特別休暇 6
200話に到達!ありがとうございます!
修正いたしました。28.12.18
「今日も色々あったな……明日はもう少し平和に行こう」
平和に出来るものならば、どうぞ……
どっかりと馬車に座って私を膝の上に乗せ、ため息も一緒に出す勢いでお父様はそう呟く。こんな時でも私を離さない。どれだけ娘ラブなのだろうか。
「あの、お話しとは……?」
「そうだね。馬車だとそんなに時間がないな」
よっ――掛け声をかけて姿勢を正したらしい。ちょっとお父様がピンと背筋を伸ばしているように見えた。
「おっさんについてだが……クフィー、あれは何をやったの?」
「あれとは?」
「植物園から出ようとして馬車での一悶着」
「なに、と言われましても……」
私にもいまいちわかっていない。なので、どうしてそうなったかを1つ1つ確かめるように順を追っていく。
おっさんの態度に腹が立って怒りが込み上げてきたら右目が熱くなった。だから右目を押さえて呻いてお父様たちが駆けつけてくれたけどイライラは鎮まらない。そのままその怒りを『帝王』に当てるように睨んだだけである。そうしたら今度は『帝王』が呻いて汗を流していて一瞬で気持ちが拡散したと教える。
そう答えるとお父様はうーんと唸って考えているようだ。手順はその時と同じなので間違ってはいない。何が起きたか、がいまいちわからないのだ。
「これは、魔力暴走の一種でしょうか?」
「普通だったら右目が【火】の魔塊だからそれに呼応して炎が巻き起こってもおかしくないし、どちらかと言うとそれはクフィーが中心となって起こる。――アトラナのようにね」
「……私の体はそんなに暑いとは思いませんでした。右目が暑かったです」
「魔力が体の全体にあるわけではなく、その右目に終結しているから右目だけ熱くなったんだと思う。しかし……気になるのは被害がおっさんだけだった、と言う事か」
「私、暴走を数回してしまいましたけど回りを巻き込んだものばかりだったと思います」
「それが普通なんだ。だが今回はおっさんだけ。考えられるのはクフィーがその魔力暴走をある一点のみを狙ったように操った」
「視認したからでしょうか?」
「暴走はまず意識を把握できない。混乱が生じる。その中で操ったとなればそれは暴走と言うより押さえつけていた魔力が溢れて使ったような――?でもあれ、どちらかと言うと【重圧】だよなー……でも暑がってたし」
「【重圧】とは、確か魔力を放出してある程度を操り、その魔力の量で相手に威圧感を押し付けるものですよね?」
「うん。ちゃんと勉強をしているね。さすがクフィー。因みに本心でどれくらい教本を把握した?」
「魔法は半分ぐらいでしょうか。雑学はあまり顔を出せていなかったので半分はまだ覚えていないと思います」
「7歳なら上出来すぎるんだけどなー。んー、どうしたものか」
そんな事を言われても……今さらながら自重ってした方がいいですかね?一応、訪ねてみる。すべてお父様たちに答えを求めるのはあれだけど、7歳が偉業を成し遂げるのは極めて危険なのだ。どれだけ尾ひれが付くのか……考えるだけでも怖い。
しかし、ここでお父様が例外をあげてくれる。なんと!レーバレンス様は例外だった!!なにそれ!?と聞き返せばレーバレンスも魔力が多いことからすぐに城に入れられたんだって。そんでもってレーバレンス様ったら1人で黙々と突き進んだから12歳で若魔法師を卒業。そのままとんとん拍子で突っ走って17歳だったか18歳で魔法師となって魔術師になったらしい。
魔術師は魔法具を作る人の称号で基本はみんな魔法師。魔法具を作る人は魔術師と名乗り、魔学に進んだものは魔学医と別けるんだってさ。へー。
で、実は見習いになった頃から魔法具に興味があったらしく、ちょくちょく作ったりしていたらお父様が勝手に持ち出して陛下に紹介しちゃったんだとか。あの時のレーバレンスの顔ときたらっ!てお父様は笑っているけど……きっとその時のレーバレンス様の顔は『てめぇ……何しやがったんだよっ』だと思う。レーバレンス様って怒ると口調か怖いんだもの!それで王宮筆頭魔術師になったんだって。大出生だね!
因みにお父様は?と聞いてみたら普通だよ、と返ってきた。聞かせてくれるらしいので聞いてみる。
お父様は10歳から入った貴族の若魔法師だったんだって。そしてそのまま順調よく進んで成人するときには若魔法師を卒業。1年で順々に上り詰めて20魔法師に。順調に上り詰めたとか普通にすごいと思うよ、お父様。1年でちゃんと学年を上がっていくとは……実は試験とかって難しくないの?
そして20歳のその時に――戦争が起きたんだって。お父様の人生がえんらいエリート人生だわ。その娘か、私。チートじゃなくてよかった。本当、よかった。お馬鹿な私がチートを授かっていたらきっとはっちゃけ過ぎてお城に閉じ込められていると思う。頷ける人生ルートだね。
「あ、お父様。言い忘れていたのですけど、あのオブディンに精霊はいます」
「うん。魔力操作でわかったよ」
「“ 声 ”も聞こえました。出してほしいそうです」
「純魔石にいる精霊の声が?精霊は聞こえないのに?でもまぐとりは聞こえるんだったか……魔素の量?でもあのオブディンにそこまで感じられなかったけどなあ。うーん……ウィルでも巻き込もうか。いやでも属性がなあ」
いや、さすがにそれは。でも一人で悶々しているよりは誰かそう言う分野の得意な人に助けを求めれればいいとは思うんだけど……ウィル様ってその分野の人?私には全然、わかりませんなあ。あ。
「着いたね。……まあ色々と後にしても遅くないか」
「そして怒られるんですよ、王宮筆頭魔法師様」
「かれこれ20年近くもやっているとちょっとぐらい、って思っちゃうんだよなー。みんなには内緒だよ、クフィー」
待たれよ!20年!?今20年って言った!?今確か42ぐらいじゃなかった!?てことは20前半でもうそんな高官位職についているわけ!?おっそろしい!!
「お、おおおお父様ってすごいのですねっ。そんなすぐに魔法師の王宮筆頭にはなれないものだと思っていましたのにっ(王宮筆頭とか王宮筆頭とかっ!!……私は今、何を喋った!?)」
「ははは!違うぞ、クフィー。本当はすぐになれないものらしいんだが私とレーバレンスの時は試験が簡単な物ばかりだったんだ」
嘘だ。この2人はきっとチートみたいな人たちだ!みんなが辛いと言っているものを簡単に終わらせてしまう人に決まっているっ!ユリユア様に聞いてみようっ。いや、もしかしたらウェルターさんの方が詳しいかもしれない!!
「おかえりなさいませ、あなた様、クフィー」
「ただいま。私としたことが、魔法衣と十進魔法師の証を身に付けていないことに気づかなくて帰ってきてしまったよ」
「まあ。オブディンはそれほど重要でしたもの。仕方がありませんわ」
「私としては、クレラリアたちと共に過ごす事の方が重要だよ」
「まあ。嬉しいですわ」
はい、ちゅーが入りましたー。おかえりのキスってヤツですね。わかりましたからそれは私を地面に下ろしてからやってください。何が悲しくて親のラブラブを目の前でわざわさ見なくてはならないのかな。2人とも、まだまだラブラブなのは分かったから場所を弁えてくださいな。一瞬で焦りも消えるとかすごいね、この親のラブ乱舞。当てられて急に冷静になれた。
ここまでラブラブな親は見たこともない。もうアラフォーのはずである2人に、どうしてここまでいちゃこら出来るのだろうか。そっと両手で目を覆っていたら頬に頭にキスをされましたが……愛情がありすぎてこの両手が取れません。その内にか私のファーストキスが取られるのではなかろうか。
ん?そう言えば家族のキスは求めないね。いつも自分が振り撒くパターンだ。アメリカとか日本国外の場所では娘や息子が頬にキスぐらいは返すのをよくテレビで見るのに……やらないけど。――赤ちゃんの時にもらっちゃう親っているよね?……私のファーストキスは大丈夫だろうか。トールお兄様に確認しよう――いや、確認してどうする。
にへら、と笑い返して運搬される私の脳内は変な1人突っ込みを終えて思考を切り替えるために行き先を見据えた。どこに行くのかと思えばリディお姉様のお部屋。ワーナが扉を開けてくれてそのまま中に入った。
「リディはまだ眠り姫だったのか」
「起きないな。少し心配だ」
犯人はユリユア様なのだけどね。苦笑いを浮かべてベッドの様子が伺える位置に座っていたたユリユア様は読書タイムだったらしい。ぱたりと閉じて部屋の主の代わりに私たちを迎えている。今度はユリユア様の膝の上だよ。
本当、私が普通の椅子やソファーに座れるのはいつなんでしょうか。もう少し食べて太ったら止めるのかな?太りたくはないけど。
「帰りが早かったな。私がいなくなってそのまま返ってきたのか?」
「いや、『ミスター・ペリルゴット』の店に行ったよ。すると面白いものか手に入ってね……城に預けて帰ってきた」
「へぇ……私が聞いてもいいものなのか?」
「遠慮してほしいな」
「なら、しかたがない。『下品』はどうした?ずいぶん静かじゃないか」
「その事でなんですが、おっさんは書簡を読んでいないのですか?」
「私に読ませようとしたな。私は断ったが『下品』は従者や侍女、奥方などに読ませるのは当たり前らしい。あちらの情報管理はどうなっているのやら」
へぇー。そう言うのって自分だけで読むんじゃないんだ。読ませるとかどこまでふんぞり返っているんだか。『帝王』の評価がぐんぐん下がっていくよ!
……そう言えば、私が『帝王』とあった時って変な音が聞こえていたような……?あれ、なんだったんだろう?本当に後々になってポロポロと思い出すなあ。
「お父様、『帝お』」
「呼び方が違うぞ、クフィー。『下品』だ」
「それか『おっさん』だ」
「どちらも酷い名前ですわね」
お母様、よくくすくすと笑えますね。つまりは楽しんでいると言う事でして……楽しんでいるの!?
「おっさんなんですけど、あのおっさんから鈴のような音が聞こえませんでした?私が連れ去られる時、可愛らしい音が聞こえたのですけど」
「鈴の音?」
「鈴と言えば………………ああ。あれは帝国の技術で魔力を通すと音を鳴らしてその音で大気中の魔素を揺らし、相手の判断力を揺さぶる魔法具だよ。おっさんは【風】の属性だから、そう言うせこいやり方をたまに使う。今はすべて没収したが」
「まあ。卑怯な方ですのね」
「そうなんだ。卑怯なおっさんだ」
「男の風上にも置けない奴だな。早く追い出したいのだがまだか?」
「今ようやく、自分の立場に気づいたらしいのですよ。あの書簡、今の今まで読んでいなかったみたいです」
「馬鹿か?私は殿下からの、と言ったぞ。ついでに返事は秋が終わるまでだ、とも。後どれぐらいで秋が終わるだろうか。早く静かな家になってほしいものだ」
「馬鹿ですから今ごろ慌てて屋敷内で粗末な狼藉でもして騎士に黙らせられているんじゃないですか?」
ふん、て鼻で笑っちゃったよ、この2人……てか本当に『帝王』って剣を持っていなければ弱いね。強いイメージがもうないよ。
考えたら『帝王』ともう1回は逢いそうだな……私の護衛に、と打診が来ているなら伝聞で納得ができないって言いそう。そうなると押し掛けてくるかな。
それを考えていればその懸念がお父様から問われた。そうなったら逢うのかい?と。そして私が出す答えは――………………曖昧にしかならなかった。たぶん、考えてしまったから情が出ちゃったんだと思う。さっきはスパーン!と決まったのに……長引かせると揺らぐから困る。
でもよく考えてね、相手は『帝王』でしょう?いきなりそんな事を聞かされたら生きるために必死になると思う。もちろんそれは気位からなる態度かと疑ったらそうなんだろうな、とも思う。オブディンを横取りしようとしたからね。爵位を使って。
私の場合はお父様たちがいるから、私に逢わせないようにして終わらせることも出来ると思う。それが一番で簡単な終わらせ方だとも思う。でもなぜだろうか……ちょっと聞いてみたいことが出来てしまった。
「おっさんは……なんのために戦っていたと思いますか?」
「……私たちでは、わからないな」
「クフィーが優しすぎて、お父様の涙腺が崩壊しそうだよ」
どうしてそうなるのだろう。お父様の飛躍がぶっ飛び過ぎているよっ。
「つまりクフィーはおっさんが乞うのであれば助けてあげたいのかしら?」
「……そこまで考えていません。でも、そこまで戦果を残した人がただ人を殺したいだけの人間なら……切り捨てます」
「もし、クフィーの何かの琴線に触れたら?」
「私にはノルアがいますから。ノルアと共に護衛ができる人ではないと、無理です」
ね?ここはリディお姉様のお部屋なのに、いつの間にか部屋に侵入したノルアくんや。本日もズボンを履いているユリユア様の服をよじよじして私の膝の上に乗っかってね。一緒に首をかしげる姿が可愛いです!
それはお父様もお母様も。ユリユア様も思っている様子。みんなしてぽそっと「可愛い」だなんて……ノルアが可愛いのは当たり前なんだよ!!
「明日はキーネの所に行こう。絶対に行く!」
そしてお父様がなにかを決断した!
おっさんの話はそれで終わりにして後はノルアの話で盛り上がっていく。次はベベリアなんてどうだい?なんて言われてもわかりませんから!確か……熊だったと思うんだけどさ。熊って飼えるの?
それよりキーネって誰。いや、何。




