特別休暇 4
修正いたしました。28.12.18
お腹がいっぱいです。珍しい……今回は少食だった!そりゃあ魔力を消費していないからなんだけどね。キラキラも見ていないし。
ランチは『ミス・トリアーネ』から歩いて気持ち10分のところ。私はお父様に運搬されながら『帝王』が後ろで肉が食いたいとか言う台詞を無視してたどり着いたのがもうレトロ感が漂うお店。
壁は薄いグレーだからクリームとかで統一していると思われます。その他はたぶん茶色とかレンガがあるから赤茶色でこれも統一されていると思う。ちょっと濃いめのグレーとか薄目のグレーとか色々と見えますよ!看板は猫!!可愛いですっ。
チリリンと音を鳴らせて入ってみればすっ――と出てくるウェイターさん。お父様が私たち3人と残り4人を別々に個室にするようにお願いして案内をしてもらう。これで気兼ねなく食べられるね!
そして長いテーブルにシミが見えないテーブルクロスと背もたれに黒っぽいグレーが掛けられた四角い椅子。ささっ!と子供用の椅子と交換して私は両親の間に座ってお食事である。向こうはきっと『帝王』が真ん中なんだろうね。ポメアをここに呼べないことが残念だよ。やっぱり貴族が通う店に侍女は同伴って苦しいよね。
そんなことを思っていたら配膳されるお皿。なぜかポメアも混じっていた……仕事熱心ダネ!ばばんと用意されたサラダやお肉、お魚にスープと並んで奥にクッキーが……クッキーは気にしない方向でウェイターさんに食べたいものを取ってもらう。私はポメアに頼むね!
でもそんなに食べられませんでした……だってお肉は塩だけだし……お魚は茹でたのかな?味がしなかったような気がする。サラダは生だったね。ドレッシングがかけてあったけど……油成分が多かった。味の判断がつかないよ。
「もういいの?」
「お腹がいっぱいです」
「ちょっと量が多かったかな?」
どうだろうか。家とおんなじくらいだと……でもお父様たちはまだ食べているので、邪魔しない程度に話に花を咲かせることにしましたよ。と言っても私は受け答えが大半だったけどさ。途中からポメアが見えなくなったからご飯を食べに行ったかな?そう言う事にしておこう。アーガスト家はブラックではありませんので!
お話しの内容は次はどこに行きたい?何が欲しい?気になるものは?とかとか。そのほとんどが曖昧に答えてしまったのは仕方ないじゃないか。両サイドから総攻撃なんだからさ!もう疲れたよっ……
時間をかけてお昼を食べたら今度は宝石店なんだって。もう行き先は勝手に決まっていたよっ。まったく……
そして外に出たら『帝王』が騒ぎ始めました。お代は自分持ちだったらしくていきり立っています。それでも軽く流しちゃうけどね~。そして最後にサデュリローグさんとギルツェルさんに黙らせられる、と。これが連携だ!隙がない!そして目立ってしょうがない!!
馬車は使わないらしい。今日はとことん歩こうか、なんて2人が顔を見合わせて微笑んでおります。たぶん私は運搬になるからお任せしますよ。もう好きにしてくれい。
そんな訳で宝石店にさくさく進む。意外にもさくさくと進むな~とか考えたけどさ、よく考えたら止まってしまえば『帝王』がうるさいよね。ちらっと後ろを振り向いて見てみるけど――すごく不貞腐れてる……目があったような気がしたが私は気にしない。『帝王』の後ろにいるポメアがちゃんとついてきているか見ただけなのだよ。
「やはり、ここですね」
「ここが一番の良質を揃えているからな。さすがだと思うよ」
「クフィーは何色がいいかしら」
「3人で選ぼうね」
「もちろんですわ」
いや、任せた!――なんて言えたらどんなにいい事か……うふふ、あははと入っていく2人に誰も止めるものはいません。文句は後ろの方で随時聞こえるんだけどね。「ここかよ」だって。なんとなく同意ができる。門番みたいな騎士が扉の両脇にそれぞれ2人も立っていたよ。
お店の名前は……『ミスター・ペリルゴット』。今さらながら『ミス』と『ミスター』の使い分けがあるのはなぜ!?これも古の歴史の影響ですか!?これはさすがに日本語ではないよっ。
突っ込みは今日もレベルアップを果たす。今の私の突っ込みレベルは2?ぐらいかな。そんなに突っ込んでいないし……いないよね?レベルの上限は最低で50と思っておけば気にするほどではないよ、私。うん。何を考えているのでしょうね?
――た け て……
ん?どこかで何かが聞こえた。いつぞやのパターンだね!まっさかあだと思っていますけど。
「まあ。アーガスト伯爵に夫人ではありませんか。お久しぶりですわ」
「久しいですね、ペリルゴット伯爵夫人。今日は末の娘と参りました」
「あら、可愛らしいご令嬢ですこと。顔立ちがアーガスト夫人に似ていらっしゃいますわね」
「目元は旦那様にそっくりですのよ?」
(どこらへん!?)
「お二人の良いところを授かりましたのね。私の娘と大違いですわ」
そして例のほほほほ……私の自己紹介、なしで終わりました。お母様とペリルゴット夫人が話し込んでいく勢いなので入る隙と言うものはない。その中に突っ込んでいくお父様に娘は感服いたしますよ。ついていけないので下ろしてもらいたいです。
でも残念ながら腕が疲れたわけでも、ましてや離したくないとでも言うように私の足と体をがっちりとホールドしているので下ろさせる気配が感じられないんだけどね!話しかけられないのが救いなのかっ。退屈なのは変わらないよっ!
内容は多額購入をありがとうございますから始まってリディお姉様の話に移り、宝石の価値に移行したらデザインの話に転換され取って置きの宝石の流れです。長い……
その間に僅かながら聞こえる“ 声 ”。出入り口から何かが聞こえたと思ったけど……お店のカウンターまで近づいたらちょっとだけよく聞こえてきた。カウンターはちょっとだけ低くして見下ろせるぐらい。アンティークの箱に1つ1つ真ん中に乗って蓋を開けた状態に並べてある。
店の中は通常のお店より出入り口から半分の広さしかない。まあ、多少は狭いけど、代わりに後ろは宝石を管理している場所かな?扉と壁があるね。
「今日はこちらのお嬢様に合う宝石をお探しでよろしいでしょうか?」
「そうだな……色はやはり青か」
「緑もいいですわ」
「では――」
結局、名前は紹介されなかった。いいのか。とりあえず左から順番に見ていく。私から見て――まあ、加工されている宝石ですね。これは丸く削ったオーバルカボッションかな?えーと、ラテン語だった?か、それで確か卵の意味で……卵に似た曲線のことを指すあれだね。あと卵形、長円形、楕円形のことも指すね。ついでに他の曲線とオーバルは明確な定義がなくて様々な曲線のものがオーバルと呼ばれてるんじゃなかったっけ?カボッションは上半分をドーム型にしたジュエリー用語……だったかなぁ?うーん……もう前世の物は調べられないから不確かかもわかんないから困るっ。
話の内容から青玉らしい。サファイアだね。色は光りを少し反射しているから特定がしにくいけどちょっと濃いグレーの宝石は箱の中に敷き詰められている布が黒っぽく見えるせいか、輝きがわかりません。
いいものらしいけど、お父様とお母様はじっくりと一通り見てから選ぶそうなので説明を聞いたら次の宝石に移る。
次は翡翠。てことはエメラルドだね。でもエメラルドって翠玉……ここでは通用しないか。カットはエメラルドの硬度もあってシンプルに四角いやつ。世界4大宝石が2つも並んでいて恐ろしい。店の前に立っていた騎士が頷ける。ダイヤモンドってあるのかな?あとルビー。そうすると4大宝石が揃うね。
透明度はなんだろうか……ある方かな。光りも通っているようだし………………でも下の布がねえ。黒っぽいから石の輝きなんてわかるわけもない。その布を反射させているからかはっきり言ってエメラルドは黒く見えた。つまんない……
だからきょろきょろと見渡してみる。つまらないので。本当、説明だけってつまらないから。なんで色がわかんないって言っているのに宝石を見せるかな?お父様、ボケちゃった?あ。キラキラを発見!
なんで早く見渡さなかったのだろうか。気にしていればわかっただろうに。左から順番に見るとしたら時間がかかるけどそこに並んでいる。キラキラは微量だけど強い光り。もう少し近づかなければ聞こえないのかな?
「どうした?クフィー」
「あれが気になります」
正直に言おう。あれだけがなぜかキラキラとしているのです。
あれはどれ?と言われたのでとりあえずあれとしか返せないので移動してもらう。そのまま右に移動して……
――たすけてっ。ひっく……だれかたすけて!
「これです」
「まあ!すごいですわ。オブディンを見抜くだなんて、娘さんは素敵な目をお持ちね」
「すごい真っ黒な宝石ね」
真っ黒?オブディン……オニキス?
「ちびのたまたまだろ。オブティンの価値なんてわかるわけがねえ」
「あれは無視してかまわないよ。それで?このオブティンは……」
「これは火山の近くで採れたものですわ。隣国のロワクロから取り寄せましたの!ここでは珍しいですから少し価格が他のよりも高いですわ」
ああ、オブシディアンね!つまり黒曜石か。標本でナパッチの涙とか……アパッチの涙が……どっちだっけ?まあいいや。とりあえず黒曜石は真っ黒い粒だからそれほど嫌ではない。うん。分かりやすい。
で、そのオブディンは希少価値が高くて取引も高値で買い取ったと……今日はそのお披露目が偶然にも被ったんだとか。それで、黙ったままこの魅力に気づいた人に商談を持ちかけようと考えていたんだって。へえ~……
『だれかっ!おねがい……たすけてっ……こわいよぉ……だして!ここか、らっ……だしてっ』
「お父様、これは……欲しいです」
「え」
「まあ……」
「いつも買っていただいているので、少しだけお安くいたしますわ!」
たぶん――純魔石だよね、これ。精霊が入っているんだと思う。でもなんで出たがっているのかな?この石に入っているってことはこの石が依り代と言うか家と言うか……まぐとりに聞かなきゃわかんないなー。
出し方もわからないし、ここであったのも何かの縁だよね。だから是非とも買い取って欲しいんだけど……
「ちびが何を言ってんだ?似合わねーよ。それは俺が買う。引っ込め」
なんか、『帝王』がでしゃばってきた。しかも腕を組んでふんぞり返っている。そんな『帝王』の両脇を固めている騎士の2人は睨みを利かせて殺気立っていた。
お父様は?「気にしないでください」と完璧に聞いていない。むしろ流している。無償髭のおかげでペリルゴット夫人も『帝王』を品定めして無視することにしたらしい。お父様と向き合ってお金の話に移ろうとしていた。さすがにお金の話はあれだったので下ろしてもらったけどさ。
気に入らないみたいだねー。ずかずかと『帝王』がこっちに来ちゃったよ。慌てて離れる私の身にもなってください!自慢じゃないけど、走るのはおっそいんだよっ!
「おい。俺が買うと言っただろうが」
「無一文のおっさんが何を言う。取引の邪魔をしないでくれ」
「あ?俺は侯爵だ。お前より爵位は上。伯爵風情がいい気になんな」
「ん?――……………………………………ん?」
首をかしげるお父様。何か悩み始めたようです。隣にいるお母様は何かを悟ったのか、ペリルゴット夫人の手を引いて少しだけ距離を取っているね。ポメアは私の前。サデュリローグさんとギルツェルさんはいつでも踏み出せるようにちょっとだけ体の位置を変え始めた。『帝王』は――なんかイライラしながら突っかかろうとしている。
「暴れたらお二人とも、金輪際で出入り禁止ですわよ。もちろん、オブディンも売りません」
男がちょっといざこざをやっちゃいそうな雰囲気でも、強気の人だね、ペリルゴット夫人って。しっかりしているよ……
「おっさん、確認だがユリユア様からお前の処遇を書いた書簡をもらっていないのか?」
「俺の処遇?視察団だろ」
「いつの話だ。それはもうとっくの昔に他者へ託したぞ?おっさんは視察団ではない」
「……は?俺は聞いてねえぞ」
「おっさんの事だから聞かなかったんだろう?ユリユア様に託したのに……」
「ユリユアが俺の嫁に来てくれるならってまだ聞いてない」
「あのな、さっきも言ったがおっさんは無一文だぞ?とっくの昔に爵位も剥奪。祖国から追放処分扱い。おっさんは身一つしか残ってないんだぞ?ユリユア様の屋敷にいられるのはまだ保留部分が残っているからあそこに滞在できるだけで、おっさんには何も残っていない、持っていない状態だ。この前か?書簡を送っただろうが」
「――は?出鱈目を言ってんじゃねええ!」
「ああ、グレストフ一進魔法師殿。エルダーグは書簡を読んでおりません。ユリユア様に読ませようとしてそれっきりです」
「グラムディア殿下からの書状ですので、たぶんキムスン邸にあるかと」
うわ。『帝王』ってば何やってんの?てか色々と訳がわかんないことになっているよ……一応、突っ込んどこうかな。『帝王』ってエルダーグと言う名前なんだね。そしてこんな人でも侯爵だったんだ……元、だけど。
それから「戻る!」とか言って出ていっちゃった。騎士の2人も慌てて追いかけていったよ……残された私たちはポカンと――私だけだったようです。大人組はそう言うのに慣れているんだと思う。
今のはご内密に、なんて軽く言っているけどそれでいいのか、王宮筆頭魔法師。口止めが軽すぎるよっ。でもさらっとそのまま手続きに流してしまうんだから慣れているんだろうなー……
まあ、とりあえず――無事にオブティンは買えました。まる。因みに請求はベルック宰相様へ、みたいな事をちらりと聞いたけど……子どもにはわからなかった、て事にしておきます。うん。その宝石をなんとかしたら聞こう。




