迎えに行ってみた、ら
修正いたしました。28.12.29
ぶつぶつと言いながら去っていく大人たちを見送って、お父様が迎えに来るまで暇をもて余した私。あの驚愕の顔は『高額の宝石を娘に贈る親を見たことがない』だそうです。見てもいないのになぜ高額とわかるのだろうか。
そこも聞いてみたらレーバレンス様はあの一瞬で見切ったとか――どんだけいい目を持っているんだ!?ウィル様は知識の方で聞いていたからおおよその価格を知っていたらしい。因みにサイズはこれくらいと指で大きさを教えてだいたいの金額を聞いてみたら眉間を揉み出して白金貨で納まればいいな、と……
お金を習ったよ、私。硬貨を使わないから忘れがちだけど鉄貨=10。銅貨=100。大銅貨=500。銀貨=1000。大銀貨=5000。金貨=1万。大金貨=10万。白金貨=100万。水晶貨=1000万。これよりさらに上は後で習ったけど、銀から延べ棒になるらしい。重さで価格が決まっているのだとか。偽造防止に何かと何かを合わせたら~と聞いたよ。合わせるって、どういう意味なのかな?まあお金はまだまだ気にしなくてもいいかな。
存在するよ、と言うぐらいしかわからないので詳しくは知らない。それにそこまで大金と縁があるとは思えないんだよね。夏のとある日にアーガスト家へ白金貨が贈呈されたけど。実際はみていない。
そんな事よりオブディンの値段だよ。高額なやり取りをするのはわかっていた。宝石だもんね!でも白金貨は100万でしょ?かなり値打ちがあるとかあの夫人が言っていからまさか水晶貨まではいかない……よね?伯爵家の懐事情をこっそり見ておけばよかったな。てか!もしかして私が一番お金を使っているんじゃ……
2人が呆れるのがよくよくわかったよ。確かに家族が大好き!だからってなんと言う高額な物を娘にあげようとしているんだかっ!せがんだのは私だけど!そこまでセレブになりたくない。むしろせめて値段は公開しないで欲しかったかも……じゃあ聞くな、て話だけどね。私の性格は面倒だね。
まあそんな諸事情は聞かなかったことにして、微妙な時間(夜の3の鐘は鳴っていたらしい)なので魔法院には行けません。と言うことで私がお父様を迎えに行くことにしました!ビーランヴァ様を引き連れて!いいのか、十番隊隊長様。あ、アブルもね!ついでにエモール様も。
アブルは――ほら、護衛(奴隷)の要検討を申し立てられちゃったから。しかも陛下をお守りしている十進魔法師からの申請なので断れるわけがない。と、言うことでお父様を迎えに行く本当の理由はアブルの件での見直しでした。
またおかしな事にビーランヴァ様は私を肩に乗せてエモール様がアブルを強張った顔で脇に抱えています。なぜだかべろーんと体の力を抜いて運搬されるものだから……ベベリアを狩ったエモール様のイメージが自然と出来上がってしまった。これでライフルをつけていたらバッチリなんだけどね。
「っ……」
「ぐぅ……」
「どうしたの?アブル」
隣を歩いていたエモール様の脇の下でアブルが……鼻を押さえているね。つまり、ビーランヴァ様も……いや、モーションを出していないのでたぶん我慢をしている。代わりにアブルが鳴いたセリフを通して心情を教えてくれた。
臭 い ―― ら し い 。
まんまだわ……………………………………………………と言うかその向かう先にお父様がいるんですけど?お父様が臭いとかちょっと遠慮してほしい。さすがに加齢臭に嫌悪する娘の心境を味わいたくはないよ。言っておくが、前世の父は清潔な匂いだった。お父様よ、臭いのはさすがい我慢しないかもしれない。
さあ、それよりパパ臭いは駄目だ。間違っても言ってしまったらレーバレンス様の次はお父様の混沌を見るはめになる。どちらが一番の辛さを味わってしまうのだろうか……?
無言で動物虐待を繰り広げるレーバレンス様。おおよそ叫び続けて他者を巻き込み広範囲であろう何かの被害を産み出すお父様か……。それか魂が抜けて使い物にならなくなるのかな?いや、それでも広範囲に渡って被害が出るね。お父様一人の穴は誰が埋めるのだと重臣たちの胃を痛めていくかもしれない。どのみち広範囲だと予想が立てられる。
まず臭いと言っちゃ駄目だよ、私。とりあえず最初は臭うね、と相手に教えてあげてからだ。早まってはいけない。まずは落ち着くんだよ。
止まらない移動にだんだんと私もわずかながら匂ってきた。なんと言うのかな……これは私一人で胸に秘めているより説明して共感してほしいんだけど……
「水で薄まったと見せかけてたまにぐわっと押し寄せてくる腐敗臭………に、隠された花粉の匂い?」
「これはリーリアだな」
ああ、ユリってなかなか花粉の匂いがすごいよね。でもユリって秋に咲くっけ?確か種類にもよるけど4月~7、8月にかけて咲く花だったと思うんだけど……異世界だからわかりません。異世界って、魔法の言葉だよね。それですべて納得できる気がする。
でもなーんでまたこんなところに花の香りが漂って来るのかな?ここって騎士棟であってさすがに花壇とか咲いていないと思うんだけど。しかも向かう場所って『帝王』もいる場所と言うじゃない?それって今朝に連れてこられた場所だよね?花はなかったと思う。別の意味の花はいたけどね。テルマリア様はもういません。
たまに鼻を掠める程度になっているので……ま、まあそんなに気持ち悪く……気持ち悪いわ!定期的にくる刺激臭に噎せ返るわ!でもお父様を捕まえなくてはいけないのでっ。なんで待たせてくれないのだろうか!?泣くよ!?
後で思い返しが多いけどさ、匂いがするんだから屋外でやりなよ!確かどこかにあったでしょう!?なんで屋内は充満するって思わなかったかなっ。アブルがなにか言ってもビーランヴァ様が無言だよっ。そして無常にも無言のまま出入り口にたどり着く。
「………………何があったのか聞いた方がいいのでしょうか?」
「男はみんなこんなものだ。ンゼットォラ魔法師のところに行こう。あそこなら結界が張ってあるはずだ」
そうか。それなら仕方がないかもしれない。女の私はちょっと遠くを見つめておくとしよう。あ、あんな所にンゼットォラ様が周辺をキラキラさせて立っているよ。なんかずっと中央の2人に喋りかけているね。聞こえない、聞こえない。キラキラしているけど見えない、見えない。近づかなきゃいけないけど。わからない、わからない。
ンゼットォラ様は【風】を使う人だから匂いをどこかに流しているのかな?この騎士棟の全体に流していたら訓練している人にはたまったもんじゃないね。ああ、だから遠征してだいぶ人が減っている今にこんな事をやっているのかな?
ちらりと中央を見れば濡れ鼠の『帝王』。どういうわけか、上半身裸でお父様と戦っている。そんなお父様もなぜかローブを手にばっさばさしながら『帝王』の剣を捌いていた。ひらひらの布で性格な位置をぼかしているのかな?はっきりといって闘牛士に見えるんだけどね。お父様のローブの下がピシッとしたロングコート風なのは今初めて知ったよ。いつもローブを着ているし……抱っこされて近くで見るけど全体的に暗くて判断が出来なかったんだよね。いや、でもたまに白?のスカーフがローブの下から見えるんだけど………わかんないなあ。
床はびちょびちょで。突き立てたせいと魔法を打ち込んだせいか何かで地面はぼこぼこ。真剣に試合をしているようだけど『帝王』がたまに魔法剣を使って卵が飛んでくる。そんでもって微妙に、暑い。
「おー!これはこれはクロムフィーア嬢じゃないか?ああ、でもここは城だから威厳を保って若魔法師とかか?んじゃあやり直しだなあ!おー、これはこれはクロムフィーア若魔法師殿。奇遇だな。なんてな!一度くらいこうびしっ!と、決めとかねーと俺の威厳ってものがなくなるから困っちまうぜ!あ!なんだよその顔。親父殿と全然似てねーな!よかったじゃねーか!見てみろよあっちの試合なんか魔法師と剣士の戦いなんだぜ?こんな戦いを見れるなんてグレストフと因縁のエルダーグしかできないよな!だって魔法師の剣捌きはたしなみ程度で本場の剣士に勝てるわけがないもんな!けどグレストフの魔法は誰よりも早いし精度が高い魔法を放てるから剣なんていらない!エルダーグさえも翻弄させるとかこれを楽しまずに何を楽しめばいいんだろうな!」
「すみません、エモール様。ンゼットォラ様は何を言っていました?」
「ンゼットォラ語だ。無視しても大丈夫な代物なので耳が辛くなるかもしれないが聞かないように」
ンゼットォラ様の評価はエモール様でも辛口でした。ンゼットォラ語って絶対に一人かっこ本人かっこ閉じ、しかわからないヤツだよ。対話できる人って誰なんだろう……お父様のはお話し――とは言わないよね。黙らせているのだから。
ちらりと見てみると……一人で何人分の応援をしているの、というくらい凄い。応援って言っちゃったけど内容はベラベラと喋るからいまいち聞き取れないけどね。早口言葉でも言っているの?てかうるさい……
そんなわけで黙ってもらいたい私はお父様から直々に教えてもらった止め方を実演したいと思います。だから触れないといけないんだけど……届かない。手だけ伸ばすのもなんだか変な感じが――…
そんな時に気づいてくれるのがビーランヴァ様。まあ手なんかを伸ばしていたら誰だって気づくけどね。どうした、と言われたのでンゼットォラ様に近づきたいと言う。短くわかったと言えばゆっくりと近づいていく。
なぜか横ではなく背後から近づくのか気になる。音もなくすっ――とね。いやー騎士なのに凄い。鎧のがちゃがちゃまで音がなくなる。どんな技術なのだろうか。
と、まあ本当に音もなく近づいたのでそっと手を伸ばして肩に触る。その触る瞬間で一気に手のひらへ魔力を集めて――
「っ――ああ、わかった。黙っているから、止めてくれ……」
「そうですか――あ、でもどうしてこうなったか説明をしてもらっても構いませんか?簡潔に短くお願いします」
「……話す、から、本当に止めてくれっ」
しかたないなあ。黙らないからこうして止めたんじゃないか。お父様だっていいよ、と言ったからやったのに。しかも今日が初めて。これは成功と言っていいよね?
にこりと笑って手を離しつつ、魔力を元の循環に戻せば大袈裟のように肩を落とすンゼットォラ様。やっぱり魔力を当てられると疲れるんだね。これっていわゆる【重圧】を触れたところで行っているようなもんだよね。でも懲りずになんでまた騒ぐのか――これはどうかと思うんだ。
「エルダーグが臭いと駄々をこねたからグレストフが呼ばれて水をぶっかけたらそのまま試合になった」
「なるほど。でも続けなくてもいいですよね?いつまでやっていたのですか?」
「そんな事より私はいつの間にクロムフィーア若魔法師がその止め方を覚えたのかを知りたい。誰に教わった?」
「もちろん、お父様です」
「本っっっ当に!グレストフ一進魔法師はいらない事をっ!いいか、それは脅しだ!ンゼットォラ六進魔法師だけ扱うことを許される行為だ!悪用は許さんぞ!」
かっ!と睨み付けなくても……ちょっと驚いちゃったよ。てかンゼットォラ様はいいのか。なにげにエモール様も酷いね……
何気にここに集まった近衛騎士……あ。ギルツェルさんを発見。あとなぜか中級魔法師の…………………………誰だったかな。初めの印象がちょっと悪くて思い出せないや。魔法師の先輩として注意してくれた人なんだけど……誰だったかな。とりあえず人を指差したらこの状況だとやばいよ?
他にも数人の魔法師がこちらを見ていた。まったく誰かわからないが、相手は私の事を知っているようだね。こそこそっと「あいつは――」て。面白い具合にそこだけが聞き取れるんだから。
聞き取ったのかは知らないけど、ビーランヴァ様が私を肩から腕へ移動させたからあまりいい言葉じゃないかも。すっぽりと隠れる私はそれだけでなくンゼットォラ様を盾にするように立ち位置と向きまで変えている。
そして向こうの中級魔法師の方がざわつき始めたら――誰かが手を叩いて静かにさせる、と。何か聞き覚えのあるようなないような……まあいいか。そんな事より私はビーランヴァ様によって目隠しをされたことの方が気になっていますので。
「あの、見えないのですが」
「淑女が男の裸を見るのはどうかと思ってな」
「確かにそうだな。しかし出直すにも……クロムフィーア若魔法師だから止められると思って連れてきたのだが」
「でしたら私とお話しができる時間がやって来たとでも言えば飛んできますよ」
「ンゼットォラ魔法師、出番だ」
「あいよ」
暗闇だと何をやっているのか、まったく想像ができません。あえて言うなら片手で覆えるビーランヴァ様の手が大きいですね、と言いましょうか。レーバレンス様も大きいよね。大人の男性の手はみんな大きいのか。お父様も片手で覆えるもんね。
しかもこれ、皮か何かのようですよ。ツルッとしているようで滑り止めのついたざらっと感がある。しかも面白いことに手の平と甲で材質が違うみたい。ちょうど布の区切りがあって縫い合わせもここにある。
でもビーランヴァ様って獣人でしょう?なんで手まで覆っているのかな?熊なら素手の方がいいよね?てか肉球ってありますか!?ウォガー大隊長はなかったんだけど、ビーランヴァ様はどんな感じ!?見たい――ものすごく見たい!ふんぬー!
「何をしているんだ?さすがに取らせんぞ」
「いえ、ビーランヴァ様の手のひらには肉球がついているのかな、と疑問が浮上しました」
「……ついていない。それより、君の父君が喜びすぎて『帝王』を追い詰め始めたのだが――どうすればいい?」
それは……すぐに決着がつくと思うので待てばいいと思う。どことなく私の名前があっちで響き渡ったような気がするのは間違いだよね。ここ、結界?の中だし。
「もう少し待てば終わりますよ、きっと。そういえばなぜリーリアの匂いが混じっていたのでしょうか?」
「あー、それはあれだ。俺が花の匂いをここに持ってくれば少しは緩和されるかと、な。匂いだけ持ってきたがとんだ失敗だった。リーリアの匂いを混ぜたら悪臭なんて消え失せるかと思ったら混じって――……すまん。そういうわけだ」
「娘もンゼットォラ魔法師の扱いを会得したか。先が怖いな」
「いやー!お待たせクフィー!さあお父様と何をお話しする?今度の休日はどうするか予定を立てるのもいいね!よし、さっそく部屋に戻ろうか!さあビーランヴァ殿、手をどけてクフィーをこちらへ」
ほらね。『帝王』がどうなったかは知らないけど、すごく爽やかに意気揚々ときたお父様が終わらせてこっちにきた。そして我が道を行く。
そんなお父様に対してか他に思い付かないのだけど誰かがため息を吐いた音が聞こえた。今日はため息が多い日かな?
そして『帝王』が怒鳴り散らす。うん。今日も濃い一日だなあ。来年は、ゆっくりしたいなー。いや、ゆっくりするんだ。ゆっくりするんだ!――これでゆっくりフラグは立つかな?




