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見解は不定である事を願う

修正いたしました。28.12.30

 

 過度に重要性を考えていなかった、と言うのは私の怠慢だろう。シェムピスと関わりたくなかったと言うのは第一の理由としてもっとも強く、信頼における部下に任せたから安心しきっていたと言うのもある。




 シェムピス・エル・トゥリュリュ――…




 閉ざされた瞳の女。月白の髪は腰まであったような、なかったような。正直に言えばあまり覚えてはいない。私があれだけ突き放していると言うのに、どうして彼女は私に絡んでくるのか。答えはとても単純だ。


 彼女は精霊を崇めている教会の人間だった。それもかなり強い信者のようで私の魔力が目当てだと彼女の事を調べてしまえばすぐに出てくる情報。私自身に関係がなく、魔力のみを欲する彼女に気持ち悪さを感じていた。


 あれは何時からだっただろうか――少なくとも私は十歳までは実家である隣の領土にいた。魔力が高かったのでそのまま城の魔法院に入って……グラムディア殿下の事件よりは前だった。確か……そう、精霊信者の勧誘がなぜか城の中で行われており、その中にいたシェムピスに出くわしてしまい猛烈なお誘いとやらを受けていたのだ。たぶん成人して数年か?そこまでは覚えていない。その頃はクレラリアにしか目にしていなかったのだから。


 それに覚えていない理由は私が彼女と取り合わなかったからだろう。あの頃も今も本当にどうでもいいと思っていたので記憶にはほとんど残っていない。それだけ私はクレラリアを真剣に考えていると態度で示しているつもりだった。若かったからな、あの頃は。


 ただ――熱心に誘い込もうとして次第にそれは私への求婚へと変わっていったような気がする。覚えていないが。結婚と言う束縛で取り込もうと来ていたのだろう。私にはすでにクレラリアから目が離せなかったので強い拒絶を示していたが。周囲もうんざりした毎日で私の環境が乱れていたのは当然だ。あれはかなり面倒だった。


 しかしシェムピスが魔法師と言う地位を手に入れた時、それと同時に私がクレラリアを妻と迎えたその日を境に彼女は清々しいほど私への勧誘を止めて教会に入り込んだ。それは消息を絶ったと言っていいほど。教会の最深部にでもいたのかそれ以降は音沙汰がまったくなかった。と言っても誰も気にするものはいなかったし、気にするものとして教会の信者なら知り得たかもしれないが……協会との連携は今も昔も関わりたくないから距離を取ることが当たり前。別に気にもしていなかったので忘れるのは至極当然のことだと思う。


 厄介になったのはグラムディア殿下が負傷した後だ。『帝王』の情報と照らし合わせた結果、シェムピスが関わっている事が少しだけ浮き彫りになってきていた。彼女は魔法師となって教会に入った途端に帝国にでも行って信者を広めたのだろう。そして『帝王』を操り、教会が動き回れるように大きくしていったようだ。


 クフィーのおかげでおっさんから“ 盲目の女 ”の話が入らなければ教会も分からないことだらけだったろう。今でもわからない事が多いが、少なくともこれ以上は野放しに出来ないとわかった。


 ただ確認のためにおっさんにシェムピスと対面させたのが悪かったのか――今ではそれも後の祭りだ。牢屋へ入っている罪人を出せるわけもなく、おっさんをつれて会わせた。会わせたと言ってもかなり距離を置いてシェムピスの姿を確認してもらっただけだったのだが。


 それだけでおっさんは間違いないと豪語するのだからそれっきりにしていた。とくにおっさんの口から出るわ出るわ、シェムピスから聞かされていた助言。こうすれば、ああすればと聞かされた内容は終わって数年も経っているのでよくわかる。


 駒として動かされた、とな。分かっていた事だか改めて考えると頭が痛い。


 誰の裏を暴けばいいか、誰に仕えればいいか、誰を殺せばいいか――帝国の事情まではわからないがそれまでの教会の事を知っている限りで教えてもらえば、あちらはかなり憂いのある教会となっているようだった。なんと、帝国のログニア城とあまり変わらない建物となっているのだとか。途中で気づかなかったのだろうか。


 気づく気づかないの前によく教会をそこまで野放しに出来たと思う。おっさんもおっさんでなぜシェムピスを信じられたのかがわからない。とくにおっさんが動けば人事ががらりと変わっていると言うじゃないか。宰相閣下の裏を暴いて新しい奴をつけたら教会が――となればその新しい宰相は絶対に教会関係者だと思うだろう?帝国が思う教会の受け入れ方は知らないが、怪しいと思うのが普通じゃないか?自国の象徴とも言える城と教会風情が見比べるほどになったら変だとは私は思うぞ。


 ただおっさんが言うには皇帝もきっと教会信者に荷担しているのではないかと言う。シェムピスの預言と皇帝の勅命もあまり大して変わらないと言うし、その教会が大きく蔓延っても何も言わないし反論する貴族がいても黙らせていたのだとか。それかおっさんが始末していたとか。


 それを聞くとなぜ我が国と和平を結ぶと言う形に到ったのかがわからない。そこを細かく聞くと今の皇帝は丸っきり王政のやり方を知らない新米皇帝なのだそうだ。どうした、と問い詰めれば数十年前に崩御し、後を追うように皇族が次々と主に暗殺や病に亡くなられたために辺境に身を隠していた末弟を呼び戻して無理矢理だが皇帝に就かせたらしい。


 庶子だったために王位は与えられず、しかしもしものためだと辺境の地に預けていたらしい。その辺の事情はどうでもいいが、後釜に当てている新米皇帝がこれまた操り人形の如くただそこに座らせてただ首を縦に振らせていただけで実際は宰相閣下が国を動かしていたとなれば教会が大きくなったのも頷ける。


 今のように大きく変わったのは王政や国政などの仕組みを理解した現皇帝が数十年もかけて味方を増やし、色々と根回しやらなんやらが成功した結果が宰相から国政の権利を取り戻す事に成功して現状を把握した上で和平へと踏み込んだと言う。現皇帝は争いを好まない方だった事もあるし、帝国民の現状から見ての判断だそうだ。国を生存させるなら英断だと思う。


 聞いた後はとりあえずおっさんに凄く腹がたったので水を被せておいた。政は俺の仕事じゃないって――何かが爆発しそうだったのでおっさんとの会話はここで止めておいた。


 情報は手に入ったのだ。シェムピスの狙いは相変わらず“ 精霊 ”の拘りが強いみたいで教会は今でも精霊を信じて止まない。今では精霊を崇めるのではなく、精霊を手に入れる事が目的となっていると改めて情報が手に入っているのだから。まだ細かくはわかっていないが、視察団の連絡にえらく教会を薦められていたと言う報告もあるし精霊さえいれば我が国は~とも色々と聞かされているとのこと。もう教会が酷く面倒の集団となっている。


「もちろんそこまで情報は入ったんだが、シェムピスは何も言わないし罪が他の罪人より軽いから下手に聴取もとれなくてね」


 とくにこれといった証拠もないし、私が聞き出そうにもシェムピスは体を売り込もうとするから話にならない。全く関係がない魔法師にやらせても加減ができなくては困るのでこれまた聴取が難しくなる。


「そうしている内に……魔法を――魔封印を装着していたにも関わらず、魔法を使って逃げられてね。魔法具を隠し持っていたか、仲間が迎えに来たかと思ったんだけど……壁が壊されて逃げられたんだが、瓦礫がどうも外にある事から自力で逃げ出したことになるんだけど。やはり見逃すために仲間はいたんだろうと思う」


 そして壊れていない壁にシェムピスの血と思われる赤黒い液体で――




 三つ子の輝きはきっと精霊への道標となるだろう。まだ満たぬ導きに私は待つ。満たされた素晴らしき日に私は駆け参じましょう。


 私は諦めない。


 シェムピス・エル・トゥリュリュ




 と書かれていた。シェムピスはもちろん脱獄をしたことにより追ってはいるが……見つかっていない。残されて者たちが壁の文章の解析に取りかかって


「私が狙われている――決定打は三つ子ですか?」


「そうだよ。文を単語にして分けても三つに当てはまるもの。子は誰を示すか。精霊への道標と言えば魔力だ。導きの満たす時はさすがにまだ何時かは分かってはいない。何の何時なのかがわからないんだ」


「でも、それだけで私だとは」


「精霊の導きは魔力なんだよ、クフィー。精霊は魔素だ。遥か昔――人間が精霊と歩むために必要なものは魔力と魔素がなければ何も始まらない。そして二つの共鳴がなければ精霊との繋がりは何もない」


 だから私の魔力を求めた。クフィーが生まれる前まで私が一番の魔力保持者であり、シェムピスがずいぶんと欲しがっていた魔力量だと思う。しかし今ではクフィーが一番になっている。魔力が多いと噂が広まってしまったが正確な量は知られていないはずなんだが……どうやってか、知ったのだろう。それこそ信者の仲間か。


 文中の三つ子の輝き――。魔力の関連で思い付くものは属性と考えるのは妥当だ。それとも本当に三つ子なのか、とも考えた。しかしこの国に双子はいるが三つ子はさすがにいない。では何かが当てはまる三人組。またはそれぞれ特徴的な三人。それに魔力の量が多い人物を当てはめる。魔力量でとればいいのか……異能でとればいいのか……でも、クフィーで考えるとしっくりと当てはまる気がしたんだ。


 三つ(・・)を持つ()――私はそんな気がしてならない。それに――これは言えないことだがクフィーはまぐとり……それにかの幻狼ともすでに接触している。シェムピスは、そんな事は知らない。絶対に知らない。だが知っている私ではあり得ない話ではないと思える。


 レーバレンスにもヴィグマン様にも聞いたら同じ答えが返ってきているんだ。二人ともやはりまぐとりの事を片隅に思っているようだし……


 クフィーに話せば少し納得したようだ。娘としてみると聞き分けがいいがその実、前世の記憶を持つ彼女の情報処理は早いと思う。たまにとんでもない事にもなるが。


「これは私たちの結論だ。クフィーは狙われている可能性があると。まだ日も経たずに結論を出したから違うかもしれない。だが他の貴族の事もあるしクフィーには今よりもずっと警戒はしていてほしい」


「わかりました。しかし私だけではどうにもなりませんよね?私の今後の振る舞いはどのようにすればいいでしょうか?」


「今まで通りだよ。今回はレーバレンスの判断でクフィーに教えた方がいい、って言っただけで別に隠れてほしいとかではないよ」


「今まで通りですか?」


「そう。露骨な態度だと逆に怪しまれるし。どうしてもって言うとき意外は何時も通りでいいよ」


「わかりました」


 うん。クフィーが可愛い。可愛いよ!やっぱり下ろしている姿もいいな……納得が言ったのか小さく頷いて決意を決めた目がまた可愛い!!守らねば!私がなんとしても守らねば!!


























 狙われているのか……だいぶ落ち着いたせいかな。ふーん、で終わらせられるような感覚の私。おかしいな。守られていると分かっているから落ち着いていられるのかな?不安要素がてんこ盛りのはずなのだけど……


 ようやくお父様から色々とお話しを聞けて私が狙われているかも、とわかったけど……それに猶予があるってわかったし。やっぱり理由がわかったからが一番大きいのかな?今は不安なんて感じられないや。


 それとお父様の説明にはすごく興味深いお話しがたくさんあったからかな。楽観視しすぎだけど、シェムピスがどういう人物なのか少しだけわかったし。それに帝国についても少しわかったからよかったかな。実を言うとそっちに意識が言ってしまった。


 だから帝国が変わったんだー、て納得もできたし。なるほどね。皇帝が変わっていて実権を握るのに時間がかかったからか。確かに和平なんて結ぶには年単位、それもかなり長い目で見なくては成し遂げることは難しいよね。今の皇帝様よく頑張ったと思う。


 それで帝王とか右側の人とかつるりんさんの手綱が掴めなかったんだね。納得ができる。また色々と変わってきそうだなあ。


 そんな『帝王』はどうするのか聞いてみた。だって、明らかに帝国をむちゃくちゃにした仲間でしょ?だからどういう対処をとったのか気になった。そしてあっさりと答えてしまうお父様。と言うか一瞬で渋い顔になりましたよ?


「話し合った結果、もう帝国ではなくこちらの傘下にあるからおっさんは生き残らせる事にしたんだよ。色々とあって」


「(すごい言葉に刺が……)お父様、ずいぶんと顔をしかめていますが嫌なのですか?」


「………………」


「『帝王』は首輪を付けて私たちが飼うことにしたのですよ。彼は本当に民に英雄として扱われていますから、下手に処分が出来ないのです。生かさないと帝国民の暴動で両国が痛手を負うのも嫌ですし。これからいい関係を気づきたいと両国王が手を取っているのでそうなりました――グレストフ一進魔法師殿の監視の下で話を付けて」


 宰相様、それってつまり……


「グレストフ一進魔法師殿にはこれから『帝王』と行動するので、お仕事がもっと大変になります。ですからクロムフィーア嬢と会える回数や確率は減ると言うことです。父君はこれからお仕事を頑張ってもらわなくてはならないのですよ」


「絶対に顔を見に行くので回数も確率も減らないと、何度言わせるのですかベルック宰相殿!」


「普通に無理だと思うがな。影からこっそり見に行ったらサーフェン魔法師と同じ目にあうぞ」


 女官に通報されるお父様……さすがに見たくはないよ。聞きたくないよ。ここは釘を刺しておかなきゃ!


「そんなお父様、見たくも聞きたくもないです……」


「えっ」


「そんなお父様のお話しがあったらトールお兄様に泣きつきます」


「えぇえ!?なぜお父様じゃないんだ!?泣くならお父様の胸を借りなさい!」


「じゃあ、通報されないでくださいね?」


「クフィー……お父様はそんなへまをしないよ?私を誰だと思っている」


 いや、普通に通報される光景が目に浮かぶんだけどね。それを言ってしまったらまたぎゃー!ってなるだろうから言わないよ。でも気持ち的には残念なものがもやもやと残っているわけで……思わず目を反らした。


 するとお父様が異義を唱えるけど……やっぱり通報される光景しか浮かばない。それは女官さんたちの邪魔だし、魔法師の全体に変な影響を受けるような気がして来た。いや、でも待てよ?私は個別で受けるからお父様だって姿が目撃されずに済むのでは?


「そもそも私は堂々と見に行く!」


 しん――…


 誰か突っ込んであげて。お父様が鼻息を荒くふん!て……もう何も言わないよ。グラムディア殿下が苦笑いで遠くを見ても、宰相様が眉間を揉んでいても、ヴィグマンお爺ちゃんが頭を抱えちゃっても、レーバレンス様が俯いて何も見ないように目を閉じて頭を軽く振っていても、陛下からそれはそれは長いため息をつかれても!私は何も言いません。いっそ乞うご期待!にして様子を見ましょうよ。


 待っていてね!と気合いが入った、ついでに自信が満ちた顔で宣言されたが私はにこりと笑ってお父様のお仕事を応援しておく。すごいやる気の雄叫びをあげているが――きっと饒舌な語りとかは『帝王』に回ると思うから。皆さん、何かあったら『帝王』を利用してやってください。飼うならそれもアリだと思う。頑張れ、みんな!


 そんな訳で帰りましょう。もう帰りましょう。ここに長居をするわけにはいかない。お父様が引き留めない今がチャンスなのですよ。レーバレンス様、いきましょう!ではさようなら!!




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