特別休暇 8
修正いたしました。28.12.28
「あの……あれはなんですか?」
「私も思っていてね。ここに来てずっと見ているようなんだ」
そうなんだ。因みに、何を見ていると思う?
それは――クフィーじゃない?とお父様が返してきて私はなんと言うか、どうしようもない顔になってしまう。いや、だって。視線は今気づいたもので……
先ほどから感じる視線が気になって気になって仕方がない。それを気にしていたらウィル様たちも気づいてくれて……ぼそぼそっと話をして見ている。
目測だから正しい距離は言えないけど、10メートクターぐらい?の一定の距離を保ってなぜか着いてきている。目線は私たち。誰、かはまだ特定していないけどお父様は私だろう、て。その理由は大型の動物、触れあいコーナーに来て私がハムハムルンとパダイヤに戯れている影でじぃっと見ていたらしい。私はうはうはしていたので知りません!
ウィル様はちょっと気になってしょうがないみたい。状況を少しでも把握しようと大まかな取り調べは終わらせたけど……その間もずーっと、見ているんだ。なんだか背中がむずむずしたから、私もお父様の方からちょっと顔を覗かせて振り向けばいるし。ウィル様も対面しているような状態だったからお父様の後ろに飛び出る物体が気になって、ね。さりげなく移動しようとウィル様は頑張ったけどついてくるし。
熊はさすがに怖い。
えーと、熊はベベリアだったかな。私のヌイグルミにもいるよ。色は白かったから白熊なのかな、あのヌイグルミ。あれ……?
本物はヌイグルミの可愛さなんて一つもないんですけどねー。熊はそのままでした!あえて言うなら目が三白眼で怖さが2割り増し!牙が抜きん出てお前はセイウチかっ!長いだけじゃなくて先端が鋭すぎるよ!!私のヌイグルミに付いていなかったのはなぜ!?それでも視線は外さないっ……熊のストーカーが怖い!獲物を狙っているようにしか思えないよねっ!!
「キャロラリンやリッスンの次はベベリアですか?あの大きさだと城には入れさせませんからね」
ウィルおかん、登場。その前にもう移動は諦めたのですか?まだ見ているよ?
「買ってない、買ってないからな!?私はどちらかと言うとキーネを買いに来たんだ!」
「でも、見てますよ。確かベベリアが見つめる時って獲物を狙っている時ですよ。あと、求愛です」
「クフィーの可愛さは認めるが求愛はさせん!!」
熊に求愛されても色々と無理があるから。最終的に食べられちゃう図式しか浮かばないから!とりあえず、獲物を狙っているんだったら逃げようよ!あ、でも熊って背中を見せたらそれが合図になるんだっけ!?死んだフリってこの世界でも役に立つかな!?その前にお父様は背中をずっと晒しているけどね!
「あの、そろそろ私たちも行かなくては後処理が終わらないのでは?」
「――そうですね。先触れを送って調査官の調べまではなんとかなっていると思いますが、被害者の家族は早く解放しなくては……」
ぶつぶつと段取りを考えているのかな?顎に手を当てて色々と考えている模様。そこに一人の魔法師が来て耳打ち。聞こえているんだけどね。みんなと動物の移動も終わったんだって。じゃあ後は私たちとあのベベリアだけか。
「行こうか。私たちが最後だろう?閉めておくか?それと後でまた調べるか?」
「閉ざしてください。貴方が暴いたんですからもう検証も進んで黒幕を裁くだけですよ……あのベベリアはどうしますか?」
「どうって――こんなところに置いておく訳にはいかないから、出すしかないだろう?問題はその後だな」
私もそう思う。振り返ってみたけど、一定の距離はまだ継続中でやっぱりじっとこちらを見ているベベリア。たまに座り込む。でも私たちが動き出したら……ついてくるね。とりあえず全員が外に出てここを封鎖するからついてきてもらう事になったんだけど……
出てきたら外で待っていた馬車はユリユア様が貸してくれたキムスンの馬車。このまま城に戻ったら面倒事が増えるとウィル様が言うので、改めてその隣に用意した普通の手配された馬車を使うことになっている。
御者にはユリユア様に雇われているいつもの人なので戻るように言えばすぐに従ってくれる人。そんでもってこのままこの用意された馬車に乗って城へ……と思ったんだけどね。誰かが「うわっ!?」て声をあげたもんだからそこに集中する。
その注目を浴びている魔法師は?かたかたと体を震わせながらとある方向に指をさしている。言わなくてもわかるよ。それは私たちの後ろ、で振り返えれば怖い大きなベベリアがいるんだから。しかも、その大きな声に反応したのか口を広げて……欠伸だったわ!とにかく、ベベリアに驚いたせいでそれをどうにかしなくては、と言う問題が浮上したんだよ!どうするよ、あれ。
「あの、なんとかしてくださいますよね!?」
「……しまった。せめて世話できる人を少しは残しておくべきだった。さすがにベベリアまで詳しくはないぞ」
「私もさすがにそこまでは考えていませんでしたよ。まだ見てますね……いっそ娘さんが解決できませんか?確か『野獣の調教師』と伺っていますが」
「それは違います、ウィル八進魔法師様。私、調教をするような事をしたことがありませんので」
「言ってみただけです。回りが凄いからそのように見えていると、分析されます」
……ああ、しっくりくるね。確かに回りが凄いもんね。
それはさておき、ベベリアはどうしましょうか?もうすでに残っていた人員は遠巻きに距離を取っているので期待はできないと思う。それはウィル様たちもわかっている。腕を組んで考える素振りを見せて……試しに、私が声をかけて、従うようなら連れていく事になった。もし従って途中で襲われそうになったら迷いなく処分する有無もここで決める。
でも馬車は来た魔法師たちと残りの私たちの分しかないよ?ベベリアはどうするの?と聞けば一緒に、て……普通に死と隣合わせなんですが、途中で襲われそうになったら処分する以前の問題だよっ!
しかし、ここはお父様に任せなさい!となぜか胸を張って言いきられた!むしろ御者にもその言葉を言ってやって!そばたてていた御者の目が明らかに限界を越えてかっぴらいているから!!てか乗るの!?
「いいからいいから。早くしないと本当に一日が終わってしまう」
「………………おいで?」
「娘が何をやらせても可愛くてたまらないっ!」
お父様は軽くスルーで。さっきのキーネと同じように、ちょっと見つめてから腕を伸ばして声をかけてみる。これで来たら驚きだよねー、なんて思っていたらのそのそと来るもんだからみんなが生唾を飲んで見守る。私はあれが近くに来るのか、とちょっと現実逃避。あ、でも近くで見るとなんだかアビグーア中隊長みたいだね。意外と怖くないかも?
のしのしとやって来て……でかいな、本当に。私の手に鼻をちょんちょんとやって来るので撫でてやる。ちょっと湿っぽかった。ベベリアが健康の証拠だね!人の言葉が分かるのかはさておき、お父様は指に魔力をためてさくさくっと魔法を放つ。手のひらをかざしてバー!と何かを出せば入り口らしき氷の壁は今出した氷で完全に塞がれた。しばらくは入れないと思う。
「大人しくついてきてね?」
おお!なんか頷いてくれたよ!なんかこうやって見ると可愛いね、このベベリア!言うことを聞いてくれるみたいだからそのまま馬車に押し込んで……入らないからっ!つい突っ込んでしまったのはしかたがないじゃないっ。ハムハムルンと同じようにこいつも大人の等身より軽く越えた大きい動物なんだから入るわけがないんだものっ!つまったよ!?馬車がちょっと傾いたよ!?
連れていくよりもこっちが先の問題だと思うっ!もう!とため息をついたらお父様からお願いが。ベベリアは、自由に体型を変えることができるから、お願いしてごらん。との事です。ねぇ、それ、最初に教えておくべきじゃない?
とりあえず何をどう言えばいいかがわからないので小さくなって?とお願いしてみる。できたら私が持ち運べるサイズで、と。お願いしてみたらどうでしょう。ベキッ、バキッ、ゴキャッ、ミシッ――…
不穏な音しか聞こえない!
しかもぐぁあああぁああああ!!みたいなベベリアの気合いまで放つもんだから変身が怖すぎてお父様にしがみつきましたたもっ。なんだかあやすように背中を撫でられたけどねっ!最後まで叫び終われば……可愛いけど……可愛いけどっ!!くぅ~んとか可愛いんだけど!!のそのそ入ったのを見たらみんながせっせと馬車に乗った!このベベリアは行儀がいいねっ。
「なぜ小さくなれるのですか!?」
「んー?そりゃあベベリアだし」
「簡潔に言えばベベリアは身体強化の達人です。どうして魔法文字も書けないのに使えるのかは知りませんが……生体を調べた結果として、精霊に愛された動物とされてうやむやです」
「調べたんですよね?なんだか曖昧ではありませんか?」
「ベベリアは触れることをまず拒み、人を嫌います。ここで商品としていること事態がおかしいんですよ。まず、これを買おうとする奴は見栄を主張する貴族ですね。それこそ、ウブルルマを買ってしまうよな貴族です。でも大人しいですね……なぜでしょう?」
ウブルルマ……ああ、あの睫毛がやたらと長くてやたらと体の線が細すぎる馬……唇も立派だったよね。ちょっと思い出してしまってげんなりしてしまう。気づいたウィル様が、それが正しい反応ですと返してくれた。本当、買った人の気が知れぬってね。
てか身体強化で体を大きくしたりするのだっておかしいから!いくら魔法が使える世界だってそれはおかしいでしょう!?お父様!説明をっ。
「と言ってもね、嘘か本当かは別で過去に体を一時的に大きくした魔法師がいるからね。その後は全身筋肉痛で死んだように動けなかったと書いてあったけど。私はさすがにできないからね?クフィー。実在がするらしいけど、あれは魔法文字がかなり複雑にかつ長ったらしく最後は魔力操作で修正していくそうなんだ。魔法で体を自由にできる許可を出して、魔力操作で作り上げる、って感じかな?一応、結果としてはかなりの力を奮えた、とは書いてあったけど……もう再現は出来ないし誰もやれないから、禁書としてしまってあるんじゃないかなー?」
「……では、ベベリアはそれを意図も容易くやってのけているのですか?筋肉痛にはならないのですか?」
「くぅ~ん……」
お前さん、牙があるくせに可愛いな。目は三白眼のままだけど。……これ、また大きくなるときにあの音を鳴らすの?てか気合いがないとできないんじゃないの?
いつの間にか膝に手を置いてさ……え、いつの間に上っていたの?なんだか向かいのウィル様がぎょっとしながら眼鏡を直しつつ凝視しているよ。
そしてぽん、と私を叩く。心なしか「深く考えんな」みたいな事か伝わってきた。私がおかしいのか。ついでだから我慢していたし、触ってみると――意外と触り心地がいい!なにこれちくちく絨毯!!しかも頭を自分から押し付けてきた!!可愛い!!ちっちゃいと可愛い!瞼を閉じれば可愛いじゃん!当たり前だけどさっ。
「……もう、『野獣の調教師』は決定でいいと思います」
「なんでまたこんな狂暴なのばかりなんだ……」
ごめん。そんな事を言われても私にはわからぬ!そして着いたから下りるんだけど……ベベリアの登場にウェルターさんが吠えた。文字通り、吠えた。さすがに何を言ったのかは聞き取れなかったけど。ちっちゃいベベリアを見て警戒して危うく持っていた槍で攻撃されるところだった。
まあ、お父様がなだめて中に入れた――が、さすがにベベリアはそのままにするのは駄目だと言われたので私が抱えることに。実に大人しい熊である。そして私を抱えるお父様。ここは外せないんだとか。警戒心はあるのですか?何かあったときの対処は無理じゃない?てかこれ一番危ないよっ。攻撃されたら私、一瞬であの世行きだ。
そのまま……ん?なぜか騎士棟へ行くんですね。そして徐々に囲まれていく不思議……団体ができた。そのまま歩いて休憩室のさらに奥、みたいなところに案内されました。そこにはなぜですかね。レーバレンス様が仁王立ち……
「……やっぱりな」
歩く弊害とは、言わせないよ!?
「くぅ~ん」
「……今度はベベリアか。今しがた巻き込まれて……さっきまでは『帝王』――次はなんだ。もういっそお前は監視をつけた方がいいのか?何しでかすがわからん監視をつけておけ」
「レーバレンス魔術師殿、落ち着いてください。クロムフィーア若魔法師も被害者ですから」
「だったら俺を呼ぶな。そこの王宮筆頭魔法師が二日も休むものだから全部こっちに回ってきたぞ。俺は魔術師であって魔法師団の編成は管轄外だ」
「魔術師はただの役職名だろう。お前だって王宮筆頭なんだから出来る。だから頼んだんだぞ?」
「人に仕事を押し付けるな、と言っている。俺の仕事量はあんたも知っているだろう」
「知ってて出来るとわかっているから頼んだんだ。現にやってくれたみたいだし。後は半日、頑張ればいいじゃないか。そんな素を出すほどなに興奮している」
「とりあえず落ち着いてください」
ウィル様も大変だ。私も板挟みなんだけどね。抱えられているからレーバレンス様の怒りを真っ正面から受け止めなきゃならない……ちょっと向きを変えてくれたけどさ。
お父様の仕事ができると言うことはお父様がお休みの場合はレーバレンス様が一番の権力を持つことになるのかな?この2日間はいきなりだったからレーバレンス様が奔走したのかも知れないね。ベベリアの顎を撫でてみたら気持ち良さそうに顎を出してきたよ。
それをちゃんと見ていたレーバレンス様がすごく嫌そうな顔をしてお話しは打ちきり。とっとと処理をしたいそうなので、調査官を呼んで今回の事件をまとめあげていく。私もちょいちょいと答えて……無事に事情聴取は終わり。流れで次の事件に取りかかる。
「動物の入手経由を調べれば後はいい。問題はそのベベリアと『帝王』だ。しっかり今日中にけりを付けろ」
「レーバレンス魔術師殿……一応、聞きますけど『帝王』はどのような用件でしょう?」
「ウィル八進魔法師も知っているだろう。護衛の件だ。今は近衛騎士が二名と上流騎士が五名、それとユリユア様が見張っている」
「あいつも馬鹿だねー。ああ、ベベリアでも放り込む?」
「……くぅ~ん」
――首を横に振っているよ。熊さんが賢いな。てかこの子っていくつになるんだろう。あんなに大きかったから大人なのかな?
「嫌だそうです」
「それ、どうするんだ?まさか飼うのか?その前になぜ抱えている」
「着いてきた」
「着いてきました」
「……一定の距離を付かず離れず着いてきまして、言うことを聞いたのでそのまま待ってきました」
なぜウィル様を見るの、レーバレンス様。
「ウィル八進魔法師。頼むからどんな処理でもいい。問題が起こりそうな事はその場で片付けるようにしてくれ。私はこれ以上アーガスト家に振り回されたくないぞ」
口調が『私』になりました。落ち着きを取り戻したようだね。てかレーバレンス様が色々とお疲れです。もう能面になっちゃった。頭も抱え始めちゃった。本当に、お疲れ様ですっ。
ウィル様もなにかを思ったらしい。出来る限りそうします、なんて真摯に受け答えして眼鏡のずれを直しているよ。
「くぅ~ん」
「よし、じゃあご飯にしよう。私とクフィーは昼を食べていない」
「…………………………………………意味がわからない。後は王宮筆頭魔法師殿にお任せする。もう戻ってもいいよな?」
「レーバレンス魔術師殿、せめて報告書の確認と宰相様へご報告を」
「――私は忙しい」
「みな、忙しいです」




