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特別休暇 9

修正いたしました。28.12.28

 

 結局は同席する事になったレーバレンス様。なんだか視線が突き刺さるような感じで睨まれたような気がするが、私の意識はもっぱらベベリアにある。なんかこのちくちく――癖になりそうで。


 それは置いておいて、みんな親切だからご飯を用意してくれました!ので、私は今からお昼にするのです。ベベリアは邪魔だから隣の椅子にでも置いておいて……いや、その前にお父様、下ろして。抱えて食べるのはちょっと行儀が悪いよ。


 すっごい仕方なし!見たいに嘆いているけど、食べづらいのは経験済みですから。私は美味しくご飯を食べたいです。今は何時だろう?でも時間を気にする前にベベリアを気にするべきでした。なんか騎士様方がやたらと多いな、と思っていたらそれはベベリアのせいだったみたい。


 私が隣の椅子にベベリアを置いたらそれを囲むように騎士が動く。いつでも剣は抜けるように。かなり近い距離でそんな事をされてみてください。かなり居心地が悪いですよ。こんな昼食、ちょっと嫌だな。てか近すぎて剣は抜けないと思う。距離感は大丈夫なのだろうか。


「ぐぅがう!」


「――っ」


「待て。まだ対象外だ」


 なんだかベベリアを警戒している騎士がとても緊張しているご様子。じりじりと張り詰めた空気が隣から漂ってきて食事どころではない。食べるけど。出されたのは黒い固まり。たぶん、ハンバーグ。騎士棟の食堂でよくこれを見たものだ。お皿が白い事が唯一の救いです。これでお皿まで鉄板の黒だったらナイフで切れるところを確かめていたかもしれないっ。


 一口サイズに切って食べて肉汁が……まあ、ある。やっぱりぱさぱさなんだよなー。もう少し工夫してくれないかな。これなら王族が食べていた塩のステーキ?の方がましかも。でもあれって高級なのかな?王族の食卓にしてはこっちの食堂よりやや質素にも見える。使っている食材が桁外れなのかな?まあいいや。すごく関係がないし。


 そしてお父様、まだお腹が空いています……ゆっくり食べて満腹を呼び掛けていたんだけどね。まだお腹が減っている……魔力操作をしたから?


「あの、もう少しもらえますか?」


「え。あーそっか。そう言えばさっき魔力を動かしたからか。あれで場所が特定できたんだった。まだ食べてもいいか?レーバレンス」


「色々と聞きたいんだが?」


「食べながらでもやれるぞ」


「………………そのベベリアを、どうするんだ」


 もう特攻するらしい。流された。


 それにしても、どうするかと言われてもね?ベベリアは囲まれているので私からでは見えないけど、なんだか殺気だったような気はする。空気がちょっとだけ変わったかな?て言う程度。そのおかげで騎士の警戒体制が余計にピリピリしてきているね。えい。


「うわっ!?」


「なんだ!」


「……クロムフィーア若魔法師、彼らは仕事をしています。余計なちょっかいはやめましょう」


 いや、うっかり。なんだかベベリアに意識を集中させているからさ、そこにちょっかいを出したらどうなるのかと思うとね。ご、ごめんなさい!ちょっとした出来心なんです!!


 ベベリアより騎士の方の殺気が膨らんでしまった。当然だけど、なんだかこのベベリアには余計な心配だと思ったんだよね。


「おいで」


 騎士が邪魔でちょっとこっちに行けなくて困っているような声をあげているのかな?くぅ~んと可愛らしい声が聞こえる。ちょっかいを出してしまった騎士の背中を叩いて退いてもらおうとするけど――退いてよ。見えないよ。可愛らしく鳴いている声が聞こえないの?お父様、なんとか言って!


「その前にクフィー、ベベリアの分類は狂暴の枠に入るんだが……飼いたいのかい?この大きさでいてくれるなら飼うに困らないと思うけど」


「本当に私の言うことを聞いてくれるのならば。大きさも変えられるみたいですし、ノルアとも仲良くなれるのであれば護衛にしたいです」


「ベベリアを護衛に……?『帝王』とどっちがましだ?」


「レーバレンス様、考えない方がいいです。その選択肢がすでにおかしいですからっ」


 なにをっ。『帝王』の護衛を選ぶんだったらベベリアを選んだ方がいいじゃん!それを言ってみたらお父様のなんとも言えないような顔が作られました!いや、もう小さいとなんだか可愛くてしょうがなくなってきてね?絆されているんです。


 当たり前だけど、騎士の人の顔もおかしな事になっています。ある人は眉間を深く寄せたり。ある人は口角をひくつかせたり。またある人は軽く眉を寄せて口を『い』の字にこの状況を否定している。そして面白いのがみんなちょっと信じられない物でも見るような目だ。これだけはみんな一緒である。


 そんな中で私に背を向けて警戒していた騎士が説得をし始める。ベベリアは狂暴で、一度暴れだしたら上流騎士の部隊を4つは用意しなければならないらしい。部隊は何人での編成だろうかと思えば30人の編成なんだって。へー。


 今は小さいが、本来の大きさ(大人の等身大かそれよりやや大きいか)で鋭い爪と牙を使って襲ってくるんだそうな。身体強化も使っているので、一撃で死んでしまうような相手だ。それなのに無闇に近づくものではない、と。


 そんなことを言われても、動物の思考や心なんてわからないからね。それを言うんだったら来るときに私はもう食べられていると思うし。お腹が空いていないからと言うのならば話は別?かも知れないけど……危険性、ねぇ。私の中では感じられないんだよなー。せっかく説明してくれたけど、


「ベベリアに決めさせます。この子、賢いようですから」


「はあっ!?」


「右手をあげて?」


 ひょっこりと騎士の人の隙間から見えるベベリアに言ってみる。まるで「やあ」とでも挨拶しているように軽く手をあげて私を見ていた。つまり!やっぱり私を見ていた、と言うことか。


 個人的には飼う方が利口だと思うんだよね。もしここで否定してベベリアが暴れだしたらどんな被害がどのように出るか、想像ができない。身体強化しているなら鋼の肉体も容易いと思う。そしてこんな小さななりだけど小さいからこそ小回りが聞く。ベベリアの気分を害した時点でみんな死んじゃうと思うんだけどな。


 ならば奴隷がこの世界にあるのだからどのようにするかは知らないけど制限をかければいい。そんなに心配なら、そうやって枷をつけてしまえば少しぐらい怖くても強い味方だ。そして可愛い。


「しかし、ベベリアを飼い慣らすなんて出来るわけがないだろう?お嬢ちゃん。頼むからこれ以上、私たちを困らせないでくれるか」


「では、お聞きしますけど――今から騎士様をかき集めてベベリアの討伐は出来るのでしょうか?仮に私が誘導して騎士様方の有利な状態に持ち込めたとして、身体強化の達人であるベベリアを倒せることは可能ですか?」


「生意気なっ。我々は日々の鍛練に磨きをかけ、守るもののために力をつけている。ベベリアを倒せる有無の問題ではなく、今もっとも最善の処置を我々は行うのが騎士だ」


「その最善なる処置がベベリアを殺すことなのですか?」


「お嬢ちゃんにはわからないだろうが、今はお嬢ちゃんの言うことを聞いていたとして、それがいつ出来なくなるかわからない。そうなる前に早く危険なものは除去しなくてはならないんだ」


「クフィー、騎士の方も正しいぞ?本当にほしいのかい?」


 むむむ。確かに安全のために最善を尽くす行為は正しい。でもお父様は騎士の方も、と言った。つまり私も正しいと言ってくれている。――と言うことは抜け道があると言うことか。うーん。目の前で手に入らなくなるとわかれば、なんとかして欲しくなる。ウォガー大隊長のしっぽを我慢しているのにさらに我慢するのか……うーん……………………


「制約をつけても駄目なのですか?個人的にはほしいです」


「欲しいの?アーガスト家の食費は大丈夫かな?」


「だから!危険だと言っているだろうが!!」


 そんな、怒鳴らないでくださいよ。ほら、ベベリアがちょっと唸り出したよ。びくっ!と肩を震わせるぐらいなら怒鳴らなければいいのに。てかウィル様とレーバレンス様が空気になっている。もう見守る事にしたんですね?つまりは本気で報告のみにするつもりですか?


「じゃあ、こうしよう。娘の手前であまり言いたくはなかったけど『帝王』を使うのはどうかな?貴殿は知らないだろうが、今『帝王』の人生を私の娘が握っている。私の娘にちょっかいを出した事で生きるか、死ぬかを選ばなければならない状態だ。詳しくは省かせてもらおう。――私は娘が心配なので護衛を付けようかと思っていたんだ。どちらかを付けるなら、より強い方を娘の護衛にしたい。つまり、試合をするのはどうだろうか。ベベリアと、『帝王』で」


 ――うわ。むごいな。突っかかってきた騎士が怪訝な顔でお父様を見ているよ。


 これってどっちの処理もどっちか一方通行だから絶対に決まる――決まらせる勝負だ。どちらが生き残れるかのデスゲーム。生き残った方が私の護衛……どちらも、不愉快な結果かもしれない。


 ベベリアが生き残っても制約は付けられると思う。てか付けなければ納得しない人が出る。自由に動けないのは息詰まるはず。なぜ今も抵抗をしないのだろうか?可愛く鳴いているのはなぜなんだろう……


 そして『帝王』だって生き残っても微妙だよ。私の護衛になれる権利が得られただけで、私の護衛になることは強制ではないはず。結局は私が護衛を断れば『帝王』の未来はない。それとも護衛になることは決定事項?


 お父様を見上げれば騎士と睨みあっていた。とても後のことを聞ける状態ではない。と言うか、私はそんなデスマッチを見たくもしてほしくもない。かと言って止められる事も――…………………………ん?私が暴走すればいいのか。


「お父様、もしベベリアを戦わせたら私、不安と悲しみで魔力暴走を起こすと思います。悲しい結果しか生まないお遊びを考えられるのでしたら、お父様ともうお喋りをいたしません。お父様を嫌います」


「クフィーに嫌われるのは死ぬのと一緒だ!ごめんっ今の嘘で!ベベリアは賢いし大人しいし奴隷制約を付けさせるのだから私の名にかけて面倒を見ることにする!もしベベリアがこれを拒絶するならばどこか人が寄り付かない森に返すとしよう!もちろんそれは私が王宮筆頭魔法師として最後までやりとげるので全面的に任せてほしい!!全責任は私が持つ!!」


 切り替え早っ!


 誰もがそう思っただろう。私を抱きすくめると同時に矢継ぎ早に言い捨てて謝り出した。目の前の騎士は呆然とそれを見てもうついていけないらしい。騎士の癖に完全に固まって身じろぎ一つもしない。


 ちらりとレーバレンス様たちを見れば頭を抱えている2人が。そうだよね。頭がかなり重いらしい。両手を使ってしっかりと支えているようだね。うん。ごめん。


「…………………………くぅ~ん」


 と、そうだった。お父様の頬擦りを受けている場合ではない。ちょっと押し退けてベベリアに向かい合った。騎士の隙間から覗くだけだけどね!


「私の言葉を理解できる?」


 しっかり頷いたよ。やっぱり賢いんじゃん!偶然とか感じられないんだけどっ。


「私に絶対服従してくれる?厳しいことは言わないけどここにいるためにはその誓約が必要です。嫌ならあなたの住みかにお父様が全力で家に返す。私の護衛として屈するのならばお腹を見せて。従わないのなら背中を向けてくれればいい」


 さて――お腹を見せてほしいのは私の趣味です。さっき抱えていたらこのベベリアのお腹がなんかいい感じの膨らみがあったと思うので、是非ともお腹が見たいと言う私の細やかな願望でもある。あと、お腹を見せたら服従するって意味があったようななかったような。あれって犬とか猫だけだったっけ?まあいいや。ベベリアの反応は?


 くぅ~んと可愛らしく泣いてから仁王立ちになってちょっとあるぽっこりお腹を見せてくれる。でも椅子の上でやったものだからバランスを崩したらしい。そのままぼてっとひっくり返った。ちょうどお腹を見せている!!可愛い!ノルアと一緒に大の字に寝かせたい!!


 私のお願いを聞いてくれたのだからいいよね!?かなり期待を込めた視線でお父様を見たら呆気にとられたようにポカンとしていた。ちょっと予想外だった?騎士もなんだかどう表現したらいいのかわからない、と言う顔で眉間のしわをほぐしている人がいる。


「じゃあ『下品』はいらないな?ここにクフィーの新たな護衛が決定したんだ。いらないな?」


 いつからそこにいたんですか、ユリユア様。扉に寄りかかっていたまま腕を組んで笑わないでください。美丈夫ゆえに格好いいですっ。


 ユリユア様の登場でちょっと気が引き締まった騎士はさっと脇にずれて壁による。これでベベリアもようやく解放されたと思っていいかな。まだお腹を出して寝てるよ。なんかお腹を掻いているのか手を置くから満腹だぜぇっていいながら寛いでいるように見えてしかたがない。そう言えば濃いグレーって何色なのかな……茶色にしてはグレーが薄いし……え、原色?せめて赤でお願いします。


 もういいよ、おいで。と声をかければゆっくりと動いて椅子から下りるベベリア。でもちょっと椅子が高かったみたい。足から下りて床に付こうにも自分の足が届かなくてぷらぷらしていたらそのまま落ちちゃった。お尻からどすんだけど大丈夫かな……なんかくぅ~んて泣いているんだけど?


 でも首をぷるぷるふったらこっちに歩み寄ってくれる。なんだこの可愛い生物っ。私もお父様を押し退けて椅子から下りて手を伸ばしたら来たよ!ちくちくだけど撫でたらさらさら!たまらんっ!!あっ舐められた!こいつ愛嬌があるじゃないか!


 そしてそれを見届けたお父様がベベリアを抱えている私を抱き上げる。これで危ないのはお父様も一緒。誰も止められない。


「絶対に服従させる奴隷の首輪を買いに行かなきゃな……ドトイルに頼もう」


「レーバレンス魔術師殿、私の頭がずっと悲鳴をあげているのですが」


「奇遇だな。私もだ。とくにここ最近では王宮筆頭魔法師グレストフ殿とその娘が関わっているあたりで目眩が起こり、頭痛に発展するんだ」


「ベベリアを買う貴族など、聞いたこともありませんよっ」


「リッスンもな」


 お二人が辛そうです。そしてさりげなく私まで問題児だと言われた。しかもお父様と一緒に……今思えばベベリアを手に入れちゃったら私ってば目立つね。もう遅いけど。いや、でもベベリアをずっと連れてあげれるわけじゃないし――まあ、今さらだからはっちゃけよう。ベベリアが可愛いので!可愛いものを手にいれたのだからいいじゃない!!


「クフィー、すまないがベベリアを抱えたままあの『下品』に止めを刺してくれないか?物理的な意味の方が好ましいが……『下品』に膝をつかせるのもいいな」


 なんだろう。ユリユア様が笑っているのにとても冷たく感じます!つまりはまた『帝王』が変なちょっかいを出したと見た。


 そしてそのまま向かうは『帝王』の元……なんだろうか。ざっ、とトップに囲まれながら大移動。私の前にベベリア。後ろ?にお父様。腰の剣に手を置きながら歩くユリユア様は右隣に。眼鏡をかけ直してため息をわざと聞こえるように放つウィル様は左隣。後ろはレーバレンス様なのだろうか?もう疲れ果てているから後ろにいなかったら待機かな。


 他の騎士に囲まれながら進んで……一つの扉にたどり着けば騎士が開けてくれる。そして中に入れば……中央に、椅子に座る『帝王』とご対面。テーブルは―――ごちゃっと壁に寄せられていた。それとサデュローグさんとギルツェルさんに抜き身の剣を突きつけられている。


「よお……引導でも渡しに来てくれたか?」


 …………………………………………ん?私がお話しするの?


「私が裁くわけではありません。まあ、お話しはしに来ました」


「んな猛獣をもって何を話すんだよ」


 それは……ベベリアの可愛さに決まっているじゃないですか。て、あれ?サデュローグさんとギルツェルさんの顔が引きっているんだけど……なんで?




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