会議を始めます
修正いたしました。28.12.29
四角いテーブルに私がはしっこで隣にレーバレンス様とエモール様。向かいはウィル様とビーランヴァ様+抱っこちゃんアブル。今さらだが、全身鎧が小さな小熊を抱っこする図はまさに奇妙だよね。
レーバレンス様を筆頭にことの顛末を話す。最初は私がこれを見つけ出し(いつの間に伝わっていたのだろうか?)、魔力操作で精霊らしき存在が中に入っている事を確認。その時点では何も出来なかったので結界保護を施して保管していたこと。
次に私がアブルをもってやって来て、アブルを観察していたら箱を開けて飲み込んでしまったこと。結界の威力がある【闇】を使用していたし、ベベリアが開けられるとは思っていなかったので対応に遅れたことをレーバレンス様自ら晒し、対処が遅れたゆえに今回の事が起こってしまった非を詫びた。
すぐに吐き出させようとしたが出てこず、動物と対話ができるビーランヴァ様に駆け込んでアブルの意思を聞こうとしたところビーランヴァ様が同席すると話せないと拒否。内容が精霊の話を含むものだったために、急いで陛下やお父様に取り次いで魔術契約を結ぶことで同席してもらうことに落ち着いたらしい。そして今に至る、と。書き留めているペンの走る音が尋常じゃない速さなんだけど。話し半分がうやむやです。すみません。私もあそこにいたから知っているし、たぶん大丈夫。
レーバレンス様の説明を聞いたエモール様の質問はちょっとだけレーバレンス様への非難をまぜつつ、どうしてアブルが結界魔法を叩いただけで解けたのか。その石は本当に精霊がいたのか。奴隷としての誓約は聞いていなかったのか。この3点の疑問を述べた。
まず『本当に精霊がいたのか』。これはレーバレンス様はきちんと確かめたか、と言えば……いない。だがしかし、お父様が見つけて魔力操作をして確認している事から仮定で存在するとして納得してもらった。王筆頭魔法師だから少しは納得したらしい。
次に『奴隷としての誓約』。これは私が……まあ、悪いのです。でも気になることが。誓約にも人、物を無闇に攻撃をしないって事になっていたはずなんだけど……まず、あれは攻撃と言えるのかがわからない。それとなぜ稼働しなかったのかと聞かれたので、私も呆然と見ていたがために止められなかったと伝えた。
エモール様はこれを聞いてベベリアを奴隷とするならば再検討を申し立てる、とはっきりと言われてしまった。飼い主として私のミスなので何も言えない。後で相談しなきゃね。
最後に『どうしてアブルが結界魔法を叩いただけで解けたのか』。確かに謎である。普通、結界を破るさいにはそれを上回る攻撃魔法をぶつけて物理的に壊すか、結界を張った魔法師に解いてもらうか。魔力操作で魔力に干渉し、結界を乱してなくさせるか。アブルが当てはまるとしたら……最後の魔力操作による結界の乱れ、かな?でもこれ、かなりの魔力を使うらしく口頭だけの説明であやふやなんだよね。
「ぐるあ」
「主が攻撃と認識していないから首輪は絞まらないし、結界は干渉した――と言っている」
「認識か……認識でそこまで左右されるとは。それにベベリアはそんなことも出来るのか?」
「ぐぅ」
「容易い。俺は精霊に愛され愛し続ける者。魔法関係において魔法は放てないが身体強化として魔力を操ることは出来る、と言っている」
「結界の事はわかりりましたが、首輪の事は今一つです。なぜそのように認識で曖昧になっているのでしょうか?」
「大方、まだ話し合っていないのだろう。動物用は誓約の内容が薄いから人間用にしたが動物に対し人間用にしたことで誓約の制限に少し外れていたのかもしれないな。要検討だ」
どんどん決まっていく……それがいいんだろうけど疎外感~。私はどこかに行っては駄目なのだろうか。アブルの飼い主としていなきゃ駄目なんだろうなー……
次に『石に秘められし謎』のこと。これは渋々ながらアブルが精霊だと肯定した。通訳のビーランヴァ様の感情が乗っていないのがまた面白い。言葉はそのまま伝えているらしいんだけど、渋る声まで伝えなくてもいい気がする。
アブルが言うにはオブディンの中に入っていた精霊は出してくれと叫んでいたらしい。なので、精霊に近い自分が飲み込むことによって精霊に安心を与えていたらしい。
なんで安心させられるのかと言うと、体内に刻まれている魔法陣は精霊が書いたもの。アブルもまた精霊の加護を受け継いでいるので少しは精霊の名残が得られると思って飲み込んだらしい。レーバレンス様にも言ったが石は消化していない、と言っている。因みに当の精霊は少し落ち着きを取り戻して眠ったらしい。
「精霊はなぜ助けを求めたのでしょう?」
私も会話に混ぜてほしい。聞くだけだと眠くなりそうです。
「ぐるあう。ぐあ」
「家を変えられて恐かったそうだ。純魔石は精霊が初めから住んでいる。言わばその純魔石こそ精霊の家だ。その家が人間の手によって削られ、小さくなり、魔素を取り込む穴を塞がれ閉じ込められたと言う」
「……純魔石を宝石と間違えて研磨したが精霊に取っては家を改造され出られなくなった、と。精霊からしてみれば目の前で家が削られていくならば恐怖だろう」
「あの、宝石と魔石は間違いやすいのですか?」
「……普通は間違わない。宝石と魔石の輝きはまるで違う。どちらかと言えば魔石の方が鈍い光を放つ。ぱっと見て判断が付けられないかもしれないが、よく見れば気づけるほどだ」
――私にはわからないんだろうな。ごてごての石。その輝きは鈍く、白が光りの反射している場所を教えるだけだ。リディお姉様に一度アクセサリーを見せてもらったけど……私がわかったのってシルバーアクセサリーなんだろうなーぐらいしか。うーん。着飾るときはポメアに任せっきりになるね。
まあそれは置いておいて、採掘した人は純魔石との見分けをつけられない人……?純魔石は貴重な石だから宝石にするには勿体ないんじゃないかな。でもアブルが飲み込んだ純魔石は宝石として売られていた。魔法の類いを知らない生粋の職人さんかな?
で、だ。そのオブディン……純魔石を飲み込んだ経緯もわかったし、明確になった。今度は体内に刻まれている魔法陣について聞くことに。私はもう聞いてしまったので微妙に流しつつウィル様を見る。
さらさら~ではなくてざっ!ざりざりざり!かっかっかっかっ!と書き留めていくんだけど……やっぱり尋常じゃない手の動きなんだよね。ほとんどセリフと一緒に書いているのか喋り終わったらペンもだいたい一緒に止まる。ウィル様の手はどうなっているんだろうか。聞き取りだから耳?意識する脳?どれも凄すぎるから何を驚愕すればいいんだか。
「私も初めて聞くことだ。資料としてまとめてもいいだろうか?」
「ぐぅぅぅぅるあ」
「構わない、と言いたいところだが今さらそれを言ったところでベベリアの対応は何一つ変わらないだろう。消えた伝承を再び伝えるには些か問題がある。胸の内に秘めていた方が懸命だろう」
「当人が言うのだから仕方がないか……それで?魔法師としては純魔石の研究をしたいんだが?」
「がう!ぐるぅあっ」
「アブル。怪我を負わせたら駄目ですからね」
「ぐぅるるるるるる……」
「……貴様!精霊が入っていると言うのに研究をするとはどういう了見だ!まず出してあげることを先にしろ。出なければこの純魔石は戻さない。主よ、この者は精霊を軽薄する。だから今、精霊は数少なくなってしまったのだ。時を刻むにつれ精霊が減り仲間が悲しみ、この地を離れていったと聞いている……」
棒読みだ。恐ろしいほど棒読みだ。今のビーランヴァ様の顔を見てみたいと言う好奇心が生み出される……
「……出せば純魔石として使えないだろう?」
エモール様はなに言ってんだ、こいつ。みたいに言った。するとウィル様の手がピタリと止まって顔をあげる。そして勢いよく右――誰もいない空間に飛んだ。
「くっ……」
呻く声は――誰が放った……?
とん、と。かしゃん、と。遅れてくる音を目印にゆっくりと右を向けば眼鏡をつけていないウィル様がしかめっ面で立っている。いったい何が起きた?ウィル様の席をみるとアブルがテーブルの上に仁王立ちしている。
ビーランヴァ様、は?なぜか姿が見えない。ウィル様と同じように、どこかに飛ばされた?ゆるりと見渡しても、あの大きな全身鎧の姿は見当たらない。――なんだか変な気分だがとりあえずウィル様に眼鏡でも届けようかな。
「アブル、動くな」
「ぐぅっがあ!!」
「力も使うな。そこから一歩も動くな」
命令口調で言えば体を動かそうともがくが、首輪の効果が現したようだ。グッと絞まって一瞬でも頸動脈が締まったのかな。かっ!と息が吐き出していた。……ちょっと怖くなったが死んでいない。殺していない――大丈、夫。
こつりと床を鳴らして椅子から滑り落ちれば危うくテーブルにごっつんするところだった。そんなギャグはいらないよ!誰も呼び止めないのでそのままウィル様の眼鏡を取りに行く。と言うか、ウィル様はなぜ眼鏡が飛ぶくらい部屋の中央に飛んで行ったのかな?
とりあえず近くに落ちていたから拾ってと、あ、皹が入っているよっ!?大丈夫かな?てかウィル様はスペアを持ち歩いていないの?もしもの時のために持っておけばいいのに……
「ウィル様、予備はないのですか?」
「考えてはいるんですがね。予備があるといつでも壊れていいように思ってしまうので悩んでいるんですよ」
ああ、予備があるから大丈夫、と思っちゃって壊れたから次~でまた次の予備を用意しておけば大丈夫!とか思っていたら予備の準備が間に合わないか、けっこうお金をかけていた事実に気づくかなんだよね。そりゃあ悩む。
でもウィル様って眼鏡がないとまったく見えない人なんだから予備は持っておいた方がいいと思うんだけどな。差し出された手に眼鏡をおいて手探りで正面に向ければさっと掛ける。そして皹の部分を見て絶句していた。
そんなウィル様を置いてアブルをみる。まだもがいていたのか口から涎が……どれだけ怒っているのかわからないけど、三白眼は白目に近いので絵面的にやめてほしい。あ、テーブルの下にビーランヴァ様を発見。なんかぐったりしてる。
「アブル、落ち着きなさい。私には精霊を取り除いたらどうなるか知りません。アブルがわざわざ飲み込んだ理由も今しがた聞いたのです。アブルが知っていて、私たちが知らない場合がある。アブルなら話してからでも遅くはないでしょう?」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅ……」
ごめんアブル、何を言っているのかわからない。けど、動くのをやめて大人しく座り込んだ。どすんと座ってなんだかため息まで。そりゃ絞められていたからため息が出るよね。
ビーランヴァ様に触れて鎧を揺すれば頭を軽くふって起き上がってくれた。本当に何があったのだろうか。お礼まで言われたんだけど。アブル、何をやったの?と言っても何を言っているのかわからないけど。なんだかそっぽを向いて短く唸りだしちゃったよ。
「魔力を放った――【重圧】を一気に相手へ押し付けるようにしたおかげで首が絞まったがな」
通訳、お疲れさまです。どんなときでも棒読みが素敵ですよ。ブレない。
そういえば【重圧】の応用みたいなもので雑学編の最後にそんな事がちょろっと書いてあったような気がする。まず【重圧】ができなきゃお話しにならないからいいかと思って放っておいたけど。そうか、アブルはそれが出来るのか。
「私の方には何もありませんでしたけど?」
「私もだな」
………………あれ?
「エモール様は?」
「……下にいる」
ちょうど覗けるね。ついでだから見てみると倒れているエモール様を発見。うぅ、て唸っている。さすがに外傷はないけど重症な大人は助け起こせないかな。
なんでまた冷静でいられるのかはわからないけど、とりあえず私は席に戻って掛け声を喉に詰まらせながら座った。レーバレンス様から取り乱さないな、と聞かれたけど……たぶん何が起こったのかあまりわかっていなかったし、みんな無事だし。それほど酷そうな感じじゃないから、かな?これで血とか出ていたら魔力暴走かなにかを引き起こしていたかも。
そんなわけでエモール様はまだ呻いているけどアブルからまた事情聴取。純魔石から精霊を出せばどうなるの、と聞けば当然、ただの空洞がある石になるらしい。私は知らなかったけど知っていた魔法師3人は――それでは純魔石として価値がなくなるな、と思っていたらしい。そこで口にしてしまったのがエモール様。
魔法師側からの発言としてあの言い方の意味は使えなくなるよね?と言う確認をしている意味だった。しかし、ベベリアのアブルから聞けば精霊を出したら使えなくなるだろう?と汲み取ってしまい、精霊を愛している者にとって精霊をただの道具としか思っていないなのか!と勢いで魔力を放ったのだとか。
これは双方の食い違いが悪い。どちらも相手を知らなすぎて起こった結果だと思う。もう遅いけど。それでもちょっと納得していないアブルは不貞腐れている。もう鼻息を荒く抗議されても唸っているようにしか聞こえないからちょっと怖い。けど、可愛い。だんだん愛嬌が出てきたよ、この子。
アブルの言い分は純魔石として使うと精霊が溜め込んでいた魔素がなくなり、渇れて住めなくなる。最悪の場合はそのまま消失してしまう可能性があるので、出したいと望んでいるのだから出してほしい、とのこと。
魔法師の言い分は今では貴重な純魔石を無くすのは惜しい。使い続けるとなくなるのはわかっていたが、精霊が中にいるとわかる事が今回はっきりとしているので出来たら研究したい。そのまま住んでもらいたいと言う。
ぶっちゃけまたもや私は蚊帳の外です。子どもが無邪気に茶々を入れられるタイミングではないこの場面で突撃は避けるべきだよね。個人的には出してあげたいんだよな~。どうしたものか。うーん、うーん……エモール様はいつまで唸りあげているのだろうか。はっ!?静まり返った今がチャンスだ!
「そういえば、どうやって出すんですか?」
「……私ではわからない」
「アブル、どうやって出すのですか?」
「ぐるあ」
「方法を聞いて止められても困る。だから取り出す方に確定するまで話さない」
「そう言われると私たち側には不利益が起こってしまう、と言っているようなものですよ。――どうしますか、レーバレンス魔術師殿」
「私一人では決められない。精霊を助けるにも、私たちは精霊に関する情報が圧倒的に少ないのだから。何が正しく、なにが誤りなのかわからない状態で判断は無理だ」
「ぐぅわう」
「……精霊を救え。それこそあるべき共存だ」
話が進みそうにないね。説明できないかあ。まぐとりに聞いてみたいところだけど城には近づきたくないって言っていたから呼び掛けても無理なんだろうなぁ。そう言えばわんこ様もいたっけ。すっかり忘れてたわ。
すっかり忘れていたついでにもう一つ思い出したのだけど、あのオブディンはお父様が買ったんだよね?私のために買ってくれたんでは、なかったかな?お金だって賠償金の一部で払っているから宰相様に掛け合っているんだし?私じゃなくても所有権はお父様にあるのではなかろうか。
また静まり返ったので無邪気に突撃しよう!なに、子どもってここぞとばかりに自分をアピールして育つのだよ!
「アブル、お父様に相談しなくては決められないからまだ持っていてね?」
「は?」
「え?」
「がう」
「わかった」
今、初めてアブルの鳴き声と言ったセリフの短さが合わさった気がする。満足げに笑ったのはちょっと面白かったからです。そんな私をポカンと見ているのはウィル様とレーバレンス様。美形に見つめられたら穴が空きそう。………………やばいな。思考がだんだんとおばさん化が進んでいるような……
その2人からなぜ勝手に決めるんだ、と言われたのでオブディンは元々、私へのプレゼントとして買ったんですよ、と教えれば雷に打たれたような信じられないと驚愕に固まる2人。
精霊を見つけてしまったので私の物にならなくても、お父様が買ったのでお父様の物だと伝えたらみんな一気に力が抜けたらしい。
頭を抱えたレーバレンス様に眼鏡をかけ直して長いため息を吐くウィル様。今日、一番の疲れが今出た、と誰かが呟いて会議?は保留でお開きになった。




