特別休暇 2
修正いたしました。28.12.18
植物園から出て馬車が2台止まっていた。1つはアーガスト家の馬車で、もう1つはキムスン家の馬車。つまりはユリユア様の馬車。そしてここで問題が発生。ユリユア様が私と一緒に乗りたい、と言ってきたのであーる……
私は別に構わないのですよ。なんと言うかお父様とお母様がタッグを組んでいるあたりで諦めって肝心だよね、て言うフレーズがテロップで流れてくるからさ。本人が休暇しているならいいじゃないか。私の用事は当に終わっているからね。
問題と言うのが、ユリユア様が私と一緒に乗りたい、と言う事だけどそこの問題ではなく、一番の問題はその後に起こった。スルーを心がけましょうね、と言っていた対象の『帝王』が暴れたからですよ。
どう暴れたかと言われたら文句を言っているのに聞き入れてくれないからと馬車を壊しちゃったんだよね。本人は――多少の八つ当たりを含めて惹き付けようと殴ったみたいなんだけど、それが見事にダン!バキ!てさ。同時に聞こえてきちゃうと言うね。馬車の扉がなくなったよ。てかそれ……我が家の………………
まだ朝方でよかったよね。しーんと静まり返った路上ではまだそんなに人が行き交っていないおかげで私たちと……たぶんいるだろう護衛騎士と御者の人だけだったから悲鳴はあがらない。代わりにみんなの冷たい視線と苛立ったため息が放たれる。
ここで私もちょっとイラッとしちゃってね。おっさんが駄々っ子みたいになに暴れているの?そっちは国からの遣いとして来ているくせになんで自由奔放に振る舞えてんの?とかだんだん適当な事に苛ついてきて――右目が熱くなってうっかり踞ってしまった。
お父様がすぐに駆けつけてくれて私を落ち着かせようと奮闘するけど……変だね。なんだか怒りが治まらない。そしてなぜか私はその怒りを『帝王』にぶつけた。いや、睨んだだけなんだけどね。
「うっ……な、にぃ!?」
「クフィー!」
わかんない。わからないけど、睨んだら『帝王』が汗をぶあ!と流して頭を抱えて踞った。その様子がよくわからないけど、何かしてしまったと思ったら急に不安になって熱は冷めていく。そうすると『帝王』は荒い呼吸をしながら地面を見つめているだけだった。
隣で見ていたお母様が優しく私の背中を撫でながら何があったのかと聞いてきたので――『帝王』の態度に怒りを覚えたと、正直に話した。睨んだら『帝王』が苦しみだした事も。
そうすると今度はお父様が『帝王』に問いただす。何があったんだと冷たいセリフ。あっちも正直に、私と目があったら急に体の中が熱くなった、と答えた。
まあ、ちょっとトラブルになったけど、このおかげで『帝王』は静かになった。しかし、問題は続くものなのです。馬車が1つ使えなくなったことにより、4人乗りの馬車が1台しか使えなくなりました。人数は?大人が5人に子どもが2人。リディお姉様は成人していないから私の仲間。
さて、まさか子どもたちを親の膝元に乗せるわけにはいかない。隣の領地に旅行へ行ったときなんか貴族のルールかどうとか言ってた癖にね?初っぱなでルールを破っちゃってたのによく言うよね。ポメアだってルール違反だよ。
あと、始めて知ったのだけど馬車にも重量制限があるらしくて4人乗りを無理矢理に6人も乗るなんて止めてください、て御者の人にやんわりと注意されました!そりゃあそう言いたくもなるよね。しかも、『帝王』はなかなか重いらしい。
実は(?)ここに来るまでユリユア様が乗ってきた馬車には護衛騎士の二人も乗っていて馬が少しへばったのだとか。てかいつの間にか知らない男の人が二人も増えている。私の様子が変だったから駆けつけてくれたんだって。
一人は柔らかそうな……整えられた髪と顔で常に微笑みを携えているのか、に――こり、と笑って自己紹介。不思議とお花が飛ぶにっこりである。これぞ柔和な微笑みである!なんかお母様に似ているかな。たぶん、配色が被るような明暗だからだと思う。名はサデュリローグ・ピィ・アーナントさん。アーナント……どっかで聞いたことがある家名。なんだったかな?
もう一人はツンツンしてそうな髪で、濃いグレーだけどちょっと黒っぽい色の人。あ、瞳も一緒なのかな?――ニアキスを思い出したわ。肌も何となく薄いグレーが掛かっているね。焼けたのかな?なんだか口をへの字にしていないと駄目なの?不満です!と言っている顔で私を見ないでほしい。名前はギルツェル・シィ・メオロバル。こっちもどっかで聞いたことある。なんだったかなー……
二人はアビグーア中隊長よりちょっと豪華な軍服を来ていらっしゃいますよ!やっぱり軍服って格好いいよね!!腰に剣を帯刀して『帝王』の事もあるからと、いっそ姿を出したまま護衛をさせてくれとの申し出。『帝王』は任せてください、と言われれば頼むのが自然なのです!お父様の本音がポロリとしたけどね。そこは威張ってもいいと思った。だって『帝王』はいらないし。
でね、ユリユア様の所の馬車には本当は4人が乗っていたんだよ、と言うカミングアウトにもう馬車は諦めることにしたらしい。人数が多いのになぜ取り合いしなければならないのか。問題はもういらない。問題が起こるのならば馬車は諦めてしまえ。それで黙らせて歩くとこになったよ……お父様がなんだかお怒りである。なんだったんだろう、この時間。
大所帯で貴族街を歩き回るとか……目立つな……でもみんな気にしないと言うか大雑把加減がもう、ね。寒い……
秋だと言うのに寒い。秋だから寒い、の間違いだった。襟を詰めて袖もばっちり締めたのにっ。右目の熱は引いてしまったので寒さは普通に感じる。ポメアがさっとショールのような物を掛けてくれるけどね。私、歩かないから動かないでしょ?どっちにしろ寒いんだよ。
次の目的地は仕立て屋なんだって。あの場所です。『ミス・トリアーネ』のお店。後から知ったんだけど、貴族がお店を出す時はたいてい自分の名前で出店するらしい。成功すればその人のステータスが上がるからね。あ、思い出した。コスモスはこの世界でコスンだ!いやースッキリした!
そう言えば無視していた『帝王』が文句を言ったけど、ユリユア様に黙らされて地面とまた挨拶していたよ。無言だった……追加攻撃でサデュリローグさんとギルツェルさんが地面とキスさせていたのは気のせいじゃない。二人とも近衛騎士なんだって……強いんだね。人って見かけに騙されちゃ駄目なんだってよくわかった。てか『帝王』て二つ名がつくくらい強いんじゃないの?なんか弱い……
「ユリユア様、少し歩きたいです」
「うん?そうか……」
ちょっとガッカリしているけど、寒いんだってば。少しでも動いて体を暖めたいよ!代わりに手を繋ぎましょうと言えば嬉しそうにするからいいよね。ちゃんと手が届くし。
そしていそいそと来るお母様とお父様は――はっ!と片手しか空いていないことに気づき、二人して葛藤して……リディお姉様に譲られた。妥協案らしい。代わりに抱き合うようにくっつき始めたから何も言わないでおこう。てかリディお姉様、文句は言わないんだね。
因みに『帝王』は騎士サンドである。顔が真逆な2人に挟まれながらぶつぶつと文句を言っていた。誰も気にしないけどねー。
でも距離があるんだとか。疲れたら言いなさいとお父様が言ってくる。実際にどこまで歩いて疲れるのかは知らないけど……魔法院から食堂の長距離を歩いているから大丈夫と思いたい。あれって結局は何キロメートクターあるのかな?誰か測った人~!いたら返事をしてください。
でもここでまたまたトラブルが。ユリユア様とリディお姉様と私の歩幅が合うはずもなく、ユリユア様たちが合わせてくれているのだけど……前を歩くお父様とお母様たちとの距離ができてしまい、後ろにいた『帝王』を騎士でサンドしている3人とぶつかりそうになって大変、ごちゃごちゃしてきたのです。
これは私が悪いか。歩幅がちっちゃいもんね。大股で歩いたら疲れちゃうからいつも通りの歩調で歩いたのが駄目だったみたい。二人とも合わせてくれるし何も言わないからゆっくりしすぎちゃったよ。
「俺が運んでやろうか?」
「クフィー、疲れていませんの?」
「まだ歩けますよ」
「ゆっくり行こう。焦ってもいいことはないぞ」
「おい。人が親切に言ってやってんだぞ」
「クフィーは小さいですわね。わたくしの時はもう少し大きかったですわ」
「羨ましいです。私も早く大きくなりたいです」
「クフィーはそのままでも可愛いぞ。急がなくてもいい」
「おい」
ガスッ、とね。なんか後ろで聞こえました。なにかは見なくてもわかるでしょう。きっとスルー対象の『帝王』がしつこく私たちの会話に入ろうとしたから、護衛騎士のどちらかが殴ったんだと思う。サデュリローグさんだったら怖いな。さっきもにーっこりと殴っていたんだもん。
それでもブレない我が家のメンバーは後ろを気にしないでゆっくりと歩く。大所帯で貴族街を歩く事なんてなかなかにないから、馬車の通りが多くなった道ではなんだか視線を感じるような気がした。もしかしたら後ろの3人が目立つのかも知れないね。
「リディお姉様、あれはウヒヒンマですか?」
「どれですの?」
「向こうの道に見えるあの馬車だろう?ウヒヒンマは馬力が強いから、ああやって荷物運びによく連れられるな」
そうなのです!向こうの道にはゆっくりと歩くウヒヒンマが2頭と御者の人が2人。後ろには馬車ではなく高く積みあげた木材をくっつけた荷台が繋がっていて運搬されている光景がある。
ゆっくりと歩く歩調は私と一緒。いや、むしろあっちの方が持久力があるから……ま、負けないよ!?
でも勝負をする気はありません。だって途中でリタイアしなければならないのですから。だからリディお姉様とユリユア様にウヒヒンマのお話しで盛り上げてもらう。黙々と歩くのは、嫌なのです。
「ウヒヒンマは本当に足が太いのですわ。あの足は柔軟もあり、強度もありますのよ。ですが、クフィーは近づいてはなりませんわ。クフィーは小さいですから潰れますわね」
「確かにクフィーが潰されてしまうね。これだとゾゾンも遠目から見るしかないな。まあ、ゾゾンは狂暴だからまず特定の人でないと触ったり近づけたりできないが」
「ゾゾンはどのような動物なんですか?」
「そうですわね……あのウヒヒンマをもう少し体も足も大きくして、耳も顔より大きく広がった動物ですわ」
「(やっぱり象かな)耳が大きいのですか!?見てみたいです」
「今は見れないだろうな……ああ、帝国だと頻繁に見れるかもしれない」
「帝国に来るかー?見せてやるぞー」
「(めげないなぁ)機会があれば。今はウヒヒンマでじゅうぶんです」
そして『帝王』が追加と言うように「俺も話にいれてくれ。おっさん泣くぞ」と言っている。けどここでも誰も相手をしない。さすがに何かしたら騎士の2人が何かするみたいだけど。本来ならここにいない人たちだからね。やっぱり無言で後ろからガスッ!とまた音が聞こえた。色んな意味で振り向けないわ……
そしてやっぱりウヒヒンマに越される私たち。勝負なんて始めからしていないけど、やっぱり負けた感じが悔しかったのでユリユア様に抱っこを要請。それなりに疲れたから――いや、疲れていないけど、実は頻繁にちらちらとお父様が見ていたんだよね……
端から見たら?不審者である。でもこのメンバーがそれを見れば「娘を心配しているんだね」で終わってしまうので凄い。分かってしまう私もか。頻度が増してきたからユリユア様におねだりするしかなったさっ!
そしてその私の姿にうるさいのが約1名。名前?そう言えば知らないかも……あれ。『帝王』の名前って聞いたっけ?てか聞いていないよね?『帝王』でいっか。
なんだか羨ましいがどうの私にちょっと文句をぶつぶつと……だから嫌われるんじゃないんでしょうかね?少なくともウォガー大隊長はそんな文句は言わないよ。ユリユア様を友と言うような親しい感じだったし。伯父って呼びたいなー。そうしたらきっとあのしっぽを触れるだろうに。
ユリユア様の腕に乗ることで一気に速度がアップ。おかげですぐとは言わないけど早めに『ミス・トリアーネ』のお店についた。お父様とお母様ペアから順番に入っていけば中から嬉しそうな声が聞こえてくる。
相変わらず楽しそうに掛けよってハグしに回って――さすがに殿方は遠慮したようですね。てか私が大移動した。ユリユア様からまさかのトリアーネ夫人の腕の中へ大移動!そしてくるくる回って私も回るっ。体の中のお茶が!?
「聞いてくださいな!わたくしの商品がまた流行を得られそうなんですのよ~!」
「まあ!素敵!もしかしてこの間かしら?」
「ええ!今日はぜひとも、試着だけでもして行ってくださいまし!」
「いい時に来たみたいだ。行ってらっしゃい、クレラリア」
「リディもクフィーも行っておいで。私も花の妖精たちを間近にみたい」
「ユリユア様ったら!い、行って参りますわ!」
その前に私には休憩を。回ったからちょっと頭がふらふらですから~……言葉は発していないけど、元々トリアーネ夫人の腕の中にいたから連れ去られた。休憩?ないらしいよっ。泣いてもいいですか!?
そして部屋に入った仕切りの向こうで立っていられなかった私は着せ替え人形よろしく!とばかりにポメアも参戦してぱぱ!と着替えさせられた……髪も弄るんだって。
座っているだけでもう着せられたんだからこれが休憩だと思っておこう……お母様とリディお姉様のきゃっきゃっと聞こえる笑い声を耳にどこか遠くを見つめる私は場間違いだな、なんて。できるだけ気づかれないように遠くを見つめ続けた。




