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理由があるらしい暴挙

修正いたしました。28.12.29

 

 混沌の渦はどこまでも広がり、深くなる。


 机だろう板には黒い塊が。たまにピクリと動くのは生き物だからだ。そして、この混沌とした空気の元凶である。


 私は後ろも左右も向けずに体が硬直して目も開けられない。ただただ――呼吸さえも悟られないようにこの身を小さくして時が過ぎるのを待った。願わくば……清浄なる空気の還元を。


 この混沌を脱出するためにはどうしたらいいのだろうか?答えを探すために、私は何があっても反応できるように混沌から意識を外さず振り返る。


 単純に、どうしてこうなったかを逆戻りする。そう、それだけ。それだけなのだが意識を別に向けながら別の事を考えるのは苦手だ。だが、やらねば私の命が危うい。


 数分を振り返るだけ……そう、たった数分。


 昼食を食べ終わって、少ししたら――この混沌が出来上がった。誰が悪いかと言えば私なのだろう。もう、何も言うまい。


 昼食を食べ終えた私はその時、ソファーの後ろにあるテーブルの上にアブルを置いていた。ちゃんと座ってむしゃむしゃとパンを食べていた。本当はソファーの上だったのだが、ハルディアスが止めろと言ったからだ。因みに理由は毛が落ちるから、らしい。熊はそこまで抜けないと思う。ちくちくするし。熊の毛は剛毛だよ。


 違う。今はそんな事を考える時ではない。床も駄目だと言われたからテーブルの上に置いていたんだ。そう、それがいけなかったんだけど。ちゃんと私が注意すると頷いたから――すっかりと警戒をなくしていたのが悪かったんだろうと思う。


 ソファーの後ろにぴったりとくっついているテーブル。使い勝手は悪いけど、レーバレンス様的にはこれでいいらしい。なんでもこのテーブルはただの物置がわりに使っていると言うのだから。確かに魔法具なるものが2、3個ほど置いてあるから何も言えない。この部屋の主はレーバレンス様だ。他者が口出しをするのも躊躇われる。


 そんな時だ。視界の端に黒いものが見つかったからなんだろうな、と見ていた。それに気づいたレーバレンス様はあのオブディンだと言う。そう言えば闇の結界に保管したんだっけ、なんて考えていたのが悪かった。


 アブルが動いたのだ。


 のそのそと歩き出してみんな見ていたのも悪かった。まあ、レーバレンス様は結界を張っているから叩いても大丈夫だと思っていたんだよ。きっと。【闇】と【光】って結界の威力が他より高いし。だから、近づいてもアブルはぺしぺしやれるだけなのだ。


 そんな単純な考えも、すぐに消えたけどね。


 べしっ!と叩いたかと思うと黒色の四角が濃いグレーに変身した。それは購入した時の小箱の色。足でその小箱を挟んだら器用に爪で開け、中のオブディンを見つめるそのわずか5秒ぐらい。手際がよすぎた。そして、私たち3人が稼働したのはこの時。


 最悪の事態を予想してレーバレンス様が動くがアブルはマイペースにオブディンをくわえて――飲み込んだのだ。レーバレンス様がアブルに触れた時はすでに逆さまになっていた。


 もう、動物虐待だと言っても過言ではない……両足を持ち上げたかと思うと上下をぶんぶん振り回して出ないとわかれば逆さまのままアブルの口に手を突っ込んで吐かせようとしていた。噛みついたり引っ掛かれなかったのが奇跡である。


 次に魔素を豪快に集めて指先にキラキラを控え目に指を走らせる。言葉が終わると当時にできた円陣はすぐ弾けてレーバレンス様の手が闇に覆われていた。そして――アブルのお腹に手が、入った。


 アブルはなにも言わない。痛がらないし嫌がらない。そうだ。あれは『闇の手探り』だ。真っ暗な空間とわかれば闇を覆った部分だけ一部分を向こうに繋げる魔法。場所と部位を書けば上級魔法の出来上がり。


 ――ただ呆然とレーバレンス様の動物虐待を見届けて……虐待していたにも関わらず、終わったと思えばそっと体の向きを変えてテーブルに下ろした。そして呟く。


「ない」


 と。


 それからだ。レーバレンス様のショックが私に向けられている。能面はここぞとばかりに発揮して視線と空気だけで私を殺しにかかる。それが、今。何を聞く、語る――言い出せない私はただ恐縮してレーバレンス様が見れない。


 アブルがやってしまった。純魔石を飲み込んじゃった。しかもすぐに取り出そうとしたのに、魔法まで使ってお腹の中まで探ったのに、ないらしい。


 この責任は誰に行くのか。もちろん私に違いない。アブルの飼い主なのだから。この落とし前をつけなくてはならないだろう。精一杯やらせてください。しかしそんな言葉も出ないのです。怖い恐いこわいこわいコワイ……


 とりあえず、ビーランヴァ様を呼んで詳しくアブルを問いただしませんか?言える雰囲気ではない。レーバレンス様の怒りは相当なのだ。渦中の私に何ができよう。


 ここで不安になっていないのはきっとこの状況をうまく把握しているからだと思う。当たり前に私の監視下に置いているアブルがやばい事をしたのだ。本当、とんでもない事をしてくれたよっ。だから罰は受けるべき。怖くてもそれは不安じゃない。


「お、れ、せきを、はず、す……」


「――ああ」


 ハルディアスに裏切られた……いや、でも彼は巻き込まれた方だ。ここで逃がさなくてはハルディアスが可哀想な事に……てかレーバレンス様の声が異様に低い。怒ってます、よねー?………………………………さあ、勇気を持つんだ私。まずは謝らなくては何も始まらないよ。


「――、」


 声が、出ない。緊張しすぎてもうわかりません。


「――ぁ、 ――………」


 あの、が出ません!ど、どどどうしよう!?


「―― ―― 、」


「……呼吸をしろ」


 あ。ちょっと怒りを静めてくれたっぽい。かなり深いため息を吐いて頭をわしゃあとされました。このおかげで空気が混沌からちょっとだけまともになった。うん。呼吸がしにくかったはずだけど、さっきよりは出来る。


 視界に写らないようにしている配慮か、後ろを振り向いて見ていた私の体勢を前に向かせて横にずれた。わしゃわしゃあっと軽く撫でてちょっとぶっきらぼうだ。よ、よかった。なんだか普通になってきたよ!


「あの……アブル、が、すみませんでした!」


「ああ」


「あ、あの、ビーランヴァ、様!に、アブルを聞きません、かっ!?」


 なんか違う。通訳って言えばよかった!


 だが何となくは察してくれたらしい。わしゃわしゃあとしている手を止めて了承をしてくれた。


 では早速、と言うことでいつの間に用意されていたのかわからない水を一杯いただいて、影渡り。今回は頭の上ではなくローブを掴めとのことです。でもそれだとアブルを持ち運ぶのに支えられないと言うと――レーバレンス様が、アブルの首根っこを、摘まんで行くそうです。


 落ち着いてきたから言うけどアブルってこんな時でも怒んないし、むしろされるがままの状態だから大丈夫なのか聞きたい。ちょっとぐったりしているようだけどぶらーんと持ち上げられて影渡りした。場所は騎士棟の受け付け。メザックさんがレーバレンス様を見てかなり驚いています。ガタン!だけしか聞こえなかったけど。カウンターが高い……


「ビーランヴァ十番隊隊長と面会がしたい。予約はしていないが通るだろうか。できれば緊急とでもいって会わせてもらいたい」


「べ、ベベベベベリア!?え、あ、ビーランヴァ十番隊隊長!?ちょっ、ちょっと待ってくれ!!」


 どたんばたんと――かなり慌てているようだね。がさがさとがちゃがちゃ。本でも開いているのかな?ちっちっちっちっと連続で捲る音が聞こえて。またがたがたといい始める。次はメザックさんが所属と役職を答えてビーランヴァ様を訪ねているね。外務取り締まり役所受け付け勤務、ですか。長いねー。


 まるで事務所の対処で用件を言ってお願いしていた。ちゃんとレーバレンス魔術師様が緊急で~と言うのも言ってなんだか懇願するかのように来てくれと言っていた気がするのは気のせいかな。とっ、とっ、と言う足音が聞こえたと思えば定位置に戻ってきたみたい。疲れた、とでも言うように重い腰を下ろして来てくれるから待ってください、と告げられた。


 私より慌てた人がいるとわかると逆に冷静になれる私。もう、大丈夫そうです。


「レーバレンス様、アブルを持ちましょうか?」


「いや、このままだ。俺が納得のいく理由が聞けるまで俺が預かる」


 あ、『俺』ですとー!?ま、まだ怒っていらっしゃる……気を付けなきゃ。


「……ああ、嬢ちゃん――いたのか。てか髪がぐちゃぐちゃだぞ?小さいベベリアといい、何があったんだ?」


「こんにちわ、メザックさん……その、レーバレンス様を怒らせてしまいました」


「そうか……謝ったか?頼むからそのベベリアは置いていかないでくれよ」


「こいつ次第だ」


 そしてぷらぷらと揺すって強調するレーバレンス様。その左の口角がつり上がった意味はなんでしょうか?顔を覗かせたメザックさんと一緒に口が引きずってしまったのだけど――触らぬレーバレンス様に祟りなしっ。ビーランヴァ様が来るまで過度なお話しは厳禁だよ、私。


 手櫛で髪型を直しつつ……直んないよ!とりあえずまずリボンをほどいてもちゃもちゃしていた天辺をとかす。これで大丈夫だろうか?触ってみるけど……大丈夫だと信じたい。と言うか問題が発生しました。リボンなんてどうやって結ぶんですか?


 今までやってもらっていたので……一人では出来ません。自慢じゃないが、私は器用ではない。本当に自慢じゃないね。前世でも結い上げはあまりしなかったな……暑かったらなんかくくって丸めて挟んでいたよ。コンクルドかバレッタでじゅうぶんでした。またはかんざしね。あれはあれで楽だ。


 さて……青色だと思われる濃いめのグレーを見つめて悩む。イメージトレーニングをして脳内でハーフアップを試みているが、どうすれば結い上がるのかがわからない。まずさ、普通に結んだらつるーんといっちゃうよね?ポメアってばどうやっているのだろうか。


 そう言えば今日は置いてきたんだよね。ポメアもアブルを「お世話をしますのでその万全な準備をするための時間をくださいっ」と、あの捕らえた人の誰かに教わりに行っているらしい。なぜかヴィグマン様と一緒らしい事をお父様から聞いたような気がするけど……まあ、ポメアが頑張っているのだから私もがん……頑張れないかなー。


 ――余計な事はしない。これ大事。


 とりあえずリボンはポケットに突っ込んでおいた。だって結べないし。一応、畳んだからぐしゃぐしゃには――まあ、後で見てからのお楽しみで。ほら、そんな事を考えていたらビーランヴァ様が音を立てて来たよ。


「突然、申し訳ない。少し時間をくれないだろうか」


「……大丈夫だ。騎士棟の個室でよろしいか?」


「ああ」


 一瞬だけどアブルを見てレーバレンス様の表情筋が死んじゃった顔を見てなにか悟ったらしい。何も聞かずに個室を用意してくれたよ!さすが隊長だね。そして私は颯爽と抱き上げられて腕の上。きょろきょろと見渡してからの腕に移動なので本当に見えないのかと落胆しました。ぐぬぬ……


 大人がすたすたと歩くと早い早い。心なしかすぐについたような気がしますよ!案内されたのは……まだいりくんでいて覚えていないけど、目的の扉に入れば椅子に下ろされる。


 そしてレーバレンス様は立ったままアブルをビーランヴァ様の目の前に差し出した。


「早速で悪いがこいつの言葉を読み取ってくれ。どうして食ったのだ、と」


「……あー、なんだ。聞けばいいんだな?」


 レーバレンス様がかなりキレたままでいらっしゃる。全身鎧のすっぽり兜だからなんともないとは思われるけど、思いっきり顔が近いと思われます。あと数センクターぐらい。


 そんな事より戸惑っているのだから説明しなくてはならないと思うのです。ずいぶん冷静になれた私は横から茶々を入れるように軽く買い摘まんで話す。


 アブルがわけありで保管していた純魔石を勝手に開けて飲み込んだ、と。動物虐待の部分は省いて吐き出させようとしたが出てこなかった事を伝えました。兜で見えないけど……なんか疲れたらしい。肩の力が抜けた。


「なぜ食べたんだ?」


「くぅぅぅぅぅ……」


 喉が鳴っているのはなんでしょうか。


「……はあ?」


「なんと言った?ベベリアは焼いた方が美味しいか」


「え!?」


 レーバレンス様!?――アブルを解体したらお肉の部分が少なそうだから止めてねっ!?


「俺はベリア族だぞ……ちゃんと理由があるらしい。だが、俺には話せないと言う」


「ビーランヴァ十番隊隊長殿がいないと意思疏通ができない。食った責任にそんな重要度は伺えない。今の秋でも寒い。煮るぞ」


 それは脅しって言うんだよっレーバレンス様!どれだけお怒りなのですかっ。もうアブルはここへつれていけないかも……せっかくの護衛がっ!


「がう。ぐるうあ」


「……食べても美味しくないらしい。それと、石に秘められし謎に関することだから言えない、だそうだ。これ以上は言えないと言っている」


 あの短いセリフからなぜそんな長めの言葉が紡がれているのだろうか。それより石に秘められし謎、ねえ。おかげでレーバレンス様が黙りこんじゃった。ビーランヴァにもちょっとどうする?とでも言うようにこっちに顔を向けてきた。


 石に秘められし謎、となるときっと精霊を意味するとしか考えられない。あれは私が聞こえたから買ってもらって、お父様も中にいる(・・)と言っていた。……アブルはオブディンの中に精霊がいたことを知っていた、と言うことなのかな?でもなんで食べちゃったんだろう。食べなければあんなおぞましい事にならなかったのにっ。


「アブルは……秘めた謎に愛される者?それとも、愛す者?」


 確か……精霊に愛された動物だったよね。あれ?でも愛され()、って過去形だ。んん?


「……がう」


「――面白い質問だ。その答えには愛し続ける者、と言っておく」


 ………………………………………………………………つまり後者で継続中なんだね?まさかの一途は止めてね。そんなまさかはいりませんから。


 それからその石の中に秘められし謎は消化したのかと聞いて返事は「ぐるあ」=『あんなの消化出来るか』と。じゃっかんレーバレンス様から冷たくて黒い何かが放たれたような気がするけど……気がするだけだからあえて気にしない方向に意識を向けましょう。これ以上の不可思議はいらないのです。


 とりあえずレーバレンス様はお父様に事の事情を説明してくるらしい。ビーランヴァ様の時間などを聞いて大丈夫そうなので影渡りで素早く消えた。因みにアブルはビーランヴァ様の腕の中。私に近づけさせないでくれ、と言いつけたのでこんな図に……


 なんだかぐるるるて。お腹の音と間違えそうな音を出して唸っているけどビーランヴァ様は駄目だと一蹴り。それで大人しくなるのだからいいか。私はちょっと寒いけどね。せっかくの温もりがっ。


 ついでに沈黙が痛かったのでアブルに質問攻めをしてみた。子どもは好奇心旺盛なんですよ?だから通訳に付き合ってください、ビーランヴァ様。


 まずは……アブルっていくつ?たまにどこぞのおっさんと被るんだけど――ただのマイペースなだけだよね?




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