撤退しまーす
修正いたしました。28.12.29
キャロラリンが見つめてくるその向こうで変な呻き声が聞こえたり聞こえなかったり……聞こえるんですが。複数も向こうから聞こえるとなると――嗚呼、世話係りの人たちなんだろうな、て解釈ができる。
しかも、這いずり……匍匐前進をしているようでザリザリやズリズリがよく聞こえた。そしてキャロラリンの名前を呼ぶ声も。また逃げ出してきたのは目に見えているね。
またどうして今なのだ、とビーランヴァ様が言うけど今なのは私がフラグを立てちゃったからだと言いたい。違うとは言いにくいのだよ。
まあ、それはさておき――どうしましょうかね?キャロラリンはじっとこちらを見るだけで何を語っているのでしょう。馬語なんて習得していないのでさっぱりわからない。
とりあえず下ろしてくださいとお願いしてみる。ちょっと躊躇っているようだったけどゆっくりと私は地面に下ろされた。たぶん『野獣の調教師』を思い出したからだと思う。なんかそう言えば~とか言ってぼやいているもん。
で、アブルはどうしようか?やあ。てまた手を上げて挨拶をしているみたいなんだけどさ。この熊、社交的だね。おっさんっぽいけど。なにもしちゃ駄目だよと教えてキャロラリンを優先しよう。熊と馬を近づけていいのかと言われたらさっぱりわかりませんが。
お久しぶりです、なんて馬に声をかける私は変な人と認定されますか?わからないけど、キャロラリンは賢いのでひひん!と挨拶を返してくれる。不機嫌ではないみたい。じゃあ今度はアブルのお話しをね。
もしかしたら初めて見るアブルに驚いているかもしれないじゃんか。気づかずそのままにしてキャロラリンがぎゃー!?で暴れられたらたまったもんじゃない。
さっきコデギス近衛補佐にやったように片腕を持ち上げてアピールしてみる。するとキャロラリンは……ふん!と鼻を鳴らした。ついでに顔も背ける。つまり――キャロラリンと相性が悪い、と。しかもなんだかアブルを睨んでいるのか目を細めてきたよ……濃い顔がさらに濃く……
逃げた方がいいのでは?と思った辺りで私は回収された。またすごく目線が高くなった事からビーランヴァ様の肩の上だとわかる。
「キャロラリン。駄目だ」
駄目らしい。なぜ駄目になったのでしょうか?キャロラリンはまた鼻を鳴らしている。
「駄目なものは駄目だ」
何か説得している様子。でもキャロラリンはぶるるっ!と少しだけ荒ぶって抗議をしている感じ。何かを訴えているのかもしれない。
「どうしてもと言うなら、グラムディア殿下に問うんだ。今は駄目だ」
内容がわかりませんがキャロラリンがふんふん!と鼻息を荒くしている。それに対してビーランヴァ様は駄目だとばかり拒絶……もしかして、会話をしていたりします?後ろから追いかけてきたテルマリア様に聞いてみると「出来るよ」と返ってきた。マジで!?じゃあ、アブルはなんでついてきたのか聞いてほしいな!でもその前に……
「ビーランヴァ十番隊隊長殿。今日は報告だけをあげ、クロムフィーア嬢をレーバレンス魔術師殿に引き渡したら通常業務に戻ることになった」
「わかった。さあキャロラリン、退いてくれ」
テルマリア様は相手に使う公私を別けるのがお上手なようですね。ビシッ!と、決めるときはちょっとだけ男口調だ。てか引き渡しって……しかもレーバレンス様。きっとお父様は忙しいから、と言うことにしておこう。
で、キャロラリンが素直に退くことはなかったようです。キラキラが湧いて出てやばいことになっています。それを伝えると……さらなる驚きがキャロラリンの後ろからやって来る。
見つけたよ、と優しい声をかけるのはグラムディア殿下だ。それだけでキャロラリンが魔力暴走を取り止めてグラムディア殿下にすり寄る。ご主人様が大好きなんだねえ。すごいぐいぐいと顔を擦り付けているよ。
そしてグラムディア殿下が今のうちに、と。なんだか仲間を庇う勇者みたいだな、なんて思ったのは内緒です。その仲間は勇者を置いていきますから悲壮物になりそうで…………………………………………ま、またね!キャロラリン。
すたこらさっさと逃げたら行き倒れが四人もいたけど……気にせず突き進む。本当に気にする素振りを見せずにビーランヴァ様とテルマリア様は行ってしまうのだけど、いいのですか?ああ、いいんだ。やられる方が悪いらしいです。騎士も大変だねえ。
とある一室についたけどレーバレンス様は来ていない。じゃあ待ちましょうかと言うテルマリア様の合図で私は下ろされた。ならば早速!この時間を有効利用しようと思うのは当然です。気になるものは早めに解決したいのですよ!
「ビーランヴァ様はどうしてキャロラリンの言っていることがわかるのですか?」
「キャロラリンだけではないわ。大体の動物となら意思疏通ができるのよ」
なぜテルマリア様が知っているの?まさか2人って……
「何か勘違いをされた気がするが、俺の能力は騎士団に伝わっているぞ」
……勘が鋭そうですね。
「先程のキャロラリンは何と言っていたのですか?」
「我慢していたのだから愛でさせろ」
あの短い唸りでなぜそんな長い言葉になるのだらうか。奥が深いね。
「アブルの時はなんと?」
「新参者が」
キャロラリンがわからなくなった。
反応もどうすればいいのか……だからアブルを抱き直してごまかす。暖かさは継続されていていい。ちくちくするけどこれがまた……
そう言えばアブルは普段からどんな事を喋っているのかと聞くと……全身鎧が動かなくなった。ピタ、と。まるで置物のように……てかアブルが唸り出したんだけど。
ぐぅるるるって聞くだけだとお腹の虫の音とか勘違いできるんだけどね。あいにくと腕から伝わる振動が何かを表現している。喉を鳴らしているから振動が。なんでまた?誰か教えてくださいよ。てかビーランヴァ様が教えてよ。言葉がわかるのでしょう?
仕方ないからアブルの機嫌をとる。片腕ではさすがに持ち上がらないので床に置いて頭を撫でたり。あれ?抱っこがいいの?なんか赤ちゃんの世話をしているような感じが……どっこいせ。
「わからないわね。ベベリアが一つ唸れば戦闘開始なのに……」
「そのベベリアを知らないので何も言えません」
「ビーランヴァ十番隊隊長殿がいい例なのだけど……」
「だからこうして鎧をまとい、緩和させているのだ」
「それで緩和させられる方が不思議です」
あ。戻ってきた。てか意味がわからない。その鎧は何かあるのかな?緩和しているらしいんだけど、なんの緩和ですか。教えてくれるのかな?教えてくれるよね?
こういう時こそ見つめてみましょう。動物がわかるのだから人間もわかる。人間も動物ですから。
じぃー……………………………………………………
「――なんだ」
はい、アブルも。じぃー……………………………………………………
「――っ、可愛い」
テルマリア様が引っ掛かってしまった。ビーランヴァ様、おーしーえーてー?じぃー……………………………………あ、たじろいだ。
「何してる?」
「レーバレンス様、もう来られたのですか」
「くぅう」
後ろから来ると怖いよね!しかし慣れてしまった私から言わせてもらえばもうどんと来いなわけですが。なんか背中がむず痒くなるのですよ。だからあ、来た――と感覚が訴えるのです。もう驚かないよ!
レーバレンス様も来たのだからレーバレンス様も仲間に加えましょう。聞いてくださいよ、レーバレンス様。ビーランヴァ様は動物とお話しができるようなのです。どうしてなのか、気になりませんか?
「ビーランヴァ殿はベリア族だ。獣人で動物と話せる能力は稀にいる。その一人がビーランヴァ殿だ」
………………つまり――
「獣人……毛皮」
もふもふ?ふさふさ?ふわふわ?ビーランヴァ様はどれに当たる方なのかな?ぜひともその全身鎧に隠れている素顔を見てみたいものです!
ウォガー大隊長のように動物の顔なのだろうか?それともアルトライトさんみたいな特徴が耳としっぽだけの人なのだろうか。動物と喋れる事実より大いに気になるよ。
まさかの獣人が隊長クラス。拝まなきゃ――こんな機会はすぐに来ないことは明確なのだから今見ておかないと後悔する。絶対にするっ。
というわけでレーバレンス様が行くぞと声をかけるがそれから逃げてビーランヴァ様に駆け寄る。傍まで来て見上げるのだ。見つめていたらたじろいだのだから、見上げても効果があると思う。ついでに見たいですと素直に伝えておけば――テルマリア様が釣れてしまった。おかしい。
可愛いっ!!と近くで聞こえるけど本命はビーランヴァ様。じぃっと見上げて懇願すればレーバレンス様からため息が。もう少しお待ちください。いま、アブルも手伝わせるからもう少しなのです。抱き締めているアブルを持ち上げて、見たいですと伝える。
アブルならやってくれると信じているのだ。アブルなら私の気持ちを汲み取って援護射撃をしてくれるに違いない!だからアブル!君も訴えるんだよ!!
「うっ、ぬぅ……」
「ビーランヴァ殿、兜を取ってくれ。何かあったらグレストフに責任を取らせる」
そんな大事なのか。よくわからないけどうんざりしたレーバレンス様が加勢してくれておかげで素顔が見れることになりました!やったぜい!
喜んだらビーランヴァ様からかなり念押しをされたが……まあ、いいか。怖くても知らないからな、と言われましても。私が世に一番で怖いものと言えば二文字ですべてを総称できる足がいっぱいの奴らだ。姿を見ただけでも怖い。むしろ気持ち悪い。はっ!噂したら出てくるかも知れないから止めよう!こんなフラグはいらんぞ!!
ビーランヴァ様がしかたなし。と言って頭に手をかける。正確には被っている兜なんだけど……テルマリア様が距離を取りました。なぜ。そしてすごい焦らしだ。ビーランヴァ様ってば勿体ぶらないで!早くっ早く早くぅ!
ちょっと興奮しつつ、そのおかげでアブルが絞められている事にも気づかずに私は見上げる。本当に騎士って大きいね。
ちなみに下から見ているのですが、顎はなぜか真っ黒である。影が差しているのかな?と思ったけど違うみたい。じょじょにじょじょに、と持ち上がっていく兜はもう半分も持ち上げられているのに……黒いね?
あ、そっか。ウォガー大隊長と一緒で黒い顔の獣人さんか!そっかそっか!狼だと兜が入らないからそんな顔か突き出ていない種族だよね。何かなー?何かなー?
レーバレンス様が早く、と言ったので残りはドーン!と一気に兜を取る。なんとっ……真っ黒でわからない!これはこれで驚愕だね!
さらにじぃー、と見つめて……ウォガー大隊長なら瞳の色が違うからわかるんだけど……なんだろう。シルエット姿がだんだんと可愛く見えてきた。これはヒッジメィと同じ黒い体に黒い瞳なのかな?たぶんもう少しぐらい近くで見れば瞳の光りで位置がわかると思う。てか――耳の片方に縦の切り込みと小さめの熊さんの耳……のシルエット。ベリア族ってベベリアの事?
「肝が大きいな。もしかして気を失っているのではないか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。アブルと一緒……のように見えて……でも牙がありませんし。とりあえず触りたいです」
「くぅー」
「クロムフィーア嬢はなかなかに強かだな。普通は当てられて怯えるのだが……アビグーアの気持ちが少しわかったぞ」
「そいつは親子揃って規格外だ。変に悩まない方が楽だぞ」
喋っても口の中が真っ黒でした!なにこの人。てかレーバレンス様がもうなげやりに言っている。酷いな……お父様と一緒は遠慮したい。てかアブルが優しくぺちぺちしてくるんですが、これは?ちょっと固めの肉球がなんとも……
残念だけどビーランヴァ様の毛皮には触れなかったけど、なんと!今度会えたら触らせてくれると約束できました!!イエイ!!思わず喜んでアブルを高い高いして回っていたら数回でアブルの体重に負け、転んだ。テルマリア様が助けてくれなかったら地面にキスしていたかも知れないね。危ない危ない。
ご満悦な顔は仕様です。によによしちゃうのはしかたないって。レーバレンス様からちょっとなんだこいつ、な目で見られたけどウォガー大隊長が駄目だったのに触れるんだもん!嬉しいのは当たり前さ~!
じゃあ行くぞ、と言われたので息を止めて瞬間移動!そんな瞬間ではないけど気分は上々なので気にしません。ひゃっふー!へいへへい!
この時は気づかなかったんだよね……隊長クラスがそんなひょいひょいと出会えるわけがないじゃない。後になってその事実に気づいたのは寝る前ぐらい。いつ会えるか、どんな時に会えるのかとか想像してたら会える確率が1%にも満たないかなり低いことにこの時は気づきませんでした。期待を込めて10%にあげたいけど隊長と繋がりが全くないので諦めるしか……お父様は魔法師だし、ユリユア様はそもそもウォガー大隊長の繋がりだし。トールお兄様でもさすがにないよね。ガッカリしたのは言うまでもない。もし堪えきれなくなったら強引にでも最後の力(お父様)を使う。それしか、ない。今の私にはそれしか方法がっ。
着いた先は――レーバレンス様の研究室の方ですね。相変わらず紙の山がいっぱいでソファーとL字の配置がおかしい。あ、ハルディアスが埋もれているよ。
「またお前か」
「ご機嫌よう、ハルディアス」
ちょっとお嬢様風に挨拶をしてみる。なぜかって?ハルディアスの言葉に多少はイラッとしたからだよ。またって、なあに?アブルでもけしかけようか?レーバレンス様に怒られるのが確定するけど。
紙の山をずらしてしかめっ面がなんとまあ……隠さないよねえ。でもその次に表す表情は奇妙なものになる。相変わらず眉間はそのままだけど片眉をあげて首を捻るのだ。なにか腑に落ちないものがあるみたいだね。
「それ、なんだ?」
「それとは?」
「お前の手に持っている奴だよ」
「私の護衛ですが?」
と言うとはあ?みたいな顔をされた。本気で私の護衛なんだけどなー。まあこんな風に持っていたら護衛よりペットだよね。可愛いから別にいいんだけど。しかも強いんだよ?
あ、しまった。試合を途中にしてきちゃったから近衛騎士様たちの実力が見れなかった!サデュリローグさんとギルツェルさんの、見たかったのに……あれ延長はするのかな?……様をつけないとそのまま言っちゃいそうだな。てかサデュリローグって名前が噛みそう。
「お前ら――いがみ合うなら他所でやれ。時間の無駄だ」
……わお。お疲れ様モード全開の無表情、レーバレンス様が降臨なさった!あまりよろしくないね!ごめんなさい着席しまっす!!




