グレストフの仕事。それは
修正いたしました。28.12.17
『人形』について
動物型を『ぬいぐるみ』
人形を『人形』
と表現することにしました。
人形店に『人形』と『動物型』が両方売っている設定です。
「さて……どうなったかな」
クフィーを午後の授業に出させるために泣く泣くっううっ――見送って、私は解いてくれた問題集を手に取る。クフィーの可愛らしい字で書かれた答案はすべてを書いてあるようだ。
結果はどうかなー?私としてはほとんどを実戦ではなく、教本で何度も同じことを繰り返し費やしているのだから自然と身に付くと考えている。と言うか、若魔法師の初期試験はすごく簡単だ。属性の全冒頭の部分だけを穴埋めさせ、それを下に同じことを書かせるだけである。復習は大事だからね。間違いだけ返ってくるので終わった後でも問題はないだろう。後は本人のやる気だと思う。
そしてそれぞれの属性に対して思っていることを紙一枚を奮発して書かせている。これも自分の見解の見直しとか、試験だからこそいいものを書こうと考えるものだからいい具合に頑張ってくれる。
中には適当な事を書いている者や、空白にしているものもいるがそう言う奴は受からない。これは試験である。この問題集に意味はちゃんと、ある。
私たち魔法師が地方や城の業務で報告書を作らなければならなくなるからだ。書き方はまた別問題だが概ね書くことは変わらない。自分の見解を相手にどのように書けば伝わるか。言葉の使い方など様々だ。それを適当にされては困る。それを読む私の身にもなってほしい。理解しづらい文を読んで何を悟れと言うのだ。
あとは協調性や上下の関係を把握などの色々を……まあ、それは私のクフィーだから別に今は関係がないだろう。
それにしてもなりたいものが魔学医か………………お父様としては一緒に魔法師となって傍で見てお仕事を教えなかったんだけどなー……私の権限で絶対に同じ配属にして私が見守るつもりだったのにっ。
娘の成長を間近で見れる機会だったのにっ!なぜだっ!!なぜそっちを選んだんだクフィー!!理由は聞いたけどっ。……うーん。白と黒しかわからない目で魔学医か……はっきり言って出来ないだろうな。薬草もだし鉱石も駄目だろう。粉末だって怪しい。液体も臭いとかで判断できるが色の変化がわからないとなるとかなり難しいと思う。魔力が光って見えるのは魅力だけど魔学医向けではないな。
でもなりたいと言っているのだからその手伝いはしたい。そのためにもソマディオ殿の解剖はぜひとも成功してほしいものだ。なにか発見があればクフィーの希望に日が差すだろう。
そして喜んだクフィーは私にお礼を言ってくれるだろう!当然だな!このお話しを持ってきたのは私だからな!レーバレンスが話し出したけどこの情報を掴んだのは私だ!成功したらお祝いにみんなで食事に行こう。いや、でもトールか遠征にっ――
はっ!?そうだ!ぬいぐるみを贈ろう!クフィーはぬいぐるみが大好きだからねっ!でも何がいいだろうか?ポーテにウーモルス、コーリャもネネニャー。ラディオンはさすがに大きすぎたからやはりクフィーが抱えられる大きさだろう。
人形店にクフィーを連れて選ばせるのはちょっとなー。私があげて喜ばせたいのだ。かと言って大半の可愛らしい部類は渡してしまった。新作はないだろうか?またウィルにあそこへ行ってもらおうかな?確か次はガルだった気がする。そうだな。エジーラとも仲が深まったようだし、ウィルについでに選ばせるのも楽しいかもしれない。きっと顔を真っ赤にするだろう。前回もそんな感じだったらしい。
はっ!――しまった!………………この問題集の最後に好みを書いてもらえばよかったんじゃないかっ。私としたことがっ!!
誰だ!扉を叩く奴はっ!私は今、ものすご~く!大切なクフィーのために悩んでいるんだぞ!!……………………もう夜の3の鐘が鳴ったのか――ロノウィスとドトイルでも終わったかな。
「失礼します。例の件、調べ終わりました」
「私も終わりました。報告をしてもいいでしょうか?」
「それより、クフィーへあげるぬいぐるみを考えてくれ。次は何がいいと思う?」
「……あの、こっちを先に終わらせて、それからゆっくり考えた方がいいかと思います。少し間を置いた方が後でよりいい案が出てくるかも知れませんよ?」
「言ったな?では後でクフィーが喜ぶいい案を聞かせてもらおうか。ドトイルもな?」
なんだ、その顔は。目が泳ぐほど嬉しくて我慢しているのか?仕方ない奴め。後でクフィーにどのぬいぐるみを持たせたら可愛いか語り合おうではないか。
今回、私が彼らに渡した任務はちょっとした雑務だ。ロノウィスにはクフィーに婚約者を押し付けようとしている貴族の洗いだし。私用だが最近は魔法に関しての問題よりこっちをどうにかしないと隙あらば聞いてくる奴等に腹が立っている。そんな奴等は辺境にて飛ばしてやろうではないか。
それとロノウィスには魔法師の属性の割合を調べてもらい、どこの属性師団が不況になっているのか調べるためだ。魔法師になってくれるのはありがたいことだが、属性の偏りがあっては組織の割り振りが捌けない。さすがに仕事の押し付けすぎで死なれたら困るからな。
ドトイルはジジルニアくんとエリエリーチェくんの問題集を別室でやらせる事。それとレーバレンスが作った魔法具のお試しを査定する事。よくもまあ魔法文字を理解して新たに魔法具を作れるもんだ。
魔法文字がずらずらと書いてある専用の本があるが、読むだけでも辛いぞ。あの教本の倍の大きさと分厚さがある本はその存在だけで手に取る気はないな。よく読もうと思ったものだ。
そう言えばクフィーは魔法文字がわかると言っていたな……前世でよく使われていると―――魔術師に持っていかれないように注意しなければ。でもあの本を見たらさすがにクフィーでも遠ざかるかな。クフィーでは重すぎて絶対に開けないし。……ロノウィスから先に報告を聞こう。
「婚約者へ立候補している貴族の洗い出しなのですが、上流貴族がまだ三名ほど粘っています。下級は十名が。内、六名は同じ若魔法師のようなので早くて今か次の春には押し掛けてくるのではと思います」
「なんだと?私のクフィーに色目を使おうとしている小僧がいるのかっ!?」
「そ、そこまで言ってませんが接触はしに来るのでは?それと平民に一人、二人とクフィーちゃんを気にしている子はいるみたいです」
「――個室を使うか。ドトイル、ジジルニアくんとエリエリーチェくんの問題集は?」
「こちらに。ジジルニア若魔法師は途中からでもしっかり勉強をしていたようです。エリエリーチェ若魔法師も合格と思えます」
どれどれ……へー。冒頭だけでも完成しているし後半になって間違いがあっても問題はないな。季節一分でこれならジジルニアくんも期待ができる。エリエリーチェくんは春からすでにいたからな。ちゃんと勉強をしているなら当然だろう。
クフィーも見る限りほとんど間違ってはいない。後半から怪しくなっているようだか目につくほど酷いものじゃない。
あとは魔力操作でどれだけできるか……クフィーはエジーラともやっていたので心配はない。エリエリーチェくんは心配と言っていたか。今度は二人に見てもらって大丈夫そうなら一緒に個室へ学ばせよう。
そうなるとクフィーは体力だな。さてどうするか……足が悪いのだから無理をさせれば偽りが露見される。私の権力を使えばクフィーの面子にも繋がるだろう。しかしこれをどうにかしない限りクフィーは魔法師にすらなれない。早まったかな……でもクフィーに変な虫が付くなんて駄目だ!まだ早いっ!それにまだクフィーは若魔法師!まだ間に合う!
「もう一つの属性の割合ですが、やはり【闇】と【光】が少ないようです。見習い魔法師を入れても次の【風】には及びません」
「まあ、【光】と【闇】はしかたないだろう。でも次が【風】か……調査官にも再三と人を寄越せと言われているんだがなー。あれは契約があるし抱え込まなくてはならないからやりたがる奴が少ないと言うのに」
「どうも騎士の方に流れたそうです。それと【水】の割合なんですが三割が女性です。その中でまだ未婚は一割で残り二割の中に少数で貴族がいました」
「……減ると足りなくなるのか?」
「前後の大差はありません。後はグレストフ様の手腕にかかっているかと」
あれ、考えるのがすごく面倒なんだぞ?今は帝国の方も絡んでいるのにそんな細かいことをやりたくはない。やめよう。明日から二日はクフィーとクレラリアと一緒にいられる!陛下に報告してから取りかからなくてはならないなら、今は考えなくてもいいじゃないか!!
「ドトイルの方は?魔法具の耐性を調べてくれと頼まれていただろう?」
「はい、試しました。【火】の中級までなら耐えていたのですが、上級まで魔力を込めると魔法具が溶けてしまいましたので――」
「え、壊した?」
「――はい。ちゃんと私が支払います」
「いや、レーバレンスもお試しで渡しているんだ。溶けたものはしょうがない。試供品だし経費は城から出ているはずだ」
「わかりました。私は報告書をまとめレーバレンス魔術師にこの事を伝えに行きます。下がってもよろしいですか?」
「私の話を聞いてからだ。明日から二日だが私は休暇とする。もし何かあったらウィルに言ってくれ」
「え。何があったんですか!?」
「もしやまた陛下からのご依頼ですか!?」
聞いてくれるか?と聞き返したら二人とも食いついてくれる。いい部下をもって私は嬉しい。最初の頃は二人とも張り合って大変だったが、今では互いに意識はするもののちゃんと公私を別けれるようになった。
私はそんな立派な人間ではないからね。それでも家族の話を最後まで聞いてくる二人にはとてつもなく感謝をしている。雑務を押し付けても食って掛かる根性も素晴らしいものだ。私は恵まれているな……
そんな事を思いながら明日の予定を並べてみる。リディも連れ出せたら連れ出して楽しむ気でいるんだ。それで私としてはやはり途中で贈り物を渡したいと思っている。ぬいぐるみを抱き締めて喜ぶ顔を堪能したいんだ!
そう語れば少し反応が遅かったドトイルが贈り物の選定に協力してくれた。慌ててロノウィスも協力してくれると言う。よし、では決めよう。明日が楽しみだ。
まずもう渡してしまったぬいぐるみをあげておこう。ポーテ、ウーモルス、コーリャ、ネネニャー、シカバー、ネミラ、べべリア、リッスン、シママ、ドーベル、ラディオン、カーモ、対のヒッジメィ。計十四体は贈ったぞ。まだ何かが足りたいな……ウーウにするか?
「えーと……あ、ガルなんてどうですか?前にウォガー大隊長の尾を触りたくてうずうずしていたと聞きましたけど」
「――駄目だ。よくよく考えたらそうするとウォガー殿を見てしまうだろう?再発するようなぬいぐるみは駄目だ」
「再発って……」
「ロノウィスでは当てになりません。私からは人間型の人形をお奨めします。グレストフ様の人形などはいかがですか?」
「駄目だっ。ぬいぐるみは部屋に飾っているんだ!それだと部屋に置いていかれてしまうだろう!私の人形なら常に持っていてほしい!!」
うっかり机を叩いてしまった。そらぐらい私には飾られているだけのグレストフ人形は苦痛なのだっ!ドトイル、もちろん私だって考えたんだ。私は城に勤務していてなかなか子どもたちが起きている時に帰れないから私の人形を渡せば、これで寂しくないだろうと……
だが、よく考えてほしいっ。クフィーが人形を持ち歩いている姿を屋敷で見たことがあるのかっ――私一人ではわからなかったのでポメアにクフィーの事を聞いておいた。そうすると分かってくる。
クフィーは、人前では、ぬいぐるみを持ち運ばない……
では、ぬいぐるみはどうしているのか。
クフィーは飾って嬉しそうに触ったりしている。
大切にしていると言うことも聞いた。それは嬉しいことだ。クフィーが喜んでいるならぬいぐるみを贈った意味がある!しかし、持ち歩かないと判明したのに私の人形を飾って愛でるだけでは私の人形が淋しいだろう!!
それを二人に伝えれば沈黙がこの部屋を支配する。黙って慰めてくれる部下の二人がとてもありがたい。何やら二人とも目を見開いてまで同意してくれるとは!
「で、何がいいと思う?参考までに意見を聞かせてほしい」
「………………グレストフ様が選んだものならば、クフィーちゃんも喜んでくれると思います」
「あの、グレストフ様お一人ではなく奥様とご一緒にお考えして二人で贈ればよりクロムフィーア若魔法師は喜ばれるかと……」
「――それもそうだな。クレラリアをのけ者にできないな。では早速」
「お、お待ちください!!まだ陛下にご報告をしていませんから!!」
それはロノウィスでもできるだろう?私の代わりにレーバレンスかヴィグマン様にでも報告すれば陛下にちゃんと伝わる。私でなくてもいいはずだ。
それを伝えれば二人で私を引き留めようとする。なぜだ!?私は早く帰ってクレラリアに相談をしなければいけないのにっ。――なに?通信の魔法具を使ってもいいだと?珍しいな。何時もならあれだけ私を止めるくせに使ってもいいのか!?
「一言です!一言だけですから!!」
「ロノウィス?せめて一文だ!」
「駄目です!!グレストフ様なら一言でじゅうぶんですからっ!!ちゃんと伝わりますから!!」
「離せっ!クレラリアが魔法具の向こうで待っているはずだ!!」
「グ、グレストフ様!ここはシュナイガルを使って文通にしましょう!シュナイガルは速いですし文通もまた形が残るので嬉しいものですよ!」
「――ドトイル!その案、乗った!シュナイガルを呼んでおいてくれ。私はすぐにしたためる」
そうだな。確かに会話するだけだとその時の声を交わした一時しか残らないが、文通だと両方の手元に残る。思い出がまた増えていいじゃないか。ドトイルもよく思い付いてくれた。
すぐに取りかかって明日の予定も二人で決めよう。そうしよう。それだと一枚に収まらないな……しかし、ここは手が抜けない。しっかりと二人で楽しい嬉しい休暇を満喫しなければなるまい!!
「……ドトイル、レーバレンス様に報告してくるんだろう?僕はここに残るからお願いしてもいい?」
「……気が進まないが、いいだろう――行ってくる」
クフィーと休暇!クフィーとお休み!クフィーと一緒!愛しの娘と愛する妻に万歳!!
ポーテ→針鼠。
ウーモルス→牛。
コーリャ→コリー犬。
ネネニャー→猫。
シカバー→鹿。
ネミラ→鼠。
べべリア→熊。
リッスン→栗鼠
シママ→縞馬。
ドーベル→ドーベルマン。
ラディオン→ライオン
カーモ→カバ。
ヒッジメィ→羊。
ガル→狼。




