」


「お前の頭の方が医者が必要じゃろう」


 本当に、なぜグレストフが十進魔法師の座に留まっていられるのかが不思議じゃ。切り替えが出来ると言うのもあろうが、普段がこれでは内部崩壊になるのではないか?


 娘っ子は話に入れないのか、いつの間にか父親の膝元を抜け出して隣に座って寝ておる。子どもは何処でも寝れるのが不思議じゃの。


 わしがそれを見ておれば、それに気づいたグレストフも黙る。娘の餌はやはり効果が高いようじゃな。


 さて。頭の方をもう少し触れてみようかのう。願わくば大した事のない病であれば、楽なんじゃがな。





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