立つフラグ
修正いたしました。28.12.28
誰だかわからないその人は……テルマリア様の説明で言うと十番隊隊長のビーランヴァ様、らしい。見た目はなんと言うか……全身鎧が重そう、である。
頭も肩も腰も膝もがっちがちに鎧。あれでどうやって動くのだろうかと首をかしげたくなる。ウェルターさんも全身鎧だけど……あれよりごっつい鎧なんだよね。そして大きい……剣がちっちゃく見えるのは鎧が大きく見えるからだよ。
と言っても『帝王』もまあでかいおっさんなので剣がちっちゃく見えるんだけどね。そう言えばあれは真剣なんですか?ん?切れ味はまあまあと言われても……あ、真剣なんですね?テルマリア様ってばフォローがうまいね。
「あ、魔力を使う気です」
おっさんの回りがキラキラしだしたよ!そう告げるとコデギス近衛補佐が空いている片腕を挙げた。何かの合図?と思えば飛んでくる何か。
――ちゃ、みたいな音が聞こえたんだけど……とりあえず『帝王』が文句を言っているのがわかる。何をしたんですかね?
「タマンゴはこのためだったのですか……」
「タマンゴ?(確か卵だよね)」
「あっちにタマンゴを用意しておけ、と言われてそのまま持ってきたのだけど……どうやら『帝王』が不正を働いたら投げつけるために持ってこさせたみたいですね」
「ああ。今年はかなり豊作だったと聞く。おかげですべてが使えず一部が腐ってしまったそうだ」
「え。じゃあ『帝王』に投げつけた物はタマンゴで、それは腐っているものですか?ビーランヴァ様が可哀想です」
「あれ、けっこう匂いますよ……」
「仕方ないだろう?腐ったタマンゴを処理すんのも困ってたんだよ」
「ぐぁう……ぐぅぅぅぅ……」
「今度はなんだ。耳元でやめてくれ」
たぶん、臭いんだと思うよ?まだ私の鼻には匂いが届いていないようだけど、動物の嗅覚って馬鹿にならないからね。熊はどうなのか知らないけど。
私が抱えているアブルは鼻を押さえているのか、両手を使って顔をガードしていた。腐った卵の臭いを嗅いでしまったんだと思う。
それを伝えるとなんとも言えない唸り声がコデギス近衛補佐から……こればっかりはどうしようも出来ない、と諦めて試合を見ることに。
対峙した2人は匂いなんて物ともせずに構えて――「始め!」と声がかかる。まず最初に飛び出したのはビーランヴァ様。まずは小手調べ?のように私がよく見た見習いたちがやっている素振りを打ち込む。もちろん、隊長様だがら素振りの重さとか早さなんて各が違う。
離れているけどブオン!と音が聞こえたよ。見えてはいないけどね!あれよと音がガキン!とぶつかるんです。あ、まただ。
「またです」
「同じことをすんな、『帝王』め」
また右手をあげれば飛んでくる。今度は避けようとしているので地面にぐしゃっとなったみたい。と言うかもしビーランヴァ様に当たったらどうなるわけ?ビーランヴァ様、怒らない?
けど試合はこれで終了。よくわからないけどビーランヴァ様から降参を申し出たらしい。心なしか兜の上から鼻を押さえるようにしている。それをみてコデギス近衛補佐が「だよな」と納得。私には何が納得する要素があったのかがわからない。と、言うことで聞いてみる。てかこんな試合があっていいのか。
「黙秘だ」
「アブル、軽く右を攻撃」
「おい、待て。洒落にならん!本人に聞いてくれ!」
む。確かにご本人がなぜかこっちに来たけど……なに?ここって敗退した人が集う場所なの?私ってば目印になっているんじゃないよね?
「うお!?」
しかし止めるのも忘れていたらアブルの裏拳が。かなり力を弱くしてべちい、みたいな感じ。むしろちくちく毛皮が微力に押し付けられただけだと思う。もうそれは攻撃じゃないよ。
でもちょっと警戒していたコデギス近衛補佐にはいい感じに攻撃となったらしい。かなり体が揺れて思わずこのつるんとした頭を鷲掴んだ。抱きついて後からお父様に何かを言われるのが怖いから、両手でがしっ!としたんだけど……
その私の行動のせいでアブルがころんと行ってしまったのが問題である。あ!?と思ったらもう遅い。すでに私から離れているので温もりはない。この高さで熊が落ちたら大丈夫なのかを知らない私にとっては恐怖。もし地面に落下して……となると怖くて泣くと思うよ。どうしよう!?
けど、怪我もなく変な鳴き声を放ったアブルは空中に高く持ち上げられ……え?と思ったらアブルがさらに空中で面白く移動。両手を広げながら着地した場所は薄いグレーの塊の中。いや、間と言うか……ビーランヴァ様の腕の中でした。もう近くまで来ていたみたい。
「何をやっているのですか?」
おぅっ。けっこうな重圧が。そしてかなり低音ですね!
「悪い。ビーランヴァ……代わってくれ」
「……致し方がない」
何を、とは言いません。だってアブルを私に預けたと思ったら私も宙を舞ったのですから。両脇に手を添えられて。ふわっと大移動。そうすると冷たい感触に早変わり。はい、ビーランヴァ様へバトンタッチされました。
何が起きたのかは理解ができるんだけどなんだかまだ取り残されている私。アブルが優しく私の腕をぺちぺちするからだんだんとどうなったかをしっかり把握できた。現実に戻ってきたと思えばいいのかな?
誤ってアブルを落としちゃったらビーランヴァ様が拾ってくれて、コデギス近衛補佐からギブアップが出たと思ったら空中で大移動。そしてビーランヴァ様の肩に移動している私。
うん。落ち着いた。理解した。きっとあのままコデギス近衛補佐のところにいたら大変な事になるから代わったんだよね?怖いとかそんな事はないはずだ。そんな事を言っていたような気がするけど、ないったらないよ。
アブルにはごめんなさい、と謝って……さて、どうしたものか。てかアブルってこのサイズで本気のパンチを繰り出したらどうなるの?鎧がへこむ程度ですむ、よね?
「突然で申し訳ない。俺は十番隊隊長を担っているビーランヴァだ。嫌なら地上に下ろすが、どうする?」
「王宮筆頭魔法師グレストフの娘、クロムフィーア・フォン・アーガストです。ビーランヴァ様は私が足元にいても蹴りませんか」
「ビーランヴァていい。不作法は許してくれ。嫌なら言ってくれると助かる。それと――蹴る、とは?」
「騎士様方はみな背が高いので、足元に小さな私がいると見えないから蹴り飛ばしそうになるそうです」
「コデギス近衛補佐……」
テルマリア様が加勢してくださいました!なんだか冷たい視線だ。
「……アビグーアも同じ理由だぞ。だから肩に乗せているんだろ。ついでに高い方が見晴らしがいいからちょうどいいだろう?」
まあ、ちょうどいいけど。なんだか不貞腐れてしまったコデギス近衛補佐には申し訳ない。蹴り飛ばしそう、という理由の他に実は足が悪いんですアピールをしているなんて思わないよね。
足が悪い云々はどっかに置いておいて私は頷いておく。だいたいの大人の目線で物が見えたりするので楽しい、と答えればコデギス近衛補佐がホッとしたようにはにかんだ。髪がないのに頭を掻く仕草が気になる……
そんなわけで私はビーランヴァ様の肩に乗って再び観戦。でもなぜかアブルはビーランヴァ様が気になるよう。顔を覆っている兜を触ったりじぃっと見ていたり……何か気になることがあるのかな?アブルは何に興味を持ったのかは知らないけど、視線は元に戻しておく。
次に出てきたのは近衛騎士の人。これから近衛クラスの戦いが見れるらしいんだけど……『帝王』のやる気は全くないらしい。そりゃあ腐った卵があの辺で充満しているからね。私から見たら『帝王』よりそれに付き合う対戦相手がいい迷惑だと思う。
その対戦相手は短剣をもってご登場です。逆手に持って騎士と言うより身軽な軍服からイメージがかなりずれる。
だからこの場にいる3人に、剣ではないのかと聞いてみるとテルマリア様がその質問に答えてくれた。
純粋に剣を扱うのが基本だが合わない、慣れない武器を使い続けるより自分に合った武器を使うのが一番いい。彼――ヌケラト様が最終的に選んだ物が短剣だっただけであり、剣も普通に使えるんだとか。
自分で探しだした結果があの短剣なんだと言う。剣はあくまで基本だけであって決まりはないらしい。だから門兵の人が槍を持っているのか、と聞くとちょっと曖昧だったがそうだ、と答えが返ってきた。
因みに……私からみてビーランヴァ様は大きい。あの片手剣が小さく見えるぐらいだ。実際に肩の上に乗ってみてアビグーア中隊長と同じぐらいの高さだと思う。もしかしたらそれより少し高いかも。
そんな大きい人には大剣が似合う。私のイメージだが、本当にビーランヴァ様は剣が得意なのかと聞いてみると……感心した声で違うと答えられましたー。やっぱりちっちゃいよね。だから一番の獲物はなんですか?と聞いてみたら斧なんだって。まさかの斧。ドワーフが担いでいそうな大きめの斧を想像してしまった。
で、そんな事を言っていたら『帝王』がまた魔法?を使いそうになったのでコデギス近衛補佐を呼ぶ。わかっている、と言うように片腕をあげたらまた卵が飛んできた。先ほどから見ていたけど、ヌケラト様はかなり動きが速い。まるで獣人。これに耳と尻尾が生えていたら間違いなく触りたい候補に入っていたと思う。でも生えていない……残念っ!
今度は当たったので『帝王』はかなり臭いと思われます。もうこれは虐めですね。本当に説明とか……していないだろうね……ちょっと憐れだ。そしてヌケラト様が可哀想。
またもや匂いにやられてしまったのか、棄権しちゃいました。たったと離れたので相当だと思う。因みに本人はもう鼻をつまんでそれどころではなさそう……審判はよく無事だね。
次はコデギス近衛補佐らしいのだけど……かなりのしかめっ面で行こうか悩んでいる様子。あそこに行くのか、なんてげんなりしてさ。まあ、頑張って下さいよ。近衛補佐様。
なんて言ってみたら恨めしそうな顔をされた。なのでアブルの手を持ってふりふりしてみる。――余計しかめっ面になってしまったよ。代わりに向こうに行っちゃいました。その背中がなんだかお疲れに見えるのはどうなんだろうか。
そう言えばさ、今さらなんだけどトールお兄様の約束を思い出したんだよ。どうしよう……
遠征に行ってしまう前日にお願いされたのに、お父様に抱えられていたからと言うかトールお兄様が引き留めなかったからと言うか……すぱーん!と忘れてたんだけどね、キャロラリンに会うこと。
あれってどうなったんだろう?寂しがっていたぞ、とは言っていたけど……フラグ、立たないよね?今さらすぎるけど。『帝王』の事もあるからフラグを立てたかも……キャロラリンが大人しくしていますように!
ガキン!――と音が聞こえたのでそちらに意識を戻す。なんと、もう始まっていました!なんか剣道の面取り練習のようにコデギス近衛補佐が素早く剣を奮っている。上手いか下手かと言われても私にはわからないけど『帝王』が防戦しかしていないのだから隙がない、とか言うやつだと思う。
そんなわけで解説は優しいビーランヴァ様と素敵なテルマリア様に丸投げします!どぞ!
「近衛の補佐と言うだけあってかなり打ち込みは速いわ。クロムフィーアちゃんには見えているかわからないけど、もう百は振っているわよ」
え?始めて何秒?何分?で100に到達したの?意識を飛ばしていたからわからないのですけど?しかしこの世界に時間と分は存在しないっ。少し前よ、なんて言われてもわかるわけがないのでした!くぅっ。
「あ。れ?蹴りも有りなのですか?」
「まあ、コデギス近衛補佐は武器を持つより格闘を好む方ね……私もよくいきなり来る膝蹴りに驚かされるわ」
コデギス近衛補佐は格闘もできるんだ……確かに剣より素手、って感じがするかも。今も『帝王』に殴りかかるって……剣で受け止めようとしたらすかさず手持ちの剣で殴りにかかる。
荒れていますねー。私にはそれだけしか言えません。なんか試合が長引けば長引くほどどうでもいいんだよね……コデギス近衛補佐の腕は見たいけど『帝王』はどうでもいい。あ、まただね。
それを伝えると今度はビーランヴァ様が片手をあげる。なにも言っていないのに伝わっているらしい。なに?『帝王』は強い敵が相手だと魔法剣でも使いたいの?そして投げ出される卵……そう言えばどこから投げられているんだろう?
向こうからみたいなんだけど……広い屋内の向こう側って見にくいんだよね。一定の光りしかないから明暗が付きにくい。しかも初めて見る場所みたいだから向こう側の物が判断しづらいよ。人はいるみたいなんだけど――遠い。と言うかコデギス近衛補佐と『帝王』が似ていると言うか、まあ、似たり寄ったり?あえなく卵が地面に当たって臭いが放たれたみたい。2人してくせぇ!って叫んでいる、ね。
そうしたらビーランヴァ様とアブルが同じように顔面を押さえる。なんかこっちでも似ている人と動物がっ!?ああ……私まで匂ってきた……
「あの、撤退の指示を……」
「――やむ終えまい」
「私がガストレア近衛隊長に報告してきます」
「頼んだ。クロムフィーア嬢が不調になる前に抜けさせてもらう」
撤退は円滑に行われるそうです。さっきまで大丈夫だったけど、意識をしたらもう駄目です。気持ち悪くなる……
だがフラグが早くも立ってしまった模様。出口まで歩き出したけどその出口にキャロラリンが……立ち塞がる。さすがのビーランヴァ様も立ち止まるしかない。
さて、どうしましょうかね?魔力暴走はしていないみたいですけど。これはもしや自らの出迎えですか?自惚れじゃなければ目的は私なのだろうか……じっとこちらを見つめてきたら照れるじゃないか。ごめん、ちょっと気分が悪いから頭がおかしくなっちゃった。いや、元からおかしいかっ。
なんでフラグが立っちゃったんだろう。忘れていたからなんだけど。今度から思い出さないようにしなきゃ。その前に――アブルがまた片腕をあげて挨拶をしたのですが、雰囲気的にどう受け止めればいいのでしょうか……?誰か、教えてくださいませ!




