結ぶ契約を強く
修正いたしました。28.12.30
お父様に抱えられてゆっくり来ました。やって来ましたよお父様の個室。移動は堂々と歩いてきましたよ~。途中までビーランヴァ様が送ってくれたので、騎士棟の道中は何も問題がなく別れましたとさ。
その間にギルツェルさんがやって来て後の始末は自分でやっておく、と言って報告書を頼まれていたお父様。笑顔でンゼットォラ様に押し付ける言葉を放っていたがきっとそうなるね。
苦笑いを浮かべながら了承したギルツェルさんはビーランヴァ様と別れて――エモール様が残ったよ。アブルはまだ脇の下にいるんだけど……あれは部屋につくまであのままなのかな?まあ抱え直す?のも躊躇われるか。ベベリアだし。さっき威嚇されたのによく近づけるものだよ。
それを見たお父様がだいたいは伝わっていたからね。ちょっと楽しそうにエモール様を一瞥して歩きながら事情を確認していった。意外にも人とあまりすれ違わない。遠巻きには、いるんだけど。
そのまま堂々と部屋まで来ちゃったとさ、てね。そして遠慮なくテーブルの上に置かれるアブルにその手つきはまるで猫のように持つエモール様。熊の首根っこなんて掴めるんだね。初めて知ったよ。いや、首輪じゃないよね?うぐっ、みたいな声が聞こえたような……?
そんなエモール様は準備があるからと少し席を外すと言って出ていかれた。さてさて。どうしたものか。お父様が花を回りに撒き散らす勢いで上機嫌だ。
「お疲れではありませんか?」
「大丈夫。おっさんと何かしたところで発散になっただけだから」
それでいいのか。いいか。
「最初の時は中級魔法師はいませんでしたよね?何をしていたんですか?」
「ああ、あれは――研修みたいなものかな?あとは下調べ。冬に入る前に今度ね、遠征から帰ってきた見習い騎士と交えて合同練習をするんだよ。そのためにどちらかと言うと体を動かさない魔法師――下級魔法師にどんな事をやるのかほんの少しだけ研修させて本番当日は怪我のないように、てね」
「見習い騎士とやる合同練習なんてあるんですね」
「そりゃあ、私たちは国の組織に所属しているようなもんだからね。いくら仲の悪い魔法師と騎士が何時までも互いに牽制し合っていたら――内紛が、ね」
ありゃ。お父様が花を飛ばすのを止めて苦笑いにさせてしまった。失敗失敗……でも、手を取り合えなかったら小さな火種はできちゃうんだね。そうならないように合同練習は確かに必要かも。まさか、今日だとは思わなかったけど……
あの人たち、またこそこそと何か言っていたよね。何を言っていたんだろう。気になってきちゃったなー。アブルは見えなかったと思うけど脇に抱えていたから隠れていなかったし。まさか『野獣の調教師』がさらに誇張されたりしないよね?貴族って噂が好きだからな……
今度お母様にそれとなく私の情報を探るようにしてみよう。いっそ私がお茶会に参加を――お茶は好きだけど激甘クッキーは遠慮したいな。そういえばケーキを見ていない……見たよね?あれ、いつだっけ?え、いや、見てないかも……
他に甘いもの他に甘いもの……あれ?ミツミツぐらいしか思い付かない謎がっ!?いやちょっと待とう。もしかしたら疲れているのかも知れない。だから思い出せないのかも知れないっ。でも激甘クッキーのインパクトが被さってくる私の脳内!どんだけクッキーの印象が強いんだかっ!激甘だったらそうなるよ!!
「どうした?クフィー?」
「な、何も……そ、そう言えばアブルの事なんですけど!」
別に焦る必要は、ない。ないのになぜこんなに焦ってしまうのか。変な葛藤は止めて今日の終わらせておくべき問題を終わらせたいと思います。はい、切り替えて私!
相変わらず膝の上に乗せられながらもエモール様が来ないので色々とお話し。首輪の威力とかさ、オブディンの事とか。純魔石――もとい、精霊をどうしよう、とか。たまにアブルが唸る感じでぐるるると言っているけど見てもただ喉を鳴らしているだけのようなのでそのまま会話をする。お父様もちょっとは気にしていたようだけどね。でも何もアピールをしてこないのでこちらの話を進める事にしたんだと思う。
で、お父様はどう思いますか?私としては精霊を解放したい。アトラナの事もあったので出してあげた方が私は安心する。アトラナを引き合いには出さないけどお父様は私を尊重してくれると頷いてくれたし、いいよね?
ついでにちょっと確認。あのオブディンはお父様の?と聞けばまたまた苦笑い。今日のお父様はお疲れのようです。家族愛が干からびたかのようになかなか叫ばないよ?『帝王』ので疲れちゃったか。
「本当は、クフィーへ贈る物だったんだよ。あとはキーネも贈るつもりだったんだがね……どうしてアブルになったものか」
「ぐるあ」
「残念ながらアブルが鳴いても私にはわからないよ」
「アブルは――どうしますか?」
「ん?どう、とは?」
「護衛として私の傍にいさせていいのでしょうか?」
「クフィーが望むのなら。そして、アブルがそれを一生涯として受け入れるのなら、ね」
来るっと向きを変えられた。横に向いていたものを真っ直ぐに。アブルと対面にさせられる。わざわざのしのしと歩いたアブルは対面したらどすんと座って私を見ている。三白眼にある小さな瞳はまっすぐ私を映しているだろうね。白い部分があると分かりやすいなあ。でも小さいから色がまるっきりわからないのだけどね。
座り込んだアブルはまるでティディベアのように手を横にだらりと。足も自然に広げて座り込んでいる。その三白眼の目と長く出てしまった牙さえなければグレーのティディベアなんだけどね。可愛いからいいんだけど。
「私は護衛であってほしい。けど、アブルは他人から見て凶器。今回のように制限が利かないのであれば見過ごせない。もしアブルが私と一緒にいると言うのであれば、これまでよりさらに強い制限をかけて私の傍にいなくてはならないでしょう。アブルはそれでも、私の護衛としていてくれますか?」
もう少し、ビーランヴァ様に同席をしてもらえばよかった。こんな風に語りかけてアブルは返事を返すだけしかできない。アブルの声が聞こえない。でも――頷いてくれるのは、なぜだろうか。
「私とまた契約をすればもうあるべき場所には戻れない。人と動物とでは住む世界が違う。ベベリアを奇異にみる他人が増えるでしょう。ベベリアを」
「がうっ!」
何かと誹謗する人がいるかもしれない――…
まるで遮られた。私に言わせないようにたった一言、迫力のある声が目の前で放たれた。思わず凝視をしてアブルをみれば鼻息を荒くして私を見ている。もし長いしっぽがあれば猫のようにぺしぺしとテーブルを叩いていたのかもしれない。それだけ怒っています、と伝わってくる。
その様子にお父様は笑って私の頭を撫でていく。下から無理矢理に見上げれば満面な笑みだ。お父様が復活したよ。一本とられたな、て。そう言う勝負はしていなかったと思うんだけどね。
一応、アブルにいいのかと聞いてよかったら右手をあげてと言えば上がる右手。ついでにこてん、とひっくり返ってお腹まで見せてくれた。そしてぽんぽんと叩いてさ――それがおっさんぽいんだって。
ここまでされてしまったら本人の意思を尊重しようではないか。本当にいいのかとしつこく聞いても、最後には可愛らしく両耳を塞いでそっぽを向かれたら何も言えないよ。可愛いやつめ!
「……烙印契約、でいいようだな」
「そのようにしよう。さて、クフィー。エモール五進魔法師殿が来たから今度は細かく決めようか」
はーい。もう話はそんな方向に突き進んでいますので。後は詰めるだけ詰め込んでいいと思います。細かく決めましょうね!と言うことで早速、話し合いです。
主導権はエモール様が握って進めましょう。まず私の護衛に当たって守らなければならないことを書き出していく。
・契約主の言葉は絶対。
・攻撃は契約主の許可を得てから。緊急は除く。
・無闇に威嚇はしない。
・体の大きさは小さくが基本。
・攻撃とみなされないために、極力は動かない。
・契約主の目の届くところにいること。
・魔力、魔素の干渉をしないこと。
・烙印を消そうと思わない。
・契約主を守る事が第一条件。
となった。契約主はもちろん私。あまり内容が変わっていないようにも思えるが、これからする烙印契約は他と威力が違うのであまり細かく作らない方がいいと言われた。これでもう、曖昧な事は起きないらしい。
今度は首輪ではない。首輪では制御が曖昧な部分があるとわかったので……今度は時直に、アブルの体に烙印の紋様を刻む事になったから。
刻む事になったのは2つの条件がついた。まず、首輪のように一部分が壊れたら制限のストッパーが壊れてしまう可能性がある道具ではアブルを完璧に私の奴隷にできないから。
アブルは強い。魔力もだし力だって強い。故に普通のものでは言葉遊びができるほどに制限の強制する負荷がかからない事から消えない、壊れない方法を取ることにした。それに本人のアブルは強く了承の頷きを返してくる。これでもう、私の言葉で反抗はできない絶対服従の傘下に下る。
そしてもう1つ――最大の理由は私が完璧に契約主としてアブルを管理している、と言う事をしなくてはならないから。レーバレンス様、エモール様、ウィル様、ビーランヴァ様の目の前で抵抗して見せたアブルは紛れもなく奴隷から逸脱して違反をいる。彼らが誰にも言いふらさないとは限らない。漏れがないことも限らない。そして何より、やはりベベリアをペットとして買うのは異例。これから例外は認められないゆえに、しっかりと契約で結ばなくてはならないからだ。
なぜこれを最初にやらなかったのか……お父様は少し気楽に考えていたと言う。ベベリアとて動物だ。魔力操作の達人と言えど、人間とは違う。動物だ。軽んじていた――久しぶりに、見誤ったよと。
見誤ったことからこの後、すごい仕事が待っているんだって。すごい仕事とはどんな事なのかまったく想像できないが、ここで逃げ出されたら大変な事になるのは回りの人たちなので当たり障りない激励を送っておいた。いや、激励じゃなくて多少の活を送っておいた。また笑顔で本日のお父様の表情は忙しいね。
「では、契約の手順をお復習する。まず、クロムフィーア若魔法師がベベリアの体に触れ、詠唱を行う。すると魔素がクロムフィーア若魔法師と呼応して魔法陣が描かれ、詠唱が終わればその魔法陣が触れている箇所へ刻まれ完了だ」
「でね、クフィー。これを薦めなかった理由が見誤った事ととさらに――相手に苦痛を与えてしまう事なんだ。魔法陣を刻む、奴隷の烙印はそうそう消えるものではない。クフィーは耐えられるかい?アブル、君も痛みと共に消えない烙印を――奴隷の象徴を耐えられるかい?」
それは……怖い、ね。痛み――私の魔力が絡まった魔法陣が刻まれるので……その痛みはどれ程なのなのかわからない。お父様はそう、語る。私が魔力をうまく操らなければ多大な魔力が魔法陣に送られ、その威力によって痛みが……
「と言うのは冗談で、魔法陣が黒く痕が残るんだけど毛があるところは禿げるんだ。驚いた?」
「「……………………………………」」
今、私とアブルの心が1つになった。絶対って言葉ってないよね、とか思っていたけど今はあると思える。
冗談は他所でやれ!
と。
そんな状況でもなんでもなかったでしょう!?ちょっ、お父様が変な事を言うからエモール様の表情がレーバレンス様みたいに疲れが蓄積して顔の筋肉が死んじゃったじゃん!!見てよあの能面っ!まさに無表情だよ!生気が感じられないよっ。むしろ冷気がっ!?
向かいに座っていたのでよくわかる!よくこんな茶番に付き合ってくれたねっ。お父様は驚いた?と先程から浮き沈みが激しかった空気をまた一変させてにこにこと楽しそうっ。
あのね、本当になんで今こんな冗談を言ったの?誰もウケないから止めてほしい。かく言う私も顔の筋肉が固まった気がする。さっきはどんな表情をしていたかな。笑っていなかったと思うけど、私の表情も死んでしまったのかもしれない。頬がまったく動かないからね。なんだかアブルの顔も能面に見える怪奇がっ。今なら間違いなくティディベアになれると思う。三白眼で長めの牙が生えたティディベア……可愛いじゃないか。
色々と突っ込みたいところがあるけど、お父様とかなり温度差があるエモール様が先を進めたのでお父様はスルーの方向で話し合う。何度もアブルに最終確認をして私の奴隷(護衛)になることを改め、烙印契約に望む事になった。因みに烙印契約に痛みが伴うのかと聞けば多少、としか返ってこなかったよお父様。本当に禿げるらしいねお父様。そう言う情報の前に冗談はいりませんからね?今度やったらもう知らないよ。
なんて言ったら真剣な顔で誓いを立てて力一杯に抱き締められた。私の口からちょーっと少女としてはあるまじき声が出ちゃったけど、これは仕方ながないと思うのです。見逃して……
まあ結論から言って成功しました。私の右手に詠唱しなくてはならない文がつらつらと書かれている紙を持ち、左手は等身大に戻ったアブルの額に触れて烙印契約が行われましたよ。またベキバキと音が不穏だったよ……骨ってどうなっているんだろうか………………
ぶっちゃけ、魔素が詠唱者の魔力を使って魔法陣を形成するからキラキラしすぎて訳がわからなかったんだけどね!ぶわっと広がったら最後にアブルの額に集結だもんね。
そしてなぜ額にしたの、アブル。私はどちらかと言うと手の甲とかを想像していたんだけど?でも話が通じるわけがないので満足そうな顔で小さいサイズに戻るアブルを見つめ……るにはやっぱり不穏な音と雄叫びが恐ろしいのであえなく目を反らす。
そして……小さくなったおかげでそこまで強調されない禿げ。伸縮可能が恐ろしいっ。黒い痕が残ると教えられていたけど、グレーにそこまで酷い印象を与えないのがまた……一種の模様でしかないよ。
「これからもよろしくね、アブル」
「ぐるあ」
よし、これで私の護衛は完璧だ!




