護衛を持つとこうなる
修正いたしました。28.12.30
アブルと再び契約して……ようやく、本当に、護衛として手に入れた私、クロムフィーア・フォン・アーガストはこれまでにないほど注目を浴びたと思います。
もちろん――それは様々な視線を交えて。
外から見る私はベベリアとリッスンを配下に従えて魔法棟の乗っ取りをするのではないかと噂をされている。おかしくなってぶふっと笑ったのは内緒です。因みに親子で乗っ取り計画も囁かれていたんだって。なんだそれ、って鼻で笑いそうだよ。
しかも、私の配下にはキャロラリンも入っているのだから笑いものである。うっかり腹筋が崩壊しそうになったよ!キャロラリンがグラムディア殿下を差し置いて私になびくわけないじゃんか。ね?(アブルとノルアに聞いてみる。そして2匹ともに首を傾げられた)
他にも色々とあって、従えているのは間違いがないから魔法師を脅しに来たんだ~とか。嫌な奴を追い払うためだ~とか。ちょっと面白いことになっておりますよ。
しかもそれがどうやって調べたのか知らないけどポメアがリストを作って教えてくれるんだよね。本当にどうやって調べているんだろうか?
魔法師、上級魔法師は私が脅しに来ている。中級魔法師は私がお父様からの見張りの使者とか勘違いしているんだって。下級や見習い、若魔法師たちは私に触れないように遠ざかっているらしい。下手に近づいたらアブルたちの餌にされるんだって。なんと面白いことか!結局はみんなが脅されていると思っているって事だよね……リストにした意味があったか、と言われれば微妙なところだけどポメアが頑張りましたよ!って笑顔で言ってくるのでそっとしておこうと思います!
えー、で。魔法師たちはきっと下から私が襲いにかかると思っているらしいって。こう、武力行使的な意味で。なぜだか私に凄く警戒をしているみたい。そんな事、するはずもないのにね?上にいる人なんてあまり知らないし。そんな事をして楽をしたいとは思わないよ。
中級魔法師はこの前からちょくちょくと私が騎士棟に顔を出していることから見張られているのではないかと身を潜めているらしいね。そんな事はしないのに……てか出会ったのはごく最近で偶然なんだけど。数回しか出会っていないのに見張りって……あり得ないし見破られたらもうお役御免じゃない?どうしてアブルを従えただけでこんなに警戒をされるのかな……
あとの下級から下は主に私へ婚約を申し込んだ貴族たちが深読みしすぎて怯えているんだって。しつこい奴がまだいたとかで、アブルはかなりいい感じの牽制になっているんだとか。ポメア、よくそれだけの事を調べられたね。褒めたら嬉しそうに笑顔を向けられてしまった。私もなんだか嬉しい。
さて、これで日常がまともに送れるのかと言うのならばノー!と答えるよね、普通。ぶっちゃけて言えば学校にペットの持ち込みは駄目に決まっている。いくらお父様の娘であっても、いくらお父様が許可を出してもこればかりは誰も受け入れないと思う。
そりゃあ護衛なんか連れていれば講師を担う魔法師は思うよね。『私は信用をされていないのか』て。しかも今までなかったのに例外が通用するのかと言えばそうではない。もし、の場合で護衛なんかを部屋の一角に置いてみよう――どんな形であれ、普段から見知った部屋に異物があれば気になるよね。私は気になる。興味がなければすぐに冷めちゃうけど。
他の人はそうではありません。きっと。いや、例外はあるかもしれないけど。まあ子どもってまだまだ好奇心が旺盛ですから?それに魔法院に通っているからと言ってほぼ魔法だけしか教えられていないからね。教育的な指導もすればいいのに……平民がいるからそれは後に教わるのかな?
そんな感じて個別指導を受けることになりました、私とジジルとエリーとハルディアスとケヤンとポメア。6人が教場から別に個別指導です!これならアブルを護衛に置けるからね。最初の頃はすごかったなあ……女の子と男の子の差が。もう冬に入りそうな季節でだいぶ落ち着いたけどね。それまで私は謹慎だったよ……お父様も魔法師も止めるのが大変だったとウィル様が言っていたので、今度あえたらお礼を言いたいと思います。本当は何かしてあげたいんだけど……余計な事をしそうなので。せめて言葉だけでも送ろうと思います。
――そう、もうすぐ冬である。冬だからどうした、と言えば寒いんだよコノヤローなどがつい口走ってしまう季節ですね!秋の終わりの阿鼻叫喚は素晴らしく騒ぎになったのも寒かったから騒ぎたくなったんだよ。そうに違いない。寒さでみんなおかしくなったんだ。
アブルは恐れられるし。そうしたら私まで恐れられるし。教場に入れなくなるし。謹慎になるし。この時のお父様が笑顔で色々と許可していた顔が見事にレーバレンス様の拳によって変形したけどね。あれは見事だった……スローモーションで変形していく顔がまさに恐怖だよ。いつものように抱っこをされていたから間近で見たわ。そしてちゃんと私を守りながら倒れるお父様に感服である。私に怪我がなかったことがすごい。
だから結局はこうなる、と。この個別指導は最終段階で持ち込まれた隔離案です。数ヵ月は堪えたけどみんな警戒して授業どころではなくなったのが原因です。言ってしまえば私が原因なんだね、これ。アブルが原因なんだよ~と言いたいけど……契約主が私なのでなにも言えない。後悔もしていないので痛くも痒くもないけどね!
でもよく数ヵ月は持ったよね。阿鼻叫喚はすごかったけど。誰も怪我をしていないのだから大丈夫と言ってくれればいいのに……お父様は言ってくれたけど。どっちにしろお父様へ――それで駄目だったから十進魔法師へ、と苦情が殺到したからこの結果になったんだけどね。あの一日でどこまで影響が出たんだろうか。因みにメンバーはお父様の個人的な事情により抜粋されたんだって。その個人的な事情は教えてくれなかったけど、見知ったお友達ばかりなので何も言わないよ!
オブディンは相変わらずアブルのお腹の中。お腹で合っているのかは不明。体内っていった方がざっくりしていていいかもしれない。とりあえず一番安全な場所だから~と、言う名の保留。場所の細部はアブルしか知らないからね。聞こうと思えば聞ける。大丈夫。
烙印契約をしたことでアブルはかなり制御されているからね。私がノルアを肩に(ちょっと重かった……)アブルを抱えて魔法院に入った時は酷かった。少女が叫んで広がってアブルがうるさそうに耳を塞いで……魔法師も集まってえらい事になったもんだ。その時のアブルがあまりのうるささに唸りだしてねー。止めなさい、と一言を告げれば頭を抱えちゃったからね。烙印が痛かったんだと思う。頭を掻いていたし。
あの後は当然のようについて来ていたお父様によって静かになったけど。結局は帰らなくては行けなくて――でもお父様も一緒に帰ると言い出して……大変だったなあ。
「可愛いね!私、動物ってヌイとかネネニャーぐらいしか見たことないよ」
「ジジル、さすがに下町にベベリアとかリッスンがいたら騒ぎになるよ?」
「うん。なると思う。ねぇ、本当に噛まない?噛まないよね!?」
「………………………………」
「ハルディアスくんも意外だよね!動物が好きなの?」
そんなわいわいと言いながら私とポメアは眺めているのです。かなり微笑ましい光景に口角がいい感じに弧を描いているのは間違いない。もう授業をそっちのけで今日はのんびりと過ごしたいです。
ノルアに戯れているのはジジルとエリー。目を輝かせてノルアの視界、前から見えるように撫でまくり。ジジルがお腹でエリーが頭とか額とか顎をわしゃわしゃ。くすぐったいのかたまにノルアの手がジジルの手をぺしぺししている。しっぽはもの凄い勢いで上下にブンブンと振られているよ!横じゃなくて縦とかそれもまた可愛いです!
ちゃんと注意を先に言ってちゃんと聞いてくれればノルアだって理解して攻撃をしないのだよ。それなのに後ろから抱き上げようとした同級生?がいたのに驚きだ。触りたかったかはわからないが、呆然と立っていた私の後ろから持ち上げてノルアが暴れて――自力で脱出したら頬を膨らませて攻撃体制をとった早業に、魔法師が悲鳴をあげて大変だったからね。それも教場に入れなくなった理由のような気がするけど。
対してアブルの側にはハルディアスとケヤンくんがたむろっていますよ。アブルはされるがまま。ごろんと横になって倒れていますよ。横向きに……べちゃー、て感じだからまだいいけどあれに肘を立てて頭を支えていたらもうおっさん……やっぱり!9歳(40歳)はおっさんだよ。
そんなおっさん――アブルの背中とかをわしゃわしゃしているのが意外なハルディアス。なんか顔を緩ませないようにへの字だけど目がランランとしているのは隠せていませんよ。そしてケヤンはアブルが怖いのか躊躇っている。何度も私に聞かれてもねー?それだけ寛いでいるアブルにわしゃわしゃしているハルディアスを見て、なぜ躊躇う必要があるのだろうか。大丈夫なのに。
私が頷いたり声をかけたりするけど、なんとか頑張って毛が触れた!てところですぐ引っ込めちゃってさ。それの繰り返しはさすがにこっちが心配になるよ。いっそハルディアスに押さえてもらえばいいんじゃないの?これってケヤンの前で本来の大きさに戻ったら卒倒でもするんじゃない?
「えー、始めるよー?」
「わ~っ!?」
あ。ケヤンが驚いて壁に激突した。さすがにその音に驚いてノルアとアブルが振り向いて確認しているよ。さすがに気を失うほど強くはぶつけていないみたいだけど。もう涙目で溢れそう。それを心配するのはジジル。いいね、ジジルってば優しくて可愛いよ!
そして今日の個別授業としてきたのは……あ!ディズロ魔法師だ。相変わらず爽やかなお兄さんに見えますよ。お母様の配色に似ているから金髪碧眼を候補に挙げていたと思います。
アブルとノルアに戯れる4人にちょっと苦笑いなディズロ魔法師に私も思わず苦笑い。講師が来る前には、とは思っていたけどまったく鐘が鳴っていたことにも気づかなかったからね。ちょっとやってしまった感じだよ。私も集中していたみたい。
さすがにディズロ魔法師の登場にみんなが慌てて席に着く。席と言ってもソファーなんだけどね。個室になると少しだけ贅沢が出来るのです。ぶっちゃけ対面する2つのソファーとテーブルだけなんだけど。ここまで簡素になるのかと思うと逆に凄い。
「えーと、ごめんね?この動物たちは護衛って聞いてるから下ろしてくれる?」
「すみません。ノルア、アブル、下りて」
たたっ!とノルアが退いて……駄目だ。やっぱりアブルがおっさんに見えてしまう。それとも私がおかしいのか。前から思っていたが、そうなんだろうね。誰か共感してくれる仲間を集めた方がいいかもしれない。
声をかけたらよっ、こらーしょ。とでも言うように座ってふんん、つぉあー……て妙に最初だけ気合いをいれたけど歩けるように四つん這いになったら速攻で鼻息から空気を出しきってのしのし。しかもそののしのしがまた、ゆっくりだからこう……おっさんて思ってしまう。
そんなアブルをテーブルからゆっくりマイペースに、下りて姿が見えなくなるまで見届けて――ディズロ魔法師が眉間を揉む。何か変なものでも見てしまったかのような対応に思わず訪ねてしまった。でも何でもないと言われるとこう……気になるんですがっ。
「えーと、午後だから雑学の授業だね……エリエリーチェ若魔法師は一年通しで後は二季節だから、今回はこれを使いたいと思います!」
ででん!
そんな効果音をつけるように背中に右手を回して取り出したのは……指が6本の手。私にはそう、見える。しかも木製でどことなく木の独特の表面が見えたり見えていなかったり………………………………え、まさかこれを使うの?
ぶっちゃけなんでピンと指先が伸びていないのだろうか、と突っ込みを入れたい。本物――とまでにはいかない妙にリアルを帯びている曲線がまたなんとも。しかも間接まで表しているのかと聞きたくなるくらいこう、手に見えるんだよね。
「これは、魔素六つの種類を見つける魔法具。今からこれを持って魔法棟内にある魔素を調べたいと思います!」
「調べるんですか?」
「そう。どういう物にどんな魔素が含まれているのかを自分で調べて覚えてもらおうと思ってね。今から三組に別れて調べるよ」
あー、なんかオリエンテーリングみたいな事をするのかな?探すだけだけど。
ディズロ魔法師の説明を聞く限りこの魔法具『調べ手』に魔力操作で魔力を送りながら自分と同じ属性の魔素が宿るものを探るんだとか。
なぜこんな事をするのかと言うと、魔素を集める時の影響を把握できるから。みんなが何気なく魔素を集めているけど、魔素が濃い所で集めればそれだけ多く集まるのだと知っているのだから魔素と魔力が釣り合わない状況を知らずに魔法を使って失敗させないためにも、魔素を含む物を把握しておく必要があるんだとか。
ただ詠唱を短くすればいい、と言うわけではないからね。切れる所も一ヶ所しかないし。森の中で【風】の魔法を放とうとして実はその森の中にある○○の木には大量に【風】の魔素が多く含まれていて気づかずに魔法を放ったら予想外の規模で魔法が放たれた、とか。見習いや下級魔法師でたまにあるらしい。
だから今こうして『調べ手』で物を把握しておくのはいいんだとか。本での知識で覚えるのも別にいいんだけど、ディズロ魔法師としては実際に見て確かめた方が覚えるから、今日はそれを実行する事にしたんだそうだ。
因みに三組を一人で引率するのは難しい、と言うことで助っ人を呼んだそうです。もうすぐ来るからぱぱっと決めちゃおう!と言われたので決めてしまう。うん。わかっていたよ。こう別れるよね、て。
私とポメア。ジジルとエリー。ハルディアスとケヤン。ぱぱっとすぎて誰も何も言わない。これでいいですか、と問えば微妙な返事が返ってくる。どうしろと言うのかね?
ポメアが離れるわけがないと、わかっておりましたよ。エリーたちも自ら男女で別れるとも思わなかった。ハルディアスだってそうだよね。女の子と受けるより同じ男の子と受けた方が気楽だよね。
早く決まったので早速『調べ手』の練習をすることになった。今回は維持をする事が目的らしいので……ポメアが私を優先するから私がやることにしよう。因みに一人が『調べ手』を扱っている時のもう一人は書き留め役です。あと、サポートだそうです。どんなサポートをすると言うのでしょうね?
そして私はどれくらいの力で魔力操作をすればいいのでしょうか……壊れない前提で魔力を流していくけど……教えて、ディズロ魔法師。
「少しでいいんだよ!?お願いだから壊さないでね!?」
「っ!?あ」
ばきっ――て…………………………………………はっはっはっー……やっばあい。壊しちゃった。ふ、不意打ちに声をかけるから、だよっ。ノルア、頬袋を膨らまさないで。騒ぎになるから。
そして誰かが絶叫しているんだけど――ああ、うん。請求はお父様へ押し付けてください。私もお願いにいくのでものの数秒で払ってくれると思いますよ、ラベンダーと予想をつけたトセトナ魔術師。うん、ごめんなさい。そして、お久しぶりですね。……見逃しては、くれないよねー?はあ……




